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二次発表とアイス+コーヒー

人間いつになっても『発表』という時はドキドキするもので、

受験の合否や懸賞の当選発表、宝くじ、ビンゴ……。

このドキドキが喜びに変わることはほとんどなく、たいていは落胆で終わることが多いのだ。少なくともわたしの人生ではそうだった。

それでもまた期待してしまう。

わたしにも、いつか大きな喜びに変わる日が来るんじゃないかと。


二次発表の日は朝からそわそわしていた。

仕事をしていても心ここにあらず、まだ発表にならないかまだ発表にならないかと編集部のホームページを何度も更新してみていた。

「き、来た、発表……」


「なに飲んでんねん?」

わたしは心を落ち着けるために、ぼんやりと薄暗いダイニングの椅子に座ってコーヒーを飲んでいたのだが、

そこへ平和そうな顔をして上の階の小太り男がやってきて、いつものように冷凍庫のアイスをあさりながら訊いてきた。

「コーヒー、丸山コーヒーの小諸ブレンド」

「わしももらおうかな」

そう言って勝手にコーヒーポットに残ったコーヒーをカップに注ぐとわたしの隣に座った。

「ダメだったよ、二次」

わたしはため息と一緒に吐き出すように答えた。

「そっか、そっか。これで現実の壁の高さを知ったやろ?」

「うん。やっぱわたしの書いた文章じゃ無理だよね」

彼はわたしの隣で、コーヒーの中にレディボーデンのバニラアイスを入れ始めた。

「なにやってんの?」

「アイス入れてアイスコーヒーにしてんねん」

それはコーヒーフロートだろ!

「あんな、まだあきらめるんわ早いで」

溶けかけたアイスをコーヒーと一緒に、彼がぐいっと飲み込んだ。

「なにが?」

彼は机の隅にあったメモ帳とボールペンをとると何やら書きだした。

紙には大きな四角とその中に小さな四角が書かれていた。

「ええか? このちっこい四角はお城。この周囲の四角は城壁や。門は一つしかない」

「で?」

「君は正攻法で、まずは取り囲んで城を四方から攻めたわけやったが、あかんかった」

「はぁ」

「次、どうするか? 同じ正攻法で何度も何度もトライするんわ、いつかなんとかなるかもしれんけど、厳しいで」

「だから、なんなのよ?」

「攻め方を変えて、一点突破や」

彼は門を指さした。

「一点突破って?」

「笑いに特化しよう。だれもやらないような方向で」

彼なりにわたしを元気づけてくれていることはわかった。

正直少しうれしかった。

しかし……説明の仕方がうっざいと言うか、城攻めで例えるとかって、オタクっぽくてなんかめんどくさいんだよね……こういうとこが。

「もしかして、例のドタバタコメディに書き替えろっていった方で、もう一回トライするの?」

「そうや。あの設定のままでアホらしく、ナンセンスで、あさーい話にしてほしいんや」

「なんでそんなにこだわるの?」

「ええか? 今は情報社会や。みんなが情報を共有できてる社会なんや。それによって、作品ちゅうのは厳しく評価されて、洗練されて、質の高いもんになっていったんや」

「いいことじゃない?」

「確かにええことや。しかし、逆に言うと特異的なもんが出にくい世界になってしまったんや」

彼は立ち上がって拳を握り、どこか遠い方を見つめながら熱弁を振るい始めた。

きっと彼には目の前には、たくさんの群衆が自分の演説を聞きに来ている幻覚が見えているのだろう。

めんどくさいけど、ここは聞き役に徹することにしてあげよう……。

「どういうことよ」

「常に物語にしっかり流れを求め、自分に共感できる感情をキャラの生き様に求め、完璧な結末を要求する」

ちょっと待ってよ。それ最低ラインじゃないの?

「俺の言いたいことは低俗で、意味がなく、勢いだけのナンセンスギャグ作品が欲しいってことなんだよぉ」

なんか、急に標準語で話し始めたよ! 

しかもちょっとイントネーションぎこちないし!

怖い……なにこの人?

「ギャ、ギャグ作品なんて、マンガじゃない。そんなのマンガ読めばいいじゃない」

「マンガじゃなく、小説で! ナンセンスギャグ小説、そういう小説がもっとあってもええやないかっちゅうことやねん!」

あれ、標準語どうした? 最後まで貫けよ!

「だれが読むのよ、そんなの」

「俺だ!」

おまえだけだ!

「需要少ないよ! あんたの言うことはおかしいよ。ノベルの質が高まってきたことの何がいけないのよ?」

「もっとB級作品がはびこってもええんちゃうかっちゅうことや。あ、ええ意味でのB級な」

「B級にいい意味なんてあるの?」

「うっさいボケ! ええから書き直して持ってこいや!」

「すぐそうやって切れキャラ出して話収拾するのよくないよ」

「うっさいわ! はよう書いてこいや!」

「実はもう結構書いたんだよね」

「なんやて?」

あんたのムカつく顔を思いながら書いたらものすごく筆が進んじゃって。

「ほな、はよう読ませてえーな、はよはよ!」

急にニコニコしながら手をもみだした。

なんなの、このスイッチの入れ替わりは?

わたしは仕方なく昨夜印刷した原稿を自室に取りに行った。

あのちょっといやらしそうな笑顔が、なんか憎めないんだよなぁ。


いや、待て、違うぞ。

おっさんの笑顔にだまされるとかって、大丈夫か、わたし……。

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