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ミステリ専門書店〈谷藤屋〉不定期営業中  作者: 庵字
君は耐えられるか?『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』倉阪鬼一郎 著
12/32

『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』プレビュー

永城(えいじょう)さんって、心は広いほうですか?」


 あっ、今日は開店しているな、とドアを押して谷藤屋(たにとうや)に足を踏み入れた僕は、店主の谷藤(ふう)さんと挨拶を交わした直後、いきなり人間性を問われた。


「えっ?」と動きを止めるしかない。が、いつまでも固まっているわけにはいかない。時は動き出す。


「そ、そうですね。まあ、そんなに怒ることってないほうですけれど、心が広いかといわれると……どうでしょう?」


 すると谷藤さん、眼鏡の向こうで目を細めて、


「すみません、変なこと訊いちゃって。でも、心配いりませんよね。永城さんがいい人だっていうことは、何度もお会いして十分わかっています」

「ど、どうもありがとうございます」

「そんな永城さんだからこそ、私はこの作品を自信を持ってお勧め出来るのです」


 谷藤さんは、両手で持っていた本を僕に向けて差し出した。新書サイズの本だった。


「これが今回の谷藤さんお勧めミステリですか。何だか長いタイトルですね」

「はい、倉阪鬼一郎(くらさかきいちろう) 著『三崎黒鳥館白鳥館みさきこくちょうかんはくちょうかん連続密室殺人れんぞくみっしつさつじん』です」


~あらすじ~

 東亜学芸大学のファインアート研究会に所属している西大寺俊(さいだいじしゅん)は、招待状を受けとって「黒鳥館」を訪れる。そこに待ちうけていたのは、復讐鬼と化した青年画家鳥海翔(とりうみしょう)だった。鳥海は黒鳥館の「奥の間」で西大寺を殺害せしめる。さらに鳥海は、橋も架かっていない深い谷で隔てられた「黒鳥館」と「白鳥館」の間を自在に行き来しながら、二つの「館」に順次招待されてきた東亜学芸大学生たちを次々と殺害していく。二つの「館」を神出鬼没に自在に行き来する鳥海の秘密、そして、この復讐劇の意味するものとは?


「何だか壮大な、スケールの大きいミステリみたいですね」

「そうなんです。これは今まで永城さんが読んでこられた、どんなミステリとも違うと思いますよ。私はこの作品について、読前の方に対してあまり多くを語りたくありません。とにかく読んでみてほしいと言うしかないんです」


 僕は谷藤さんから本を受け取って、


「そうなんですか。谷藤さんのお勧めであれば間違いはないですよね。それじゃあ、今回もこれを購入させていただきます。これ、古本ですね?」


 僕は手にしていた古本の『三崎黒鳥白鳥(以下略)』を谷藤さんに一旦返した。


「はい、そうなんです。これは、すでに出版社取扱終了作品、いわゆる絶版というものですね。本当に嘆かわしいです。こういった名作が発行から十年も経たずに入手困難になるなんて。出版文化の末席を汚す人間としてですね、あまりに嘆かわしい」


 谷藤さんは憤慨しながら、古本相手であってもいつものように手早く、だが丁寧にカバーを掛けていく。


「その本、新書ですけれど、文庫化はしていないんですか?」


 谷藤さんの手がぴたりと止まった。カバーを掛けかけの手元からゆっくりと顔を上げると、谷藤さんは、


「ええ、この『三崎黒鳥(以下略)』は〈さる事情〉があって文庫化はしていないんです。そして、これからもされることはないでしょうね」

「えっ? どういうことですか? 何か(いわ)くでも……?」


 僕の質問に答えてくれることなく、カバーを掛け終えた谷藤さんは、価格を告げて僕に本を差し出す。代金と引き替えに僕は、真新しいカバーに包まれた古本を受け取った。


「毎度ありがとうございました。感想、お聞かせいただけるのを楽しみに待っています」


 笑顔の谷藤さんに送り出されて、僕は店をあとにしたのだった。 

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