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人生の転機とは

人生の転機なんて後で気づくものであって、その時はこれが転機だなんてわからない、って誰かが言ってた。

でも前兆はあるんじゃないかな?

例えば、急に自分の人生を振り返っちゃったりした時とか。

でも若いうちはそんな年寄りくさいことはしないよね。

だって振りかえるほどまだ歩いてない気がしているんだもん。

客観的に自分という人間や自分の人生を見つめてみるなんて、いつになったらできるようになるんだろうか?


「つくづく、授業とか講習会とか苦手なタイプやな」

同居人の男は余計なことしか言わない。

しかし、彼の言うことはもっともだったので反論もできなかった。

「うん。ま、三十分経たずに寝ちゃうんだよね。何かしていないと」

「人の話からなにかを得ようっちゅう気がないんかい?」

「失礼な! わたしだって藤原てい、って人の講演を小学校か中学で聞いた時は最初から最後までしっかり起きてたし、内容も結構覚えているよ」

「俺も聞いたことあるけど、あの人の講演中に寝る奴ぁおらへんやろ」

「だよね! 内容も衝撃的だったから忘れられないよ」

「ま、それはええとして、小説の方の進行具合はどうなん?」

藤原ていさんの講演で盛り上がるかと思ったら、あっさりぶった切ってきた。

ま、いいけど。

「うん、なんか予想以上にぐんぐん進んでいるんだ」

「楽しそうやん」

「うん、毎日が楽しいよ。なんか、単調だった日々に、生きがいみたいなものができたよ」

「まだ若い女が生きがいがなかったとか寂しすぎちゃうか?」

「大きなお世話だよ! でも……」

「なんや?」

「他の人でさ、わたしみたいに結婚の予定なくて、仕事も単調、育てる子供もいないとしたら、なにを生きがいにしているのかな?」

「せやから、お前と違って他のやつは結婚や仕事に対しての向上心を持って生きてんのやろ。ちゃんとなにかしら持って生きてるっちゅうことやで」

「ま、まじ? なにもなかったのわたしだけ?」

何も変わらない毎日って、結局自分が何も波風立てないで過ごしてしまうことが原因だったってことなのだろうか。

確かに、『お話を作る』って言う、こんな小さな出来事を始めただけで、澱んで動きのなかったわたしの毎日に小さな波紋を広げて行ってくれているのだ。

人生の転機はほんの小さな出来事で十分なのかもしれない。

って、まだ大きな転機も現れていないけど。

「そっか。でも、じゃあ、あんたはなにが生きがいなのよ?」

「俺か? 俺はただここにおること、単調な日々でも自由という大きなものを手にし、それを満喫してんねん」

「結婚できないタイプだね。それ以前に彼女もできなさそうだわ」

「やかましいわ。自由に勝るものなしやで」

「さみしくないの?」

「さみしくないわい。きみはさみしいんか?」

真っ直ぐ目を見つめられて、急にこんな質問を返されてしまったので、わたしはこぼれるように答えてしまった。

「わたしは……さみしいよ」

一瞬、沈黙の時間が流れた。

どうしてくれるのよ? 

変な質問返しのせいで変な空気になっちゃったじゃない。

どう、フォローしてくれるの……かな。

「そっか。そらよかったわ」

はっ? なにその返し?

「なにがよかったのよ!」

「まともっちゅうことや。俺みたいになったらアカンで!」

「頼まれてもなりたくないし」

彼はへらへらと笑いだし、わたしも少し吹き出してしまった。

結局コイツと話していて、微妙な雰囲気になっても、こうやって笑いの方向で終わってしまう。

いや、別に彼とどうこうなりたいわけでは決してない。

そう、弱気はダメよ!

改めてわたしは自分に言い聞かせた。


数日後、わたしの作ったお話がほぼ完成した。

プリンターで印刷しろとの彼からのお達しで印刷してみた。

印刷して活字になったものは、なんだかモニターの画面で見るのとは違って、現実感があった。

改めて自分で読んでみたのだが……こりゃひどい。

「ここ直そう、それにここも」

モニターで見た時には気がつかなかった誤字・脱字や、表現のおかしなところなどがどんどん見つかってきた。

こんなにもモニター上のテキストと印刷したもので、読んだ印象が違うとは思わなかった。

「読ませてみ」

いつの間にか小太り同居男が背後に立っていて、わたしの作品を見下ろしていた。

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