青天の霹靂
青天の霹靂って言葉は知っているけど、現実にそんな場面に出くわすことなどあり得ない。
『まさに青天の霹靂!』なんて、オーバーな表現でしかない。
絶対ありえない。
そう。絶対ありえないようなことが起こったから青天の霹靂なのだ。
そう実感する時がまさかわたしに来るとは思っても見なかった
思っても見なかったことが起こるから、青天の霹靂、なのか。
小太り同居人男と雰囲気のいいクラシックなレストランで食事をしていた時に、
わたしの携帯電話に着信があったことを給仕さんが伝えてきた。
「なんや、こんな時に電話なんて」
「見たことない番号……イタ電なんて最近めっきり来なくなったのに、どこからかな?」
「はよでえや。もう」
とりあえず若い給仕さんから電話を受け取り、話してみることにした。
「もしもし……はい? そ、そうですが……え? ちょ、ちょっとお待ちください!」
わたしは電話を対面に座る小太り男に差し出した。
「なんでわしが君の電話にでんねん?」
「へ、へ、へ、へ、」
「なんや、気持ち悪い笑い方しよって」
「へ、へ、編集者から、電話」
「変質者?」
「編集者だよ!」
わざと間違えてんじゃねえよ!
「どこの編集者や? ま、まさか」
「音鍵文庫だよ」
「おとかぎぶんこ? ってとこに出したんやったけ?」
あんたがここに出せって言ったんじゃん!
「自分で探してきたくせに、そんな大事なこと忘れないでよ!」
「で、なんの話?」
「さ、最終選考に残ったって」
「……三次、通過したっちゅうこと?」
「それで、いろいろ聞きたいことがあるって言ってるのよ」
わたしは改めて電話を彼に差し出した。
「なんで俺が電話変わらなあかんねん!」
「表立ったことはあなたが全部やるって言ったじゃない!」
「お前が書いた作品やろ!」
「だけど、あなたが表立ったことするって言ったじゃない!」
「お前接客業で慣れてるやろ! 俺は極度の口下手なんやぁ!」
「嘘つけ! いっつも詐欺師みたいな口ぶりでわたしと話してるじゃん」
「いや、基本的に酒が入った時か慣れた人間相手やないと……」
わたしはテーブル横の小さな台に置かれていたワインボトルをふんずかまえて、彼のグラスに勢いよく注いだ。
「のめ! のめよ!」
「おまえアホやろ!!」
「あー、もう、マジ使えないんですけど!」
わたしはあきらめてボトルを戻すと、ため息をついてから心を落ち着かせてから電話を耳元にあてた。
「も、もしもし、お待たせしました」
「もしもし、あらためまして、わたくし音鍵文庫編集部の嘉新と言います。初めまして」
うっわ、めっちゃ渋い話口調のお兄さんだ。
なんか業界人ってこんな感じなのかなぁ?
「かあらさん、ですか。初めましてわたくし……」
その後いろいろ質問の嵐だった。
会話の中で印象に残っているのは、
全ての質問が「ふぅーん、そうなんだ。ちなみに……」で始まることだけである。
質問の内容は、本名確認、ペンネームの読み方、生年月日、年齢、職業欄のこと、今回の作品はどのくらいで書いたのか、今までの執筆歴、書くきっかけ、投稿歴と投稿作の内容、どんな小説読むか、アニメや実写映画は何見ますかなど。
「ふぅーん、そうなんだ。ちなみに、君は商業作家を目指すということでいいのかい?」
「え? そ、それはもちろんそのつもりでしたけど。無償で書く人もいるんですか?」
今思えばアホな質問だったが……
「ははは、違うんだよ。中には商業作家になる気はなかったとか、単に感想を聞きたかっただけで新人賞に投稿してくる人もいるんだよね」
冷やかしもいるんだ……世の中広いや。
新人賞候補になっても辞退する人もいるなんて、気がしれないと思っていた。
そう、この時のわたしは。




