眠ってしまえばすべて夢
なにもかもが夢だった。
わたしは一人で頑張るのが辛かったから、いもしない人をいることにして
その人と頑張っている幻覚を見続けていただけなんだ。
そう、ゆってみれば精神疾患だったんだよ。
だったらすべて理解できる。
幽霊なんて信じられないものは関与していないし、
わたしが作りだした幻覚だったなら
デブなんてやつはいない、最初からいなかったんだ。
だからなにも失っていないし、なにも悲しむようなことはないんだ。
広い、なんだか広く感じてしまう、ダイニングで一人でお茶を飲んでも、
PCを開いてインターネットをしたり、楽天メールを整理していても。
こんなに広かったんだ。
こんなにさみしかったんだ、ここって。
ここでの生活って。
暇な友達に誘われて海にも行った。
会社の人たちとバーベキュウ―もした。
後輩の男子に誘われて二人でお酒も飲みに行った。
久しぶりに映画も見に行ったし、アウトレットに買い物に行った。
夏祭りにも行ったし、カラオケに行ったし、
他にもたくさん、たくさん、いろいろ出かけたよ、この夏は。
でも、帰ったら、一人だった。
すべてを忘れたくて、でも忘れたくなかったから、
わたしはあの物語の続きを書いていた。
デブに、見てもらって、どうゆう風に直したらいいか、
それには、まず書かないことには始まらない。
だから書いたよ、ちょっと長くなっちゃった。
まだ穴だらけで埋まってないけど、こんな感じで展開するんだけど、
どうかな?
どう、なのかな……これって。
田舎の夏は短い。
あんたがいなくなった翌日、
出版社の公式ブログに発売日の告知、そして紹介の記事が少し載ったんだよ。
わたしたちの作品が公的な場所に載っている、これってすごいことだよね?
でも、いつもチェックしている大規模ネット掲示板では
「誰だよこいつ?」
くらいのこと上がるかと思ったら、全くのスルーなんだよ。
世間は厳しいね。
編集部のホームページには、無料立ち読みコーナーも作ってくれたし、
発売が近づくにつれて、大きな記事にしてくれて紹介してくれたんだよ。
発売3日前には特集ページが開設されて、ストーリーやキャラの紹介がされてさ、
そこに載ってる絵師の坂名コウ先生のコメント読むたびに、
わたし何度も胸が熱くなっちゃったよ。
も、もちろん、社交辞令かもしれないけど……うれしかった!
広報の方も担当編集さんも、こんなにいい感じで押してくれて、
ありがたい限りだけど、わたしらが全然宣伝活動をしてないから、
なんか、申し訳ないよ。
ホームページとかツイッターとかやってればよかったね。
で、今日が発売日だよ。
どこの本屋に見に行こうか?
発売日に綺麗に並ぶ様を見たいよね?
東京の大きな本屋さんに見に行きたいけど、生憎雨降ってるし、
近所のツタヤに行ってみようか?
来たよ来たよ、ツタヤに入るのがこんなにドキドキしたの初めてだよ。
あー、あそこ、奥のあのコーナーにあるんだよね。
すっごいドキドキするよ。正直怖いけど……ここにあるはずなんだよね?
どこ? ないじゃん! えっ、新刊は別のとこにあんの?
こっちか……あっ!
あったよ、平積みされてる……あったよ、あるよ!
あったね、うん。
ん? なにが?
そうだね……正直、もっと嬉しい気持ちが涌くかと思ったけど、
そうでもなかったね。
少し恥ずかしいといったうれしさはあったけど、
なによりも「これ、売れるんだろうか?」といった不安感しか湧いてこないよ。
だから、発売日に一人で見に行くのは嫌だったんだ。
だから『一緒に行こう』って約束したのに、
あんたは平気で約束を破った。
あれから、3か月以上が経ったよ。
ネットで見つけた感想は『いい!』って言ってくれた人も少しだけいたけど、
大半が酷評だった。
いやな気分にしちゃった人たちには正直謝りたかった。
でも、ちゃんと読んで書いてくれた人の評価は酷評でも正直嬉しかった。
なによりも、読んで感想を書いてくれたってことがうれしかった。
わたしは、自信を持ってあの子を送りだしたんだってことに関しては後悔してない。
わたしだけじゃなくて、担当編集者さん、イラストレーターさん、
校正の方、レイアウト考えてくれた方、宣伝してくれた方、
みんなで作り上げた作品だった。
共同作業で一つのものを創りあげていったことは、
なにものにも代えがたい喜びだった。
その最初のきっかけを作ったのはデブ、あんただったよね。
この気持ちをあんたと共有できないのはちょっと残念だけど、
もういいや。もう、どうしようもないことだし。
思えば最終に残ったという知らせを受け、落選の知らせを聞き、
その日から担当さんの指示を受けながら作品を作り上げ、
文章のプロにチェックしていただき、タイトルに悩み、
そしてかわいいイラストがつき、素晴らしいレイアウトの表紙……。
夢のように一年が過ぎていったって感じだよ。
今日、ちょうど今年の新人賞最終作品が発表されていたんだ。
1年前の自分の作品がそこに名を連ね、
そして生まれ変わって文庫として世に送り出されたんだと思うと、
なんか長い冒険旅行でもしてきたような錯覚に陥りそう。
ああ……
しゃべりすぎたから、疲れちゃった。
そろそろ眠くなってきたよ
じゃあ……またね、デブ。
一つのことの終わりは終わりで、もうそれは再び同じことが起こることはないのだけれど、
また新しいなにかの始まりに繋がるのだと思う。
新しいなにかは、以前のものとは全く違うかもしれないけど、
その出来事がきっかけで単調な毎日は変わるのだ。
でも、最初の一歩を踏み出さない限り、新しい出来事は起こらない。
新しい出来事を起こすために、まずは第一歩、踏み出してみる。
これが偉大なる一歩ってやつなんだと思う。
わたしは、眠っている。
温かい、なにかに包まれる喜びは、なにものにも代えがたいから、
このまま目が覚めなければいいと思うのもしょうがないよね。
眠ってしまえばすべて夢。
そして
目が覚めなければ、すべて夢のままで終わってくれる。
だから、
おやすみなさい。
了




