異世界転移
昼休みを終えた後は、普通に授業を受けて残りは最後のホームルームだけというところになった。
時計の針はもうすぐ16時になるところだった、俺は特に何も考えず、その様子をじっと見ていた。そしてその異変は突然起きた。
ガタッ!
俺は16時になった瞬間、体に変な違和感を感じ思わず椅子を倒して席を立った。
「小山、どうした?」
「.....................」
「小山?」
「あっ......いえ...申し訳ございません。少し寝ぼけてました。」
「勉強のしすぎで疲れているんじゃないのか?ちゃんと体調管理しろよ。」
先生にそう言われ俺は椅子に座りなおした。
(さっきのはなんだったんだ?この教室ごと、一瞬変な空気にのまれたような感じがした。一瞬すぎて俺以外は感じ取れなかったのか?)
そう思い周りを見てみた。しかし誰も変な様子にはなっていなかった。
龍は気にしながらも特に体に異常がないことが分かったので、とりあえず今は考えることをやめた。
ホームルームが終わった後、図書室に向かった。これから神崎と一緒に勉強をする予定だった。神崎に勉強を教えるようになってから一週間に一度だけ、このような時間を作っていた。今日はゴールデンウィーク中にわからなかった問題があったらしいので、放課後に図書室で待ち合わせをしていた。
図書室に入ると、神崎は既に勉強を始めていた。俺は神崎と対面になるように席に座った。すると神崎はこちらに気づいた。
「来たわね。早速だけどこの問題解いてくれる?」
神崎はいきなり数学の問題を見せてきた。
「うん、分かったよ。」
俺は気にせずに問題を解き始めた。2分ぐらいして解き終わり、神崎に解答を見せた。
「はい、終わったよ。」
「相変わらず、早いわね。」
神崎はそう言って俺の解答をしばらく見ていた。そして自分のノートにそれを写した。
「助かったわ、こうやって解くのね。」
「それで分かった?」
「えぇ、とても分かりやすかったわ、ありがとう。また何かあったらお願いするわね。」
「いつでもどうぞ。」
その後二人は一時間ほど図書室にいた。そしてキリのいいところできりあげて、二人で帰ることにした。
帰り道の途中、俺はホームルームの時の違和感の正体を考えていた。考えている途中、視線を感じて神崎の方を向くと、彼女は突然口にした。
「小山君に初めて会った時から思っていたのだけれど............小山君っていじめを受けているようには見えないわよね。」
「うえっ?ど、どういうこと?」
俺は神崎にわざといじめを受けていることがバレたのだと思い、少しどもってしまった。
「私、いじめってすごく嫌いなの。小中学校であったいじめは全部やめさせてきた。そして、あなたに対してのいじめもやめさせようと思っていたわ。」
神崎がそんなことを思っていたなんて知らなかった。いじめを止めようも思ってくれている人がいたことを知って、俺は嬉しくなった。
「でもね、暴力を受けている小山君を見た時、全然あなたつらそうじゃなかったもの。だからあなたはいじめをあえて受けているんだと思ったの。」
「.........分かる人には分かるんだな。」
「否定はしないのね。」
「そうだな」
俺はもう彼女にはバレてもいいと思っていた。
「そう、よかったわ、私の勘違いではなくて。......理由を聞いてもいいかしら。」
「..................」
「嫌なら別にいいわよ」
「いや、まぁ...............簡単に言うと自己満足のためだ。あまり詳しくは言えないが。」
「そう............」
彼女はそれ以上何も聞いてこなかった。そして神崎を送った後に家まで帰った。
その日の夜、龍はいつもよりも気分良く一日を終えることができた。
龍は違和感のことなどすっかり忘れていた。
次の日、もうすぐ朝4時にさしかかろうとしていた時間に、龍は近くのいつも使わせてもらっている道場を訪れていた。龍は真面目君モードではなく紺色の道着に同色の袴という、熊討伐の時と同じ格好だった。今日、龍は合気道の稽古をしようと思っていた。
俺はいつも通り瞑想をしていた。瞑想が終わり、鍛錬を開始しようとしたところで、ふと時計を見た。ちょうどその時、時計の針が午前4時を指した。
フッ
一瞬の事だった。気付いた時は俺の目の前に、寝ているクラスメイトと先生、それに変わった格好をした人達が石造りの広い部屋の中にいた。そして変わった格好の人達の中心には、俺と歳が変わらないぐらいの美しい少女がいた。
「勇者の皆様............どうか...この...国...を」
そう言って少女は倒れた。