一次選考とバナナ&ストロベリー
小説を書くようになってわたしが変わったのか、それともわたしの周りが変わったのかわからないが、今思えば何かが大きく変わっていこうとしていた、あの時。
でもあの時のわたしはそれに気づくこともなく、
ただ、単調だった毎日が、ちょっとだけウキウキする毎日に変わったことだけを実感していた。
そして一次発表の日が来た。
わたしは何度も自分の作品とペンネームが記されたページを確認し、そしてスキップでもしたくなるような気持ちを抑えながら3階に住む小太り同居人男がダイニングに下りてくるのを待っていたのだ。
「一次通ったよ!」
わたしは、冷蔵庫からバナナ&ストロベリーのアイスをとりだしている彼の背中に向かって叫んだ。
「そうみたいやな」
うわ、反応薄っ!
わたし個人はウキウキだったが、彼は意外に冷めていた。
というか、もう少し反応してよ! 初めての投稿で一次通ったんだから!
「もしかして、わたしの作品が予想外に一次通ったから悔しいんじゃないの?」
「アホか。一次くらいで浮かれてどうすんねん。勝負はこっからやで」
そう言いながら彼は凍り付いたアイスをプラスチックのスプーンでガシガシと削りだした。
「なんか厳しいね」
「あんな、二次からが編集者、つまりプロの目を通るわけや。ここからはホンマもんしか通過でけへんちゅうこっちゃ」
「そうなの?」
一次と二次の審査の違いなど全く知らない。
なぜ一次二次三次なんてあるのかさえも理解していなかった。
「ま、君のは一次が関の山やけどな」
「そんなの、まだわかんないじゃん!」
「わかる……俺にはわかるんや。ま、次のこと考えとかんとあかんで」
「次のこと?」
「ゆうたやろ? これであかんかったらドタバ……いや、サーフィンロックノベルに改編してもらうっちゅう約束やったからな」
「ああ、ドタバタコメディ小説だっけ?」
「ちゃうわ! サーフィンロックノベルっちゅうたやろ!」
なぜこういったくだらないこだわりが強いのか?
しかもなんかあるとすぐキレ口調になってくるのが、またうっざい!
「うるさいよ! キモいんだよそのネーミング! 書くよ、書ますよ!」
「どうせ暇やろ? もう書き出してみいや」
うわぁー、なんかメッチャクチャむかつく!
なにこの上から目線は?
「舞台はあれでええし、ノリノリで書き替えてや」
そう言い残して、凍りついたアイスを持って彼は上の部屋に戻っていった。
って、何の権限があってこんな指示を出してんのよ?
お前が書け、お前がぁ!
しばらくムカついていたが、冷蔵庫の奥に忘れかけていたフルーティな缶酎ハイの存在を思い起こして、落ち着くために栓を開けた。
「面白おかしい話、かぁ」
少し落ち着いてきて、何となくダイニングのすすけたような天井を見上げて呟いた。
そう言えば最近面白いことなんてあっただろうか?
自分の身の回りでおかしいような、面白いような、そんな空気はないような気がする。
「せめてお話の中だけでもってことか」
唯一コソコソと小説を書いている時間が最近の楽しいひと時かもしれない。
それもあの小太り同居人男がきっかけを作ってくれたわけであり、そう考えれば彼に感謝すべきなのかもしれない……。
いや……いやいや! 違う!
あの男のニヤつきながら上から目線で話す姿を思い出したら、俄然腹が立ってきた!
「あんにゃろう! どうしてあんな偉そうなのかなぁ」
どうにか仕返ししたい!
でも、ああいった口だけでいい加減な奴には言い争っても勝てる気がしない。
でも悔しい。
どうしてやろうか……。
「そうだ。あいつをクソキャラとして登場させちゃおう」
思い立った途端わたしはキーボードの前にいた。
あいつのムカつく顔や喋りを思い出すたびにどんどん話ができあがっていった。
酔っていたせいもあるかもしれないけど。




