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星の扉  作者: 斎木 涼
第二章 Labyrinth――迷路
7/16

 「ホントにもー、あーちゃんてば、可愛いままよねぇ」

 腰まで波打つブロンドの髪に薄蒼の瞳。何処から見てもナイスバディな麗しのお姉様と言った年齢不詳の女性が、にんまり笑顔でのたまった。

 メリハリのある身体には、黒とワインレッドの何処かクラシカルな……と言うより何時の時代でも需要が切れないと見えるゴシック調のロングワンピースを身につけているが、何故かその上には白衣を羽織ると言うアンバランスな出で立ちである。

 その視線の先にあるのは、かつての教え子。

 ……から来たメールの文面である。正確には、宙に浮かぶレーザーモニタだが。

 だが彼女の脳裏には、はっきりとその彼の容貌が浮かんでいた。

 「いくつになっても可愛いわぁ。スリスリしちゃいたくなるくらいすべすべのピンクのほっぺたと、ずっと舐めててあげたいくらい綺麗な緑のお目々」

 夢見る少年の様な幼い容貌だが、その中身は外見を裏切り可成りのリアリスト。けれど慕ってくるその姿は、何時までも彼女にとっては可愛らしく映っている。それを口に出すと、何処か困った様な――実は心の中で呆れていることを彼女は知らないが――顔を浮かべて笑うのだ。

 可愛い可愛い教え子。いや弟子? なのかもしれない彼から、謝罪するメールが届いたのだ。折角の紹介をやむを得ない理由――理由の中身は伏せられてはいたが――で去ることになったと言う内容が、丁寧な言葉で綴られていた。謝罪と言うより、彼女でなければ読み取れない程の内容で困っている旨が記されているのだが。

 「あーちゃん、奥ゆかしいわねぇ。何処ぞの誰ぞとは、偉い違いよねぇ。そう思わなぁい?」

 背後にいる男に振り返りもせずにそう言う彼女の紅唇は、笑みの形に歪んでいる。

 「アホかお前は。メシのタネ目の前にして、何時までも寝言かポエムか解らんこと言ってねぇで、とっとと行けよ」

 何処ぞの誰ぞと言われた青年が、心底呆れていると言った調子でそう言った。

 肩まで伸ばしたストレートの黒髪に、金色の瞳。鞭の様な撓やかな身体は、動きやすそうな、それでいて小洒落た衣服を纏っている。相手がお客様であれば、大層愛想の良い表情でもって迎える彼だが、彼女は身内だ。完全に素である。

 そしてそう言う男の更に後ろで、何処ぞの誰ぞその2である無愛想がコンクリートで化粧を施した様な無表情でガタイの良い男が、そうだとばかりに頷いた。

 短く刈り上げた銀の髪、血色の瞳は全く感情を映してはいない。

 「ぶぅー。ホンっトに、可愛くないわぁ」

 そう言いつつも、彼女だとて解っている。

 元々メールを貰わなくとも、彼の元には向かう予定であったのだ。

 後は出発するだけとなっていたその時に、メールの着信があった為それを確認したら当の本人で、その内容がまた彼女にとっては心温まる言葉が記されており、うっとりしていたと言う訳だった。

 「まあ、待たしちゃ可哀想だし、入れ違いなんかとんでもない話よねぇ。行ってくるからお留守番よろしくねぇ~」

 ひらひらと手を振り出て行く彼女に向かって、再度声がかけられる。

 「きっちり拾って来いよ。てか、どっかで落としてんじゃねぇぞ、ミシェル」




 「お前はぁっ!! この状況でサカルとか、どう言う神経をしているんだ!!」

 「ホッとしたら、ほら、つい」

 へらりと笑うライヒアルトに、緊張感など欠片もなかった。

 イタダキマスの言葉通り、シェスティンを美味しくいただいた彼は、メールが来た時のことが嘘の様にリラックスしている。所謂平常運転と言うやつだ。

 対するシェスティンは、怒り心頭だった。

 確かに不安はもうない。いや、お先は真っ暗ではなく、薄暗がりであると言う事態であると理解している。だがライヒアルトがいるからと言うことで精神的には平常と変わりがなくなっているのだ。

 大変仲良く過ごした後、予定時間を見越して準備をした。準備と言っても、持ち出すものなど何もない。

 ただ軍服を、それぞれ何時も通り着込んでいるだけだ。他に準備と言えば、細工をかけていたスパイアイを再確認したこと。

 身の回りのものは、全て捨てる。未練など残さぬ様に、全部全部置いていく。持っていくのは互いの身一つのみ。

 部屋の中の細工は気にする必要はないが、一旦部屋の外へと出てしまえば、何処に目が光っているかは解らない。二人が一緒に行動するのは、何時ものことだから特別おかしなことがないのは幸いだ。ただ、二人一緒にいると、その対照的な容姿で目立ってはいるのだが。

 取り敢えずは、誰が監視者となっているかも解らないことにビビっていても仕方ない。二人は普段通りを心がけ、けれども警戒心はMAXにして歩いて行く。

 ヴェンツェルとは、カタパルトデッキにて落ち合うことになっていた。

 パイロット達が仮住まいする宿舎からカタパルトデッキまでは、それほど時間はかからない。当たり前と言えば当たり前で、有事の際に直ぐに出撃出来る様にする為だった。

 自分の機体を見に行く行為も、パイロットであれば別段珍しい話ではない。

 ただ。

 「……やっぱり、スクランブルでもないのにパイロットスーツは目立つな」

 解っていたことではあるが、そう呟いてしまう。

 待機中であるから通常は軍服だ。けれど機体へ乗るには、途中でパイロットスーツへ着替える必要がある。

 機体の元へと行くのに、作業服でなくパイロットスーツでは、出撃、もしくは演習にしかならない。かと言って、機体の中までパイロットスーツを丸めて持つには嵩がありすぎ、なしで行くのはもっての他だ。

 二人が揃っていれば、大抵の人間は避けて通る。

 しかし今は少々事情が違うのだ。そこら辺に沸いて出る軍属の人間は問題ではない。注意すべきは、彼らを監視しているだろう人間だった。

 部屋に仕掛けられたスパイアイを逆利用し、現在は二人がまだ室内にいるように偽装しているのだが、それも何時まで持つか解らない。取り敢えずは、カタパルトデッキに行くまでは大丈夫であるとは考えているが。ライヒアルトは視線を感じないから、今のところ上手く行っているのだろう。

 とにかくパイロットスーツの置いてあるロッカーまで行くと、何気なさを装ってそれぞれ男女別のそこへ入り込み着替えを始めた。

 幸いなことに、予備の酸素カートリッジはそれぞれの機体内にも複数ある。二日や三日も宇宙空間に放置されない筈だから、その中にあるもので充分だった。

 「要はさ、乗っちまえばこっちのもんってことだよ」

 『解ってる!』

 簡易の通信システムを持つピアスから聞こえてくるシェスティンの声は、むっとしている。ただ出来る限り声を抑えているから、敢えては言わない何かを想像させる囁き声となり、ライヒアルトはうっとりしてしまう。ただの馬鹿とも言える反応だった。勿論シェスティンには解る筈もないのは幸いだろう。

 監視者が着いてきていないと思える今、後の問題は同じ隊の人間と整備の人間だけだ。いざとなったら、隊や整備の人間を殴ってでも搭乗すれば良い。取り敢えずは、その整備班が交代の時間を狙って格納庫(ハンガー)へと侵入する予定だ。

 「堂々としてりゃ、文句も出ないさ。予定外演習が入ったとでも言えば、うちの隊の連中以外にはなんとかなるって」

 楽観的な物言いのライヒアルトに、シェスティンは沈黙する。

 だが、即座に彼女から声が返った。

 『行くぞ』

 ここで躊躇っても今更だ。図太く行こうと腹を括りなおしたのだろう。そう、何か有ればあった時のことだ。

 二人同時に出たロッカーで顔を見合わせる。思考を切り替えたらしいシェスティンは、口角を上げ笑みの形を作るときびすを返して歩き出す。

 通路には幸い彼らに干渉する様な者はおらず、彼らは堂々として落ち合う先である、カタパルトデッキまでの道を進んで行った。ヴェンツェルはもう到着しているのだろうかと考える程に余裕がある。

 だがその幸運は何時までも続かない。目的地まで目前と行ったところで、一番会いたくない人物に出くわしたのだ。

 「おい、お前達、パイロットスーツなんぞ着込んで何をしている」

 藪睨みの視線を向けた赤毛の中年一歩手前の彼は、二人の直属の上官だ。同じリヴァーシアンであるこの上官とは、何故かそりが合わなかった。勿論ながら、原因の一端が二人にない訳ではない。リヴァーシアンと言えども肝の小さい者はいる訳で、そんな人間からしてみれば、二人の行いは戦闘中、非戦闘中に関わらず、気に入らないものであるのだから。

 「何をしていると……──っ?!」

 互いに眉間に皺を寄せた二人は、一言の打ち合わせもなく、唐突に動いた。

 シェスティンの右拳を頬に、ライヒアルトの左足を腹に受けた彼は、悶絶する間もなく失神した。まさか部下に攻撃されるとは思ってもみなかったのだろう。絶対的優位に立っていると思いこんでいたのが、全くそうではなかったのだ。

 「ふん。こんなところに出てきたのが、間違いの元だ」

 元から気に入らなかったんだとばかりなシェスティンの言い様に、ライヒアルトは苦笑しつつ問いかけた。

 「で、ノシたのは良いけど、何処に入れとく? 取り敢えずそのまま踏みつぶすのは、多分ダメだろうしね」

 後先考えずに動いたことは、この際横に置いている。

 「そこら辺の部屋にでも…──!!」

 言いかけたシェスティンは、背後に気配を感じ、身構えて振り返った。

 「ヴェンツェル……」

 気の抜けたシャンパンの様な声を上げるライヒアルトは、大げさに溜息を吐いた。

 「何を遊んでいる。早く来い、シェスティン、ライヒアルト」

 取り敢えずここで三人揃ったと言うところだ。

 「ちょっとさー、ウザいヤツに会っちゃってね」

 足下の意識不明者を蹴る様にして示す。ヴェンツェルは片眉を上げ、交互に彼らを見た。

 「考えなしに殴るな」

 「こいつがあんまりにも偉そうだったからだ」

 憮然として言うシェスティンに、心の中で『あんたに偉そうって言われたくないよなー。一応、あっちはオレ達の上官だし』と思うライヒアルトだが、当然それは口には出さない。もっともライヒアルトの方も、今までの思い出と呼ぶにはあまりに貧弱すぎるそれが脳裏に過ぎり、脊髄反射をおこしたのだからどっちもどっちだ。

 「こっちだ!」

 「──?!」

 三人が三人とも、反射的に振り返って構える。

 「……レイン……大佐……」

 二十代後半に見える精悍な顔つきをした金髪の男が、そこにある一室を開けている。

 「オレが何とかする間もなく、お前らノシちまったな」

 苦笑して言う彼に、けれど先ほどの赤毛の上官と同じ様に飛びかかる真似は、誰もしない。

 彼のことは良く知っていた。

 通り名を『ルーベル・ルプス( 赤い狼)』と呼ばれていた、二人の前に七艦に存在したエース。そして今は自分達の隊の連隊長に収まっている、フェリックス・レインだった。

 その彼が、何故こんなところにいるのだと言う警戒心が沸く。

 上官であったが、けれど自分達はその組織自体を裏切ろうとしているのだ。つまり、今はもうタダの敵であった。

 相手はノーマルで、そしてここにいるのはリヴァーシアン三人だ。数と能力だけで言えば、負けないだろう。けれど日頃の飄々とした雰囲気からは想像も出来ないことだが、フェリックスは一時期そのリヴァーシアン達を押さえてエースの地位を保った男だ。きっと一筋縄ではいかないだろうから、迂闊には手を出せない。

 「誰も来ねぇ内に放り込めってんだよ。もうすぐ整備の人間が交代するから、わらわら人が集まってくるぞ」

 確かにその指摘はごもっともなことで、その開いている清掃用具部屋へと元の直属上司であった男を拘束した上に放り込んだ。

 ついでに自分達も、フェリックスを引き込む形でその部屋へと入って内側から鍵をかけた。

 三人の手には、それぞれ銃が握られ、彼の急所へと向いている。

 「おいおい、それはないでしょうがー」

 両手を挙げて、無抵抗の意志を見せるフェリックスは、口調も戯けてそう言った。

 「レイン大佐、何故貴方がここにいらっしゃるのでしょうか?」

 言葉だけは丁寧に、けれど皮肉っぽい口調でヴェンツェルが聞く。

 ここはヴェンツェルに任せた方が良さそうだと考えたらしい二人は、それぞれが急所の位置に銃を構えたまま、どんな動作も見逃さないと言った調子でフェリックスを睨みつけていた。

 「オレんとこにお前らの召集令状が届いてたんだよ」

 フェリックスの元へそれが行くのは、ある意味当然だ。上官に通達もなく、隊を外す訳にはいかないのだから。

 「お前らが大人しく召集命令に従う様なタマじゃねえってことは、先刻承知だ。逃げるなら、手を貸したいと思った。だがどんな風にして逃げ出すかは、解らない。だから絶対に通ると思ったここにいた。まあ、そう言う訳だ」

 あっけらかんとそう言うフェリックスに、暫く三人とも口が利けなかった。

 「なかなかに結構な自己満足ですね。私たちには、別に貴方のあるのかどうかも解らない良心を満足させる為に、ここにいる訳ではありませんが?」

 けれどその意味を咀嚼した後、ヴェンツェルは馬鹿にした様に冷たく言う。そしてそのことは、フェリックス自身も感じていた様で、苦々しげに口を開いた。

 「……解っているさ」

 「私たち以外にも、召集された者達はいた筈ですが?」

 「今回に限ったことじゃねぇよ。……それが本心かどうかは別にして、自分から従うと決めたヤツ相手に、いくら行くな、逃げろと言っても利かねぇだろうが……」

 苦い表情は、彼が以前にそう説得しようとしてなし得なかった事実があったことを示している。

 リヴァーシアンへのこの扱いに、反発している者はそれなりに存在する。けれど絶対数として賛成の人間が多いと言う現実と、一部の者が反対を求めたとしても却下されてしまうと言う事実がある限り、このプロジェクトはなくならない。だから反対の者は、見て見ぬ振りをするか、無駄だと承知しつつも撤廃する様に働きかけるか、そしてフェリックスの様に逃げる気のある人間の手助けをするかになる。

 けれど反対派を名乗る人間には、逆に逃げようとするリヴァーシアンを捕獲する為に偽装している者もいるのだ。そう易々とは、信用できない。

 「すぐさま信用しろってーのも、酷だとは解っちゃいるがね。日頃の行いに免じてってのは、……ないかねぇ」

 確かに彼の評判は悪くない。いや、むしろ良いと言っても過言ではない。

 軍人としての評価は最高で、そしてそう言った人物にありがちな鼻につく言動がないのだ。下す判断は的確で、時にそれは非情でもあるのだが、部下の忠誠ではなく信頼を掴んでいる為、彼に着いていく者は数多くいた。実際、戦闘となった場合に、一番生存率の高いのは、彼が指揮する連隊だ。兵卒にとって良き上官とは、つまりのところ自分達を生かして帰してくれる者のことだ。人柄だけが良くても、無能であればそれだけ生存率は落ちる訳だから良い上官とは言えない。

 そしてフェリックスは、人柄も好まれ、なおかつ有能と言う、お手本のような良き上官だ。

 緊張感がないのではないかと、彼のことを嫌う者達が言う程に、勤務時間を除いた時には気さくでつき合いやすい。彼の現在の立場を考えれば、一兵卒との関係は型破りすぎるのだ。

 「それだけでは、私達が貴方を信用する理由が見あたりませんね。私達に手を貸すとして、貴方のメリットは?」

 心の副音声は『寝言言ってねぇでとっとと失せろ。失せねぇなら何かマシなことでも囀ってみな』であろう。

 「うーーん、メリットねぇ……」

 顎に手を当て考え込んでいる様だが、その実それはポーズであると言うことは三人とも感じている。

 「ないな……。あー、でも、オレがお前達を追っかけ回せば、お互い良いことある気がしないか?」

 ヴェンツェルが何かに思い当たった様に、片眉を上げる。

 そしてその言葉を軽く言ったフェリックスは、すぐにその表情を改め再度口を開いた。

 「もっと早く解っていれば、色々とやりようもあったんだが……。こんなことしか出来ねぇんだわ。すまんな」

 フェリックスの言葉の端々に滲む感情に、シェスティンが反応した。

 「憐れみ等、受ける筋はありませんっ」

 そんなものを受けることは侮辱であると考えるシェスティンが、怒りも露に吐き捨てる。だがシェスティンのそれなど、軍人としても、人としてもはるかに一枚上手な彼の言葉を遮るには至らない。

 「あのな、生きてこその物種とか、死んで花実が咲くものかって言葉があるんだよ。プライド守っててもしようがねえ。クソの役にも立たねぇよ。そんな馬鹿馬鹿しい面子にこだわって死ぬ方が、よっぽど格好悪ぃーんだってこと、気付よ」

 「でもっ」

 「でももクソもない! 逃げるって決めたんだろ? だったら、下手なプライドなんぞ捨てっちまえ! 利用できるもんは何でも利用するくらい、どかんと開き直っちまえよ」

 放っておけば何時までも続きそうな言い合いに、ヴェンツェルがそっと口を挟んだ。

 「大佐。もう少しお静かにしていただけませんか? 折角片づけたのに、また人が来ます。そうなったら大佐のご厚意も無になりますが?」

 あっと気が付いたフェリックスは、ばつの悪い顔をしてすまんと一言言う。

 ライヒアルトは、フェリックスの好意に乗るつもりであろうヴェンツェルを見て、怪訝な思いを浮かべる。下手に絡まれれば、自分達の行く先を知られることになるのだ。

 ある意味、シェスティンよりも頑固なヴェンツェルにしては、妙なことだ。何か思いついたのだろうか。

 「大佐。でも、我々に手を貸したことがバレれば、貴方も無事では済まないのではありませんか?」

 ヴェンツェルのその問いに、フェリックスはにやりと人の悪い笑みを浮かべる。

 「自分の身くらい自分で守れるさ。何処にでも、英雄と言う名の偶像は必要なのさ。それにな、伊達に軍隊暮らしが長い訳じゃない。ちゃんとそこらへんは考えてるさ。心配するな」

 長いからこそ、抜け道の一つや二つを用意している。そう、言っている。

 肩をすくめたヴェンツェルは、二人に向き直って言った。

 「取り敢えず、シェスティン、ライヒアルト。ここは有り難く好意は頂いておこうぜ」

 ライヒアルトには別段こだわりがある訳ではない。要はきちんとフォローさえあれば良いと腹を括っている。シェスティンの方は不満気な顔をしているが、自分だけ反対しても、このメンバーでは腹立たしいが意見は却下されるだろうと解っていた。腹立ち紛れに、転がっているバケツを蹴り潰す。

 「だから静かにと言ってるだろう……」

 呆れた顔で言うヴェンツェルだが、シェスティンは知ったことではないとばかりに睨み付ける。

 面白くない。

 そうシェスティンの顔は言っていた。

 「最後の上官命令だ」

 フェリックスはそう言って三人を見据えた。

 「お前ら、絶対に死ぬんじゃねぇぞ」


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