いつもの一日
熊を倒した次の日の朝、龍はいつも通り鍛錬をしていた。龍は朝の4時から6時まで、その日の気分に合わせた鍛錬をしていた。今日は2時間ずっと全力で走り続けていた。
「ふぅ、体力だけはいくらあっても困らないからな。」
龍は少し休憩した後に、家に帰りシャワーを浴びた。そして制服に着替えた後、髪をワックスでストレートに固め、綺麗に七三分けにし、最後に黒ぶちの丸眼鏡をかけた。中学校の頃と見た目が全く変わっていなかった。
「今日も最悪な1日になりそうだな。」
鏡の中の自分を見てそう言った。リビングに向かうと、両親がいて兄である大河がすでに起きていた。
「おはよう兄貴、もう起きてたんだ。いつもより早いな。」
「あぁ、おはよう。休み明けはなんか早くなるんだよな。」
兄の大河はサラサラの髪の毛を茶色に染めていて、中性的な顔立ちをしている。兄は男にも女にも人気があり友達がたくさんいた。もう兄のようにはなれないだろうなと思いながらも、人気もありモテている兄に憧れていた。
でも龍は兄を妬んだことはなかった。幼い頃、両親以外の大人は龍のことだけを褒めて、兄には『弟くんはすごいね』とか『君もなかなか才能あるけど、龍君は特別だなぁ』などと言っていた。龍もそのことを知っており、幼いながらも兄の様子を気にしていた。
しかし兄はずっと龍に優しかった。もし逆な立場だったなら、自分はどうしていたかは分からない。それなのに、兄はずっと龍のことを弟として見ていた。兄が負けると分かっていても対戦ゲームやスポーツをしようと誘ってきたりして、いつも1人でいた龍と遊んでくれていた。
そんな兄に龍は尊敬し、憧れていた。これからも兄には頭が上がらないだろうなぁ、そう思っていた。
「てか龍、お前いつ見てもそれダッセェな。」
兄は真面目君モードな俺を見て言った。
「それくらい分かってるよ。けど俺には野望があるんだ。それまでは、これをやめることはできないんだよ。」
その野望とは、いじめっ子達をボコボコにし恐怖を植え付けるというものなのだが。
「そうか、まぁ頑張れよ。」
龍がいじめを受けていることは、兄も両親も知っていた。けれど龍がいつでもいじめから逃れることができるのを理解していた。だから龍の好きなようにさせていた。最も、いじめられるのをやめない理由は知らないのだが。
「龍君、大河君、ご飯できたわよ。」
母が用意した朝ごはんを食べて支度を終わらせた後、時間までゆっくりとしていた。時間が近づくと家を出てゆっくりと歩いて登校した。龍はいつも予鈴のチャイムがなるのと同時に、教室に入れるように時間を調整している。さすがに龍も朝一からいじめられたくなかった。
予鈴のチャイムがなり、同時に教室に着く。そして席に座ってすぐに頭をおもいっきり叩かれた。
「おい、今日の昼のやつな。」
そいつは西山 智という俺をいじめている中心人物の中学校の頃からの子分であり、猿山 健吾という男だった。今日の昼に買ってくるもののリストと金だけ置いて自分の席に戻っていった。
このクラスは今までで一番良いような悪いような、そんなクラスだった。この学年で可愛いと有名な女子が多くおり、スポーツ万能の男やイケメンの男などとスペックの高い男子も揃っていた。そしてオタクと呼ばれる男達と不良やギャルといった連中も揃っていた。
しかしそのほとんどが俺のいじめを見て見ぬ振りをしていた。中にはそんなこと関係ないとばかりに話しかけてくる奴もいた。そいつは神崎 結里と言う名の女子だった。
神崎は黒髪ロングのストレートで腰のあたりまで髪を伸ばしている。すごく整った顔立ちであり、この学校で一番美しいと言っても過言ではなかった。胸も大きく、スタイルも良く、身長も俺と同じで165cmあった。
彼女は1年の頃から俺に勉強を教えてもらっている。もちろんいじめのことには気づいているが、それは自分に関係ないから、自分でなんとかしろと言うことだろう。そんなことよりも勉強を教えろと、そんな女だった。
俺にとっては彼女も自分に関係ないと思っていたが、そのように接してくれる相手はいなかったし、何よりすごく美人だったので喜んで教えていた。成績は龍が一位だったので神崎はいつもニ位だった。しかし彼女は変なプライドを持たずに、俺に勉強を見てもらっていた。自分に素直で真っ直ぐだった。俺はそんな彼女の性格を気に入っていた。
彼女と仲良くしているからいじめられているという理由もあるが、彼女に会っていなくともいじめられていたし、そんなことは今さらどうでもよかった。
もう1人、俺は気になっている奴がいた。そいつは橘 梨奈という名の不良グループの一員だった。
彼女の金髪の髪を肩のあたりまで伸ばしていて、そこしつり目ぎみの大きな目をしていた。彼女も胸は大きく、スタイルも良く、身長は155cmととても可愛かった。
彼女はいつも俺をパシリにした後、必ず小声でお礼を言ってくるのだ。なんだそんなことかと思うかもしれないが、普通はパシリにお礼なんか言わない。少なくとも彼女以外は言わなかった。そしていつも申し訳なさそうに俺を見てくるのだ。
彼女を気にする理由はそれだけだった。
昼休みになって俺はすぐに購買に向かった。そして頼まれていたものを買って、すぐに屋上に向かった。
「書かれた通りのものを全て買って来ました。」
屋上では不良グループが集まっていた。
「今日は5分かかったから飯食った後に20分サンドバックな。おい、早く飯配れよ。」
西山がそう言ってきた。俺はみんなに昼ご飯を配り始めた。そして最後に橘に渡した時、橘はいつものように、
「ありがと............」
ボソッと皆に聞こえないくらいの声で言った。
俺は小さく頷き、離れた場所で待機した。そして西山の宣言通り20分間サンドバッグの代わりとなり、喧嘩の練習とか言って、顔など目立つところ以外をボコボコに殴られていた。その途中で橘の申し訳なさそうな目を見てしまった。
(そんな目で見るなよ............)
俺は20分間の暴行よりも、橘の視線の方が辛かった。