『猫には推理がよく似合う』プレビュー
「永城さんっ! 猫がお好きですねっ?」
「えっ? このパターンは?」
「今日、私が永城さんにおすすめするミステリは、これ! 深木章子 著『猫には推理がよく似合う』ですっ!」
「まさかの猫三連発?」
~あらすじ~
弁護士ひとり、事務員ひとりの小さな弁護士事務所、田沼清吉法律事務所には猫が住んでいる。耳と頭の一部以外は見事に真っ白な雄のスコティッシュフォールド〈ひょう太〉。ひとりきりの事務員椿花織は、初めて会ったときに、ひょう太の本当の名前が〈スコティ〉だと見抜いたことで〈彼〉の信頼を受け、喋る猫としての顔を打ち明けられたのだった。弁護士の田沼が事務所を留守にしている間、二人は秘密の会話を楽しんでいる。その内容は、二人の共通の趣味である本格ミステリーについてや、事務所を訪れる依頼人の依頼内容について。ある日、事務所内で本当の事件が起きてしまい……。
谷藤屋の出入り口をくぐるなり、僕は谷藤さんに押しつけられるようにして一冊の本を受け取った。
「これも猫が探偵役なんですね?」
「そうですよ、最新型猫探偵です」
「あらすじを聞いたところだと、この猫探偵は人間と会話が可能なんですね? 確かに、主人公だけとはいえ、人間との会話が成立するとは、猫探偵も随分と進化を遂げましたね。でも、猫が喋るまでになっちゃって、本格ミステリとしては大丈夫なんですか? それこそ、化け猫なんじゃあ……」
「大丈夫です。猫が喋る、喋らないは問題じゃないんです」
そこは問題なのでは? 疑問が湧いたが僕がそれを口にする前に、谷藤さんが、
「面白い本なので、ぜひ読んでみて下さい。お買い上げいただけますか?」
「は、はい」
そう答えるしかない。谷藤さんは即座にレジカウンターの向こうに入り、レジを打って本にカバーを掛け始める。
「何だか、今日の谷藤さん変ですよ。いつもなら本の内容について、これでもかと語ってくるのに」
「うふふ。この本はですね、あまり事前に情報を耳に入れてほしくないんです。ですから……はい、どうぞ」
僕は代金を払って、いつものように職人技レベルに綺麗にカバーが掛けられた本を受け取った。
「それでは、読み終えたら感想を聞かせて下さいねー」
そして、追い立てられるように谷藤屋をあとにしたのだった。