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ミステリ専門書店〈谷藤屋〉不定期営業中  作者: 庵字
首切りトリック最高傑作『首無の如き祟るもの』三津田信三 著
14/32

『首無の如き祟るもの』プレビュー

「今日は私ですね、ちょっと永城(えいじょう)さんに頑張ってもらおうと思っています」

「ど、どういうことですか?」


 開店していた谷藤屋(たにとうや)を訪れた僕は、挨拶を済ませるなり、店主の谷藤(ふう)さんから告げられた。


「今回、私がお勧めするミステリは……これです!」

「あ、厚い!」


 谷藤さんが差し出してきたのは、目分量で厚さ二センチは優に超える文庫本だった。


三津田信三(みつだしんぞう) 著『首無(くびなし)(ごと)(たた)るもの』です!」


~あらすじ~

 奥多摩深くの山村、姫首(ひめかみ)村では、三つに分かれた旧家が村を取り仕切っている。その中でも現在まで長くに渡り村を支配し続けている一守(いちがみ)家の跡取り、一守長寿郎(ちょうじゅろう)が参加する、十三夜参りと呼ばれる儀式の最中、事件は起きた。長寿郎を慕う使用人、幾多斧高(いくたよきたか)の目の前で「首のない怪人」が現れて消え、井戸の中から死体が発見されたのだ。事件の犯人も分からぬまま時は流れ、一守家を更なる惨劇が襲う。密室と化したはずの山中で続出する首無し死体。一連の事件は当地に宿る魔物「首無」の祟りなのか? 事件に関わったある当事者の妻が、夫の残した記録をもとに、小説として事件の再構成を試みるのだが……。


「何だか骨太なミステリみたいですね……うわ、登場人物が多い!」


 僕は谷藤さんから本を受け取って、冒頭に掲載されている〈主な登場人物〉を見て言った。上下二段で二ページにも跨っている。そんな僕の顔を見て、谷藤さんは、


「心配いりません。メインで出ずっぱりのキャラクターは数人程度なので、戸惑うことなく読み進められますよ」

「そ、そうですか……。人物表の他にも、村の略図もありますね。これはかなり本格的な作品ですね。あ、シリーズものなんですね。本の裏に〈「刀城言耶(とうじょうげんや)」シリーズ傑作長編〉とあります」

「はい、この『首無の如き祟るもの』は、怪奇幻想作家、刀城言耶が探偵役を務めるシリーズの第三作目なんです」

「三作目ですか。一作目と二作目を飛ばして、いきなり三作目から読んでも大丈夫ですか?」

「その点も心配いりません。基本、刀城言耶シリーズは各作品ごとが独立していますので。旧作では容疑者だった人物が、後の作品でレギュラーで登場する、なんていうことはありませんから(※現在のところは)。それにですね、刀城言耶シリーズを未読の方は、まずこの『首無』から読むという手もありなんですよ」

「どういうことですか?」

「それはですね、本作では探偵役の刀城言耶が、なかなか登場しないからです。シリーズを読み進めて、探偵役に愛着を持ってしまうと、シリーズものなのに探偵が全然出て来ない、ってやきもきしてしまいますから」

「ああ、なるほど。まだ知らない探偵なら、出番が少なくても気にならないということですね。それにしても、この厚さといい、登場人物の多さといい、これは読むのに骨が折れそうですね。谷藤さんが僕に、頑張ってもらいたいって言っていたのは、こういうことだったんですね」

「はい。でも、頑張ってほしいというのは、読むこと自体ではなくて、読むきっかけを頑張って作ってほしい、という意味です。こんなおどろおどろしいタイトルですけれど、一旦読み始めれば、すんなりと入っていけますし、事件も割合すぐに起きますから、絶対に退屈はさせませんよ」

「そうですか、谷藤さんのお墨付きなら、間違いないですよね。では、これをお願いします」

「お買い上げ、ありがとうございます」


 谷藤さんは僕から受け取った本をレジに持っていき、いつものようにカバーを掛けてくれる。


「谷藤さんって、カバー掛けるの上手ですよね」

「えっ? そうですか。ありがとうございます。カバー掛けは、書店員のたしなみですから」

「実はですね、この〈谷藤屋〉が開店する前も、ここは本屋だったんですよ。そこにもカバーを掛けるのが上手い店主がいて、あ、谷藤さんとは違って、凄いお爺さんだったんですけれど……」

「はい、永城さん」


 僕が言い終える前に、谷藤さんは綺麗にカバーを掛けた本を差し出してきた。


「あ、ああ、はい」


 僕は慌てて財布を取り出して会計を済ませる。


「感想、聞かせてもらえるのを楽しみに待っていますね」

「はい。それじゃあ……」


 結局、前の本屋についての話は続けられないまま、僕は谷藤屋をあとにして家路についた。

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