で、あるからして
僕とよし乃は、みずきの車で先にその場を離れた。あの後、柏田とあずみがどんな話をしていたのかはわからない。けど、話せばわかることもある。それに支えることもできる。僕らは車の中で何も話さす一人一人“世界”に入るように家に帰っていった。
僕は翌朝、仕事場に向かっては屋上へと歩みをすすめ、フェンスに手をかけては一人朝の街を眺めていた。
自分の気持ちを伝えても伝わらない事がある。けど、失ってからわかることもある。僕は一人物思いに浸ってはくるまえに買ったコーヒーを飲み、仕事場へと戻って行った。
昨日の今日で、“いつも通り”にはいかないかもしれない僕らの関係
。僕は誰も来ていない机を見渡しては椅子に腰をおろした。
いつもと変わらない仕事の時間。ただ、僕の周りだけは“違って”いる。知る人達との関係や距離。わだかまりとも言える“しがらみ”。消しても消えない“事実”に背を向けることも出来はしない。何を求め、何をなくすのか。自分のことのようで自分のことではない。けど、自分にとっても“大切”なこと。失いたくない思いに、守りたい思い。柏田とあずみは、どうなっていくのか。僕は、どうしたいのか。よし乃の思いも柏田の思いも。
僕は携帯を机に置き、パソコンの電源を点けては書類に手をかざした。
「あー、ちょっといいか?」
「あっ、、はい」
僕の後ろから肩に手を置いて話かけてくる人がいる。僕は返事をしながら振り向き、声をかけるかずっさんに体を向けた。
「あー、なんだ。ちょっとな、、、」
かずっさんは歯切れの悪い口調で部屋の外を指差しては言ってきた。僕は軽く頷いては腰をあげ、かずっさんとともに仕事部屋を出ていった。
かずっさんは何も言わずに前を歩き、屋上へとつながる階段の下に来ては歩みを止めた。
「、、、柏田から何か“聞いてる”か?」
「。。。聞いてはいないですけど、、」
「、、、なら“知っているか”?」
「。。。。。」
かずっさんは、黙る僕の顔を見ては「そうか。。」と呟いては一枚の封筒を見せてきた。
「えっ?」
「柏田からな、、、前もって渡してきたんだよ」
「えっ。。」
「お前も知ってると思うが、柏田って男はな、、、、って、おいっ待て。。。」
僕はかずっさんの話を途中で遮り、一目散に柏田のいる部署へと走って行った。
「あ、あの、、、柏田います?」
僕は柏田の部署に行っては、近くに座る人に声をかけた。
「ん?。。。あー、柏田来てないぞ」
周りを見渡し声を返す人に頭をさげては、柏田に連絡をとろうと自分の机に走り戻った。誰もまだ来ていない机に向かい、携帯を掴み電話をかけながら部屋の外へと走って行った。
「柏田のヤツ。。。出ろよ」
何度もコールが鳴っては留守番電話に切り替わる。僕は何度も切ってはかけ直した。
「、、、おかけになった。。。」
「。。。くそっ」
携帯を握りしめては歯を食い縛り、何処にもぶつける事の出来ない思いに、拳で空を切った。
「なんなんだよ。。。いつもいつも、、なんなんだよ。。。」
振り回される状況にくすぶる感情。僕はどうすることも出来ないことに、壁に寄りかかってはため息をついた。
「お前な、、話は最後まで聞け」
「あ、、すいません。。」
壁に寄りかかる僕に、かずっさんが呆れるように話しかけてきた。
「さっきの話の続きだが、、、まぁ、話しても仕方ないな。ほれっこれな」
かずっさんはそう言っては胸ポケットから一枚の封筒を渡してきた。さっき見た封筒とは違う紙だった。
「えっ?、、、なんですかこれ?」
「ん?まぁなんだその。。。柏田からの、、てヤツだな」
「えっ?あ、、ありがとうございます」
「。。あとな、、っておい。。。まったく話も聞けんのか」
僕はかずっさんから渡された封筒を見てはそのまま仕事場を走り出ていった。かずっさんは、走り出す僕を見てはため息混じりに声を出して呆れるように笑みを作り見送っている。
ーー
「俺は、今回の事で“終わり”にしようと思っている。。俺が、、、俺は俺の過去に“囚われて”いたけど、全ては俺の“蒔いた種”だ。。それとよ、俺はもう、会わないことにする。俺がいたら“迷惑”がかかるからよ。。。ありがとな」
--
その封筒の中身は柏田からの手紙だった。この手紙をいつ書いたのか。いつ渡したのかわからないけど、僕はこのまま“別れ”をしたくなかった。
僕はかずっさんから渡された紙を握りしめては柏田の家まで走って行った。
「くそっ。何で“いなくなる”ヤツは、自分勝手に話してくんだよ。。僕の、、残される人間には“伝える”事さえできねーのかよ。。。」
柏田の自己勝手な言い分に腹を立てては、悲しむことさえ出来なかったジェシーとの別れを思い起こされては涙が出そうになった。
「お前がいなくなったらあずみは、、あずみは“元”に戻っちまうじゃねーか」
あずみは僕と柏田に出あってから“取り戻した”。青春期に押し殺していた感情を。
「こういう状況だからこそ、お前が“笑って”いてあげないとダメなんだろ。。。あずみが“笑える”ようになるまで、お前が“いて”やらないと、、」
人は自分の事でなくても、自分のせいにしてしまう。聞かなければ、知らなければ。自分にとって大切な人になればなるほど、自分を否定していく。それは相手を思うあまりに、相手を正当化させ、自分を否定していく。
僕は柏田の家の近くまで来ては足を止め、乱れる息をそのままに目の前に建つマンションを目にしては深く深呼吸をした。ゆっくりと目を閉じては唾を飲みみ「よし」と声を出してマンションに入って行った。
4階建ての真新しいマンションにはエレベーターはなく、階段での昇降だ。僕は震える足を叩いては柏田の家の前まで走っては扉の前に足を止めた。
「。。。柏田」
僕は家のドアノブに手をかけては鍵がかかってないことを確かめ、ゆっくりと左に回してはドアを開けた。家の中からは風が少し出てきては、すぐに無風になる。僕は開けるドアを止めては目をつむり、心を落ち着かせるように息をはいては、勢いよくドアを開けた。
「かしわ、、、だ」
家の中はもう何も残ってはいない。壁紙に棚が置いてあったと思う痕跡の影がついている。床にも至るところに置いてあっただろう思しき跡が残っている。
僕はその風景に膝から崩れ落ちては床に座り込んだ。
「なんでだよ。。。お前がいないと“ダメ”だろ。。。お前がいないと、あずみの中に“残って”しまうじゃねーか。。心の中の“相手”にどう勝てばいいんだよ。。。」
僕はがらんとした殺風景の部屋の中で独り言のように呟いた。
恋人でも家族でも知人だとしても、その人の中で大きな存在なら、尚の事勝負にならない。どうあがいてもその存在は残る。ましてやその人物を知る共通の関係なら余計に強くでてくる。
「柏田、、、お前な。。。」
「あ?俺がどうしたって?」
「。。そうお前が、、、って、柏田ー」
一人崩れるように座る僕の言葉に柏田はドアの柱に左肘をかけては寄りかかり声をかけてきた。
僕は腰をつけたまま振り返り、腰を回転させては体を捻るように柏田を見た。
「よう。どうした?」
「どうした?じゃないよ。。なんなんだよ“これ”は?」
僕は握りしめる手紙を振りかざしては柏田に見せるように突きつけた。柏田は「あぁ」と鼻で笑っては部屋の中へと入ってきた。
膝で座る僕の手から手紙を掴みとっては中身を読み、柏田自身、自分に呆れるように笑っては話をしてきた。
「何でお前が持ってんだよ?」
「え、、かずっさんから、、、」
「、、、あの“タヌキ”か、、」
柏田は読む手紙を僕に返してはカーテンの外された窓に歩みを寄せた。
「それは別に意味ねーよ。」
「どうゆうことだよ?」
「あ?それはよぉ、、ファックスが届いたとか騒いだ時あっただろ?そん時に、書いたヤツだよ。あの“タヌキ”に言われてよ」
「えっ?」
柏田が言うには、あの“件”について、かずっさんに“書かされた”モノらしい。それはかずっさんが“保険”として書かせた手紙であり、柏田の言葉ではない。
「俺が“やった”事をあの“タヌキ”が、気づいてよ。全部話したんだ。それで“何かあった”時のためだって、言ってきやがった。。。ってなに書き直してんだよ、、、」
「。。。なんだよ。それならそうと、、、」
僕は柏田の話に、心配した気持ちに笑うようにため息をつき、柏田はかずっさんを思い浮かべては舌打ちをした。
「お前何笑ってんだよ?」
「笑ってないよ」
「笑ってんだろうが。。。まぁ、それよりもよ、さっきから何一人グチグチ呟いてんだ?」
柏田は窓を背中に僕を見ては聞いてきた。僕はその言葉を聞いては手に掴む手紙を目にし呆れるように鼻で笑い、見る柏田に言葉を投げた。
「柏田、お前辞めるのか?」
柏田は僕の声に「あぁ」と返しては首を縦に振った。
「。。じぁ、居なくなるのか?」
僕は“聞きたい”事を聞いた。裏別荘の帰りに感じたあの“寂しさ”のような思いを。柏田はもう一度窓の外を眺めるように体を回転させては口を開いた。
「始めはそう思ってたけどよ。昨日“終わって”から、、話してから違ーかなって思ってよ」
「な、なら」
「けどよ、、、会社にはいられねーだろ。」
「なんで?なんでだよ?」
「なんでって、まぁ始めからやりたくて入ったわけじゃねーし、それなりには“楽しく”やってたけどよ、けど、それも、もういいなってな」
「。。。あずみが“いる”からか?」
「あ?あずみは関係ねーだろ?」
「じゃぁなんでだよ?あずみは関係ないなら“辞め”なくてもいいじゃないか」
自分自身、なんで柏田にここまで“こだわる”のかわからなかった。けど、“居なくなる”事が、寂しく突き刺さる感じがした。
「あ?。。俺がいねー方がお前には“良いこと”なんじゃね?」
「なんだよそれ。。。」
「俺がいねーぶん、“いける”じゃねーか」
僕はその言葉に抑えきれない感情が溢れ出てきた。
「お前な、それ本気で言ってるのか?それを本気で話してるのか?」
「あ?なんだなんだ?何熱くなって、、、」
「僕は、、、僕は“嫌”なんだよ。居ても良いのに、自分勝手に“いなくなる”ことが。」
「あ?何言ってんだお前」
「。。。柏田、お前あずみのこと好きだった。そうだよな?」
「あぁ。。。」
「お前は、見たくないだけだろ?あずみと“仲良く”なるヤツを。そうなんだろ?」
「。。。」
「そうなんだろ?やっぱり。だから“辞める”って言うんだろ?そうしか考えられないよ」
「テメーな。言いてーことはそれだけか?。。テメーに何がわかんだよ」
「。。僕にはわかるわけないよ。。むしろわかりたくもないよ、もう。。。」
僕には理解したくないことがある。“居なくなる”こと。どんな思いがあっても、どんな上京中であっても、相手を思うのなら“伝え”なければ、残ってしまう。時間が“和らげて”くれるかも知れないけど、心に残る“思い”が、消えることはない。
「お前があずみと、、あの父親との関係に“終わり”だって言うんなら、もう“過去”のことだろ?それなら、、」
僕は自分自身の言葉に“気づいて”しまった。僕自身が“過去”に囚われていること。過去に“縛られて”いること。失う怖さを寂しさを味わいたくないから、味わって欲しくないからここまで“こだわる”んだと。
人は悲しみを乗り越えて新たな“コト”に進んでいく。それは“忘れる”ように悲しみの上に重ねて消していく。けれど、重ねて消したとしても、また甦ってくる。それは、自分の意思とは裏腹に。
「僕は、、好きだった人とはもう“会えない”。。言いたくても言えない。見たくても見れない。。けどお前は、、お前は会えるだろ。。見れるだろ。。お前が“居なくなる”だけで、あずみが“笑える”と思ってんのか?。。。お前には好きだったあずみと会うのは辛いかもしれないけど、、、」
僕は柏田に伝えながら涙をこぼした。それは抑えていた悲しむ時間を。。。
「けんちゃん。昨日のコトなんだけど、、、って、あれ?どうしたの?」
玄関の扉から、あずみの声が聞こえてきた。あずみは僕の姿を見ては手で口を抑え目を見開いた。
「えっ?、、あず、、み。。。なんで?」
「っち。。あーなんだ、お前が喋り“まくる”から、言いそびれちまったんだけどよ、、“会わない”ってことは、あれは“ウソ”だ。」
「、、、、はぁ?」
「まぁよ、俺だって考えたんだけどな。。。まぁ、仕事は辞めっけど、まだまだ“消えねー”よ」
「。。。。。」
「なになに?なんの話?」
「あ?なんでもねーよ。。。それよりも“行くぞ”」
あずみは僕と柏田の話に聞き耳をたてては、外に出ても聞いてきた。僕は「別に何も」と隠すように答えては柏田を見て笑った。あずみは「何よ、もう」と言っては頬を膨らませている。
「あ、それとよお前も“ハッキリ”させろよ。」
「。。。。」
あずみはキョトンとした目をしては柏田に「何なの?」と聞いてはまた、僕と柏田を交互に見渡した。僕と柏田は二人にしかわからない“笑み”を作っては、駐車場に止まる車に乗り込んでいった。
柏田とあずみがどんな話をして、どう受け止めたのかはわからない。けど、二人を見ていると何となく“わかった”。知られざる過去を互いに補うように、互いを受け入れては支えていくんだと。それは知人とも恋人とも言えない、家族のような、それ以上の関係に思えた。失う怖さに、崩される感情。けど、互いに疑問を抱きなから隠し、見せながら受け入れる。互いが寄り添わなければ支えることも出来ない。柏田とあずみは“現実”をどう支え見せていくのか。
“今”の僕にわかることは一つ。あずみと“いる”ためには、柏田と言う“難問”を迎い入れないといけないとゆうことだ。
僕は車の中で一人悩ましい問題を作り上げては首を横に振っている。
「チャチャチャッチャッチャー」
携帯電話が鳴り響き、一瞬にして車の空気が変わった。僕は柏田とあずみに「ゴメン」と言っては携帯を耳にした。
「あ、もしもし、よし乃です。何処にいるんですか?柁原リーダーが探してますよぉ」
「えっ?あっうん。。わかった。ゴメン」
よし乃からの電話に、手をおでこにつけては肩をすくめた。
「柏田ゴメン。仕事場まで行ってくれないか?」
「あ?。。お前まさか、“また”黙って出てきたのか?」
「いや、、その、、」
「もう。。前にも言ったじゃない。もう“危ない”から“気を付けなよ”って」
「う、、うん」
あずみと柏田に“説教”を食らっては、仕事場まで送ってもらった。
「じゃ、また後で連絡するわ」
「では、また後でね」
柏田とあずみは僕に手を振っては走り去って行った。昨日の今日で“変わる”こともできないけど、過去の“思い”が強ければ“関係”は崩れない。けど、それは“良い方”にも“悪い方”にも転がる。僕はそんな二人の関係を思えば少し複雑な気がした。
「あっ、何やってるんですかぁ?早く来てくださいよぉ」
「う、うん。ゴメン。今行くよ」
仕事場の入口でよし乃が手をあげなが呼びに来ていた。僕は、謝りながらよし乃と一緒に仕事部屋まで走って行った。その数メートルの距離の間に、よし乃からも“色々”と言われた。




