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担当編集者さんに会った! その2

わたしと担当さんの出会い。

それは、

わたしのように会社の中だけ、自分の交友関係だけに閉じこもっていた者にとって、

全くの新しい扉、そして一生のうち、もう二度度と開くチャンスが来ないであろう出会いの扉を開いて、こうしてお話しているんだと実感していた。

デブがどう思っていたかは知らない……。


デブが黙ってお茶を飲んでいる横で、わたしと担当さんの話は続いていた。

「それにしても、最終選考候補に、わたしの作品、勝手にシュートしちゃうなんて、レイさんて編集部でも力ある人なんですか?」

担当編集のレイさんは、前髪を掻きあげながら小さく笑った。

こんな小さな仕草一つでもイケメンがするとキュンとしてしまう!

「ボクはね、以前、霊感があるってだけでオカルトもの編集部にいたんだけど、ロクな記事書けないからってここに移動してきた平編集者さ!」

ヒラの編集者が、独断で最終選考作にあげちゃっていいの?

「そ、そうなんですか……オカルトものの本作ってたんですか?」

「うん。でもね、見えすぎちゃってだめなんだよね」

「見えすぎちゃダメなんですか?」

むしろいいような気がするのだが。

「だって幽霊いないのにいるって記事書かなきゃいけなかったり、霊がいたから、ちゃんとインタヴューして書いた記事を『霊の話した内容にリアリティがない』って没にされたりさ……散々だったよ」

一体霊にどんな話を聞いてきたのか……気になる。

「そんなわけで、現実よりもファンタジーな世界をつくる部署にかえてもらったってわけさ」

えっ? いや、幽霊はファンタジーよりも現実に分類されることなの?

「ま、とにかくボクに任せてよ。頑張って本にしようよ!」

とりあえず、すごいノリノリだということだけわかった。

わたしもこのノリで本にしてもらえたらって思ったけど、一抹の不安が……。

「でも、ちょっと心配です」

「なにがだい?」

「わたしの作品が本になって、売れるんですかね?」

わたしの言葉を聞いた編集さんは大きな声で笑いだした。

「ベイビィ、ドントゥヲーリーさ! もし売れなくても、気にしなくていいんだよ」

「えっ?」

「売れなかった本を出したのは作者のせいじゃない、担当編集者の責任なんだからね」

カ、カッコいい……。

なにもかも任せてしまってもいい気分になってきた……。

「ま、これが売れなかったら、シベリアかアラスカの支局に飛ばされるけどね……」

イケメンが急に暗い表情になったぁ!

だめじゃないですかそれ! って言うかアラスカとシベリアにも支局あるんだ!

すごいな今時の出版社って……。

それより、わたしのせいでこの人、寒いとこに送られちゃったらどうすればいいの?

「実はね、もう一つ選択肢があるんだよ」

「もう一つの選択肢、ですか?」

「ああ。別に新たな作品を書いてもう一度新人賞に応募してもらうんだ。そしてもう一度選考を経て、もし賞がもらえたら改めて出版っていう方法もあるんだ。ぶっちゃけるとね、売る方としては賞があった方が売りやすいんだよね。みんなも手に取ってくれるし」

別の作品か……。

でも、わたしは、いいって言ってくれた人のためにも、今回の作品を出版してみたかった。

それに、新作書いても、もう一回こんなチャンスが巡ってくるとも思えないし。

「ゴ、ゴメンナサイ! わたし、今回の作品で出してみたいです!」

もし寒いとこに行っちゃっても差し入れ送ります! かいろでも肉まんでも!

「新人賞は欲しくないのかい?」

「賞はなくてもいいです。この作品を押していただいた方々のためにだしてみたいです。それに今回の作品は『ノベルももっとライトなノリと読み物でもいいんじゃないか』ってことを示してみたかったので、この作品を世に出してみたいです!」

後半は隣に座っているデブが前に言っていたことを代弁しておいた。

デブも一言も口を出さないが、うんうんと頷いていた。

って言うか、あんたここ来て全然喋んないじゃん!

このコミュ障がぁ!

「その決意が聞けて良かったよ」

「じゃあ、いいんですか?」

「ああ、もちろんだよ。今回の君の作品を本にして出せるようがんばろうじゃないか!」

「はい! がんばります! でも……」

「ん? なんだい?」

「出版社だってビジネスですよね? 売れるものじゃなきゃ出版しないって思っていたんですけど」

「フフ、イイかい子猫ちゃん? ボクたちは本を売る仕事をしているんだ」

「あ、はい」

「当然、基本的には売れると思うものしか出さないさ」

「じゃあ、もしかしてわたしの作品は売れる見込みが……」

「いや。正直そんなに売れると思ってないんだ」

そ、そうなの? はっきり言うなぁ……。

「いいかい? 編集部会議で大きく好みが二分したってことは世に出しても、当然読者の半分、いや半分以下ぐらいにしか受け入れられないさ」

「じゃあ、どうしてわたしの作品を?」

「言っただろ? 僕が世に出してみたいから出すんだよ」

「でも、そんなことだけで出しちゃっていいんですか?」

すると突然イケメンさんが立ち上がって手を広げて語りだした。

「基本的に出版社は売れるものしか出さないって言ったけど、本を作って売るってことはさ、もっと夢がある仕事なんだよ」

「ゆめ?」

「そう。自分が世の中の人に読んでもらいたいと思うものを出す。これって素晴らしいことじゃないかい?」

「自分が読んでもらいたい、もの」

「そう。もちろんそれにはお金が必要だ。だから売れる本を出すよう日々頑張っている。そして、その隙間に売れないかもしれないけど、世の人たちに『こんな本も読んでほしい』って言うものを出して、そして手に取ってもらう。これが本を作る者の喜びなんだよ」

売れる本を出すだけじゃなくて……自分の出したい本も出すために頑張っている。

なんか、すごくカッコいい仕事じゃない?

「すごい、羨ましいです! いいですね、そんなお仕事って」

わたしなんてマニュアルを頭に詰め込んでそれに基づいて会社の製品を説明し続けるだけの単調で、夢なんか見られない仕事だって言うのに。

「フッ、羨ましい、じゃないよ」

「は、はい?」

「今この時点から、君を中心にその仕事が始まっているんだよ!」

「わ、わたしが中心に?」

「そうだよ。君が作者なんだから。まぁ、まだ出版できるかどうかはわからないけれど、世に送り出せるよう頑張ろうじゃないか!」

やばい! もろキュンだわ! 

もう今日からあなたをご主人様と呼ばせていただきます!


「あほか。なにがご主人様やねん」

顔合わせの後の帰りの電車の中。デブが駅弁を食べながら浮かれるわたしに言い放った。

「でもね、でもね、あんなこと言われちゃったらもうやばいでしょ? やばいよね?」

「やばいのはお前の頭ん中や! まだ出版してくれるかどうかもわからへんのに」

そうだ。まだ出版できるかどうかはわからない。

けど、とにかく今わたしたちが目指さなければいけないことは、自分の作品を『いい!』と言ってくれた人たちのために、世に出せるようなものを作る!

この一点だけなんだよ!

「がんばろうよ! ね?」

「お前、あのスカした編集さんとおうてから、えらいハッスルしとんな」

いーんだよ! イケメンは正義!

なにはなくても、わたしはあの人にかけてみることに決めたんだから!

つづく!

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