どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
僕は仕事場につき、かずっさんの所へ足を運んだ。かずっさんは書類を手に見ては小刻みに足を揺らしている。
「すいません。あのなにか、、、」
「あー。。お前な、、」
かずっさんは“いなくなった”僕にため息をついては“お灸”を据えてきた。僕は手で頭を掻きながら「すいません」と謝りをいれた。かずっさんは「まー、わかるがな」と、“知っている”事をふまえて、“表面上”怒る仕草をしては、「後でこれ“よんどけー”」と、四つ折りにされた紙を渡してきた。僕はその紙を受け取り、かずっさんに頭を下げては自分の机に戻った。“紙”を鞄にしまっては仕事をする二人を見た。斜め前に座るよし乃は、真剣な眼差しで仕事をし、隣に座る近藤は“いつも通り”仕事をこなしている。あずみと、山下の姿はそこにはいない。
僕はパソコンを前に目を閉じて、鼻でゆっくりと呼吸をしては仕事をはじめた。
何も“変わらない”仕事場で、いつも通りの時間が過ぎていく。ここに“いる”“いない”は関係無しに時間は過ぎていく。ここ何週間かの起きうる出来事が“現実”として動いてる事に、“ウソ”のような錯覚に小さく鼻で笑った。
「何笑ってるんですかぁ?」
「えっ?笑ってた?」
「はい。笑ってましたよ」
「えっ?そうかな」
「はい」
よし乃は両肘を机の上に立てて、手で顔を支えては憂いな目をむけてきた。
「何?何かついてる?」
僕は顔に何かついてるのかと手で頬を触っては手のひらを見た。
「あはは、何もついてないですよぉ」
「えっ?」
よし乃は、僕の仕草に頬を緩めては笑い、ゆっくりと体を起こしては一つ息をはいた。
「あ、あの、今日“デート”行きません?」
「えっ?あ、今日?」
「はい。今日です」
座る椅子を横に体を前に近寄せては顔を近くに聞いてきた。僕は咄嗟に体を下げては「う、うん。大丈夫だよ」と声にした。
「。。。なら、」
よし乃は壁に掛かる時計を見ては席を立ち、僕の横に来ては手を掴み立たせてくる。僕は「えっ?ちょっと待って」と声にしては、焦る頭にパソコンのデータを保存しては電源を消した。
「ちょっと待ってって」
僕はよし乃に手を握られては、引っ張られるように仕事場を後にした。壁に掛かる時計の針は17:00を回っている。
手を握ったまま僕を連れ出すよし乃は、一人楽しそうに笑っては足を高くあげて歩いている。
「よし乃、、さん。。ちょっといいかな?」
「はい?なんですかぁ?」
「あ、あのさ、、」
仕事場から出ては、大通り沿いで手を繋いだまま僕は声をかけた。よし乃は僕の声に体を向けては足を止めた。
「あのさ、、、この前のことだけど、、よし乃の机に、、さ、、」
僕は“あの”嫌がらせのような事に“平気”なのかと心配していた。聞くに聞けなかった事によし乃はあっけらかんと顔をしては言葉を返してきた。
「あー。。あの事ですかぁ。。大丈夫ですよ。“いつもの”事ですから」
「えっ?」
「私って、“こんな”性格じゃないですかぁ、だから“やられちゃう”んですよねぇ」
「えっ?」
「まぁ、なんて言うんですかぁ。。。目に見えてこんな性格ですから、“目の敵”にされやすいんですよぉ」
「。。。」
「あとは、、、フフッ。ただ“敵”が多いんです」
よし乃は僕を見ては笑い、言葉を繋げてきた。僕はよし乃の言っている事がよくわからなかった。
「、、、大丈夫なの?よし乃は」
「大丈夫ですよ。。。それよりも行きますよぉ」
よし乃は手を握る力を強めては前に足を向けて歩きだした。僕はそんなよし乃にこれ以上何も言うことができなかった。これ以上“言えない”のならと、僕が出来る“行動”をしようと、よし乃を“引っ張る”ように歩きだした。よし乃はそんな僕を見ては一瞬驚いた顔をし、優しい笑みを浮かべては僕の横に、腕を付けてきた。
「あ、ここに入りませんか?」
よし乃は目についた店の中から一つの店を指差し、僕の腕に手を絡ませては中に入っていった。
「へい。らっしゃい。まいどー」
店内から威勢の良い声が聞こえてくる。よし乃はその声に応えるように「また来ちゃいましたぁ」と、マスターに笑みを浮かべては店内へと入っていった。
「“よし乃ちゃん”また来たのね」
「はい。また来ちゃいましたぁ」
カウンターの奥からママが出てきてはよし乃に声をかけてきた。
「えっ?よし乃、、もしかして“あれから”、、」
「はい。もう“常連”ですよぉ」
よし乃は一度、僕と“ご飯”をしにここに来たことがある。よし乃が気になっていた店。柏田の行き着けでもあるこの“店”に。
「あっ、マスター“いつもの”お願いしまーす」
「はいよー」
よし乃は馴れた感じでマスターに注文をしている。
「はい。よし乃ちゃん“いつもの”ね」
「あ、ありがとうございますぅママさん」
「ふふ。。。あ、そうそう、“あの人”とは話しできた?」
「えっ?。。。あ、はい。出来ました」
「なら、よかったわね。はいどうぞ」
ママはよし乃と笑顔で話をしては僕に聞いてきた。僕はその言葉に一瞬考えては笑みを作り返事を返した。
よし乃は僕とママとのやり取りを見ては“何か”をわかったように頬を緩ませ、飲み物を手に「では」と乾杯するようにグラスを合わせてきた。僕は「そうだね」と頷いてはよし乃のグラスにコツンと当てては頬をあげた。
移り変わる時間に行き交う人達。立ち止まることの出来ない関係に目を奪われながら“いつもと同じ”時間を過ごしていく。永遠に続くのかと思う関係にも、感情という“思い”が、崩していくこともある。僕は、自分の感情にブレーキをかけながら、目の前のよし乃と話をしている。
僕らは2、3時間、ありふれた会話をしては店を後にした。
「はぁ。美味しかったぁ。。今日はありがとうございましたぁ。。楽しかったですぅ」
「そうだね。。。。あのさ、よし乃、、」
「。。。少し歩きませんかぁ?」
「う、うん、、」
よし乃は僕の言葉を塞ぐように声をだし、体の後ろでバッグを持っては笑みを作りながら小石を蹴飛ばすように歩きだした。
行き交う人達を交わしながら、よし乃は迷うことなくある場所に向かって歩きだした。
「今日はありがとうございました。。。“デート”楽しかったです」
「えっ?。。」
よし乃は“めがね様”の前で立ち止まり、僕の顔を見ては頭を下げてきた。
「ここ覚えていますか?初めて“待ち合わせ”した場所です」
「うん、、」
「あの時私は、すっごく緊張してたんですよぉ」
「。。。」
「“好きな人”とご飯に行けるって。。。。けど、、、」
よし乃はめがね様の横に設置してあるベンチに腰をおろし、バッグを膝の上に置いては、空を見上げて言葉にした。
「でも、、あの時から“こうなること”になってたんでしょうねぇ」
よし乃は空を見上げる顔をおろしては下をむき、ゆっくりと一呼吸置いては僕の顔を見て言ってきた。
「あなたのこと、好きになって良かったです。あなたが私の“思ってる”人でよかったです。。。けど、、、」
「。。。」
「あなたの側にいるのは、“私”じゃないんですよねぇ。。。悔しいですけど、、、」
「えっ、、でも、昨日、、、」
「。。。。」
よし乃は両足を揃えては立ち上がり、目に涙を溜めて笑顔に見上げてきた。
「あの、、お願い聞いてもらえますか?」
「。。。えっ?」
「黙って両手を広げてもらえませんか?」
よし乃は両腕を前に開いては、お願いしてきた。僕はよし乃の“お願い”に迷いを持っては「うん。わかった」と頷いて両腕を広げた。
「あ、あの、もう一ついいですか?」
「えっ?何?」
「あの、、恥ずかしいので目を閉じてもらってもいいですか?」
恥ずかしそうに笑うよし乃を見ては、僕も恥ずかしくなる。
「うん。わかった。これでいい?」
僕は目を閉じて両腕を広げてはよし乃に聞いた。よし乃は「はい」と声をだした。
「。。。。。よし乃?」
「。。。。ありがとうございました」
「。。。!?」
よし乃は“思い”を言葉にしては、僕の胸に両手を添えて唇にキスをしてきた。僕は思いもよらない行動に声にもならず目を開いた。よし乃は、泣くのを我慢するようにそのまま振り返り走り去ろうと背中を向けていた。
「よ、、よし乃っ」
僕は走り去ろうとするよし乃を見ては咄嗟に声をだした。よし乃はその声に足を止めては立ち止まった。
「よし乃。。。僕は、、よし乃のこと、、、」
「言わないで、、、もうそれ以上言わないで、、、」
「でも、、、僕は、、」
僕はなんて“言えば”いいのかわからなかった。けど、よし乃に“何か”を伝えたかった。
「。。。あなたは、、、なんですよね。。」
よし乃は言葉に詰まる僕よりも先に伝えてきた。
「私は、あなたの事を見てました。。ずっと、、、けど、あなたの目には“あずみ”さんがいました。。。悔しいですけど私は、、、あずみさんには敵いません。。」
「よし、、乃。。」
「あなたは、優し“すぎる”んです。優しすぎるから、私みたいに“好き”になってしまう人がいるんです。」
「。。。」
「けど、覚えておいてください。あなたの優しさは“辛すぎる”んです。相手には“強すぎる”んです。優しいのは、あなたの“魅力”です。。。けど、、、」
「。。。」
「こういう時は、“ふる”事が“優しさ”になるんです。。。私はあなたの事が、好きでした。だから、この“思い”を“思い出”にさせて下さい。。」
「。。でも」
「言ってください。あなたの言葉で私を“ふって”下さい」
「。。。よし乃、、ゴメン。。よし乃の気持ちは嬉しかった。。けど、僕には“思う”人ができた。その人を思う気持ちは“隠したく”ない、、、でも、よし乃のことも、、、」
「。。。フフッ。。あなたらしい“ふりかた”ですね。そんなんじゃ、言われた方は“わかりません”よ。。。でも、、、それが、“あなた”ですもんねぇ」
「。。。ゴメン」
よし乃は振り向き僕の方を見ては言ってきた。
「あなたを“好き”でよかったです。。ありがとうございました。私の“思い”は繋がることはなかったですけど、、諦めないで下さい。“隠さない”で下さい。フラれた女の言い訳ですけど、、、私を“ふった”んですから、“ハッキリ”とさせて下さいね。。。それと、、優柔不断な事をしていると、女は“逃げちゃいます”からね?。。。。」
よし乃はそう伝えると、頬に涙を流しては笑顔をつくり走り去っていった。僕は走り去るよし乃を見ては“情けない”自分に唇を噛んだ。
“好き”と思える人がいる。“好き”と言ってもらえる人がいる。けど、“好き”という感情だけが、相手を思う事ではない。相手の事を受け入れては、優しさという“矛盾”を見なければならない。
僕はめがね様の横のベンチに座っては空を見上げた。
好きって思いは誰にでもある。けど、好きという事が全てではない。出会う時間に関係に。繋がる思いに交差する思い。誰かを思えば誰かが失う。矛盾と同一が、波をたてずに心を支配していく。けど、支え合う思いに強さも弱さもない。誰が誰を思うのか。そして、どう“繋がる”のか。そこには一人一人の“願い”という思いが、込められているのかもしれない。
僕はゆっくりと深呼吸をしては、携帯を取り出した。
「。。。。。」
携帯画面を開いては電話をかけた。
「はい。どうしたの?」
「あ、もしもし、あずみ?今大丈夫?」
「。。うん。大丈夫だけど、、、」
「あのさ、、、今柏田と一緒?」
「けんちゃん?一緒じゃないけど」
「。。そっか。。。」
「何?どうしたの?」
僕は“伝えたい”思いを口に出せずに目を閉じては眉間に皺をよせた。
「もしもし?聞こえてる?」
「。。。うん、聞こえてるよ」
「あのね、、、私“彼”と別れられたの。。」
「。。。うん」
「けんちゃんが父に話してくれたんだって。。」
あずみから聞く柏田の話は僕の心を突き刺してくる。
「それでね、、、」
「あ、あずみ、、あのさ、、」
「うん?なに?」
「柏田の事なんだけどさ、、、」
「うん」
「あのさ、どう“思ってる”の?」
昨日の今日であずみも混乱しているに違いない。けど、僕は聞いてみた。それは僕にとって“保険”のような醜い“感情”だった。
「けんちゃん?。。。」
「うん。。。」
「“好き”よ」
「。。。そっか」
「でも、、、異性とかそんなのじゃなくて、昔からそうなんだけど、“お兄ちゃん”として“好き”なんだ。。。。でも、本当に“お兄ちゃん”だったけどね、、、」
あずみは柏田に対する思いを口にした。僕は柏田に対して、出会ってから羨ましくもあり憧れもいだきつつあった。
「。。お兄ちゃん、、か」
「うん。“お兄ちゃん”」
僕は勇気を持ってあずみに言った。
「あずみ、、」
「うん?なぁに?」
「あず、、、ううん。。今度さ、今度また“あの”湖に行かない?」
「えっ?どうしたの?」
「うん。嫌ならいいんだけど、、“一緒”に行かないかなぁってさ」
「。。うん。良いよ行こ」
「えっ?本当?。。。約束だよ」
「うん。行こうね。“みんな”で」
「えっ?みん、、なで、、、」
「うん。けんちゃんとか、よしよしとか一緒にね。あ、あとみずきさんだっけ?あの人も一緒にさ。迷惑かけちゃったし、、、」
「う、、うん。そうだね、、“みんな”で行こう、、か」
僕はあずみと少し話をしては、電話を切った。
「。。。何で“言えない”かなぁ」
自分の不甲斐ない思いにため息をついては、言えない自分に呆れ果てた。
伝えたい思いに気づいて欲しい思い。けど、伝えなければ何も始まらない。知らなければ何も始まらない。どんな関係であろとも、どんな思いであろとも、言わなければ伝わらない。
僕は好きという思いを伝える事が出来るのだろうか。“今”を言えるのだろうか。相手を思えば言えなくなる。人との関係を考えれば“隠して”しまう。人を思う気持ちの違いはあるけれど、同じ思いを持っている。伝えなければ始まらない。
あずみは僕の気持ちは知っている。けど、その時とは状況も時間も違う。僕は、“今”のあずみに伝える事が出来るのだろうか。僕は、携帯を握りしめてはめがね様を後にした。
時間や関係が変わろうとも相手を“思う”気持ちは変わらない。嘘や偽りを繰り返しても、“今”の思いを伝えるために。そして、全てを言えたのなら僕は“思う人”と“あの鐘”を鳴らしに行く。
僕の恋は、まだ始まったばかり。どうやらあの映画のようには終わらないらしい。
「あー、、、、、大好きだぁー」
ーー終わりーー




