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俺は彼女を作りたいだけ  作者: 麦猫
8/10

覗きに注意せよ

「大丈夫ですか?」


 声をかけると小さな体がビクッと反応した。


「貴方は...不思議くん..?」


 なんか久しぶりのその呼び名で呼ばれたな。


新津夢(にいつゆめ)先輩ですか?」


「うん..」


 首をこくりと縦に振り頷く。

 森の中が暗いため表情がイマイチわからない。


 夢へと近づこうと一歩踏み出すと、少し急な斜面となっており滑り落ちるようにして下に降りるがバランスを整えて危なげなく着地する。


「すっご...」


 優人の運動能力の高さに驚いていると、すっと優人の手が足に触れた。


「え!? ちょっと!?ーーっ」


 鋭い痛みが夢の体を襲った。


「やっぱ怪我してますね」


「いやいや!! 怪我してるってわかってて触ったよね!? なんでニヤニヤしてるの!?」


 さっきは見えずらかった表情も近くにくれば見えるようになる。ちょっと悪戯心が出たのは言うまでもない。


「凛先輩は?」


 周りを見渡しても夢以外誰もいなかった。


「どっか行っちゃった。探そうと思ってこっちに来たらまんまと落ちちゃって」


 はははっと乾いた声で笑った。


「動けなさそうですね。じゃあ背中に乗ってください」


 しゃがんで背中を差し出す。だが、一向に背中に来てくれない。


「お姫様抱っこの方がいいですか?」


「バカッ!! 違う!! ただ..重いし...恥ずかしい」


 夢に向き直るとなにかモジモジとしている様子だった。


「大丈夫ですよ。こんな日のために鍛えてるんで」


 優人は笑って、再び背中を差し出すとするりと細い手が首元にまわってきた。


「こんな日って...馬鹿みたい」


 何か後ろの方でボソッと呟いたがあまり聞こえなかった。


 来た道を逆走しているとパタパタと小さな足音が走ってこちらに向かってきていた。


「姉ちゃん!!」


 優人の前まで来ると警戒心丸出しの顔で優人を睨みつけている。キリッとした鋭い目が一層鋭くなっている。


「凛!! そんな顔しないの!!」


「いや、だって...」


「だってじゃない!!」


 言い訳をしようとする凛を言葉で制している。優人の頭の中では親子のように思えてしまう。


「俺がおぶるよ!!」


「凛は力無いんだから無理でしょ」


 優人から自分の姉である夢をなんとしても引き離そうとするが、非力な凛の力では優人には敵わなかった。


「俺はお前を認めぇからな!!」


 捨て台詞を吐いてまた走り去って行ってしまう。


 すると、後ろではぁとため息をついた。


「ごめんね。私の弟うるさいんだ」


「全然大丈夫ですよ。むしろその方が楽しいです」


「優しいんだね...」


 一言だけ言うと背中にもたれかかってくる。スースーと後ろから寝息が聞こえてくる。


 疲れたのかな。無理もないか。


 夢を起こさないように細心の注意を払いながらゆっくりと歩いてスタート地点へと戻っていく。


 スタート地点の戻り、夢を安静にできるであろう宿屋に送り届ける。その間もずっと凛に睨みつけられている。


「あ、いたいたー!!」


 (あおい)が手を大きく振って走ってきている。


「どした?」


「いや...その...うん。私ペア居ないから一緒にまわろう?」


 ペアいないの? 確か葵のペアって...龍之介じゃねぇか!!


 奇妙な笑い声を発しながら優人達の目の前を通っていた。勿論、手元には澄香(すみか)ちゃんという美少女フィギュアを持っている。


「じゃ、行こっか」


「..うん!!」


 何回肝試しのコース行くんだろうか。俺、肝試し好きすぎだろ!!


「うわぁーーー!! ってまたお前かーい!! なんなの? 俺のこと好きなの?」


 何回も同じコースを行っているため幽霊役の男子学生とは見知った仲になっている。


「ではこれでー」


「おうよ。今度は楽しんでけよ」


 幽霊役の男子学生に挨拶が終わると葵と歩き出した。


「あのー葵さん? すっごい力で腕を掴まないでもらえます?」


 優人の腕にはグッと凄い力で葵がしがみついている。


「し、しょうがないじゃん!! こういうの苦手なんだから」


 ガタッ。


 音が鳴るたびに華奢な体がビクッと反応し、二つの柔らかい感触が腕を包み込む。


 やばい、この状況は色々とまずい。


「少し離れ...」


「無理無理!!」


 言葉を遮りガタガタと震えているのがわかる。


 四つのポイント地点のうち三つは回り終えたので、少しだけ早足に最終ポイント地点まで急ぐ。


 肝試しといっても幽霊役の人が少ないが、森の中が暗いので雰囲気でも十分に怖い。


「あれ、お札がない」


 お札が置いてある場所に一つもお札が無かった。お札が無いと肝試しを終えたことにならないというルールが存在するため設置している場所を隈無く探す。


「ねぇ、アレは..なに?」


 優人を掴んでいる手に無意識と力が入る。


「...っ...っ....っ」


 耳を澄ますと何か話し声が聞こえる。ギシギシと物音も聞こえており、恐る恐る近づいてみる。


「ふんっ...ふんっ...ふんっ」


「なんの声ー?」


 葵の声も恐怖のせいで震えている。優人の手にも力が入る。


 近づくにつれ段々と姿がはっきりとわかるようになってきた。


「ふぅん!! ふぅん!!」


「おいおいー嘘だろー」


 少し怖がっていた自分に呆れた。隣にいる葵も呆れている様子だ。それもそのはず、幽霊だと思っていたのが、ただの上裸の司が木にぶら下がり筋トレをしていただけなのだから。


「何してんのお前は」


「おぉー優人クンと葵サンじゃないか。こんな所で何しているんだ?」


「いや、それさっきの俺のセリフ」


 タオルで汗を拭きながら、掴んでいた木から手を離して着地する。


「いい大木を見つけてね。筋トレ出来るかと思い掴んでみたら、案の定良い筋トレができたのだ」


 どんだけ筋肉バカなんだこいつは。


「てかお札無いんだけど、どこにあるか知らない?」


「もう誰も来ないと思って回収したんだ」


 ポケットからお札が沢山出てきた。折りたたまれており少しだけクシャクシャになっていた。


「はぁ、まぁいいか。あの勝負は俺の勝ちだからな」


 司からお札を受け取ると、枝にかけてあった上着を羽織って高笑いした。


「はっはははー負けてしまうとはな」


「葵もいるし、もうそろ帰ろうぜ」


「うむ、そうすることにしよう」


 さっきまで力強く優人の腕を握っていた手はいつの間にか手放されていた。


「司くんは本当に筋肉好きだねー」


 葵は笑って言う。

 司のお陰で恐怖心が無くなったのであろう、顔も強ばっていない。


 優人達が最後のようで他のペアは殆ど戻ってきていた。


「あ、ちょっとごめん」


 葵が優人達に謝ってテクテクと歩いていった。見ると紗花が葵を呼んでいた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「イチャイチャできた?」


 葵が来ると早々ニヤニヤしながら聞いてきた。


「だから!! 好きじゃないってば!!」


 必死に否定するも顔が赤いので、察しの良い紗花にはバレているだろう。


「私と優人くんをペアにしようと仕組んだのは紗花ちゃん?」


「さぁーねー♪」


「紗花ちゃん!!」


 こういうところでは紗花ちゃんは私より一枚上手だと思う。


「でもいいの? 優人ってさ顔は普通だし頭も普通だよ?」


「好きじゃないからね!! 全く....でも、さっきだって私が腕を掴んだ時も離してとか言いながら振りほどこうともしなかったし、歩幅を合わせてくれてた....」


 自分で何を口走っているかに気づいたが、もう遅かった。


「そっかそっかー♪」


 さっきからずーっとニヤニヤしてるし!!


「一目惚れってやつかな♪」


「うぅーーー!!!」


 一目惚れ。

 私は教室で最初に会った時から一目惚れをしていた。そう認めざるを得ない。


「紗花ちゃんは優人くんのことどう思ってるの?」


「え、私?」


 聞かれるとは思っていなかったのかきょとんとした顔でこちらを見ていた。


「私はなんとも思ってないよ」


「そうなんだー」


 紗花ちゃんの気持ちはわからない。仕事で何回も会ってるけど、未だに本当の気持ちがわからない。だからこそ、怖い。優人くんに本当の気持ちがいってしまったら絶対に勝てないから。


「す、紗花ちゃんは生徒会の仕事は?」


 気持ちを紛らわすように話を切り替える。


「この後あるよー♪」


 察してくれたのかどうかわからないが、話を合わせてくれる。


「私も少し手伝うよー」


「本当に!? ありがとうーって言いながら少ししかないけどね」


 ペロッと舌を出して答える。


 紗花の強みの一つは綺麗でありながら可愛いという一面も合わせ持っているこである。


 私から見ても紗花ちゃんが彼女なら、なんて思っちゃうもんなー。


「生徒会の宿屋でいいの?」


「うん、そこで作業やってるからねー」


 生徒の宿屋の他に生徒会専用の宿屋も存在する。生徒会の役員は主にそこでどう林間学校が円滑に進む為に作業をしている。



「先行ってるねー♪」


 紗花が立ち去り、キョロキョロと誰もいないのを確認するとはぁとため息をつく。


 そんなこと考えても仕方ない...かな?


 ぶんぶんと頭を振って気持ちを切り替える。


「よしっ、いこ!!」


 早足で紗花の後を追って生徒会の宿屋へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「遅いでござるよ!!」


 部屋入ると早々に龍之介に怒られる。


「いや、今、肝試し終わったばっかだし」


 お札の回収もさっき終わったばっかなので遅く帰ってくるのは仕方ない。


「さぁ待ちに待った、女子ーー風呂ーー!!」


 男子達の歓声で部屋が揺れている。


 女子に気づかれないのかコレ?


「あれ、ちょっといいか?」


 盛り上がっているのはいいが、一つ疑問が出てくる。


「龍之介、三次元興味ないんじゃないの?」


 龍之介は「芸能科」きってのオタクだ。さっきも美少女フィギュアを大事そうに眺めていた。


「何を言っているのだ!! 女子風呂イベントはラブコメの基本だろうがぁーー!!」


 龍之介が吠えると男子達も吠えた。


 どんだけ本気なんだよ。


 馬鹿馬鹿しいとは思うがこれも青春の醍醐味だと思うととても面白い。


「今は男子の入浴時間だ。あと1時間と30分で女子の入浴時間、それまでに作戦をもう一度確認しておこう」


 龍之介なんかキャラ違くね!?


 いつもござるだのなんだの言っているので普通に話すと少し違和感を感じる。


「篠宮殿は参戦するでござるしょ?」


「いや、俺はいいや」


 青春の醍醐味とは言ったがそれをやるとは言っていない。むしろ、優人はそこまでして女子の裸を見たいとは思わない。


「なんでござるか!! ラブコメの基本でござるのに!!」


 言い寄ってくる龍之介を手で制し、着替えを持って部屋を出た。


 男子の入浴時間なら今のうちに入っておこう。


 林間学校のお風呂はとても広い。街の銭湯よりも広いことは確実だ。


「俺一人だとこの広さは寂しいな」


 風呂へと着くが優人一人だけだった。


 男子みんな入ったのかな?


「ほへー露天風呂もあるのかよ」


 優人はお風呂の中でも特に露天風呂が好きだ。理由は特にない。


「めっちゃいい湯!!」


 お湯に浸かると一気に疲れがとれた気がした。ほっと一息ついているとがちゃりと扉が開いた。


「うーん、疲れたぁー!!」


 すらっとした白い素肌、程よい二つの膨らみをもった女の子が目の前に現れた。


「え?」


「は?」


 二人の男女が目を合うと一瞬の沈黙の後、紗花の叫び声が風呂場に木霊した。


「見た?」


「ゆ、湯気で見えんかった」


 事実だ。湯気で曇っておりあまり見えなかった。


 全部は見てないから!! うん。


「なんでアンタがここにいるのさ」


「いや、男子の入浴時間だって聞いたから」


 記憶を巻き戻しても、今は女子の入浴時間だとは言っていなかった。


「最初の会議の時に貰った紙見てないの!?」


「いや、ちゃんと見たぞ」


 隈無く見たはずだ。


「はぁ、見てないね。最後に挟んであった紙に覗きをすると思うクラスが見つかった場合はそのクラス以外男女の入浴時間を変更することを伝えることと書いてなかった?」


「...見てない」


 失態だ。

 もう終わりだと感じていると。


「でもわざとにすると思えないから今回は見逃してあげるから、早く行きな?」


「お、おう。すまんなーー」


 軽く謝りその場を去ろうとしたその時。


「紗花ちゃん行くの早いよー」


「しょうがないだろう。紗花様は私達より仕事を早く終わらせたのだから」


 風呂場の扉を開け、葵と結鈴音(ゆりね)が入ってくる。


 おいおい!! もうアウトだろ!!


 サッと岩の後ろに身を隠すと、岩ごと庇うように紗花が目の前に立つ。


「もう湯船に入っているのですね、流石です紗花様」


「う、うんー♪」


 湯船に浸かっているのにも関わらず、二人の背中に冷や汗が伝っている。


「それよりも紗花様、芸能科Aの男子達が覗きなどという不埒な行為をしようとしていましたね。時間を変えて正解でした」


 龍之介の災難だな。あんなに念入りに作戦を練っているのに全部筒抜けなんてな。


「それよりも、紗花様はなぜ岩の前にいるのですか?」


「ギクッ。い、いやーなんかここが落ち着くんだよねー♪」


 不思議そうな顔をしている結鈴音だったが、直ぐに安心しきったような顔に戻る。


「まぁ、紗花様が言うのだから。その場所はとても落ち着くのだろうな」


「それで納得しちゃうんだ!!」


 葵が身体を洗いながらツッコミを入れる。


 岩の間からうっすらと見える葵の身体は出るとこは出ており、締まっているとここは締まっている。


 って何を見てるんだ俺は!!


 湯気のせいでくっきりは見えなかったのが幸いだった。


「早く出なさいよ」


 ボソッと優人しか聞こえない声で話しかけてくる。


「どうやって出るんだよ」


「それを考えなさい!!」


「そんな無茶な」


 少しのぼせてきているためなのか、頭が回らない。


「どうかしたの?」


「ううん!! なんでもないよー」


 葵も不思議だと思ってきているので、優人を急かす。


「早く!!」


「何か後ろにいるの?」


 湯船に浸かり、葵は紗花が庇っている岩に近づいてくる。


 葵が近づき岩の後ろを覗き込む。


「あ、ちょっとーー」


「なんもないよ? どうかしたの?」


「え、いや。なんでもないよ♪」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「危なかったー。まさかあんな抜け道があるなんてな」


 優人が隠れていた岩の後ろを見ると木と木の間に人一人だけが入れそうな抜け道があるのが見えたためそこから急いで脱出した。


 部屋につくと誰もいなかったのが幸いだった。カバンから着替えを出して着る。


「篠宮殿ー!!!」


 勢いよくドアを開けて龍之介が入ってくる。


「どうしたの!?」


「女子がー!!! 女子がー!!!」


 話を聞くと、風呂場に覗きに行ったのはいいが男子が沢山おり何故かと思い(きびす)を返したところ女子に見つかったそうだ。


「それで、俺に覗きは誤解だと弁明してほしいってことね」


 もう無理だろー。紗花にももう気付かれてるからな。


「まぁ、未遂で終わったんだし少しは手伝ってやるよ」


「あぁーーー友よ!!!!」


 ガバッと抱きつこうとしてくる龍之介のをひらりと見を交わして避ける。


 はぁ、行きますか。


 重い腰を持ち上げて女子達の元へと向かうことにした。


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