プロローグ
ーー春。
青春を謳歌する季節。ある人は不安と緊張を持ち社会へと出る。ある人は期待と希望を持って学校へ入学する。そんなものは欺瞞にしか過ぎないとわかりつつも口には出さない。なぜなら、それが人生だと心のどこかで諦めているからだ。
そんな欺瞞だらけの春に俺は青春を捧げていいのだろうか。
疑問に思うことなんて多々ある、それでも、俺の目標は変わらない。
ーー彼女を作りたい。
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日本の中心である東京。
そこにある有名私立『霞ヶ浦学園』へと入学した。
『霞ヶ浦学園』は、偏差値65といった頭の良い学園だ。他にも頭の良い学校はいくつかあるが、ここは他の学校とは違うのがある。それは、「普通科」と「芸能科」に分かれていること。
「普通科」では、普通に勉強し進学するも良し、就職するも良しといったようにそこらへんの学校と変わらない。
「芸能科」では、「普通科」とは違う校舎にあり、俳優、声優、モデル、アイドルと言った特殊な職業に就くことを約束された者達が通える場所だ。
二つの学科があり、どちらも普通に入学はできるが、「芸能科」だけはいつも倍率が10を超える。入学できるのは一種の天才しかありえない。
そんな学校に俺ーー篠宮優人は入学した。
勿論、「普通科」にだが。
流石に「芸能科」へ行けるほどのルックスも学力も持っていない。あるとしたら多少運動が得意なだけだ、それだけでは入学なんて夢のまた夢だ。
なら、なぜ『霞ヶ浦学園』に入学したかって?
決まっているだろう。
この『霞ヶ浦学園』は可愛い子が沢山集まるからだ。彼女が欲しいそんな一心でここへ必死に勉強し入学した。
「さーってと、そろそろ行かないとな」
北海道の方から出てきため、今日から一人暮らしが始まる。親も結構自由な方で、そこを受けたいと言った時は「いいよー」と軽く承諾された。
一人暮らしは色々と不安だが、彼女ができるかもしれないという淡い希望を抱いているためそれほど苦ではない。
都会へと出るために様々な恋愛やファッションについての本を読み漁った。表紙に恋愛の法則と書いてある本をバックに入れ、家を出る。
「えっと、この本によれば」
一つ、女子は褒めれるのに弱い。
二つ、ギャップにも弱い。
三つ、たまにはひいてみることも。
「ほうほう、なるほどなー」
首を縦に振りながら、恋愛の法則と書かれた本をペラペラと眺めている。
学校からは徒歩でだいたい30分ぐらいで着くので、それまでにこの本の中身を大体覚えておこうと思いながら歩いていると。
「本見ながらじゃ危ないよー」
一人の女の子に声をかけられる。
そちらの方に目をやると、黒髪のボブのような髪をした顔立ちが凄く整っている女の子だった。見るに制服は『霞ヶ浦学園』の制服だ。
「ご忠告どう....あ、心配してくれたのかベイベー」
本に書いてある通りに、話したが沈黙がその場を物語っている。
なんでだ、本の通りなのに。でも、一つだけわかるのは、なんか死にたい。
「ぷっ。あっはははは。なにそれー」
女の子は我慢していたのか腹を抱えて笑っていた。笑ってくれるのはいいが何か恥ずかしい気持ちになる。
この本は有能なのかもしれない。
「ベイベーって、あっはははは」
やはり女の子は笑顔が一番だな、と改めて思った。
「あーおかしかった。...それで何を読んでたの、新入生くん」
笑い過ぎて涙が出てたみたいで涙を拭い、話しかけてくる。声は透き通るような声で聞いてて心地の良い声だ。
「いや...あ、なんででもないぜベイベー」
たまに素が出ようとするので必死に止めて、本の通りに話そうと心掛けている。
「また、ベイベー。それはキャラなのかな?」
小首を傾げてキョトンした目で見られるが、あまり女子と会話したこと無いので目を見て話すことが難しい。
「キャラじゃないけどな...あ、やっべ。キャラじゃないぜベイベー」
「ふーん。そっか。でも、私的にはちょっと出てた素の方がいいなー」
女の子は小悪魔みたいな笑み浮かべる。
前言撤回。
この本は有能じゃなかったみたいだ。
思い出すと凄い恥ずかしい事をしており、顔から火が出そうだ。家に帰って即座に本を処分しようと誓った。
「はぁ、そうだね。そうするよ、それで貴方は?」
「あ、自己紹介してなかったね」
くるりとその場で周りポーズを決める。
「霞ヶ浦学園生徒会長であり、今をときめくアイドルの六覚院紗花よろしく♪」
優人はポカーンと口を開けて呆然としていたが、頭を振って気持ちを切り替える。
「先輩でしたか、すいませんでした。....それでなんでそのようなポーズを?」
今度は紗花がポカーンとしてしまった。何か変わったものを見るような目で優人を見ている。
「うそ...でしょ...私のポーズが効いてないの!?」
「えぇーっと、ごめんなさい?」
紗花は世界に通用するぐらいのトップアイドルだ、誰もが一度は見たことのある存在、一つのポーズを取ればなんでも絵になる。それなのに、優人には紗花のポーズを知らないように思え、それを察した紗花は酷く落ち込んでしまう。
「はぁ。私もまだまだなのかな....まぁ、いいけどさ」
私を知らないなんてコイツは何者なの? 有名だと思っていたのになんか残念だなー。
「あ、やっべ!! 遅刻しそうじゃん!! 先輩お先に失礼します、先輩も遅れないようにしてください!!」
優人は腕時計を見て、8時15分を過ぎようとしていた、早めに行って友達を作ろうと思っていたため紗花に軽く挨拶をして走り去っていく。
その後ろ姿をじっと紗花は眺め、ポケットからスマホを取り出して電話をかける。
「...もしもーし、成哉? 頼み事があるんだけ」
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紗花に別れを告げ、走ってきたためそんなに時間が掛からずに学園へと着いた。学園の玄関にはクラス一覧表が貼られており、学生はどんなクラスなのかをワクワクしながら見ている学生が多い。優人もその内の一人だ。
「うっわ、すっごい人がいるよ」
上手に人と人との合間を縫って、貼ってあるクラス一覧表を目指し、自分の名前を探す。
「....あれ、俺の名前がない」
いやいや、そんなことは無いだろう。きっと見間違いだよ、もう一回見たらあるに決まってるさ。
そう思いもう一度クラス一覧表に目を通すが、優人の名前はどこにもない。近くに先生が居たため詳しく聞こうとした時、学生達がざわめき始める。
「おい!! あれは!!」
一人の男子学生が声を上げ、一斉に学生達が後ろ振り返ると、遥かに他の学生とは違うオーラを放った男女合わせて五人がこちらに歩いてきている。
「霞ヶ浦生徒会だ!!」
「...私今死んでもいいかも」
学生達が一瞬静まり返ったと思ったら、さっきとは大違いの歓声が巻き上がり、空気が揺れている感じが身体に伝わってくる。
生徒会? そんなに生徒会が人気なんだろうか、この学園は。それに一番前にいるのって紗花先輩じゃないか、本当に生徒会長なんだな。
「なぁ、生徒会ってそんなに有名なのか?」
この学園に入学したのはいいが、何も知らないので、たまたま隣にいた男子学生に生徒会について問う。
「知らないのか!? 霞ヶ浦学園をまとめる霞ヶ浦生徒会を!!」
霞ヶ浦生徒会に会ったからなのかやけにテンションが高く、目がランランとしている。
男子学生は霞ヶ浦生徒会について詳しく教えてくれた。
『霞ヶ浦生徒会』
「芸能科」から選ばれた人しかなれないのが生徒会である。霞ヶ浦の全ての仕事を行っており、行事を決めるのも生徒会。一癖七癖あるが学生から人気の的だ。特に、「芸能科」に入学出来なく「普通科」に入学せざるを得ない人達にとっては霞ヶ浦生徒会は神に等しいと言われている。
六覚院紗花。
霞ヶ浦生徒会、会長。
世界でも通用する日本で一番のアイドル。学生からは一番の人気である。
成宮裕成。
霞ヶ浦生徒会、副会長。
成宮製薬という大手会社の息子であり、会長の座を狙い続けている。
ユースティア=レッド=ミリア
霞ヶ浦生徒会、書記。
両親がロシア出身であり、小柄な容姿でとても人見知り。モデルを趣味でしている。
霧ヶ峰結鈴音
霞ヶ浦生徒会、会計。
会長の紗花の事を崇拝しており、霞ヶ浦学園の学園長の孫。
御影俊
霞ヶ浦生徒会、監査。
いつも猫を抱えている、実力派若手俳優。俳優業は親の強制でやってるため早く辞めたいらしい。
この五人から生徒会は成り立っている。
「ほうほう。なるほどねー」
うんうんと頷いていると紗花と目が合った気がしたが、気の所為だろうと思い近くの先生に名前が無いことを聞きに行こうとした。
「篠宮優人クン、キミのクラスはそこじゃないよ」
女の子みたいな顔立ちをした男の子、御影俊に話しかけられた。抱かれている猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。
今なんて言ったんだ? 俺のクラスがここじゃない? どういうことだろうか。
「それじゃ、優人君がわからないじゃないか!!」
声を少し荒らげているのは成宮裕成だ、掛けている眼鏡をかけ直して俊を責めている。
「おい、紗花さんが話すんだ少しは黙れ」
裕成の言葉を遮っているのが結鈴音だ、ユースティアは後ろでただ黙って下を向いている。
紗花はニコニコと生徒会役員の会話を見ており、会話が終わるとスッと優人の前に立った。
「ありがとう、結鈴音♪ さぁーってと優人クンだよね、一緒に行こう?」
礼を言われた結鈴音はクネクネと身体を捻って悶絶している。異様な光景だ。
この先輩は何を言っているんだ、一体どこに行こうとしている、めっちゃ怖いんだけど。
「あの、何を言っているんでしょうか。俺は普通科に名前が無いので先生に言おうと...」
「あ、それは裕成に頼んで芸能科に移動させてもらったんだよねー♪」
は? なにを言っているんだこの先輩は、俺が芸能科!? 何も取得がないのに、何か裏があるなこれは。
「なんでって顔してるね。まぁ、行こっか♪」
手をガシッと掴まれ、そのまま紗花は優人を連れ出す。その様子を他の学生は羨ましそうに見ている人など様々だ。結鈴音はギリギリと歯ぎしりをしているのは秘密にしておこう。
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「..さぁ、着いた!! ようこそ芸能科へ」
初めて芸能科に入ったけど、普通科とは大違いだな。まず、校舎がでけぇ。
驚きすぎて開いた口が塞がらないでいると、口の中に何かを放り込まれる。
「....餞別」
ユースティアが何かを放り込んだようだ。口の中には食べたことのないお菓子であり、甘さが丁度よくとても美味しかった。
「お、おう。ありがとう」
ユースティアはペコリと頭を下げるとスタスタと前へ歩いて行ってしまう。
「普通科とは違うでしょ? 僕も最初は驚いたもん」
気付いたら隣には俊が立っていたのだ、猫がにゃーごと優人に甘えた。
「驚いた、メロが人に懐くなんて」
小さい時から俺は動物に何故かと好かれるんだよなー。女の子にも好かれたかったな。
猫を撫でていると紗花から肩をツンツンとつつかれる。
「そろそろ、教室いくよ?」
不本意ながら「普通科」から夢の「芸能科」に移動する事になったが、元から「芸能科」に入りたかったから、まぁ、いいかな。「普通科」でも「芸能科」でも俺の目標は変わらないさ。
紗花に案内されたのは「芸能科A」と書かれた教室。紗花以外の生徒会役員は仕事があるからと優人から離れていった。
「なになに、緊張してんの?」
「そりゃあ、しますよ」
誰だって緊張するもんじゃないのか? え、もしかして俺だけ?
「あ、そうそう。私も同じクラスだからよろしくね♪」
「....へ?」
随分と間抜けな声を出してしまう。それはしょうがないことだ、普通は生徒会長は一年生でなることは無い、ましてや新入生がだ。
「私...私達は留年してるからね」
紗花の示す私達とは生徒会役員のことを示しているのだろうと察する。だが、「芸能科」に入った以上未来が約束されているのにも関わらず留年する意味が優人にはわからない。
「芸能科に入るためにはさ、厳重な審査があるんだよね。モデルだったら筆記の他に容姿だったりなどね、それを審査するのが私達生徒会なんだー」
それは聞いたことある。
審査はとても厳しいので筆記で受かっても落ちる人がいると、俺が知ってるのはそれだけ。
「その審査は、身内贔屓とかってしたら絶対ダメなのに、昔しちゃった人がいてね。生徒会の評価はダダ下がり」
話をしている紗花の言葉は一つ一つが重く、気持ちがこもっている様だった。
「そんな時!! 現れたのが私ってわけさ、私のお陰で生徒会は鰻登り」
重い話だったのだが、いきなりテンションが上がり少し戸惑ってしまう。
「だから、私達じゃないと生徒会は務まらないわけなの♪」
そんなことがあったのか。
こうも他の学生の前では常にニコニコとしているのに、裏ではとてつもない努力をしたんだな。本当に凄いや。
「...そうですか」
「そんな暗い顔しない!! 私達は同級生だよ? 敬語とか一切無しね♪」
満面の笑みで紗花は言う。その笑顔は俗に言うアイドルスマイルだ。
紗花はドアに手を掛けると勢いよくドアを開ける。みんなの目線が全てこちらに向いている。
「紗花ちゃん!! やっぱ本物のアイドルは違うなー!!」
教室に入ってそうそう紗花はポニーテールの女の子に絡まれる。紗花の手を持つとブンブン振っていた。
「いっつも同じセリフなんだよねー♪ 葵」
葵と言う女の子は後ろにいる優人に目をやるとにやりと笑って。
「紗花ちゃん、もしかして彼氏ですか? スキャンダル!?」
オーバーなリアクションで驚いているが、それをアイドルスマイルで。
「違うよー。この子も新入生だよ」
グイッと背中を押され前に強制的に出させられる。優人の顔をまじまじと見た後にふむふむと何かを納得したようにしている。
「この子は見た目は普通っぽそうだけど、普通科の学生さんだった?」
「ピンポーン、大正解♪」
やったねーと二人はハイタッチを交わしているが、見た目だけで「普通科」の学生だとわかるのだろうかと疑問に思ったが直ぐにわかった。
周りを見ると容姿が整っている学生が多々おり、何かに集中している学生やガヤガヤと騒いでいる学生もおり、色々とキャラ濃そうな学生が多い。
「自己紹介してなかったですね、篠宮優人です。よろしくです」
ぺこりと頭を下げると葵に肩をバシバシと叩かれる。
「よろしくね。私は姫路葵って言うんだ!!」
「葵は人気声優なんだよ、私とは何度か職場で会ってるんだー」
トップアイドルである紗花と人気声優の葵は昔ながらの知り合いだ。紗花がアニメのオープニングを収録する現場に葵もおり、そこで仲良くなり今に至る。
「あれぇー、何してるのぉー? ホームルーム始めるよぉ?」
うっわ、びっくりした。いきなり背後をとられるなんて運動不足なのか?
三人が話している後ろにフワフワとしたクリーム色の髪をした女の人がニコニコしながら立っている。
「あ、レイちゃん!! お久しぶりー!!」
「レイちゃんじゃないでしょぉー。先生って言って言ってるでしょぉ」
葵の言っているレイちゃんとは木ノ原レイの愛称である。「芸能科A」の担任を務める事になっている。
っておいおい。先生までレベルが高いのかよ、すっごいなこの学園は。
優人は窓際の一番後ろの席をだったので、そこへ歩き椅子へと座ると、少しぽっちゃりとした男子学生に話しかけられる。
「篠宮氏だったでござるか? よろしくでござるな」
持っているフィギュアを布でフキフキしている。
「我は御堂龍之介でござるよ、それで、アニメとか見るでござるか?」
「いや、田舎だったもんでテレビをあまり見ないんだよ」
優人の言葉で龍之介は目を見開いて驚いている。コトリと手に持っているフィギュアを机の上に置いた。
「見ないだと!! あの、リ〇ロやこの〇ばとか見ないのか!! あの神アニメを見ないと人生を損しておるぞ、例えば.....」
「お、おう」
熱弁しており優人の入る余地は無さそうだ。今もずっと話し続けている。
ホームルームが終わるまでずっとアニメの話をしていたのは言うまでもない。
「芸能科」の授業は普通の学園と同じく行われるが、「芸能科」に入れば殆どの職業になれるため学生達は授業はちゃんと受けている人も多くは無い。
キーンコーン。カーンコーン。
六限目の授業が終わりを告げるチャイムが鳴る。
「やっと終わったぁーー」
流石、有名私立だレベルが高いな。ノートをとるのにやっとだぞ、なんでみんなあんなに余裕なんだ凄すぎ。
「何そんな疲れた顔してんのさー」
紗花が机に突っ伏している優人に近付いてくる。
「なんでお前らあんなに出来るんだよ」
「うーん、慣れかな。...そう言えばこの学園は部活も盛んなんだよ、見学して来れば?」
なるほど、部活といえば運動部が気になるな。
「そうするかなー」
席を立ち鞄を持って教室を出る。後ろから「いってらー♪」と元気の良い声聞こえそれに反応してからトビラを閉めた。
次回は未定なので気長に待ってください。