魔族
龍がゴルゾフと対面していた時と同時刻、エリス王女は龍以外の勇者たちの訓練を見学に来ていた。
「エリス様、今日は勇者様方の魔力総量の確認をおこなう予定です。」
「勇者の皆様はもう魔法を使えるのですか?」
「はい、昨日初級魔法の詠唱をお教えしましたら、全員が発動出来ておりました。しかし魔力操作の方はまだ1人も出来る方がおりませんでした。ですので、今日の魔力総量の測定は初級魔法の多重詠唱でおこないます。」
「分かりました。では私は隅の方で見学させていただきます。」
そう言って私は護衛の騎士たちと共に、訓練場の隅の方に移動した。すると勇者の皆様がこちらの方を見た。
「おい、王女様が来てるぜ。」
「やっぱ可愛すぎるだろ。」
「絶対フラグたててやる。」
「お人形さんみたいだね。」
「あれには敵わないわー。でも神崎さんいい勝負してんじゃない?」
私は勇者様たちと距離が遠く何を言っているのかはわからなかった。レイモンドが勇者様たちに近づくと今日の説明を始めた。
そしていよいよ始めることとなった。
「それでは皆さん、もう一度確認します。私の合図と共に、魔法の詠唱をおこなってください。やめる時の合図は近くの魔術師がおこないますので、それに従ってください。それではお願いします。」
ここでおこなう初級魔法の多重詠唱というのは、詠唱を何度もおこなうことで、その魔法の威力と範囲を広げるというものである。今回は早く多くの魔力を消費させるので、5回詠唱をおこなう。初級魔法は誰が発動しても大して差がないので魔力総量の確認がおこないやすい。
「『火よ、火よ、火よ、火よ、火よ』」
「『水よ、水よ、水よ、水よ、水よ」』
すると勇者様たちは手の平に魔法を発動させた。皆、それなりの大きさの適性魔法をその場で維持させていた。
時間が経つにつれてその魔法が小さくなっていった。そして魔術師たちにやめるように言われる人もでてきた。
私は最後まで残っている彼女を見ていた。
「キレイ............」
私は、背が高く美しい黒髪をした女性の勇者様に見惚れていた。
すると彼女も魔法の継続をやめた。おそらく彼女が一番魔力を持っているのだろう。
「皆さんお疲れ様でした。この後は昼まで休憩とします。自由にしていただいて結構です。私はこれから少し用事があるので、何かありましたら侍女等にお伝えください。では、失礼します。」
そう言ってレイモンドは、この場から立ち去っていった。その後、勇者様たちはそのまま訓練場で楽しそうに会話をしていた。
本当は話をしたかったのだが、私はその様子を見て静かに訓練場を出ていった。
訓練場を出て少しした後、金髪の可愛らしい勇者様がその場をウロウロしているのを見かけた。
「どうかされましたか?」
「あっいえ、訓練場の場所が分からなくなって...」
「それなら私がお連れしますよ。」
「えっ?あっ、ありがとうございます。」
「それでどうしてこちらに?」
「あの、私は【消費魔力半減】というスキルを持っていて、皆と同じ方法では魔力総量を調べるのに時間がかかると言われたんです。なので1人だけ特殊な道具を使って調べてました。それが終わって訓練場に行こうとしたら道に迷ってしまって.........」
「なるほど、しかしそのスキルはとても素晴らしいものですね。」
そうした話をしながら私は彼女を訓練場に連れていった。すると訓練場の入り口で先ほどの美しい黒髪の勇者様とはちあわせた。
「あら、橘さんと......王女様。」
「あ、神崎」
なぜか2人はしばらく無言でにらみ合っていた。私は大人しく2人の様子を見ていた。すると黒髪の彼女が私の方を向いてきた。
「王女様、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「身長が私と同じくらいの黒髪の男...勇者をお見かけしませんでした?上下紺の変わった格好をしている人です。」
「あぁ、いえどなたかは分かりましたが残念ながら見かけておりません。」
「いえ、ありがとうございました。彼はいつも私たちとは別行動なので気になっただけです。」
そういえば、謁見の時に私が頭を上げるきっかけを作ってくれた勇者様を訓練場で見かけなかったな。
「なぜ彼だけ別行動を?」
「彼は魔法が使えないので」
ドォォォォォォォン!!
私が黒髪の彼女のその言葉を聞いた瞬間、訓練場で大きな音が響いた。
私はその方向を見た。すると土煙の中から紅い目をした男がこちらに歩いてきた。私はその男を見た瞬間叫んだ。
「勇者の皆様!すぐに下がってください!」
私は勇者様たちの前に立った。そして私の護衛の騎士たちがその男に向かっていった。だが次の瞬間、騎士たちの身に何が起こったのか分からないまま、彼らは体から血を流して倒れていった。
その様子に勇者様たちは悲鳴をあげ、訓練場の入り口の方に下がっていった。だが、男が彼らの逃げ道に魔法を放ちながら、彼らを訓練場の隅の方に誘導した。
「私の目的はあなたたち勇者なんですよ。勝手に動かれては困ります。次逃げようとしたらもったいないですが殺します。」
男はそう言い、近くの死んでいる騎士を彼らに向かって投げた。再び悲鳴が上がった。そして私は男に向かって言った。
「何が目的なんですか!」
「今言ったとおりですよ。目的は勇者です。彼らを連れて行きます。」
「そんなこと......絶対にさせません!」
「あなたに何ができるというのですか?エリス王女。我々に対抗するため勇者を召喚するような弱いあなたに。」
「私は命に代えても勇者様をお守りします。あなたたち魔族に我々は負けません。」
私は自分を鼓舞するようなことを言っていないと、この場に立っていられる自信がなかった。
「強がっていても無駄ですよ。召喚されたばかりの勇者は弱い。だから今のうちに回収しておく必要があります。それに勇者召喚をおこなった後のあなたはもうなんの価値もないのですよ。気づかなかったのですか?我々が望んでいたのはこの国とあなたの死ではないのです。勇者なんですよ。」
私はそこで気がついた。魔族が私やこの国を襲っていたのは、全て私に勇者を召喚させるためだったのだと。理由はわからないが魔族は勇者を必要としていると。私は騙されていたことに気づきショックで倒れようとした。
だが次の瞬間、男はすごい速さで迫ってきていつの間にか私の首を右手でしめ上げていた。
私は首をしめられながら、勇者様たちに心の中で何度も謝った。そして、私はもうここで死んでしまうのかと諦めていたその時だった。
気がつけば、私は上下紺色の変な格好をした小柄な勇者様に抱きかかえられ、頭を撫でられていた。
私は涙を浮かべお礼を言った。
「ぁぁ、勇者様、ありがとうございます。」




