好きな人を相談せよ?
メラメラと火柱がたっている。林間学校という肩書きのお陰なのか、キャンプファイヤーは青春という大きな一ページとして残してくれるだろう。
「基本は男女ペアねぇー」
「芸能科A」の担任である木ノ原レイが声をかけると次々に男女ペアができていく。
キャンプファイヤーマジックと言ったらいいのだろうか、これを機に告白し、カップルになる男女も少なくはない。
「篠宮殿はペアいないでござるか?」
「色々と忙しかったからなー。龍之介は...フィギュアがいるか」
「わかってるでござるな」
キョロキョロと見渡していると、葵が手を大きく振ってこちらに走ってきた。
「優人くん、ペアいる?」
「いや、いないけど...」
「ならさ、私とーー」
葵が何かを言おうとした時、近くの林からガサガサと物音が聞こえた。
優人達は物音の方を見ると、林から鹿を担いだ男性が林から現れたのだ。
「え!? なに、鹿!?」
三人は開いた口が塞がらない。
「いやーやっと着いたわー!! あれ、もうキャンプファイヤーやってんじゃん、もうちょい早くつけば良かった!!」
担いでいる鹿を床に下ろすと、グーッと身体を伸ばす。
え、なんで鹿を担いでるの? てか、誰!?
「なんしてんのお前ら?」
「こっちのセリフなんですけど...
」
「あぁー悪ぃ悪ぃ。俺は芸能科Eの卯月春って言うんだ。よろしくな!!」
白い歯をキラリと見せてサムズアップをする。
「芸能科Eのホームルーム会長だよ!! 優人くん」
「芸能科Eのホームルーム会長がなんでここに?」
当然の疑問を投げかける。
「自転車で向かってたらよ、パンクして助けてくれたのが猟師のおっちゃんで、なんやかんやしてたら鹿と自転車を交換して、走ってここまで来たってところかなー」
「いや、なんか壮大すぎる!!」
春の発言は想像の上を行った。
この人が自由奔放で旅好きの春先輩か。
「この時間だとペア組めねぇしな。うーん、よしっ。お前一緒に来い」
「え!? 俺ですか」
びしっと指を指されたのは優人だった。春はニヤーっと笑って、肩を組んできた。
「お前は俺と同じ臭いがする」
「え、それってどうゆう?」
「まぁまぁ、行こうぜ」
肩を組んだ状態で連行されていく優人の後ろ姿をただ黙って葵は見ていた。
「行っちゃったでござるな」
「そうだね。凄い人だったねーーというかこの鹿どうする?」
龍之介と葵は床にいる鹿を見て、アハハっと二人は乾いた笑いを浮かべた。
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火を中心に男女ペアは手を繋ぎながら楽しく過ごしている。
「なんで手を繋いでるんですか...」
「あん? なんとなくだよ。なんとなく」
なんとなくで手を繋ぐのか。
なぜ自分を選んだのか、春の考えが一切わからないため警戒を怠らない。
「そう警戒すんなって。ーーお前不思議くんだろ? 俺より有名になりやがって、それが気に食わん」
「いや、好きで不思議くんになったわけじゃあないですがね」
「ていう冗談は置いといて、お前彼女作りたいんだろ? さっき紗花から聞いた」
優人が入学した当初からずっと目標にしていることは"彼女を作りたい"それだけだった。
「そうですけど、どうかしましたか?」
「俺は恋愛とかこれっぽちも興味ないから言える」
春は少し間を置いてから口を開く。
「ーー優人、お前に恋愛は似合わない」
何を言われたかわからなかった。それを理解しようとしても、少し時間が必要だ。だが、考え暇も与えず春は言葉を続けた。
「恋愛をしたら自分の時間が無くなる、そんな縛られてる生活なんて苦痛だろ。男子達は恋だとなんだのと言うけども、お前は俺と同じ臭いがする。だからこそ、お前は恋愛するべきではない」
「似てるって何が似てるんだ。今日初めて会ったばっかじゃないか!!」
目標を全否定されたのが、少し嫌だったのか口調が荒れてしまっている。
「俺はよぉ、強いやつが好きなんだ。身体を見ると大体わかっちゃうんだよな。司だってそうだ、アイツも恋愛って柄じゃねぇ。だから、そんな恋愛などに縛られるのはやめて自由奔放に生きようぜ」
言われっぱなしだったが、一つの疑問が頭によぎった。
「...どうしてそこまでして恋愛を目の敵にするんですか? 何かあったんですか?」
「・・・・」
春はピタリと動きが止まった。だが、その動作は殆ど肯定を意味している。
「...いつか話してやるよ。そんなことより勝負しようぜ。スポーツじゃない、まぁ、取っ組み合いかな」
やはり、何かあるんだ。だからあんなに恋愛はするなと推してきたのか。
話を切り替えて、取っ組み合いを持ちかけられたが優人は丁寧に断りを入れた。
それからは他愛もない世間話をして過ごした。
話してみると意外と優しい人なんだな。
最初と今では見る目が変わったのは事実だ。
「あ、優人くん!! ここに居たんだね」
「さーってと、彼女も来たとこだし俺は帰るかな」
「か、彼女じゃありません!!」
赤面しながらもしっかりと否定する姿を見て、春はニヤニヤしながらその場を去っていった。
「仲良くなったんだね春先輩と」
「なんか話が合ったんだよねー」
最初はボロクソ言われたけど、何故かと色々と話しが合ったからなー。
「それよりキャンプファイヤー始まる前になんか言おうとしてたけど何かあったの?」
「あーいやー、うん。なんでもない」
言葉を濁すように曖昧に答える。不思議そうな顔をする優人をよそにあははーと軽く頭をかいて視線を外す。
「以上にてキャンプファイヤーを終了するーー」
生徒会書記の霧ヶ峰結鈴音がアナウンスでキャンプファイヤーの終了を知らせた。
「さてとー片付けよっか」
隣に座っていた葵はパンパンとジャージについた汚れをほろって立ち上がる。
「どこ見てんだよ、おい!!!」
力強い男の怒声が聞こえてきた。声の方に目をやると、一組の男女がもう一組の男女の男子の方を胸ぐらを掴んでいた。
「喧嘩かな? 止めないとっ!!」
走り出そうとする葵の腕を掴んでそれを制止した。
「なんで止めるの!? このままだとやばいよ!?」
「絡まれてるのって柚原と水原じゃないか?」
葵が再び目をやると、頭に血が上り鬼の形相で胸ぐらを掴んでいる一方、「芸能科C」のホームルーム副会長である水原新は至って冷静であった。
「お前俺の肩に当たったよな!? 骨が折れたらどうしてくれるんだよ、おい!!」
「はぁ、謝ったじゃないか」
呆れて水原は大きく溜息をついたが、それがもっと男子生徒を挑発させた。
「ふざけんなよっ!!」
「お前もさあんまうちの彼氏舐めんない方がいいよ? まじつえーから」
男子生徒と一緒にいた女子生徒は彼女なのだろう、男子生徒の腕を組んで離さない。水原を見て馬鹿にするような笑顔で煽る。
「キミ、普通科の上原りくだろ。身長は173cm、体重は78キロ、色々な女を弄んでは捨てるの繰り返しをしている最低男だったか? それに、力には自信があるらしいな」
「なんで俺の名を...そんなことよりうるせぇんだよ!! くたばれや!!」
男子生徒は水原の横顔に大きく振りかぶった拳を入れようとするが、その拳を意図も簡単に掴まれてしまう。
「強いね...こんなんで力に自信あると言っているのか」
水原の腕を振りほどこうとした時には、男子生徒の横顔に鋭い蹴りが入った。
「ーー身の程を知れ雑魚が」
バタリと倒れる男子生徒に吐き捨てるように言った。
はやっ。なにあの蹴り、半端ないな。
優人もそうだが、周りは一瞬何が起こったか理解出来ないでいた。
「ふぁー。終わった?」
近くにいた「芸能科C」のホームルーム会長である柚原緋芭は欠伸を噛み殺す。
「えぇ。終わりました」
「なら早く行こ」
「了解しました、お嬢様」
軽く頭を下げると二人は人混みへと消えていってしまった。
二人が消えた後は、ざわざわと周りが騒がしくなった。しばらくすると、水原にやられた男子生徒がのらりと立ち上がりふらふらの足取りで女子生徒とどこかに行ってしまう。
「凄かったね...」
「そうだな...」
先程の一件を見ればこれぐらいの言葉しか出ない。
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宿屋へと戻り、風呂で綺麗さっぱりとしてくると、またもや部屋で龍之介を含む男子達は群がっていた。
「今度は何をやるきなんだ?」
「何もやらないでござる。林間学校と言えば"恋バナ"でござるよ!!」
ほうほう、恋バナとな。そういうのは意外とというか結構好きな部類だ。
興味あり気な優人の顔を見て龍之介がニヤリと笑った。
「ーー気になる異性がいるのでござるな」
「いないいない!!」
『霞ヶ浦学園』はレベルの高い異性が沢山いる。そんな中で過ごしていたら気になる異性がいてもおかしくはない。
「彼女は欲しいがそんな焦る必要もないかなーって」
「まぁ、学生生活は三年あるでござるから。気長に過ごすでござるな」
彼女と言うよりは、今は色んな人と関わりを持っていきたい。
優人は誰でも仲良くがモットーである。そのためには優人の父が言っていた「人脈」を作ることが大事なのである。
「なぁなぁ、俺はやっぱ紗花ちゃんがいいと思うんよー!!」
「いや、やっぱ葵ちゃんでしょ!!」
男子達は次々と名前を出していく、その多くは紗花の名前を出しており、一人で二人もの名前を出している人もいた。
「てかさ、ホームルーム会長達のレベル高くね?」
「あ、それわかる!!」
「三年生のホームルーム会長達は誰かわかんないけどねー。二年のクリア先輩とか孤高の薔薇って感じだよねー」
クリアも人気なのはわかる。金髪美少女という言葉は彼女のためにあるようなものだからだ。
「本当に優人は好きな人とかいないのー?」
「いないよー」
「紗花ちゃんは? 優人なんか仲良さそうに見えるけど...羨ましいことにな!!」
「俺なんかが紗花に見合うわけないよ」
手を伸ばしても決して届かないような存在。男子生徒も女子生徒も誰もが惚れてしまうような、容姿、頭脳、誰にでも分け隔てなく接する性格、それを合わせ持つのは紗花に見合う男はそれ以上の能力を持っている男なのだろう。こんな、何も持っていない自分には見向きもしない。
「紗花ちゃんはアイドルだから恋愛とかご法度だろ!! そんなんでスキャンダル起こしてアイドル引退したらどうするんだー!!」
「それもそうだったな...」
学園では生徒会長という役目をしっかりと果たし、テレビでは引っ張りだこのアイドルだ、恋愛で今の生活を崩そうとはしないだろう。だからこそ、紗花に告白はこの学園ではご法度なのだ。
「それよりもさ、三年生全般謎のクラスだよな。ホームルーム会長が集まる定例会にも一度も出席しないんだってさ」
「そこんとこ優人はどう思う?」
いきなり話を振られるが、三年生についてはあまり関わりがないので何も言えない。
「あ、一人だけ関わったことあるわ。琴音先輩達と」
林間学校の初日に関わった、琴音先輩と楓莉先輩と話をしたことを思い出す。
「琴音? 誰や?」
「ばっか、知らねぇのかよ。死神って言われてる人だぞ?」
琴音は学園内では悪い意味で有名である。その理由は「死神」という言葉のせいであるが、なぜ死神と呼ばれているのかはクラスの男子生徒達は知らなかった。
しばらく話しているといきなり睡魔が襲ってきた。少しだけ目をつぶっただけでそのまま眠りについてしまった。