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ミステリ専門書店〈谷藤屋〉不定期営業中  作者: 庵字
ミステリ界最大の謎!『競作 五十円玉二十枚の謎』競作アンソロジー
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『五十円玉二十枚の謎』ネタバレありレビュー

「いらっしゃいませ」


 谷藤(たにとう)さんの声に迎え入れられ、僕は谷藤屋へ入った。店内には相変わらず、レジに立つ谷藤さん以外に誰の姿もない。


「読みましたよ。『五十円玉(ごじゅうえんだま)二十枚(にじゅうまい)(なぞ)』」


 レジカウンター前まで行くと、僕はすぐにそう言った。


「面白かったですか?」

「もちろん。それに、面白いというよりも、今回は感心してしまいましたね。よくぞあの無理難題とも言える謎に、これだけの『回答』を出してきたなと。やっぱりミステリ作家って凄いですね」


 僕が語る感想を、谷藤さんはいつものように、嬉しそうな顔で頷きながら聞いてくれている。僕は続けて、


「面白いなと思ったのは、『回答作』に結構な割合で、『こういった謎が誌面に載っていた』という、いわゆるメタ視点からの作品が多かったことですね。数えてみたら十三編中の実に半分近い、六編がそういった『メタ設定』を使った作品でした。ちょっと多すぎでしょ。他とは違うものを書いてやろうっていう、ミステリ作家特有のひねくれ具合が垣間見られて、何て言うか、微笑ましかったです」

永城(えいじょう)さんも、随分と〈ミステリ読み〉の思考になってきましたねー。嬉しいです」

「そ、そうですか? いつも谷藤さんに鍛えられてるからかな? あ、それじゃあついでに、ミステリ読みとして意見を言わせてもらえばですね、法月(のりづき)先生の作品はプロ作家の作品ということで、さすがの面白さでしたけれど、これ、厳密には『五十円玉二十枚の謎』を作中で解明していませんよね。ちょっとずるいんじゃないかな? と思いました」

「うまく逃げましたよね。あっ、逃げるとか言っちゃ悪いですね。法月先生、すみません。ああいう、謎が完全に解明されないまま余韻を残して終わるのは、『リドル・ストーリー』っていう立派な手法のひとつなんですよ」

「ああ、確かにあれは、謎が解明されなくて怒るというよりも、そう来たかーって、ある意味納得させられましたからね」

「永城さんは、どの『回答』が一番お好みでしたか?」

「そうですね……やっぱり、有栖川(ありすがわ)先生の作品ですね。もうさすがのひと言に尽きました。五十円玉二十枚の謎だけに留まらず、それを両替してきた人物にまつわる謎を新たに出してきたりして。老人がエレベーターのドアを早くに閉めて、各階停止させて下ろした理由なんて、笑ってしまいますけれど、実に納得できる見事な謎と回答でしたね。笑って驚いて、最後には少しほろりとさせられて。サービス精神凄すぎでしょ。ラーメンだけ頼んだのに、餃子とチャーハンもおまけで付けてくれた、みたいな」


 僕の例えがおかしかったのか、谷藤さんは、あははと声を上げて笑った。


「あとは」と僕は続けて、「倉知淳(くらちじゅん)は、これが実質的なデビュー作だったんですね。猫丸(ねこまる)先輩も、これが事実上の初登場ですね。猫丸先輩、この頃から一切キャラがぶれていなくて、やっぱり最高でした」

「そうですね。一般公募作の中では、剣持鷹士(けんもちたかし)も後にプロデビューを果たしていますね」

「高橋謙一名義の作品ですね。あれも面白かったです。五十円玉を〈物体〉として扱った異色作でしたよね。やっぱり、プロになるっていう人は、アマチュア時代から別物っていうか、作品に力を感じました」

「ところで、永城さんも、この謎の自分なりの答えを考えてみたりしませんでしたか?」

「訊かれると思ってましたよ。もちろん考えました」

「やっぱりですか! 教えて下さい!」


 谷藤さん、両拳を握りしめて、爛々と目を輝かせてきた。


「わ、笑わないで下さいよ。あくまで素人の浅慮(せんりょ)なんですから……」と僕は保険をかけてから、「僕はやっぱり、問題編の中でも触れられていた、ゲームセンター説が固いんじゃないかと思います。若竹七海(わかたけななみ)さんがこの謎に遭遇したのは、1980年前後のことですが、その頃にもワンゲーム五十円でプレイできるゲーム機を置いたゲーセンは多くあったはずです。そういったゲーセンには、当然五十円玉専用の両替機というものを多数設置しています。80年代当時のゲーセンは多分、現在のそれよりもずっと猥雑としていて、店内も暗かったんじゃないかと思います。それゆえ、両替機の取りだし口や周囲の床には、お客が取り忘れたか落としてしまった五十円玉が残されていることもあったのではないかと。犯人は、そういった両替の〈おこぼれ〉を専門に狙う常習犯だったんです。ですが、そうは言っても両替のおこぼれなんて、拾える数はたかが知れています。恐らく犯人は日に何軒かのゲーセンを廻って、少しずつ五十円玉を貯めていったんです。ペースにして、一日で二枚から三枚がいいところだったでしょう。犯人のその〈日課〉は日曜日から始まって、一週間が過ぎる土曜日には、ちょうど二十枚くらいが貯まる勘定だった。若竹さんが務めていた書店は、犯人の帰り道の途中にあったんです。で、一週間の仕事納めに、犯人はその店で両替するのを日課とした。銀行を利用しなかったり、明らかに挙動不審だったのは、拾得物をネコババしているという罪悪感があったからです。以上です」


 喋り終えると僕は、ふう、と大きく息をついた。谷藤さんは、


「永城さん、凄いですね! 荒唐無稽な説じゃなく、あくまでリアルな可能性を出してきたのが永城さんらしいです」


 と言いながら拍手をしてくれた。


「はは。あまりに当たり前すぎて、ミステリとしては全く使えませんよね、それに、その犯人の仕事が両替機のおこぼれ狙いだけじゃ、週給千円ということになって、いくら何でも食べていけるわけないですしね……」


 変な話をしなければよかったかな? と少し後悔した僕は、


「そ、それじゃあ、また……」


 帰ることにして(きびす)を返しかけた、そのとき、背後でドアの開く音がして、


「いらっしゃいませ」


 谷藤さんの声が僕の肩越しに掛けられた。客? この谷藤屋に、僕以外に? 咄嗟に振り向く。そこに立っていたのは、ぱっとしない顔つき身体つき、身なりをした、中年の男だった。私見を言わせてもらえれば、あまり本屋には縁がなさそうなタイプ……。

 男は、両側の壁に設えられた書架には目もくれず、まっすぐにレジに向かってきて、


「千円札と両替してください」


 握っていたものをずらりとカウンターに並べた。

 なにっ……?

 僕は、男がカウンターの上に置いたものを視認すると、心の中で叫び、ごくりとつばを飲み込んだ。

 それは銀色に輝く二十枚の五十円玉だったのだ。


(次回 特別編『谷藤屋と五十円玉二十枚の謎』に続きます)

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