いじめられの理由
小山 龍の両親は普通に出会い、普通に結婚をした。2人とも美形であったため、産まれてくる子供もまた美形だった。子供は2人産まれ、2人とも男の子であり、3つ歳の離れた兄弟である。
両親は2人に色々なことを経験してもらいたくスポーツに音楽、様々な習い事をさせた。兄の大河は普通の子よりもうまくできる方だった。しかし本人が嫌だったものは強制せず、好きなことだけをさせた。両親もそんな兄が誇らしかった。
だが弟、龍の方はとんでもなかった。
龍は幼い頃からやってみるもの全てに才能があった。あらゆる分野で全国を狙えると言われていたほどだった。5歳の時に始めたテニスはコーチを4時間で超えた。ピアノではプロにも負けない演奏ができた。しかし、龍はどれもすぐにやめてしまった。両親も本人の意思を尊重したかったので、やめたことに何も言わなかった。
だが、龍は昔からある事だけにはずっと興味を示していた。それは戦闘ものの特撮やアニメだった。
龍はずっとヒーローの戦う姿を見ていた。両親も幼い男の子なら憧れるものだと、そう思って龍を見ていた。しかし、龍が見ていたものは両親が思っていたものと違うものだった。それが分かったのは龍が小学一年生の頃、戦隊ものを見ていた時に父が『そんなに好きなら、空手とかやってみるか?』と言ったのがきっかけだった。
龍は空手を始めた体験日に道場にいる全ての人、先生にさえも倒してしまった。龍は様々な技を使っていた。父は龍を見てすぐにその技が戦隊ものや、アニメで使用されている技だと分かった。龍が特撮やアニメで見ていたものは、ヒーローたちの使う技だった。龍に倒された空手の先生は全国レベルの空手の選手だった。先生が龍に是非あってほしい人がいると言って、実際にその人に会ってみた。
その人は空手の達人で、空手の世界では一番強いと言っても過言ではなかった。会ってすぐに龍はその人の戦い方を見るように言われ、見た後にその人と空手をするように言われた。そして龍はその人に勝った。龍は一度だけ見たその人の空手の動きを全て覚え、自分の動きを加えて空手を理解した。
龍はそれから様々な武術、武器をその分野の達人に会うようになり、その達人以上に上達した。そして12歳の時に全ての武器、武術を体得した。
しかし龍は自分の力を家族と、ある一部の人以外には隠す事にした。理由は龍に友達というものがいなかったからだった。
小学一年生から小学六年生まで武術、武器に打ち込んでいた彼には友達ができなかった。休み時間は武器に関する本に没頭し、放課後はそれの実践、長期休暇は達人に会いに行った。そのため小学校では誰とも話さなかったのだ。
だから彼は友達が欲しく、中学校一年の時から優しく、真面目に振る舞い、話しかけやすいような人柄を目指した。武器の扱いや達人級武術ならなんでもできます、なんて奴に気安く話しかけるなんて出来ない、そう彼は思ったのだ。
龍の作戦は成功したものだと思われた。
龍は髪を綺麗な七三分けにして、黒ぶちの丸眼鏡をかけて学校に通った。入学前のクラス分けテストも全て満点の学年1位で入学生代表だった。そしていろいろな人に『学年1位ってすごいね。』とか『小学校の頃と随分変わったね。』などと話しかけられた。これで友達もたくさんできるのだろう、と龍の心はすごく満ち足りていた。
しかし中学校に通って三日後、この日から今後の龍の学校生活が決して楽しいものではないということが決まってしまった。
その日、龍はいつも通り何人かの女の子と話をしていた。そこに身体が大きくて目つきが悪く、唇がとても太い男が急に女の子と龍の間に割って入ってきた。
「おい、お前あんま調子乗んなよ。」
その男は同じクラスで3人の男、子分?を引き連れて動いている奴だった。女の子達はその男が入って来た時に離れていってしまった。
「お前、シメっぞ」
「ごごご、ごめんね。えっと.........僕が何かしたかな?」
全くもって見に覚えがなかったので嫌われているのだと思い、どもってしまった。
「西山くんはさぁ、調子乗んなって言ってんの。分かる?」
すると、子分Aが口を出して来た。こういう時は素直に相手の言い分を聞いて謝るんだ。
「ごめんなさい、調子に乗ってました。許してください。」
俺は見事な土下座をきめた。すると男達は少しの間呆気にとられていたが、西山と呼ばれていた男がすぐに言葉を返して来た。
「じゃあ、お前今日から俺と行動しろよ。」
俺は耳を疑った。まさか向こうから一緒に行動しようだなんて言われるとは思わなかった。
「う、うん。分かった。」
「分かりましただろ?」
「分かりました!」
西山くんは笑顔だった。俺もつられて笑顔になった。俺は生まれて初めて友達ができた.........と思っていた。
結論から言おう、俺は西山グループのパシリとなった。初めはパシリにされていることに気がつかなかった。しかし日が経つにつれて、なんかおかしいな、と感じるようにもなった。そしてパシリで頼まれていた物を買ってこれなかった時に暴力を受けて気がついた。
これはいじめだ、と。
そう思うと、周りがあまり話しかけてこない理由も理解できた。しかしその時の俺は友達ではなかったというショックで、特にいい解決策を考えることができずいじめをそのままにしていた。
そして俺は、西山のパシリという理由だけで、他の奴らにもいじめられることとなった。高校2年生になった今でもそれは続いている。
いじめの内容は、道具や金に関わることはなかった。パシリにされることと暴力だけだった。俺が優等生ということもあり、バレるようなことは避けていた。ただ肉体的暴力と精神的暴力を受けているだけで済んだ。だから俺はこのまま卒業までいじめられることにして、卒業式で今まで俺をいじめていた奴らをボコボコにする計画を立てていた。
俺という恐怖を今後の人生に刻みつけるためにわざといじめられる決意をした。