とうこう!
人は歳を経て、大人になるのだが、いつの間にか新しいことをせず、決まりきったことを繰り返すようになる。
だって新しいことをやると、たいがいはうまくできなくて後悔させられることが多いからだ。
だから妙なプライドを持って生きている大人たちは、新しいことをやりたがらず同じことを繰り返すのだ。
わたしもそんな大人の一人だった。そう、あの時までは。
同居小太り男がいろいろと調べてきて、わたしの作品の投稿先が決まった。
「ここはこの業界じゃそんな大きな出版社やないけど、過去の作品見る限りでは案外変わった作品も取り上げるとこや」
一番メジャーな会社にしなかったのはよかった。
とてもじゃないけどそんなとこの選考を通る気がしなかったから。
「じゃあここに送ってみるね」
最初大きな封筒に入れて、送料もわからなかったので郵便局の窓口に持って行ってみたら、宛先を見た窓口の女の子から「ご苦労様です」と言われてしまった。
なぜご苦労様なのか理解できなかった。
局の人だから、こういった投稿する人たちを見てきたのだろう。
なにか過去に数々のドラマがあったのかもしれない。
ま、そんなことはわたしにはどうでもよかった。
それよりも『この人、小説の新人賞に応募するんだ』と思われているわけだし、その方が恥ずかしかった。
そして「このような原稿を送る場合でしたらレターパックが便利ですよ」と教えてもらった。
後で調べたらポストに出せるので局の人に顔を見られなくて済むという便利グッズだった。
「ああ、かかなくていい恥をかいてしまった……」
「べつにええやんけ」
「よく行く郵便局なんですけど! 今頃わたしのこと『いい歳こいて小説家を目指してしまった夢見る乙女』だと思われちゃってるよ!」
「アラサーで『乙女』とかゆう方が寒いわ」
「うるさいよ! はぁ……もういいや。開き直ろう」
「そやそや。それより、他になんか書いてんの?」
「他って、まだ投稿してきたばっかじゃん」
「あんなぁ、常に書き続けて書くことに慣れとくんやって」
「書くことに、慣れる……」
そういわれてみれば、久々に書いたわけだし、ちゃんとした小説を書く作法も知らなくて、ネットでいろいろと調べながらやっと一つ書いただけだったのだ。
だから今はとにかくいろいろ書いて、物語を作る練習を重ねてみる必要があるかもしれない。
「投稿した作品のことが気にかかって新しいものなんて手につかなかったけど、それじゃだめだね。わかった。なにか書いてみるよ」
「今度は短いものや、全く違ったジャンルのもん書いてみいや。その方がより幅が広がるし、新しいこと見つかるで」
わたしは彼の言葉の内容を噛みしめながら頷いていたが、急に大事なことに気がついた。……わたし、コイツにいいように踊らされていないか?
よく考えてみたらこの男は、自分では小説も書かないし、書けそうもない癖に、偉そうなことをのたまってくる。
「ちょっと待って! あんた、いったいなに様よ? 偉そうに指示して……まあ、なんか正論ぽいからそこがまたムカつくんだけど」
「おれか? 俺は偉大なる読者様たちの代表であり、そして作者を理想の方向に導く先導者みたいなもんやな」
「ああ、わかった! レビューとかでエラそうなこと言っちゃってる人ね」
「おまえなぁ、あることないことでもレビューに書いてくれるっちゅうことはええことなんやで」
「ないこと書かれるのはイヤだよ」
「ま、おまえもそのうちわかるやろ、そのうちにな」
だからお前は何様だ! 預言者か? 占い師か?
そんなやり取りの後、一次発表の日までの数か月を、わたしはひたすら待った。
わたしにとっては長い長い日々だった。
その間もちょこちょこと新たなるお話を書くことを続けていたのだが、
ある日のこと、
会社のランチタイムに、対面に座った後輩の男子に声をかけられた。
「最近、妙に明るくなりましたよね?」
突然そんなことを言われたのでわたしは狼狽してしまった。




