究極の選択を迫ってきた!
たわいもない会話が楽しかったりしたのは子供の頃で、いつしかそんなに笑わなくなって、まじめな話ばかりになってきたのが最近のわたし、大人のわたしなのだ。
ところが、まじめな話をしているはずだったのに、なぜかおかしなことになってしまうこともあるようで……それは目に見えない妖精のいたずらなのか?
「投稿規定に満たへんからページ数増やすんや」
「話完結しているのに?」
「エロいエピソード入れるんや!男子読者をムラムラさせるような」
これがいい年した大人の男女の会話なのか……。
「エッチなシーン、ってこと?」
「そうや。例えば入浴とか海やプールで水着とか、あ、あと!」
「なによ?」
「女子更衣室のロッカーに隠れることになって、ヒロインたちの着替えシーンを見てしまう」
え、なんでそんなとこにいるのよ?
「しかも一緒にかわいいおにゃのこも一緒にロッカーの中に隠れる状況になっちゃって、声が出せない状況で体が密着して……」
ありえねー!
「どうやったらそんな状況になりうるのよ?」
「なぜかそうゆうシチュになるもんなんやって。まあ、頼んだで」
マジで? それわたしが考えて書くのか……。
そして悪戦苦闘の夜が明けた。
わたしは長い苦悩の末に、お色気エピソードを一つ書き、そしてラストを少し手直しして彼の元に原稿を持ってきた。
「これ以上、無理……」
わたしの言葉には答えずに、彼は黙々と原稿を読みこんでいた。
「なかなかエロいやん。君にしてはよう頑張ったな」
その言葉に、わたしは恥ずかしくて原稿チェックした彼の顔をまともに見れなかった。
「でもまだ足りなくて、ラストに続編に絡むようなイントロ書いてみたんだけど」
無理やりページ数を稼ぐためにラストを続くようにしながらぶった切るという手法を用いてみたのだが……。
「ええやん。これでいこ」
え、これでいいの?
「で、でも、こんなぶった切りなラストでいいの?」
「もう締め切りまで間もないし、君がもう一つくらいエッチなエピソードを書けるんやったら待ってもええよ」
「なんでエッチなエピ限定なのよ!」
「ストーリーに影響しないエピゆうたらサービスシーンしかないやろ?」
「ううっ」
「どうや、書くんか、このまっま行くんか、どっちやねん!」
なんなのよこの上から目線のプレッシャーは?
この場に来て
小太り男がわたしに究極の選択を迫ってきた……。
「こ、このままでお願いします……」
「声が小さいなぁ……」
「は、はい?」
「はっきりゆわんかい! 経験が少なくてエッチなシーンが想像できません、ごめんなさいって!」
その瞬間、わたしの目の前に白い光が走った気がした。
「ふざけんな! 調子に乗んなこのくそジジイぃ!」
思わず目の前のくそ男の肩にグーパンチを食らわせていた。
「あだぁぁぁぁ!!!」
男は肩を抑えて床に転がったので、すかさず腹に蹴りを入れてやった。
「お前言っていいことと悪いことあんぞ、コラぁ!」
「す、すみません」
男は巨大芋虫のように肩と腹を抑えて目の前でのたうっていた。
「あんな」
「なによ?」
「自分、もしかして元ヤンキーなんか?」
「違います!」
「でもなんか、その、喧嘩慣れしてたような」
きっぱり無視した。返事しない!
これで少しはこの小太り男も大人しくなってくれるかと思いきや、
次の日にはもういつもの上から目線野郎に戻っていた。
たまには締めないとダメなタイプかもしれないことだけはわかった。
ラストの展開など若干満足できないところはあったが、なんとか締め切りに間に合わせて投稿した。
「今度のとこもそこそこの出版社や。ギャグ小説には多分一定の理解があるとこやで」
またしても一次発表までの長い長い日々をドキドキそわそわしながら待つことになった。
そう言えば、最初に投稿した時にレターパックのこと教えてくれた郵便局の窓口のお姉さん、まだいるかなぁ?
(あれ以来恥ずかしくて、わざわざ遠くの郵便局に行くようになったんだが……)




