死神に遭遇せよ
家に帰る途中お腹が空いたので、近くのファミレスへ足を運んだ。
「結構ガッツリ行きたい気分だな」
席に案内され、メニューを開き「肉食定食」というのが目に入りそれを頼むために近くにあったベルを鳴らした。
「ご注文はお決まり...って不思議クン?」
不思議クン。
優人が「普通科」から「芸能科」に移動したために付けられたあだ名みたいなものだ。だが、そのあだ名を知っているのは『霞ヶ浦学園』の生徒である証拠になる。
「こんばんは。肉食定食お願いできますか」
「畏まりました。少々お待ちください」
ぺこりと頭を下げ、厨房の方へはけていく。暫くすると頼んだ「肉食定食」が運ばれてきた。メニューに載ってる写真とは良い方に違かった。
「伝票置いときますね」
周りをキョロキョロと見回し人がいない事を確認し。
「不思議クン後でちょっといいですか?」
何かを伝えたい事があるのだろうと思い「わかりました」とだけ伝えると、スタスタと持ち場に帰っていった。
「肉食定食」を食べ終わり一息ついていると、丁度女子学生も終わったようで帰宅の挨拶をしているのが見える。席を立ち会計を済まし先にファミレスを出るとスタスタと駆け寄ってくる。
「ごめんなさい。待たせてしまって」
「いや、大丈夫ですよ。...それで何か話があるんですか?」
「うん...」とこくりと頷いた。
「今日の定例会でなにか言ってませんでした?」
なんで、こんなことを聞くんだ? 定例会にはこの人は居なかったような。
少し首を傾げていると、はっと何かを思い出したかのようにあたふたしていた。
「申し遅れました。芸能科Gのホームルーム会長 倉橋琴音です」
芸能科Gって...三年生!? え、この人が!?
優人が驚くのは無理もない。
なぜなら、琴音は普通の女の子なのだから。「芸能科」は様々な美少女が揃っているため、その中でも琴音は中の上ぐらいであろう。言葉は悪いが所謂、平凡なのだ。
「...なんで俺が定例会に出席してると思ったんですか?」
「私のクラスの副会長が教えてくれたの」
三年は誰一人出席してなかったのにわかるなんて三年恐ろしいな。
「今日の定例会は親交を深める目的で軽く自己紹介しただけですよ」
「よかった。それだけだったんだ」
ほっと胸をなで下ろしている。
「聞きたい事はそれだけなの。じゃあね」
何か焦るように早口になり、その場から去ろうとする。
「..何をそんなに焦ってるんですか?」
「・・・・」
優人の問いかけに何かバツの悪そうな顔をした。ビューっと風が琴音の長い黒髪を靡かせていた。
「...私は死神だから」
琴音の言葉はどこか重く、何かを諦めているようにも思えた。優人はそれ以上聞くことはできなかった。
琴音と分かれ家へ着くと睡魔が襲ってくる。
少し寝ようかな。
制服を着替え、布団に倒れ込んだ。直ぐに眠りにつき、起きたのはそれから7時間後の朝4時。
まだ眠いが昨日の寝癖事件にならないよう起きなければならなかった。
「まだ時間あるし、少し走りに行くか」
最近運動不足になっている気がするので運動靴を出し、軽く準備体操をしたあと走り出した。
最初は軽いペースで走り、慣れてきたので徐々にペース上げて走っている。走っていると筋肉質の大柄な男が目の前を走っているのが見えた。
「よう。おはよう司」
「お!! おはよう!! 優人クン」
額から流れる汗を首にかけてあるタオルで拭うと白い歯を見せながら笑う。
「朝から走るなんて流石いい筋肉の持ち主だ」
筋肉関係あるのかな?
「あ、そうだ。聞きたいことあったんだった」
「む? なんだ?」
二人はの息は切れていなかった。ペースを上げているがまだ、息が切れる程のペースでは無いようだ。
「なんでホームルーム会長になったんだ?」
何か大きい事を言われると思ったのかきょとんとした顔をしていた。
「はっははは。そんな事か!! ...大会の遠征が多いんだ。その遠征費が免除されるからさ!!」
どこまで好きなんだ。凄いな。昨日の琴音先輩がホームルーム会長になった理由も気になるが、もしかしたら司と似たような理由なのかもな。
「何か悩みがあるのかね?」
「...いや、特にないな」
それから二人はある程度まで一緒に走り、優人の家の近くになると司は踵を返した。
わざわざ家まで送ってくれたのだろうな。優しいな。
家に着き、汗を流すためシャワーを浴びる。汗を流すためでもあるが寝癖を直すためでもある。
シャワーから上がり髪を適当に乾かし、制服に着替えた。朝飯はまたも10秒チャージというゼリー状の飲み物を飲み干して家を出る。
「今日は急いで行かなくていいな」
時間に余裕を持って出たため、いつもみたいに走っていかなくていい。
「おやおや。篠宮氏ではないか奇遇でござるな」
昨日は葵だったが、今日は隣の席のオタクーー御堂龍之介がいた。
「お前こんな時間に登校してんのか?」
「いやいやー昨日は溜まったアニメを見すぎたでござるよ」
ふぁーっと欠伸をしながら龍之介は言う。よく見ると目の下に隈が出来ている。
「そういえばホームルーム会長の仕事は順調であるか?」
「まだなんもやってない」
「そうだったでござるか。失礼したでござる」
ホームルーム会長の仕事は忙しいと聞いたが、なったばかりなので忙しさはあまり感じられない。
でも、これから忙しくなるんだろうなー。はぁ、憂鬱だ。
「篠宮氏は三年のホームルーム会長達に会ったでござるか?」
「..うん、まぁ。一人だけ」
琴音の寂しく呟いたあの言葉は頭から離れていなかった。
「早いでござるな!! 三年のホームルーム会長達は二年より癖が強いと聞くでござるよ」
そうなんかな? 琴音先輩は全然そうは見えなかったけどな。
ふと父の言葉が頭の中に浮かび上がる。
「人脈を作りなさい。お前を救ってくれるだろう。そして 、お前もそいつらを救ってやるのだ」
ーー人脈。
中学が田舎だったからだろうか、人と接するのが少なかった。だから、都会に来て沢山の人と接したいそんな気持ちがある。勿論、彼女を作りたいというもくはある。
彼女を作るにはまずは人脈を作らなければ話にならない。
「...もし、もしだ。三年とか関係なくホームルーム会長達と仲良くなるちしたらどうする?」
目を丸くして驚いたと思ったが、優人の気持ちがわかったのか直ぐに普通に戻った。
「うーん。そうでござるなー。ホームルーム会長達はやはり癖があるでござるからな。骨が折れるでござるよ」
「そ、そんなにか...」
やはりあのキャラの濃い面子と仲良くなるだけでも一苦労なんだな。
龍之介から色々と情報を貰った。
アイツめっちゃ情報もってんな、情報屋かなんかか?
「おはよー」
「おはよー!! 優人くん」
席につくと前の席の姫路葵はもう学校に来ていた。鼻歌混じりに教科書類を机に入れている。
「今日は早めだねー。寝癖もないし」
「寝癖はもういい!! ..今日は早めに登校しようかなっと」
机に入れ終わり、なにかしっくりこなかったのか一度髪を解きもう一度後ろで結びいつものポニーテールができた。
髪型で印象は変わると言うが、解くだけでなんか違った雰囲気だったな。元が可愛いからだろうか。
「なぁ、葵。外の黒い車が行き来してるんだけどあれなに?」
窓の外を見ると複数の黒い車が行き来している。
「あーあれは仕事の車だったり、家の車かな」
芸能科だから仕事をしてる人もいるから当たり前なのか? 地元じゃあ黒い車なんて見かけなかったからな。
「あ、ほら。紗花ちゃん降りてきた」
黒いリムジンから紗花が降りてきた。どの車よりもデカく、目立っていた。ほかの学生の人も窓から手を振っている人も多数いた。
改めて思うけどめっちゃ人気だな、アイツ。
紗花がチラリと自分のクラスを見ると投げキッスをした。それを見た学生、特に男子学生が嬉しさのあまり発狂している。
「...なんであんな事してんだろうな」
「えぇー!? 紗花ちゃんの投げキッスを見て何も感じない!? 優人くん仙人かなんかなの?」
「仙人?」
葵のツッコミにピンときてない様子を見てはぁとため息をつかれたが、何がおかしいのかわからなかった。
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今は四限目の数学の時間。
担当は「芸能科A」の担任木ノ原レイだ。ほんわかしている先生だが、授業は非常にわかりやすい。
「正弦とか余弦っていうのがあってぇー....」
周りを見ると机に突っ伏して寝ている葵やずっとフィギュアを磨いている龍之介が目に写った。紗花はこくこくと頷いて真面目に授業を受けている。
一方。
優人はというと必死に板書してるのをノートに写していた。
わかりやすいけど、板書スピード早くねぇか!?
数学が終わるチャイムが鳴った。
「じゃあー今日はここまでぇー」
レイが教室から出てくと同時に紗花とユースティアは教室を出ていった。
「どったの? 学食行かないの?」
ぼーっとしていたのか不思議そうな顔で優人に話しかけた。
「ぼーっとしてたわ。学食行くか、龍之介は?」
「我はアニメ鑑賞があるため遠慮するでござるよ」
ポケットからスマートフォンを出しニヤリと笑った。
こいつ夜遅くまでアニメ見てたんじゃなかったのか?
食堂へ葵と二人で歩いていると、放送がかかった。
「全クラスのホームルーム会長、副会長は会議室に集まってください。繰り返します...」
「えぇー、今からー」
お腹が減っているのであろうお腹を擦りながら落胆の声をあげている。
二人は渋々会議室へ向かった。
「...三年はやっぱ来てないんだな」
会議室に入ると、昨日の定例会と同じ集まり具合だった。「芸能科」の三年は全て空席。
「すぐ終わるからー。ごめんね♪」
舌をぺろっと出し小悪魔的な笑みを見せる。
「毎年恒例の林間学校だけど、今年は行くか行かないかの多数決をとりたいんだよね」
へーこの学園にも林間学校なんてあるんだな。懐かしいなー、中学の時一回行ったけ。
「各箇所に反対箱と賛成箱を設置してあるからそこに紙を入れること、これをクラスに伝えといてね♪」
「以上だ、解散」
生徒会副会長の裕成が一言話すとみんな会議室を出ていった。
「ねぇ、早く学食行こ!!」
ガシッと優人の腕を掴み食堂へ走り出した。チラッと時計を見ると時間があまり無い事がわかった。
うーん。ちょっと急いで食わないといけないな。
食堂へ葵と急いでいき食事を済ました。やはりゆっくりと食べてる暇が無かったため、味があまりわからなかった。
教室に戻っていると紗花が言っていた賛成箱、反対箱が置いてありそこには人だかりができている。
「あ、龍之介。...何してんだあんな所で」
賛成箱に票を入れたいのだろうか、ぴょんぴょんとその場でジャンプしていた。龍之介はあまり身長が高くないため、ああでもしないと見れないのであろう。
「ちょっと待って、俺達まだクラスに言ってないよね?」
先程言われたばかりで、直ぐに食堂へ行ったためクラスの人達には言ってない。
「あ、LI〇Eでやったよ?」
スマートフォンをポケットから出して葵は言う。
「LI〇E...?」
「え、知らないの? 嘘でしょ?」
驚きのあまり危なく手からスマートフォンを落としそうになっていた。
優人は携帯は持っているのは持っているが、ガラケーと言われる一昔前の携帯である。そのため、今のスマートフォンなどのことには疎い。
「ガラケーか...珍しいね」
「たまに反応しないけどね」
中学から使っているからな、もうそろ替え時だと思ってたから今日変えてこようかな。
「じぁあ、もうみんなに伝わってるのか?」
「うん、伝わってるよー!!」
教室へ戻るついでに二人は賛成箱へと紙を入れた。
再び必死にノートを取っていると直ぐに一日の授業が全て終わった。
レイ先生もそうだが、他の教科の先生も板書が早い。ノートとるのがやっとだぜ。さてと、携帯変えないといけないし帰ろうかな。
ガタリと席を立つとユースティアが話しかけてきた。
「...これからどこか行くの?」
「携帯変えようかなってさ。...あ、そうだ。携帯とかわかんないからさいい携帯とかない?」
ユースティアは「..うーん」と悩んでいる。少し小柄な感じなため思わず頭を撫でたくなる。
「...私もわからない。けど、私のは使い易いよ」
そう言って胸ポケットに入れていたスマートフォンを見せてくれた。
そんなに大きくもなく使い易い大きさだな。ユースティアが勧めてくれるんだからそれにしようかな。
「じぁ、それにしようかな」
「...私も付いていこうか?」
「お、助かるわ」
ユースティアの付き添いを承諾し、二人は携帯ショップへと向かった。
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学園から携帯ショップまでは少し遠い。
日本の中心都市と言われてるだけあるな、流石東京だ。
「...本当に私と同じでいいの?」
おずおずと何か申し訳なさそうに聞いてくる。一々仕草が可愛いため撫でたくなる気持ちをぐっと我慢する。
「うん、ユースティアが勧めるんだからそれがいいよ」
「...そうなんだ」
心無しか少し頬が赤くなっている気がする。
暫く街の中を歩いていると携帯ショップに着いた。
「どの機種なんだ?」
古い機種から新しい機種まで一通り揃っている。その中でも少し古い機種を選んだ。
「...私と色違いだけど」
「じゃ、それにするわ」
ユースティアが選んだ携帯を店員に言い契約してもらう。
「少し時間かかるってさ」
契約するのには多少時間がかかる。なので、時間を潰すために一回外に出る。時間が経ったら携帯ショップから貸してもらった携帯で教えてくれる事になっている。
「どっか行くか?」
「...いいの?」
上目遣いで優人を見てくる。
うぉーめっちゃ可愛いんだけど!! え、何この可愛い生き物は!!
携帯ショップを出てまた街の中を歩く。
「・・・・」
ユースティアは何かをじっと見ていた。見ている所を見るとパンケーキと書いてある店だった。
「...食べたいの?」
「...いや!! いいよ」
ユースティアのお腹がグーッと鳴った。見る見るうちに顔が赤くなっていった。
「お腹空いたな。あ、あそこにパンケーキの店あるな行こ?」
「...う、うん」
パンケーキ屋の中は少し古風の造りになっていた。パンケーキの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「いっらしゃいませー」
店員に案内され席に座る。
「...なんか、ごめんね」
メニューを開きながらユースティアは謝る。何を謝られたかわからなかった。
「俺はお腹空いてたからな。このパンケーキおいしそうだな」
メニューから「店長オススメ」と書いてあるパンケーキを頼んだ。蜂蜜が上にかかってありとても美味しそうだ。
暫くすると頼んだパンケーキが届く。
「...美味しそうだね」
目をキラキラさせながらパンケーキを見て呟いた。
随分微笑ましいなー。
ナイフとフォークでパンケーキを切って口に運んだ。フワフワの食感が口に広がる。ユースティアは幸せそうな顔でパンケーキを食べていた。
「...何見てるの?」
やっべ、見すぎたか。本当に小動物みたいなんだよなー。
「いや、なんでもない」
少し気恥しくなって焦ってパンケーキを口に運んだ。きょとんとした目でこっちを見ていたが目を合わすことはできなかった。
パンケーキが食べ終わるのと同じぐらいに携帯ショップから連絡がきた。
「お待たせしました」
携帯ショップの店員に黒色のスマートフォンが渡される。ちなみにユースティアは白色である。
「おぉ、これがスマートフォンか」
なんかずっとガラケーだったから違和感を感じるな。
「...よかったね」
ニコリと微笑んで優人を見ていた。
「LI〇Eだっけか? 交換しようよ」
「...え、あ、うん」
交換の仕方がわからないためユースティアに教えてもらいながら交換をした。
ユースティアと分かれた後、ユースティアからLI〇Eでメッセージが届いていた。
【よろしくね】
【よろしくー】
直ぐに既読がついた。
ほうほう、こういうやつなんだな。面白いな、てか楽だ。
【携帯の使い方わかる?】
【まだ慣れない!!】
それから二人の会話は寝るまで続いた。
このスタンプっていう機能が可愛いな。色々あるんだな。
携帯を変えたため色々と便利になるだろう。この学園の一日はとても濃い。だからなのか、退屈はしない。明日、林間学校が行われるかどうか決まる。
明日に備えてそろそろ寝よう。
布団に潜ると直ぐに睡魔が襲ってくる。