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星の扉  作者: 斎木 涼
第四章 Innovator――そして船は大海を征く
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 突如として鳴り響いたアラートと、その事態の深刻さを示す様に赤く染まる艦内。

 嫌な震えが、その艦全体を襲っていた。

 ワープに突入したばかりなこの状況で、一体何が起こったと言うのだろう。

 そう思ったヴェンツェルは、ごろりとだらしなく寝そべっていたその身を勢い良く起こした。

 φドライブ航行が運用され始めた当初であれば、その亜空へと突入の際に生じるトラブルは比較的存在した。しかし今はその技術すらも安定し、余程のことがなければトラブルなど起こる筈もないのだ。

 ユースティティアから戻り、当座の住まいとしてナップルーム(仮眠室)の一室を占領した彼は、何の説明も指示もない状況に嫌な予感がする。あのヴァレンティーンでは考えられない手際の悪さだ。

 「一体何なんだよっ」

 危ないと知りつつ、彼はベッドから立ち上がった。

 彼の知らないことだが、ブリッジは今そのような状況ではなく、ただこの事態からどうやって抜け出るかと言うことに躍起になっていたのだ。

 ヴェンツェルはその場に待機すべきか、または状況確認の為に外へと出るか僅かに逡巡する。

 現在の彼は、情報部所属と言えど、ヴァレンティーンの命で特務へと潜り込んでいるから、こちらでの用件が済めば、もうやることはなかった。そして彼の本来の用件はもう終わっている。ヴェンツェルがここに残っているのは、ただ単に特務の旗艦ユースティティアへと戻るタイミングを待っていたからだ。

 アラートがうるさいほどに鳴っていると言うことは、総員慌ただしく動き回っていると言うことで、特にここでの持ち場もない自分が外に出るのはその邪魔をすることになるかもしれない。

 そう理性的に考えようと思考を集中させるヴェンツェルだが、亜空間へと突入している弊害でクルーが予め装着しているインカムもないこともあり、徐々にそれすらもままならなくなってくる。

 またそのインカムを装着してすら、人は意識を保ったまま、長時間この亜空間に存在することは出来ないのだ。

 通常空間とは、時間の流れを始め、何もかもが変質するここは、人の脳や身体に多大な負担を与える。だから跳躍距離(ジャンプスパン)も、あまりに長すぎるそれは忌避され、時間を開け、数度に渡っての跳躍(ジャンプ)が行われるのだ。

 一度の跳躍は、人の感覚で僅かに数秒。

 それがこれほど長く続くと言うのは、異常だった。

 この艦の主要部分にいる殆どのクルー達がリヴァーシアンであることを、ヴェンツェルは感謝する。ノーマルであれば、これほどの時間、亜空にいることは耐えられずに発狂コースへと突入だ。それは艦を運用するクルーに欠員が出ると言うことで、つまりのところ非常事態に対処する人間が減ってしまうと言うことだった。

 ヴェンツェルの視界が歪み、そして足下の感覚さえ危うくなっていくのが解る。

 徐々に自分が失われていくのが感じられた。

 視界から艦の壁が消え、色が消え、そして視覚が消える。あれほど耳に障っていたアラートの音すら、視覚が失われていくのに比例して、何も聞こえなくなってしまった。

 激しい嘔吐感がヴェンツェルを襲う。身体の内部が口を通じて裏返って行く様に、その存在が捻れ、歪み、潰されていく。

 溜まらず膝を突き、腹の中の物を全て吐いた。

 吐いて吐いて、何も吐き出すものがなくなっても、胃液すらカラカラになるほど吐いても、まだその嘔吐感は収まるどころか激しくなる。頭蓋骨の中を直接鉄爪で掻き回され、そして脳髄を毟り取られる様な激痛が彼を襲った。

 既に身体と言う概念が失われつつあるのに、それでも胃だの脳だのと言う感覚を持とうとしている自分が滑稽だ。しかしその滑稽だと感じる自分も、徐々に失われていく。

 ここで死ぬのか……と、そう思ったのが最後だった。

 希薄な存在から、無へと転換しようとした、その瞬間──。

 何か大きな重圧が押し寄せる。

 周囲の存在が主張し始めた。

 無から有へ。

 それは見事なまでの逆転劇だった。

 まるで進化を逆から見ている様に、無彩色から有彩色へと変化し、生ける者の音が返り、そして空間が復活する。

 しかしヴェンツェルには、まだ助かったのだと言う思考は浮かばない。

 海底からいきなり引き上げられた深海魚が、気圧の差で瀕死に陥っている様に、ただただ喘ぐしかできなかった。

 何時しか床に丸くなってその身を庇い、本能で呼吸するだけしか出来ずにいる。

 内臓全てが身体の外へと打ち捨てられた様な、酷い空虚感と脱力感、そして激痛。

 焦点の合わない瞳と、だらりと開いた唇。荒い息だけが、その耳に届く音の様だ。

 どれ程の間、そうしていたのか解る筈もないが、意志が戻り、思考が戻り、そして内臓が痙攣しているかの様な感覚が徐々に鎮まって行くのを自覚した。

 漸く動ける様になった時、彼は意志の力を振り絞り、ゆっくりとその身体を起こすと、壁に縋る様にして立ち上がる。完全に復調している訳ではない為、視界が揺れ、耳鳴りがひっきりなしにするが、それでも現在の状況を知る為に室外へと出て入った。

 通路には誰もいない。当然と言えば当然で、ヴェンツェルがいたナップルーム(仮眠室)は、居住区よりブリッジの方が近かったからだ。休憩の者は、当然居住区にいるだろうし、勤務中であったクルーは、各持ち場にて仕事をしている。ナップルーム(仮眠室)は、僅かな時間のみ休憩を取る時にしか使用されない為、それほど多くのクルーがいる訳がないのだ。

 既に艦は停止しているのだが、今の彼はそれに気付く余裕がない。

 ふらつき、縺れる足を叱咤し、一歩一歩ゆっくりとブリッジへと向け踏み出して行く。ナップルーム(仮眠室)とブリッジがそう遠くない場所であったのは、彼にとって僥倖だ。彼がこの艦のクルーで、居住区にいたとしたなら、今の状況では到底辿り着けなかっただろう。

 永遠かと感じる時間を経て、漸くブリッジへと到達した彼は、無骨な出来の内部を見回し、自分の上司の無事を確認した。流石の彼も、こちらに注意を払う余裕はなかったと見えるが、それでもヴェンツェルよりは数段マシな様相だ。半死状態だと見受けられるイグナーツ艦長と共に、気絶したナビゲータの脇に立ち、コンソールパネルを操作している。

 ひとまず安堵の溜息を吐いたヴェンツェルだが、正面のスクリーンに信じられない物を見た。

 「──これ……はっ?!」

 今まで様々な宙域を渡って来たし、情報部所属であると言うことから、その目の前に存在する星々の位置が、記憶に存在する如何なる宙域とも違った場所を映していることを知った。

 近くには一際明るく輝く恒星が見え、そして更にこの艦に近い位置では、その恒星を周回している惑星が視認できた。

 軋みを上げる身体を引きずって、ヴェンツェルはヴァレンティーンの元へと進んでいく。

 その気配に気付いたのか、ヴァレンティーンがヴェンツェルの方を見た。彼の隣には、ヴェンツェルと同じ様な状態になっているイグナーツ艦長が、身体を微かにくの字に折ってはいるものの何とか立ち上がっている。

 他のクルー達は、コンソールに突っ伏して気絶している者が殆どで、意識を保っている者は極僅かだ。その意識を保っている者達も、暫くは動けそうにないのは、一目瞭然だった。

 「ヴェンツェル……か」

 ヴァレンティーンの声にも、何時もの精彩はなかった。微かに掠れたその声は、ヴェンツェルの名を呼ぶと、小さく自嘲気味に笑う。

 「エーレ、ン……ベルグ、少……将。……こ、こは……一体?」

 苦しい息の中、絞り出した声は、しかしヤケに大きく聞こえる。

 ヴェンツェルのその問いに、何処か楽しんでいるかの様にも思える声音でヴァレンティーンは言う。

 「どうやら我々は、とんでもない場所へ、来てしまった様だな……。……ここは、私たちの住む銀河系では、ないらしい……」

 ヴェンツェルは目を見開く。返事をすることが出来たのは、一拍おいてからだった。

 「まさか……っ?!」

 自分の勘違いであって欲しかった。

 彼に否定して欲しかった。

 だが。

 通常空間に戻り、真っ先に現在宙域の特定を行っていたヴァレンティーンは、知りたくなかった事実を無情にも突きつける。らしいと言っておきながら、彼の言う仮定は事実と大差ないことを、ヴェンツェルは今までの経験上知っていた。

 ヴァレンティーンの隣に並んでいるイグナーツが無言だったのは、受けたダメージだけではなく、この事実をいち早く知ったからだと悟る。

 「まさかこんなところまで、跳ばされるとはな……」

 皮肉気に笑みを浮かべて言うのだが、それでもイグナーツやヴェンツェルの様な愕然としている様には思えない。精彩は欠いているものの、あくまでも冷静で、そしてこの状況を何処か楽しんでいる節がある。

 そう、まるで狂気に支配された悪魔の様に──。




 「嘘だ……」

 そう言いきるシェスティンの声は、けれど語尾が怪しい。

 「信じる信じないは、勝手さ。お前達の好きにするが良い」

 投げ遣りではない。何時もの様に皮肉気な笑みを浮かべ、何処か二人を試しているかの様な色を帯びていた。

 「ではそれは何処にある? カラドボルグが辿り着いたと言う場所は、何処にあるんだ? それすら解らずに、信じろと言う方が無茶だ!!」

 ヴェンツェルの言葉に強く反論するシェスティンへ、答えたのはヴァレンティーンだ。

 「今ここで、それが何処かと答えたとしても、君達だけで行く術はない。だが、君達が離れた場所で見ていたであろうあの光景は、今の連邦の技術レベルでは、到底見ることの出来ないものだっただろう?」

 そう返され、二人は言葉に詰まった。

 あの時見たコロニーの崩壊の光景は、確かに今まで確認されている種の攻撃を受けた時のどんなケースにも当てはまらなかった。

 「このカラドボルグは、こちらとは別体系の科学法則、及び物理法則を元にして新たに作り替えたもの。その体系の論理を知らぬ彼らには、先ほどの光景は悪夢に他ならないものだっただろうな」

 瞳がミラーグラスに隠され、口元だけしか見えないヴァレンティーンだが、大層機嫌が良いと言うのがそのイントネーションから解る。

 「妙な誤解のない様に言っておくが、別にカラドボルグが無敵だとは言ってないからな。分子だの原子だのを知らなければ、それらについて理解出来ないのと同じ理屈なんだよ。要するに、論理が解らないから、それに対する打開策が見出せないと言うだけのことさ」

 本来は知らせる必要のないことを、ヴェンツェルが言って釘を差す。

 例えそのことを誰かに言ったとしても、彼ら二人にその体系の論理が解る筈もない。また、言ったからには、その論理の証明をしなければ信用される訳もなく、けれど彼らにはそれが出来ない。基礎がないことを知っているからこそ、ヴェンツェルは二人にそう言ったのだが……。

 「無敵かどうかなんて、関係ない。だがそんなことっ……」

 『言われたって、納得出来るか』と続けようとしたシェスティンだが、ヴァレンティーンの前だと言うことを思い出して口をつぐんだ。だがライヒアルトは違う。彼はシェスティンほどヴァレンティーンに思い入れはなかったし、何より話をはぐらかされた感があるのにムカついていた。

 「へぇ、じゃあその別体系の論理とやらを、証明して見せてくれる? ああ、オレだって別に、無敵かそうじゃないかなんか、知りたい訳じゃないぜ。ただそんな例を上げてくれたってさ、こっちは納得出来ないんだよね。まあ、行ったこともないとこへ跳ばされたってのはない話でもないだろうが、だが、そこで何で都合良く出会いがあるんだよ」

 ヴァレンティーンの視線など気にした風もなく、思いっ切り馬鹿にした様にヴェンツェルへと言い募る。

 シェスティンが言いかけて止めたことをライヒアルトの口から聞いている二人は、別段不快感を見せている様には見えない。

 実は証明する方法は、彼らにもあるのだ。

 「証明ねぇ……。出来ないこともないけどな」

 ヴェンツェルが顎をさする様にしてそう呟いた。

 特務が作ったXシリーズ。軍では、そこで使用した論理に誤りはないのだと言う。

 だが彼ら二人が言うには、このままXシリーズを運用することは出来ないのだと言う。

 彼らの言うことが正しければ、今現在、パイロットであると言う二人が機体に搭乗しても、システムエラーで起動しないだろう。もっとも起動しないだけで済まないのは確かだが。

 「それってつまり、オレ達にあれに乗れって言うこと?」

 ライヒアルトの挑発する様な物言いに、ヴェンツェルは瞬き一つ、笑みを浮かべた。

 「上等だ!」

 「止めておけ」

 シェスティンが鼻息も荒く、乗ってやると続けようとした時、ヴァレンティーンの穏やかな制止が入る。勢いを殺がれた形のシェスティンと、怪訝な面持ちのライヒアルト。

 そんな二人に、ヴァレンティーンは今回あんな行動を起こした理由の一つを、事も無げに投下した。

 「先程私は、今のままでは起動することは出来ないと言ったね?」

 ころころ変わる話であった為、瞬間二人は記憶を遡るが、数瞬もかからず思い出す。

 それを認めたヴァレンティーンが、よろしいとばかりに頷いた。

 「現在のXシリーズには、致命的な欠陥が存在する。今のままでは、完全な起動が望めないばかりか、パイロット側に深刻なダメージを与えてしまう。元々軍には、無機体は無機体のまま、有機体に進化すると言う概念は持ち得ない。限りなく有機体に近い無機体。これが限界だ。連邦の頭の固いヤツらの脳味噌ではな。これほど色々と手の内を見せてやっているにも関わらず、それに気付かないとはね」

 「お前っ!!」

 ヴァレンティーンの言うことを聞き、シェスティンは挑発したヴェンツェルの胸ぐらを掴み上げようと詰め寄るが、簡単にそうさせる彼でもなかった。

 「熱くなるなよ。シェスティン。もともとそっちが言ったんじゃないか。証明しろってな」

 実際に口にしたのはライヒアルトだが、シェスティンの方もそう聞きたかったのだからヴェンツェルの言うことも完全に間違いではない。ヴァレンティーンの前と言うこともあり、渋々引いたものの、唇を噛みしめ眉間に皺を寄せていた。そんなシェスティンの背を軽くぽんと叩き、ライヒアルトは先ほど気になっていた疑問を口にする。

 「手の内を見せたと仰いますが、それは一体どう言うことです?」

 「今のXシリーズのコアシステムを軍にもたらしたのは、この私なのだから」

 正確には、ヴァレンティーンの意を汲んだヴェンツェル経由で情報部へともたらされ、それを利用した彼らが、ある意味悪意を漲らせて特務へと囁いたのだ。

 「なっ…」

 気負うわけでもなく、そしてまた愉悦に浸る訳でもなく、ヴァレンティーンはさらりとそう言う。これまでの会話で薄々は感じ取っていた二人だが、まさかこうもあからさまに聞くことになるとは思わなかった。けれどそれに対し、ライヒアルトには疑問もある。

 「ヴェンツェルに内部を探らせると同時に、この論理を操る技術者をも、徐々に潜り込ませた。ヴェンツェルの役割は、実は彼らを潜り込ませる為の工作がメインなのだよ」

 「なのに中途半端なものしか出来なかったのは何故です?」

 ライヒアルトが感じていたのは、このヴァレンティーンが関わっているにも関わらず、何故失敗作と言っても過言でない様なものが出来たのかと言うことだ。しかしその問いにも、彼は事も無げに答えた。

 「簡単なことだ。彼らが理解し得なかっただけだ。その片鱗を見せられているにも関わらず、奴らは自分達の常識と法則のみでしか、物を考えなかった。現在のパラダイムの枠を打ち壊すものは、どうあっても認めない。頭の固い連中が揃っていたと言う、ただそれだけのことだ」

 答えなら散りばめられていた。ただそれが、大層意地の悪い方法であったとしても。

 たかがそれだけのことなのだろうか。

 科学者や研究者から探求心を取ってしまえば、もうそれはただ単なる頭でっかちの役立たずだ。言い換えれば、それだけ軍の技術部にいる者達はスポイルされきった頭打ちの状態で、既に科学者足り得ない。

 今まで培っていたもののみを、死守しているだけだ。

 「本来なら、今までお目に掛かったことのない論理が出て来たら、どんなに隠されようと追及したい、暴きたいと考えるのがあいつらの本質だろう? 今までの常識の枠を超え、新たなパラダイムを築くチャンスを掴もうとする筈だろう?

 だが奴らはそんな素振りすら見せなかった。いや、全く気づきもしない。何時までも何時までも、今まで使い古された自分達が後生大事にしている箱庭の玩具でしか遊ばない。目の前にお宝があるのに、自分が見たいものしか見ない、見えない。まあ、こっちにしてみれば、随分楽な仕事だったな。自分達の引き出しの範囲でしか物を考えられないから、そんな間抜けなことになるのさ。その程度でリヴァーシアンの『T Not's』遺伝子の秘密を解明するだって? 馬鹿馬鹿しすぎてお話にならないな」

 ヴェンツェルの言い様は、容赦がなかった。

 けれどライヒアルトには、ヴェンツェルにそうこき下ろされた連中に同情してやるつもりは更々ない。勿論それは、ヴェンツェルに感化された訳ではなかった。

 「無知というのは、全く以て罪深きことだ」

 言葉とは裏腹に、全くそうは思っていないのが解るそのイントネーション。

 それは次に口を開いた内容からも明らかだ。

 「それに気付いて完成品を仕上げてくれるのであるなら、それはそれで良かったのだがね。こうして急ぎここへと赴く必要もなくなることだしね」

 唖然とした突貫やヴェンツェル経由で自分達がここへと連れてこられたのは、恐らくそれが理由なのだと二人は察した。

 だがあっさりと知識を渡すのは、やはり腑に落ちないものを感じる。

 「どう言う意味でしょうか? 少将は敵に塩をやるつもりなのですか?」

 眉を潜め、シェスティンがそう聞いた。彼女にしてみれば、ずっとと言うなら納得も出来ると言ったところなのだろう。

 「シェスティン、君は面白いな」

 「え?」

 からかう様に言うヴァレンティーンに、ライヒアルトは子供染みた不快感を抱く。対してそう言われたシェスティンは、戸惑いの表情を浮かべて言葉に詰まった。

 「いや……。……ただ、何時までも奴らにリヴァーシアン狩りをさせておく訳にはいかない。そう思っているだけだよ。塩を送ると思って貰っても、あながち間違いではないがね」

 また話が見えない。

 恐らくヴァレンティーンは、こうして本質を彼らから隠しているのだろうと、ライヒアルトは直感する。

 もっとも全てを素直に話して貰えるとは思ってはいない。一筋縄でいかない相手であると言うのは、ヴァレンティーンと言う人間の人となりを知らなくとも解る。

 ちらちらと核心には迫りつつも、けれど決して全てを話す気がない。何処まで彼らが自力で答えを出すのかを、彼は見定めようとしている。

 シェスティンの様な憧れににも似た感情をヴァレンティーンに持っていない彼だからこそ、そう感じるのだ。勿論そのシェスティンとて、これがヴァレンティーンから出た言葉でなければ、当の昔に馬鹿馬鹿しいと捨て台詞を吐いて回れ右をしている。

 シェスティンは有能で有益な者が好きだ。ある意味純真で、それは単純とも呼ばれるものかもしれない。だからこそ、こうしてヴァレンティーンの話に耳を傾けているのだと、ライヒアルトはそう思っていた。

 「そしてリヴァーシアンには、実は公表されていないもう一つの事実が存在する」

 そしてそこへ、ヴァレンティーンから更なる爆弾が投下されたのだ。


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