出版への道~絵描きさんが決まった!
自分が思い描いているものは
自分の頭の中にだけしかないぼんやりとした世界のものだけど、
それが現実世界に形になって現れることがあったら?
自分一人の力では生まれないけれど、
誰かの手を借りて生まれてくるのなら、
それは自分の中にいたキャラが、
赤ん坊のように現実世界に生まれてきたようなものであり、
なんとも言えない喜びを感じてしまうだろう。
春の風と共に送られてきた担当編集者さんからのメールには、
『イラストレーターが決まった』とのことだった。
おお、見捨てられていなかったよ!
返信を見る度に毎回そう思うわたしは、
いつまでたっても自信が持てないビビりなのだった。
「絵師さん決まったんやって? だれやねん」
「うーんと、坂名コウ、って人みたい」
「な、なんやて?」
わたしの言葉を聞いたデブが急に大声をあげた。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、コウ先生ゆうたら滅茶苦茶ベテランやで! 人気イラストレーターで漫画も描いてる人や」
「そ、そうなの?」
最近の漫画なんてあまり知らないわたしだったが、
そんなに有名な人だとは全く知らなかった。
「ホンマ、もの知らんゆうことは怖いやっちゃなぁ。坂名コウ先生やで? 柴咲コウやシブサワコウとちゃうんやで」
柴咲コウまではわかったが、シブサワコウって誰?
「ちょっとまっとけや」
そう言うとデブは自室に駆け上がっていったかと思うと、
手提げ袋に何冊もの本を入れて戻ってきた。
「このノベルの表紙と挿絵はコウ先生の絵やで」
女の子がかわいい! 少し色気もあっていい感じだぁ!
「あれ、このノベル、結構有名な奴じゃん!」
「そうやで。こんな有名なやつの絵描いてる人なんやで」
マジ?
「それからこのキャラデザインもコウ先生やし、あとマンガもこんなんとかこんなんとか」
すっげーキャリアがある人じゃん
……こんな人がわたしの本に絵を描いてくれるの?
うそでしょ?
「無理、絶対無理だよ!」
「な、どうしたんや?」
「こんなすごい人に描いてもらったら、この人の経歴に泥塗ることになっちゃわない?」
「なるかもなぁ……」
だめじゃん、それ!
「じ、辞退しよう? ね?」
わたしがデブのシャツの袖をつかんで訴えると、
デブはその手を振り払ってわたしを睨みつけてきた。
「アホ!」
「えっ?」
「ええか? ノベルっちゅうのはな……」
な、なによ? いったい。
「絵でだますんやぁぁ!」
えぇぇー!?
「表紙買いする奴とか、絵師買いする奴が世の中にはおんねん。そこにつけこまんとどうすんねん!」
うわぁ……なに言ってんだこの人!
「あ、あんた、プライドとかないの? 自分の作品にさぁ!」
「じゃあ、おまえはどうやねん? お前の方が自分の作品にプライドもなければ愛もないやないか!」
「はぁ? なんでそうなるのよ!」
「お前の作品はお前の子供みたいなもんやぞ? 子供がハレの舞台で一番の晴れ着を着せてもらえるっちゅうのに、辞退ってどうことやねん! 子供がかわいかったら喜んで受けるはずやろが。自分の作品が、自分の子供がかわいくないんかい?」
「そ、それは……」
「どんな子やって、お前の子供やし、ましてや、今じゃお前の作品だけやないんや」
「わたしだけ、じゃない?」
「そうや。担当編集さんや俺とかで一緒に育ててきたんとちゃうんか? 今度はその子に最っ高の晴れ着をイラストレーターさんが着せてくれるっちゅうてんねん。これ以上のことはないやろ! ちゃうか?」
「ち、違いません……すみませんでした」
「わかったら、いろいろ考えんと素直にお願いしとくんや。ええな?」
「は、はい、わかりました……」
そうだよね。
自分の作品、ううん、今ではデブも含めて担当さんと一緒につくってきた作品になってるんだもんね。
そうだよ、こんなすごい人に絵を描いてもらえることを光栄に思って、
そしてわたしたちの作品を自信を持って送り出さなきゃいけないよね。
わたしが間違ってた……でも……ちょっと待って。
最高の絵師さんに描いてもらうことはいいよ、うん。
わたしが引っかかってたのはそこじゃなくて、
確か『絵でだます』とか『表紙買いの連中につけこむ』とかってとこが問題だったんですけど!
「ちょっと待ってデブゥ!」
って、顔を上げたらデブの姿が消えていた。
やられた!
勢いに負けて言いくるめられてしまった!
悔しいので、
デブ秘蔵のアイスを勝手に食べてやることにした。
わたしは自室に戻って、アイスを食べつつ、
デブが持ってきた絵師さんの漫画を手に取った。
「すごいなぁ。こんなにたくさん本出してるんだ」
わたしは何気なく1冊のマンガの表紙をめくって中を見た。
次の瞬間、わたしは自分の目を疑った。
「な、なに? これ……」
中には少女たちがあられもない姿で、その、いろいろな行為をなさっていた。
「こ、これって、もしかして、エロ漫画……?」
わたしはネットを開いて絵師さんのことを調べてみた。
すると少女たちのいやらしいお姿があるわあるわ……。
どうやら絵師さんはエロ漫画中心に活躍する方だった。
わたしは胸の鼓動を抑えつつ、再び先程開いた漫画を手に取った。
「うわぁ……すごい……」
健康的な女の子たちのいろんな角度からの行為に及んでいる姿に
目が釘付けになってしまった。
そしてなによりも、細くしなやかな女の子の腕や体をがっちりとつかんでいる、男の太い腕、生々しい無骨な指先に見入ってしまった。
「やばい、これはちょっと……」
体が熱くなってくる、このまま読み進めてしまっては、いかんかも……。
「その人は幼少期から天才的な才能でエロ漫画を描き続けた少女エロ漫画家やで」
え?
いつの間にか私の背後にデブが立っていた。
「いやぁぁぁ!!! 勝手に部屋に入ってこないでよ!」
咄嗟にわたしはデブの肩に怒りの鉄拳をぶち込んでいた。
「いだだだだ! ノックしたけど返事なかったやんけ!」
「う、うそだ! 聞こえなかったよ!」
「夢中になってて気いつかんかったようやな」
デブがニヤニヤした表情でわたしを見つめてきた。
「夢中になってません!」
「せやけど、どうや? わしらの作品の絵を描いてもらうんには最高やろ?」
「え?」
「女の子はかわいいだけやなくて色気があるし、なによりもエロ漫画家やからごっつくて脂ぎったおっさんも描けるんや。いうことないやろ?」
そうか。エロ漫画家だから相手役である男の人もしっかり描けるわけだ。
って、さっき見た骨太なおっさんの絵を思い出してしまった。
太い腕、ごつごつした指、醜く膨れた腹……って、おい、おい!
あー、気持ちを落ち着けるんだ! いかんいかん!
「それにしてもこんなことならあれやったな」
「な、なによ?」
「もっとエロいシーン挟んどけばよかったわ」
「ば、」
バカか! と言いたかったが、
いや、確かに、もうちょっとお色気シーン、入れればよかったなぁ……
「君の経験不足が仇になったな」
「ぶっ飛ばすぞ、デブ!」
つづく!




