一次発表と恋する雨の日
過去の亡霊は、いつでも意表をついてやってくる。
それからは逃げることができず、去っていったかと思うとまた不意に現れる。
でもその亡霊は、今のわたしを作っている大事な大事な思い出なのだ。
なくすことはできないし、なくすことなんてしたくない。
一次の発表があった。
通過していた。
「よかった!」
と思いながらも、あのギャグ小説で通過したことは少し複雑な気分だった。
「あんなぁ、どんな作品でもキミが作った作品なんやから、もっと自信持たんかいな」
自信持つとかって言うか……確かに書いていた時はノリノリだった。
筆も軽いし、多少の手直しの指示は入ったものの自分の作品に変わりなかった。
「そうだね。わたしのかわいいお笑い作品だもんね。よしよし!」
「それよりなんか君、メール来とるで」
勝手に人のPC覗いてメルチェすんじゃないよ!
「あれ、久しぶりだなぁ」
「なんや、男やんけ」
「ああ、元カレだよ」
「なんで元カレからメール来てんねん」
「久々に飯でも行こうってことみたい」
あれ? 気がつくと小太り男がいなくなっていた。
って、あのやろう、聞くだけ聞いてスルーして自室に戻ってんじゃん!
はい、はい、わたしが元カレからメール来ても関係ないですからね、スルースルー!
「ま、近況でも聞いてやろうか」
久々に彼に会うことにしたのは、超田舎の街だった。
なんでそんなとこで会うことにしたかといえば、昔彼が出向していた場所で、わたしも足げなく彼に会いに行っていた思い出の街だからだ。
あまりの田舎町で、彼が本店に戻って以来、足を踏み入れることはなかったのだが。
ま、彼も久々だろう。
山と山の谷間に、川と並行するようにたたずむ町。
もう行くこともないかと思っていたあの街に、再び訪れることができるとは。
「さて、どうしようか?」
どんよりと曇った空から振り落ちる雨を眺めながら元カレが言った。
そう。せっかく真昼間に健全な再会を果たしているというのに、生憎の雨だった。
やっぱわたしたちは天からも祝福されないコンビだったのだ。
別れてよかったんだろう。
彼は同期の中では出世頭で海外勤務もこなしていた。
そう、忘れもしない。
わたしと壮絶な喧嘩の末に別れて、その直後くらいに海外勤務に手を上げて行ってしまったのだ。
残されたわたしは男に逃げられたレッテルを張られて、
辛い日々をしばらく過ごしていたというのに、
一人海外でのほほんとやっていたかと思うと、
当時はウィルスメールでも送ってやろうかと思うくらい頭に来ていた。
しかし、その後あまり向こうでは思ったように行かず、短期で帰国してきたのだ。
当時わたしの呪いだとか口走っていたやつもいたが、濡れ衣もいいところだ。
それにわたしはその話を聞いた時に「ざまあみろ!」なんてこれっぽちも思わなかった。
ただ、「大丈夫だったのかな?」と思っただけだった。
彼は初めて会った時からわたしのあこがれだった。
常に前向きで行動力があって。
そんな彼にわたしは大いなる関心と憧れ、そしていつしか恋心を抱いていったのだ。
ま、最後は悲惨だったけど。
そんな彼は帰国してからわたしや同期たちから身を隠すように、
遠い地方都市に行ってしまい、そこで仕事を頑張って、知り合った彼女さんと真っ当な交際関係の末に結婚した。
今じゃ、一児の父親だ。
だからと言ってわたしは別にどうとも思っていない
もう終わった相手なので、昔の友達としか思えない。
でも、
今はわたしと彼の二人きりだ。
誰も知ってる人もいないこの田舎町で二人きりだ。
何をしたって、誰に見られたって、構わない、束縛のない地だ。
……なんてバカな事を思ってしまうわたしは邪心に満たされている。
ホント、ダメなわたしなのだ。




