誤解されていた
あの日のお昼は特に変わったこともなく、そしていつもと同じ平凡な、そんなお昼のひと時になるはずだった。
ただ、いつも一緒にランチをする子が出張で不在だったので、久々に一人でカフェテリアで食事をとっていた。いつもと違ったのはそんな小さなことだけだった。そのはずだった。
その日、
会社のランチタイムに、対面に座った後輩の男子に声をかけられた。
「最近、妙に明るくなりましたよね?」
突然そんなことを言われたのでわたしは狼狽してしまった。
「そ、そう? 別にいつも暗かったつもりもなかったんだけど」
「そうですよ! なんか活気があるって言うか、ね?」
隣に座る後輩女子までも話に乗ってきた。
「生き生きしてるって言うか、あれだよね、ホラ!」
勝手に周りで盛り上がり始めていた。
一体どういう風に見えてんの、わたし?
「恋、でしょ?」
「はぁ?」
更に戸惑うわたしに後輩二人、いや、いつの間にか同僚、上司のおっさんまで話に乗ってきていた。
「絶対彼氏できたって思いますよ」
「どこをどうしたらそうなるのよ?」
「だって、仕事の合間や休憩時間にもウキウキしながらメールらしいもの打ってません?」
それは小説のネタを書いていただけで……。
「そうそう。それに最近ニコニコしながら颯爽と仕事終えて帰宅しちゃうじゃないですか。絶対男以外ありえませんよ!」
「おお、そうそう、絶対男と逢引きだろ?」
「課長、今時『逢引き』って、表現古いっすよ」
あー、それは早く帰ってお話をまとめたかっただけで……。
でも、もしここで「実は小説書いてまして」なんて言ったら……ダメだ!
言えない……。
読ませてなんて言われたら、それこそドツボだ!
どうする、わたし……!!
「あ、あの、えっと、彼氏じゃなくてですね、共同生活している……じゃなくて! 近くに住んでいる知り合いの人の、その、仕事を手伝っていて、そのためにその」
「知りあいって、男、ですよね?」
「た、確かに男だけど、そういうんじゃなくて……」
「やっぱ男ですよ!」
わたしの言葉が終わらないうちに後輩女子が叫んだ。
「やっぱそうか」
「ショックだぁ、僕密かにあこがれてたのに」
「なにどさくさ紛れで告ってるんですか」
「やっぱなぁ、俺も最初からそう言ってたろう?」
「課長いつそんなこと言ったんですか?」
呆然としているわたしの目の前でみんなが好きなように盛り上がっている。
いやちょっと待て! 違う! そうじゃないって!
というか、なぜ本人を置いて話が進んでいくの?
「あ、そろそろ時間ですね」
「お、もうそんな時間か、じゃあ、この話はまた今度な!」
いやいや! ちょっとなんで勝手に盛り上がって勝手に話し終わってるの?
わたしの弁解の時間がナッシングだったんですけど!
そんなわたしの気持ちなど全くくみ取ってくれることなく、皆散開していったが、
一人課長だけがドアの前で立ち止ってわたしの方に振り返った。
「よかったな」
「い、いえ、課長、あのですね」
「フー! フー! 熱い熱い! ってやつだな……ハッハハハ‼」
そう言って部屋を出ていった……って、うっさいハゲジジイ!
もうちょいましなこと言えよ!
いや、そうじゃなくて、誤解なんだって……。




