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どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい

僕は柏田からの連絡に待ち合わせ場所まで歩いて行った。連絡をとれなくなってから何日も経ったわけでもない。けど、連絡がとれなくなってから“いくつか”の事がわかり始めた。それが“確実”なものなのか、そうでないものなのか、“動いている”柏田に聞いてもらいたかった。そして“聞きたかった”。


呼び出された駅前に着き、柏田の車がないか辺りを見渡した。


「。。。呼び出しといて、また来ないとかないよな、、、」


柏田の車が見当たらないことにヤキモキとする心を隠しては、右へ左へと顔を動かした。入れ違うタクシーに、乗降するバス。手をあげては道路を渡る人達を目に重心を置く足をカタカタと揺らし、音を出しては靴を踏み鳴らした。


「うぁっ、、、?!」

「おー。待ったか?わりー」


後ろから声と同時に僕の肩をつかんでは、振り向かせるように引き寄せる柏田がいた。僕は思いもよらない“登場”に声を荒らげて振り返った。よろめく足に体が倒れそうになる。


「わりーわりー んじゃ行くか」

「。。。。」


柏田は悪気も見せず“いつも通り”の放縦な振る舞いに、僕は“何も”言うことができず、肩をすくめては呆れるようにため息をついた。


「柏田、今日車じゃないのか?」

「。。。あー、、ちょっとな、、、」

「。。。それじゃ、今まで何してたんだ?」

「。。。。。」


柏田は、一言二言言葉を返しては口を閉じた。僕は「どうしたんだ?」と眉間を上に皺を寄せては柏田の横に並び、覗き込むように顔を見ては黙って歩いていった。


駅前から少し離れた路地の一画にある小さな店に足を止めては店に入っていく。入口のシャッターが半分開かれ、中には雨避けのカーテンが無造作に置かれている。店名の書かれた看板の文字は薄剥がれ読み取れそうにもなかった。店内には誰もいなく、誰の店なのか何の店なのかわからない。柏田は“当たり前”のように入っていく。


「あー、ちっとそこに座っててくれ」

「。。。あー」


途中まで開くシャッターの隙間から漏れる光で店内はうっすらと見えている。柏田は二、三人掛け用のソファーを指差しては店奥へと入っていった。僕は言われたソファーに近づいては、柏田がくるまで店内を見渡した。うっすらと見える店内のテーブルには傘のついたランプが置かれ、壁には古めかしい絵が飾られている。照明の無い暗さのせいか、それらのせいかわからないが店内は異様な雰囲気を醸し出していた。僕はブルッと寒気を感じては体を震わせ縮こませていた。


「なんなんだ、、この店。。。」


普通の店とも思えない様子に心が不安にもなってくる。あまり立ち寄ろうとは思わない店に、なぜ柏田が。。。


薄暗い店内に不気味な空気を感じながらソファーに一人座っていると目の前がいきなり明るくなった。


「わりーな。今電気つけたからよ。あとこれな」


柏田は電気をつけては、奥から戻ってきた。両手にカップを持ってはテーブルに置き、僕の向かい側にある椅子に腰をおろした。僕は平静を装うように「ああ」と頷いては両手でカップを自分の前に寄せた。僕の手は少し震えていた。柏田は何も言わずに持ってきたカップを口に、一口飲んでは話を切り出した。


「わりーな、ここコーヒーかコーラしか置いてねーんだ。あとは、酒しかねーからよ」


そう言ってはカップをテーブルに置き、ゆっくりと息をはいてはまた何かを取りに奥へと歩いて行った。


僕は何がなんだかわからずに、柏田に言われるがままソファーに座ってはコーヒーを飲んだ。


「。。。うまっ」


思いのほか、美味しいコーヒーにそれまでの怖さが吹き飛んでいった。それはまるで、森林浴をしながら楽しむ香りを味わっているようなコーヒーだ。僕はコーヒーの匂いを感じては目をつぶり、美味しさに“悦”に入りそうだった。


「うまいだろ?それ。。」

「あー。美味しい。。何の豆使ってんの?」

「あはは、、、、それはあとでだ。。。」


柏田が奥から戻ってきてはコーヒーに夢中になる僕を見ては笑みをみせ、一つの封筒を手に持っては投げるようにテーブルの上に落とした。


「。。。え?なにこれ?」

「あー、、、とりあえずな」


柏田は顎をしゃくらせては「見ろよ」と示し腰をおろした。足を組みカップに手をかけてはコーヒーを飲み、僕を見ている。僕は置かれる封筒の空け口を開いては中に入っている書類らしきものを取り出した。


「。。。なんだよこれ?」


そこには柏田が調べあげたであろう資料とあの写真が入っていた。僕はその写真を見ては柏田の顔を見た。


「あ?なんだ?」


柏田は写真を手に持つ僕を見ては嘲笑うかのように言葉をだしては顔を揺らしカップを置いた。僕は何枚にもなる資料なるものを見ては驚いていた。


柏田は組む足を戻しテーブルの前に体を向け、見透かしたような目をしては誘導するかのように話かけてくる。


「お前も見たよな、その写真はよ。そう。加工してある。そして同じのがある。なら、、、“加工前”は?って思ってるよな?」


柏田はゆっくりと的確に僕の心理を読んでくる。“隠す”ことはないのだが、やはり柏田には“隠し通す”ことは出来ないだろうと、僕は改めて感じた。柏田は僕の顔を見ては“だよな”とわかりきっているような視線を見せては、手に掴む写真をとっては話を続けた。


「お前はこの写真を見て、考えたよな?加工してあるってことは“元”があるってよ。そして“誰か”の仕業だとな、、、」


柏田は事も簡単に僕の心を当ててくる。僕は柏田に“聞きたい”ことを伝えるべく、ゆっくり目を閉じては息をはいた。


「かしわ、、、」

「んじゃよ?誰かが“撮った”となるとソイツが“やった”のか?。。。違うな、、」

「え、、、」


柏田は椅子から腰をあげては、僕が座るソファーの肘掛けに寄りかかるように手をついては僕の顔を見下ろした。


「お前も考えたんだろ?“誰か”がいるって、、、」

「ああ、、だけどわかんないんだよ。。。どう“考えたって”わかんないんだよ。。。」


僕は柏田の顔を見ては髪を掻き乱すように左手で触っては、両手をテーブルの上について言葉を投げた。


「だってさ、仮にあずみに“何か”するにしても柏田にするにしても、“あそこ”までする必要ってあるのか?あったとしても送りつける必要ってあるのか?」


自分のことでもないことに、徐々に知り得る情報。そして、わかりいく“結果”。自分自身、ここまで“他人”のために“悩んだ”ことはあまりなかった。あずみにしても柏田にしても、知りあってから数える年数もたってない。今まで自分のことで精一杯だったのに、関わることでどんどんと深くなっていく。交わる思いに繋がる時間。僕にはもう、切っては切れない関係になってしまったのだろう。


僕は柏田に“知り得る”情報を話し出した。


「。。。昨日さ、“近藤”から写真のことを聞いた。近藤が“撮った”って。だけど、“誰か”に“脅されてる”感じだった。」

「。。。。」

「。。あ、あと、、山下。“あいつ”何か“企んでる”んだよ。。。前に“お前”から呼び出された時、あいつ階段で“誰か”と話してたんだよ。。。それに、、、」


柏田に伝えながら、“あずみとの話”をするのを躊躇った。隠してもバレることは百も承知だ。けど言うのが“怖かった”。。


口の止まる僕を見ては柏田が聞いてきた。


「近藤か。。。山下、、、山下は何を話してたんだ?」

「。。。わからない。けど、“何か”を確認してるみたいだった。。。後、あいつ僕に会うのは“三度目”だって、、、」


僕は柏田を見てはテーブルに目を移し、一度目をつぶっては口を一文字に唾を飲み込んでは息をはいた。柏田は「そうか」と頷きながら顎を触り、立ち上がってはソファーから椅子に移動した。


「。。。山下か、、、」


柏田はそう言いながらテーブルの上に散らかる書類を寄せては、その中の一枚を上にして僕に見せるようにテーブルに置いた。


「その山下のことだけどな」


言葉とともに指で書類を差しては、膝の上に肘を置き、前屈みになっては僕を見めきた。


「俺がお前を“屋上”に呼び出した時、山下があるビルに入っていくのを見たんだ」

「ある、、ビル。。」

「あー、、不思議に思って山下についていったんだよ。したらよ、、、」


僕は柏田の言う“ビル”の言葉に“あの”ビルが浮かんだ。


「そこはよ、事務所だったんだよ」

「、、、事務所?」

「ああ、事務所だ」


僕の知るビルとは違かった。山下とぶつかったビルのことではないのかと、自分の浅はかな予想に少し恥ずかしくもなった。


「それで、その事務所がなんだったんだ?それと柏田が“来なかった”ことに、どう繋がんだよ?」

「あ?そうだよな。。俺はそのあと“その”事務所のことを調べてたんだよ。したらよ、、、」


柏田は視線を動かし書類を見つめた。僕はその視線に、書類を手に読み始めた。


「。。。。なんだよこれ、、、」


僕はよくわからない“資料”に何度も読み返しては「“あのビル”じゃないのか?」と外れる予想に疑っては資料に目を通した。柏田は僕を見ては椅子からソファーに移動し、足を組み両手を広げては背もたれに寄りかかるように座った。


「お前、さっき山下とは三度目って言ったよな?」

「。。うん」

「実は俺も会ったことあんだよ」

「えっ?柏田お前“知らない”って言ってなかった?」

「ああ、、けど俺も気づくのに時間がかかったんだよ、、あの時の“あいつ”が、、、だったってことによ。。」


柏田は背もたれにつける体を離しては前屈みに、膝に肘をつけては話を続けた。


「前によ、あずみの“旦那”と会ったって言った時あったよな?」

「。。。あぁ」

「あの時よ、“あいつ”に会う前に山下に会ってんだよ。。」

「。。。。は?」

「あずみと歩いてる時によ、いきなり山下が現れてあずみを“連れて行こう”としやがってよ、それで街中で“喧嘩”しちまったんだ」

「はあ?」


僕はその話に“前に見た”喧嘩を思い出した。一人で街中を歩いていた時に見たあの“喧嘩”を。


「あの時の“あいつ”が山下だったとはよ。。。全然わからなかった。。。髪型も何もかも変えやがってよ、、、」


柏田は右手で拳を作り左手に打ち付けるように手を叩いた。僕は「それじゃ、僕はいつ会ったんだ?」と顔を歪ませては両手を合わせ指をトントンと重ね合わせた。


「でよ、話戻すけど。。。あの“写真”がよ」

「。。、あぁ」

「“お前”にだけは言っとくわ。。あの写真“広めた”のって俺なんだ。。」

「。。。あぁ知ってるよ。あずみにもそう言ったんだよな。かずっさんも言ってたし、、、」

「ちげーよ。そうじゃねーよ。俺が言ってんのは“騒ぎ”にしたのは“俺”だって言ってんだよ」

「。。。。はあ?だから、それは知ってるって」


僕は柏田の言葉に少し語尾を強めて聞き返した。柏田は「よーく聞けよ」と熱くなる僕を落ち着かせるように手で制止しては言葉をゆっくりと聞かせてきた。


「あのファックスをやったのは“俺”なんだよ」

「。。。。」


よりによって“やられた”本人が“やった”側だとは思いもよらなかった。柏田は、驚く僕を見ては淡々と話を続けていく。


僕は柏田の話す言葉に正直“怒り”にも似た思いが沸きあがってくる。けどそれには“理由”があるはずだ。その理由を知ればわかり得ることだ。。。と、自分に言い聞かせながら、淡々と話す柏田に耳をかたむけた。


「あずみが相談してきてきてよ。話を聞いてたんだ。けどよ、上手くいかねーってよ。それでファックスを“見つけて”それで思いついたんだよ。“あいつら”にわからせるためにってな」

「。。。わからせるためってなんだよ」


腑に落ちない言葉に聞き返しては、「別れさせるためにか?」と聞き間違ったのかと思い直した。


「なんでそんなに別れようとしてんだろ、、、」

「あ?してーからするんじゃねーの?俺にはわかんねーけど、、ただわかってんのは“別れたい”ってのと“別れてくれない”。そして、あいつの顔が“泣いていた”ってだけだ」

「僕が言うのもなんだけど“好き”で結婚したんじゃ、、、、ないな」


僕は自分の言葉に自分で納得した。あずみの結婚はあずみの“意志”では無いことを思い出した。親に“言われて”したことを。


「まぁよ、結婚するのにテメーの意志も何もねーなら“別れ”たくもなんだろーよ」

「。。。。」


下を見る僕を見ては柏田は鼻で息をはいた。


「んでだ。わからせる、、、ちげーか。知らせるためにだな。別れたいってことを“山下”に知らせるためにだ」

「山下に?なんで?」


頭がこんがらがってきては、理解するのに苦労する。柏田が話をすればするほどどんどんと深みにはまっていく感覚に目が回りそうだった。

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