どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
休憩所から仕事部屋まで戻り、そのままかずっさんの席へと歩みを寄せた。
「遅れてすみません。何か話があるとかで、、、」
僕は机の前に立ち書類に目を通すかずっさんに声をかけた。かずっさんは視線を動かし、僕の顔を見ては手に持つ書類を机の上に捨てるように置いた。右手で“近くに来い”と手招きをしては顎で隣を示している。僕は「はい」と返事をしてはかずっさんの真横まで行き、しゃがむように屈んでは顔を近づけた。
「あー、なんだ。お前、柏田と連絡とってるのか?」
「え?いや、“今”はとれてないですけど、何かあったんですか?」
「いや、そのなんだ、、柏田から何か聞いてないか?」
「いえ、何も」
「そうか、、、それならいいんだが、、、」
「。。。柏田が何か“やらかした”んですか?」
「そうではないんだが、、、まあ、そのなんだ、、知らないのなら、、、まあそれでいいんだがな。。。ま、話はそれだけだ。。。うん、仕事に戻ってくれ」
かずっさんはそう言うと、右手で「行った行った」とヒラヒラさせては、また書類を手に目を通しはじめた。
「。。。わかりました」
僕は頭をさげては、納得いかない話に目を細めては口をすぼませ、下手な考えを膨らませては自分の席へと戻って行った。
席へ戻るとあずみ達がいつもと同じ雰囲気で仕事をしている。けど、そこには“よし乃”の姿はない。僕はよし乃の席を目にしては視線をおとし、椅子に手をかけては腰をおろした。
「大丈夫?」
あずみが僕の姿を横目に声をかけてきた。
「。。。うん、大丈夫、、、さっきはごめんね」
「。。。何が?」
「その、、“疑う”ようなことしちゃって、、、」
「。。。いいよ、仕方ないでしょ?」
「。。。ごめん」
僕は仕事をしながら話すあずみに謝った。あずみは「気にしないで」と気を使っては仕事をしている。僕は気まずい思いに申し訳なさが溢れてきていた。僕はモヤモヤとする思いを打ち消すかのようにあずみに話をふった。
「あっそうだ、、あずみの名字って“木ノ下”だったよね?」
「うん。そうだけど、いきなりどうしたの?」
「。。いや、なにね、駅近くの」
朝見た“会社”を思い出しては、あずみの名字と同じだと幼稚な発想をしては、もしかしてと聞いてみたくなった。僕は言う前から少し可笑しくもにやけてしまった。
「何?どうしたの?」
「いやね、駅近くに證券会、、」
「あ、“あずみ”さん。これ、、、」
僕が会社名を発すると同時に、前に座る山下があずみに声をかけては茶色い封筒を渡そうと腕を伸ばしてきた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「あっス」
「。。。あっそうだ山下 お前なんで“あそこ”に居たんだよ?」
渡す書類に手をつけるあずみを見ては、“朝”の山下の行動を思い出した。僕は突っ込むように声をあらげては山下に問いかけた。あずみはその声に驚き、問いかける僕に聞いてきた。
「いったいどうしたの?」
「いやね、朝、よし、、、。“買い出し”に行った時“コイツ”とぶつかったんだよ」
「その事っスかぁ?いやいや、あれはぶつかってないっスよ」
「いや、ぶつかったね。むしろ“邪魔”してきたね」
「してないっスよ、ひどいっスね 」
僕と山下はどっちがぶつかってきたのかを言い争うようにお互いをさしては声をあらげ、どんどんと大きく声をだしていった。
「静かにしろー」
言い争う声に部屋の奥からかずっさんの声が響き渡った。一瞬にして部屋全体が静まり返り、仕事をする人達の手が止まった。僕と山下はその声に言葉を止め、かずっさんの方を向いては「すいません」と頭をさげた。
「お前がでかい声出すからだろ」
「うゎっ、最悪っス どっちかってっとそっちじゃないっスかぁ」
「いやいや、お前だろ」
「自分じゃないっスよ 」
僕と山下は当初の話とは違うことに、指を差してはまた言い争いをはじめた。あずみは二人を見ては「クスッ」と、口を抑えては笑いをこらえるように体を震わせている。
「こほん、、ところで、、」
あずみは溢れる笑いをこらえては「聞きたいことって?」と顔を斜めに僕に向けては聞いてきた。少し頬が揺れている。
「うん?あっ、、、そうそう、あの駅近くの」
「あーあずみくん、ちょっといいかな?」
椅子を横にあずみに聞こうと体を向けたら、かずっさんの声が聞こえてきた。あずみはかずっさんに返事を返しては、顔の前で両手を合わせ僕に「ごめんね」と舌をだしては席をたった。僕は歩き出すあずみを見ては肩をおとし、首を振っては苦笑いをした。山下はその姿を見ては軽く笑っている。
「あっ、そうっスそうっス、“センパイ”って吉川さんと付き合ってるんスか?」
山下は唐突に話をふってきた。僕はいきなりのことで「はあ?」と、大きな声をあげた。
「いい加減にしろー」
僕の声にかずっさんがまた注意してきた。僕はかずっさんの方に体を向けては「すいません」と頭をさげ、山下に「今のは、お前が悪い」と声を出さずに口を動かして伝えた。僕は目を閉じ落ち着くようにため息をついては、山下を見ては話しかけた。
「んで、どういう意味だよ?」
「意味も何もないっスよ。皆話してるし、“さっき”だってそうっスよね?
」
「おまっ。。。お前なぁ、何を見て言ってるんだよぉ」
「何をって、そうじゃないんスか?」
「な?な?お前もそう思うだろ?俺もそうなんじゃないかって疑ってんのよ」
僕と山下が話をしているのを聞いていた近藤が僕ら二人の間を割って入るように口を入れてきた。
「近藤。。。お前もか、、、」
僕は呆れるように近藤を見てはため息がもれる。実際のところ当人以外の知るよしもないことなのだが、“こうも”見られているとは“噂”と言う影響力に怖さをも覚えてくる。
「はぁ、、、そうじゃないって言ってるだろ。。。ただ“ご飯”行く仲だって」
僕はため息まじりに顔を横にふり、話す二人に言葉をだした。二人は「怪しいだろ?」と僕を見ては「そうっスよね」と思春期の学生のようなノリで話をしている。僕は「まったく」と呟いては後ろに下がる椅子をひいては仕事にとりかかった。
「あっ、落ちましたよ」
僕の後ろを通る同僚がポケットから落ちる“紙”を拾っては渡してくれた。僕は「ありがとう」と振り向きざま手を額につけては“紙”を受け取った。
「何だよその“紙”?」
「ちょっと近藤 おまっ」
受け取った“紙”を近藤は、ふざけるように僕から奪っては両手を上に、背中を向けてはその“紙”を広げては興味本意に見はじめた。
「何だよこの写真。。。ってこれ、、」
「おまっ、何見てんだよ勝手に。。」
「ちょっとまて、いいから」
僕は「返せ」と近藤の腕をつかんでは紙を取ろうとした。近藤は紙を片手に僕の手を振り払うように肘をあげては、その“写真”を“まじまじ”と見つめている。
「何だよいったい。見たって“意味”ないだろ」
僕は内心焦っていた。見せてはいけない写真。見られてはならない写真を近藤に見られている。
「なぁ、これって“元”はないのか?」
近藤は写真を見ては言葉を呟いた。僕は「ないよ」って誤魔化すように声に出しては、近藤から写真を取り返した。近藤は取られる写真を離しては、何やらぶつぶつと言いはじめた。僕はそんな近藤を目にしては「失敗したなぁ」と苦虫を噛み潰したように顔を歪ませては、自分に「大丈夫」と言い聞かせるように頷いては、仕事にとりかかった。山下は、僕と近藤の顔をパソコン越しに眺めては黙々と仕事にとりかかっている。
あずみはかずっさんに呼ばれてから一度も戻っては来ず、そのまま終業時間になっていった。僕は黙々と仕事をこなす近藤を見ては口を尖らせている。
「それじゃ、自分先に上がるっスね、あざーっス」
「お疲れー」
僕は山下に声を返しては、仕事をやめ帰り支度をする近藤に話しかけた。
「。。。なぁ、近」
「あのよ、さっきの“ヤツ”ってさ、もしかしたら俺知ってるかも。。。」
「えっ?」
近藤は話しかける僕の言葉に被せるように声をだしてきた。僕はその言葉に目を丸くした。
「“あれ”ってよ、俺が撮ったのに似てるんだよ。。。」
「は?なんだよそれ?どういうことだよ?」
鞄を抱え消えるパソコンを見つめては言葉をつなげてくる。僕は目をパチパチと繰り返しては、近藤の話に耳を疑った。
「あの“写真”ってよ、俺撮ってんだよたぶん。。あの構図で撮ってるんだよ、、」
近藤の話す言葉に驚きつつも僕は言葉を選んで問いかけ始めた。
「撮ったってどういうことだよ?」
「、、、頼まれたんだよ」
「頼まれた?誰に?いつ?」
「誰にって、、、」
「いつだよ?何日?」
「。。。あの日は確か、、お前が吉川さんと“デート”してるのを見た時だったったから。。。」
僕はその話に自分の記憶も思い返していった。
「あの時は確かお前が先にいて、後から吉川さんが来たんだよな。。。」
「。。。それで?」
「、、、で、俺は、“驚き”ながら、石碑の影からお前らを隠し撮ったんだよ。。。お前らがそんな関係だとは知らなくてよ。。。」
「おまっ、、、う、うん、それで?」
「、、、それだけなんだけどよ」
近藤は“何か”を隠すように話しては唇を舐め、頬を歪ませては鞄を抱えている。僕はそんな近藤を見ては“何か”あると確信めいた“何か” が頭を過った。
「近藤は“頼まれて”撮ったんだよな?よし乃とのは、違うんだよな?」
僕は“僕とよし乃”の写真は“たまたま”で、“もう一枚”撮っているのだと感じた。そしてそれは“頼まれた”ものだともわかった。
「なあ、近藤。。“誰か”に頼まれて“撮った”のは、“これ”なのか?」
僕はポケットにしまう“もう一枚”の“紙”を取り出しては近藤に見せた。
「。。。。」
「そっか、、、わかった」
近藤は黙ったままだった。僕は“当り”だなと確信しては“紙”をしまい近藤の肩を叩いた。
「お、俺が撮ったって言わないでくれよ?」
近藤は悲しそうな顔を見せては僕に言ってきた。僕は「うん?言わないよ」と笑顔を作っては近藤を見た。近藤は「本当だよな?」と“何か”に怯えるような目をしては訴えかけてきた。僕は「あはは。言うわけないだろ」と笑っては近藤の顔近くまで寄っては声をかけた。
「誰にも言わないよ。むしろ“ありがとう”だよ?」
僕は近藤に言葉を伝えては「んじゃ、お先ー」と額に手を掲げては、タイムカードを切りに出口へと向かった。近藤は少しうつむいては、ため息をはいている。
“誰か”が“何かの目的”のために近藤に撮らせた。そこには柏田とあずみ。そしてそれに近い“人物”が関わっている。そして近藤は“誰か”に弱味を握られているのだと僕は考えた
僕は帰りに柏田に連絡をいれた。しかし、柏田の携帯は繋がることはなかった。そしてよし乃にもメールを送った。
僕はそのまま家に戻り一人“記憶”を頼りに推理をしていっては、そのまま眠りについた。
朝の静けさに家の前で話す声が聴こえてきては目が覚める。僕は「なんなんだよぉ」と、続く朝の“わだかまり”を胸にモゾモゾと体を動かし布団の中で丸くなっては顔だけを布団から出し、チカチカと光る携帯に目がいった。その光に、布団から手を出しては携帯画面を開いた。
「わりー。連絡できなくて悪かった。それでよー、今日会社休みだろ?、、、」
そこには柏田からのメールがあった。僕は飛び上がるように布団をめくり体を起こした。ちゃぶ台に携帯を置いては、顔を洗いに洗面台へと歩いて行った。
「。。時に駅前ってなんだよ、、連絡とれないと思ったら“これ”だよ」
顔を洗いながら安堵感と不快感に心を支配されては、タオルで顔を拭きながら座椅子に腰をかけた。ちゃぶ台に置く携帯を手に柏田に返事を返した。
「わかりました」




