どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
交差点の信号が青になると、よし乃は携帯電話で話をしながら横断歩道を渡って行った。悲しげな背中を見せながら鞄を抱えて、石を蹴り転がすように爪先から地面につけては歩いている。時折空を見上げてはまた顔をさげている。
落ち着く呼吸に一度息を飲み込み、僕は声をかけようと左手を前に上げてはよし乃を見た。歩く後ろ姿を目にしては、振り上げる腕を力なくおろし、眉をひそめては下唇を噛み締め言葉を止めた。今の今で何て声をかけて良いのかわからなかった。下手に声をかけて、余計に気を使わせてしまうのもどうかと、動かぬ足に佇む体、“ない”頭で答えを探したては、何も“出来ない”自分を胸に歩くよし乃を見つめていた。
「。。。えっ?」
よし乃は駅とは違う方向へと歩いていった。携帯を耳から離してはとぼとぼと、手に持つ携帯をバックに入れては足を止めた。一度空を見上げ、前を向いては勢いよく走り出した。僕はその行動に一瞬戸惑い、目を数回瞬きをしては、今まで持っていた心配する心が驚きに変わっていく。普通ならそのまま帰るだろうと「どうしたんだ?」と思う気持ちに体が勝手に動き出す。僕は走るよし乃を追いかけるように、横断歩道を渡って行った。
「どうゆうことだ?帰るんじゃないのか?」
今の今までの“出来事”に思いを返しては、走る後ろ姿を追っている。
「。。。」
“一人になりたいから”“そのまま帰るのも嫌だ”とか様々な理由はあげられる。けど、何となく“違和感”に僕の心は騒ぎだしている。いつも明るい人が“何か”によって最悪な“こと”になってしまうこだってある。よし乃のことを思うと“変な”感情が生まれてくる。何となく“見守りたい”“一人にさせられない”と。実際に“好き”とか“嫌い”とかそんなのではなく“妹”のような存在になってきている。それは、あずみに対する“感情”がわかったからこそ出た“思い”だった。だからこそ歯痒い気持ちもあるし、助けたい気持ちもある。身勝手な“思い”なこともわかっている。
前を走るよし乃を追いかけては、あと数メートルの所でビルの隙間から人が出てきた。
「うわっ、、、」
「うぉっと、痛っ、、って大丈夫っスか?」
ビルの隙間から出てくる人にぶつかりそうになりながらも、反射的に体が反応した。ぶつかることはなかったが、相手の鞄に足をぶつけては横に流れるように片足で跳び跳ねながら前に“つんのめる”ように倒れ転んだ。
「あっすいません。大丈夫っスか?」
ぶつかりそうになった人が、転んだ僕の方に近づき心配そうに体をさわっては声をかけてきた。僕は声をかけてくる人に手を向けては「大丈夫です」と声をだし、走り去るよし乃に目をむけた。しかしよし乃の姿は見えなく、どこか曲がったのか入ったのか、目の前からいなくなっていた。
僕は“見えなくなった”ことに一度頭をさげてはため息をはき、膝で座るように上体を起こしては擦りむく手を叩いては太ももに手を置いた。
「すいませんっス。大丈夫っスか?」
今一度心配そうにぶつかりそうになった人が声をかけては、肩に手を添えてきた。僕は「大丈夫です。。」と砂を払いながら振り返り、声をかける人に頭をさげた。
「すいません。。。って、や、山下!?」
「え?あ、何してんスか?こんな所で?」
「ってそれは、こっちの台詞だよ」
ビルの隙間から出てきたのは山下だった。朝、仕事場で見ないと思ったら、“こんな”場所で会うとは驚きだった。
「何してんだ?こんな場所で?」
僕は汚れるスーツをはらっては膝に手をつきゆっくりと立ち上がった。山下に問いかけながら出てきたビルに目をむけた。
ー木ノ下証券-
「“木ノ下”証券?。。。木ノ下、、?」
僕は証券会社の看板を見ながら“何か”忘れているような気がした。
「いや、別に“何も”ないっスけど、“先輩”はどうしたんスか?走りまくって?」
「ん?いやなに、、、か、“買い物”だよ、買い物」
僕は“本当”のことはさけて、“言い付け”通りに答えた。山下は「え?」と口を半開きにしては眉間に皺を寄せては顔を斜めにしていた。
「じゃ、そうゆうことで。山下も早く仕事行けよー」
山下の肩を手の甲で叩いては“買い物”をしに、僕は駅の方へと向かっていった。
「あっ、なら自分もつき合うっスよ」
山下は歩き去る僕の背中を見ては声を発し、走るように足を大股に開いては隣に歩み寄ってきた。
「は?山下は仕事行けよー」
「いーじゃないっスか、、、それとも“他”に何かあるんスか?」
「そうじゃないけどさ。。。」
何の根拠も持ってはいないが、山下に対しては“敬遠”している。今までの行動や言動から僕にしか“見せてはいない”物言いにも少なからず“疑い”を持っている。何となく“弱み”を握られたくない相手でもある。
「。。。山下は、何で“あそこ”からでてきたんだ?」
コツコツと靴を鳴らしながら歩く山下に、前を見ながら話しかけた。山下は「そっスね。。。」と、軽く息をもらしては愛想笑いをし、肩を揺らしては言葉を濁した。僕は一度山下に視線を動かしては顔を数回揺らした。
「なら山下さ、何か“隠して”ることあるか?それとも“言えない”こととかあるか?」
僕は言葉を変えてもう一度山下に問いかけた。山下は同じように鼻で笑っては口を動かした。
「。。。さっきからなんスか?何が聞きたいんスか?“聞きたい”ことあるんなら、聞いて下さいよ。。“センパイ”」
山下は上から覗くように見下げてきては、口角を横に歯を見せてくる。僕を見る目は広がり瞳孔が開いている。
僕はそんな山下の言葉を聞いては、足を止め一度目を閉じては深呼吸をし、目を開いては山下に口を開いた。
「さっき、よし乃の机が荒らされててさ。。それって山下、、お前じゃないよな?」
よし乃の机が荒らされたのは朝わかったこと。そして山下は“その場”にいなかった。山下の存在自体が、僕には“脅威”でしかない。それは“わからない”怖さでもある。幼稚な発想でもあったが、一つ一つ“確め”なければ、僕には到底知ることもできない。僕はよし乃を“守り”たかった。
「は?なんスかそれ?ってか自分疑われてんスか?、、、ないっスわ。それは ないっスわ」
「山下、、お前じゃないんだな?」
「そんなん当たり前っスよ。ってか、その場に“いない”からって犯人扱いは、マジでないっスわ」
山下は顔の前で手を横に振り、呆れるように顔半分を歪めては顔を横に振っている。僕はその姿を見ては「そっか。。」と口を横に閉じては鼻で息をはいた。
僕は山下の肩に手をかけては「悪かった」と謝っては、ゆっくりと体を前に倒しながら足を動かした。山下は「あ、、」と声を上げては歩きだす僕の腕を掴んでは呼び止めた。
「ん?どうした?」
「あ、ちょっと思ったんスけど、それって朝見たんスよね?なら、その前に誰かが“やった”ってことっスよね?」
「。。。そうだろうね」
「なら、皆が来る前、、もしくわその前の夜ってことっスよね?」
「確かにな。。。来る前かその前の、、よる、、、夜?!あっ。。。」
山下との会話に僕は思い出した。昨日の仕事終わり、あずみと僕は“二人”で話をしていた。そして僕は“先”に帰った。残っているのは“あずみ”だけだ。
「。。。」
僕は立ち止まる足に視線を下げ、口に手を当てては唇をかんだ。山下はぶつぶつと言いながら前を歩いていた。
「あれ?どうしたんスか?何かあったんスか?」
考え込む姿を目に、山下は振り向き声をかけてきた。低くなる声であっけらかんとした表情をしては僕を見てきた。
「。。。あっ。」
あずみと二人で話してた時、“何か”の影に空気が変わったのを思い出した。けど、“それ”が何を意味してるのかはわからない。“誰”がいたのか。。
「あ、山下ごめん。ちょっと先に“戻る”わ」
「え?なんスかそれ?って、“買い物”は?」
唖然とする山下に手を振っては、僕は駅とは逆方向に歩き始めた。
あの時確かに“二人”で話をしていた。そこで何かしらの“影”が見えたのも確かにある。そして今日。もしあの“影”がやったのなら、理由があるばすだ。
僕は歩きながら今までの“経緯”を思い返した。“昨日”“今日”といったことから、これまでの“知り得る”物事を遡るように思い返した。
僕は一度仕事場へ戻り、自分の席については机の下に置く鞄をとりだした。鞄の中身を確認してはポケットにしまい席に座るあずみに目をやった。僕はあずみに軽く会釈をしては通路を指差し走り去るように出ていった。あずみは首を傾げては笑みを作っている。“なんとなく”であろうけど、僕の行動を“察し”てくれたような気がした。
僕はそのまま休憩所に足を向け、並ぶ椅子に腰をかけた。
「あずみ、、じゃないよな?」
考えたくもないけど、“確認”しないといけない気がした。それは“嫌われる”行為かも知れないことは百も承知だった。けど、“わからない”ことが多すぎて頭は混乱するばかりだ。
「いったいどうしたの?」
休憩所にあずみが歩いてきた。僕はあずみの顔を見ては唾を飲み込み唇をかんだ。
「よしよし送ってくれた?」
あずみは僕の隣に座っては“頼み事”を聞いてきた。僕は黙って頷いては隣に座るあずみの顔を見た。
「そのことなんだけどさ、、、」
僕はあずみにゆっくりと話しかけた。
「その、昨日の仕事終わり“二人”で話してたよね?」
「うん。」
「僕が帰った後、あの、その、、あずみはさ、、」
僕は“聞きたくない”気持ちを隠してはあずみの目を見つめている。
「。。。えっ?それって“私”がやったってこと?なによそれ?信じられないっ」
あずみは“疑う”ような僕の言葉に、呆れるようにため息をはいては両手を広げ顔を横に振っては僕を見下すような目をしてきた。
「話って“それ”?本当信じられないっ。。。」
「あ、ちょっと、ちょっと待って、、、」
怒り気味な態度に呆れる顔をしながら立ち去ろうとするあずみの手をつかんでは、「違う、違う、、」と腰を浮かせては止めるように声をかけた。
「違うって何が違うのよ?私を“疑って”いるんでしょ?」
「違う。。。そうじゃなくて、聞いて 聞いて、落ち着いて聞いて」
「なによ?なんなのよ?」
僕の手を振り払うように腕をおろしては、あずみは「言うなら言ってみなさいよ」と顔を真っ赤に声にだした。
「き、昨日話してたとき、、何か“感じ”なかった?」
「えっ。。。」
「そ、そう、例えば、人の気配とか、、、」
「、、、なによそれ?どうゆうこと?」
興奮するあずみは僕の言葉に聞き耳をたてては、隣の椅子に腰をつけた。
「う、うん。昨日話してた時、なんか“違和感”を感じたのを思い出してね。それで、、、」
「違和感?」
「うん。ちょうど、その、、“告白”した後、、、」
あずみは僕の言葉に少し恥ずかしそうに両手を内腿に挟み体を丸くしては、「それで?」と顔を向けては聞いてきた。
「うん、その時、影というか、“誰か”に聞かれたような“気配”を感じてね。。。」
「えっ、、、」
僕とあずみは二人とも“思い出す”ように頭を下げては口を閉じた。
「ねぇねぇ、今日のって、誰がやったんだろうねえ」
「誰だろうねぇ。。でも、“よしよし”でしょー?。。ねぇー」
通路の奥から話し声が聞こえてくる。僕とあずみはその声に反応するようにお互いを見ては、あずみが「その話は“後”でね」と言っては、指で口を押さえ“秘密ね”とウィンクするように左目を閉じては、先に戻るようにその場から離れた。
「あ、木ノ下さん 良いところにいたー」
「はい?なんでしょう?」
通路では、戻るあずみに誰かがすれ違いざまに声をかけては休憩所とは反対方向に歩き話はじめた。
僕は一呼吸ついては天井を眺め、「誰なんだろ」と思い返した。ポケットにある紙をさわっては携帯をとりだし、柏田に連絡をした。
「おかけになった、、、」
留守番電話に繋がり、僕は耳から携帯を離し画面を消した。
「。。。なにやってんだよ」
連絡のとれなくなった柏田にため息をはいては、唇を噛み目の前の壁に目を落とした。
「あ、ちーっス。さっきはどうもっス」
山下が通路奥から姿を現し、片手をあげて声をかけてきた。僕はその声に目線をずらしては顔をさげた。
「なんスかそれ?って、さっきかずっさんが、探してたっスよ」
「えっ?何だって?」
「えっと何だっけ、、あっ、そうそう何か話があるみたいっスよ?」
「は?かずっさんが?。。。」
山下の話を聞いては眉間をすぼめ、「ありがと」と、肩をたたいては仕事部屋へと歩いていった。山下は「別にいいっスよ」と返事をしては、缶ジュースを買いその場で飲み干した。




