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星の扉  作者: 斎木 涼
第四章 Innovator――そして船は大海を征く
13/16

 「ようこそ。カラドボルグへ」

 何処か芝居じみてそう言ったのは、ヴェンツェル・ヘーガーだ。

 彼は我が家の様に、その内部へと二人を案内した。

 「やっぱりな……。そう言うことか」

 シェスティンがそう言い、ライヒアルトがそれに同意する様に肩を竦めた。

 高速戦闘艦カラドボルグ。

 それは五年以上も前に建造され、すぐさま消息不明になった情報部の戦艦だった。

 つまり、ヴェンツェルの背後にいたのは、彼らが推測していた通り、現情報部ではなく、前情報部の生き残りであったと言うことだ。

 ただ、情報部の前部長、ヴァレンティーン・エーレンベルクは、信奉者を持つと言う意味で、未だ銀河連邦軍情報部内に影響力を持っていた。公式には生死不明となっていても、実際にそれを信じる者が少なかったのは、上層部の一部がヴェンツェルからその身の無事を聞いていたのではないだろうか。

 その人となりは、生きた伝説と言われるフェリックス・レインとはまた別の意味を持つ伝説でもある。

 「流石だな。解っていたか」

 「考える為の、時間と情報はあったからな」

 「成程」

 そう言いつつ、居住空間を抜けブリッジへと歩を進める三人は、元々連邦軍の極秘戦艦であった筈のカラドボルグの内装に、舌を巻いていた。

 通常の通路などは、ごく当たり前な戦艦のそれではあるのだが、その居住空間の区画は、何処ぞの高級ホテルと言っても過言ではなかった。

 ゆっくりと周囲を見回しているライヒアルトに、シェスティンが肘でつつく。何だと見ると、彼女は目を眇めて何かを促していた。一瞬何だと思ったが、すぐさまシェスティンの意図に気付き、前を歩くヴェンツェルに向かい声をかける。

 「ヴェンツェル、お前オレに、『オレが何故、第七艦隊へと移動になったか、その理由を知りたくないか?』って、そう言ったよな」

 素直に答えるかどうかは別にして、ライヒアルトは彼が話を振る前にそう聞いた。

 二人の一歩前を歩いていたヴェンツェルは、瞬間足を止め、彼らを振り返る。片眉を上げ、愉快気に唇を歪ませるとあっさりと肯定した。

 「言ったけど? ……何? 今聞きたいのか?」

 「まあね」

 ライヒアルトのその答えに、ヴェンツェルはシェスティンの方を微かに見ると肩を竦めて返事を返す。

 「ま、良いけどな。……だがお前ら、もうそこらへんの答えも持ってんじゃねぇのか?」

 切れ長の瞳が、微かに揶揄の色を持って二人を見る。

 けれどその仕草は、決して彼らを敵視したり、侮蔑しているものでないことを二人は知っていた。

 「それが当たってるかどうかなんか、解んねーよ」

 「言ってみな」

 くいと顎でライヒアルトを促した後、ヴェンツェルはまた二人に背を向けて歩き出す。

 通路には誰の趣味か、擬似重力を発生させている為、彼の本来の体重で居住区の通路に敷き詰められている毛足の長い絨毯が沈んだ。

 「お前は元々特務所属じゃなくて、情報部所属だった。これはOK?」

 背中に問いかける形のライヒアルトに返った答えは、ヴェンツェルの肩を竦める姿だ。だから正解。違うのなら、彼の失笑が返る筈だから。

 「あの事件の唯一の生存者として帰ったお前は、情報部所属故に、一度そっちに呼び戻され、特務から施された意識操作を解除された。特務が隠そうとした事実を、前情報部部長、エーレンベルク少将直属であったお前から引き出す為に。……恐らく、情報部はエーレンベルク少将の消息を、一番知りたかったんだろうな」

 シェスティンが続けたそれに、右肩を僅かに上げて肯定。

 ただそれだけの反応に、何か言えとシェスティンが詰め寄ろうとするが、次に予想外のことを言い出したライヒアルトに目を瞠る。

 「そして……。エーレンベルク少将は、特務の巻き添えにあったんじゃない。彼自身が嵌められたんだ。わざわざカラドボルグって棺桶をプレゼントされてな。特務艦ユースティティアは、それを知った彼に沈められ、更に彼の手によって不自然じゃない程度に修復されてから軍に発見される様仕組まれた。ヴェンツェル、お前を軍へスパイとして入り込ませる為に、そしてそれは現情報部上層部の意向でもある」

 ヴェンツェルの足が、ぴたりと止まる。

 ゆっくりと彼が振り向くと、その顔には凍った笑みが張りついていた。

 それを口にしたライヒアルトは、ヴェンツェルのその表情から何かを探ろうと、そしてシェスティンは、初めて聞くライヒアルトの憶測に唖然としている。

 二人を交互に見るヴェンツェルの顔が、納得の意に染まり、そして一息吐いてから口を開く。

 「成程、当然の帰結と言う訳か」

 ヴェンツェルの言葉に、微かに眉を潜めたシェスティンは、すぐさまその意味に思い当たり、ライヒアルトの方へと詰め寄った。

 「お前っ!!」

 「ずっと考えてたことだよ」

 胸ぐらを掴み上げようとしたシェスティンに、皮肉気に口元を歪め、ライヒアルトはそう答える。

 何故ユースティティアは半年もの間、消息を絶っていたのか。

 情報部の戦艦が何故作られ、都合良く消息を絶ったユースティティアと共にいたのか。

 そして何故ヴェンツェルだけが、生還したのか。

 考えての結論がこれだった。

 最後のスパイ云々からは、オマケ程度の話だ。

 要はあの事故が、初めから少将を狙ったものであり、カラドボルグ建造ですらその一旦を担う為に行われたに過ぎないと言うこと。

 「オレはユースティティアと一緒に、情報部の戦艦カラドボルグがいたことを聞いてたからね。その分情報も余分にあったし、考える時間も長かったんだよ」

 シェスティンにそう告げると、ライヒアルトはまた続けた。

 「公式が大嘘だって解ってたからさ、そっちは全く判断材料にならない。

 で、だ。ユースティティアが消えた宙域には、カラドボルグがいたんだろ? カラドボルグに搭乗していた指揮官は、あのエーレンベルク少将。そしてユースティティアに搭乗していた指揮官は、少将には劣るだろうが、腐っても特務のナンバー2だったって話だ。

 何でこの二人がいるのに共倒れになんかなるんだよ。美しく手を取り合ってとまではいかないだろうが、少なくともどちらか一隻に何かあれば、片方が手を打つ筈だ。特務の戦艦がホントは全部で何隻いたのかってのも結局解らない話だけど、多かったなら旗艦が二隻とも消える羽目になるのは勿論、その他の艦はどうなったのよ。全滅か? まさか宇宙の不思議とやらにも遭遇した? それとも都合の悪いことは、黙って本部(お家)に帰って、特務(ママ)議会(パパ)に泣きついた後、よしよし(不問)とかしてもらった訳?

 ──あり得ない」

 最後にきつく言い放ち、フンとばかりに明後日の方向へと視線をやったライヒアルトを、シェスティンは愉快そうに見ると続ける。

 「成程、そこから結論を出すと、さっきお前が言った『エーレンベルク少将は嵌められた』になる訳だ。

 未知なる現象とやらで仲良く特務と情報部が消えたなど、馬鹿馬鹿しくて考える気にもならん。あり得るなら、どちらかが片方を消そうとしたってことだ。そして消そうとしたのがエーレンベルク少将なら、彼まで消える理由がない。少将の後ろには、フリードル家がいた筈だ。そのフリードル家を裏切り、そして特務を消したのでなければ、彼には身を隠す必要性がない。既にその時フリードルと切れていたとしても、エーレンベルク少将には特務を攻撃する理由がない。

 逆に特務が消そうとしたのなら、それを知った少将が反撃に出たと言うのは考えられる。更には、そのフリードルが後ろにいたのに、特務が手を出したとするなら、現状を鑑みて推測するに、それはもうフリードルが少将を切ったと言う訳だ。……今の特務とフリードルの関係は、あまりに密接過ぎる」

 「……あれには笑っちゃったね。マジで。変わり身早ぇーって。エーレンベルク少将がいなくなって、直ぐだからな。特務とくっついたのは。ってかさ、エーレンベルク少将がいなくなってからと言うより、いなくなる少し前から、特務と接近してたって考える方が自然だな」

 「ま、エーレンベルク少将が何故それに気付かなかったって疑問はさておき、だがな」

 そう言いつつ失笑していたライヒアルトは、次にシェスティンが言い終えてから、すぐに表情を戻し更に聞く。

 「たださ、やっぱ解らないこともあるんだよねー。お前、なんで七艦に来た訳? 少将は何考えてたの?」

 特務に戻されることはあり得ない。それくらいは解る。けれど第七艦隊に来た理由が見えなかった。そのまま情報部内で収まっていても良い筈だ。むしろ特務から無理に戻したであろう彼を、すぐさま軍内部で一番目立つ第七艦隊へと配置すること自体が意味不明だ。

 ライヒアルトのその言葉を聞き、ヴェンツェルはふふんと鼻で笑った。

 「ライヒアルト、詰めが甘いな」

 「あぁん?」

 その言い方にムカついた。目を眇め、目つきも悪くヴェンツェルを見るが、そんなことで恐れ入るような彼ではない。

 「俺がラッキーセブンに来たのは、別にあの人の指示じゃないぜ? 純粋に、現情報部から発令されたもんだ」

 「エーレンベルク少将と元情報部は、繋がっていないと言うことか?」

 シェスティンは、確認するかの様にそう聞いた。

 「微妙なところだな。全く関わり合いがないと言えば嘘になる。だが、お前らが思ってる程、深く繋がってもいないってとこだな。まあ、目立つヤツがいるからこそ、逆にその影に隠れて見えなくなるってことも、なきにしもあらずって考えもあるだろうがな」

 「そう言うこと……。ほーーんと、お前って詐欺師みたい。七艦に何で来たのか教えてやるっつってたクセに、実は理由なんかなかったんだってことなんだからさ」

 それを鼻で笑うヴェンツェルは、どっちもどっちだろうとばかりに言い返す。

 「お前だって、別にそっちを聞きたかった訳じゃないだろ? お前が……いや、お前ら二人が聞きたかったことは、今話したと思うぜ?」

 「まーね。大体のことは聞いたけどさ」

 「一番気になることは、まだだな」

 シェスティンが何を言っているのか、ヴェンツェルには解っている様だ。彼はにやりと笑って口を開いた。

 「俺にも解らないことはある。そこらへんは、直接聞けよ。……もっとも聞けたら、の話だけどな」

 そう言って再び歩き出そうとした彼は、ふと思い出した様に二人へと振り返る。

 「……そう言えば、宇宙の不思議ってのは、確かにあったかもな」

 そう言って微かに笑ったヴェンツェルの顔は、しかし何処か切なさを含んで見えた。




 暫く歩いた後、漸く第一ブリッジへと到着した三人は、ナビシステムが発する滑らかな声に応えるヴェンツェルに続き、その中へと入って行った。

 唐突に開かれた空間は、彼らが見慣れたそれとは全く違う。

 広々としたそこは、大きく前面に強化ガラスと見紛うばかりのスクリーンがあり、そこには宇宙が映し出されていた。スクリーンを間に挟んだ左右に、ちょうどブリッジの外壁に張り付くようにしてクルーのシートがある。そこには若干名のクルーが着席し、目の前にある個々のモニターを見据えて、忙しなく仕事をしていた。それのほぼ同心円上に一段高く小さな円を描いた、外周のクルー達のとは違う設備を持つ六つの空席がある。その外周、内周のシートの中心、またはブリッジの中心とも呼べる位置に、更に高い場所にあり、ブリッジ全てを見渡せる様なキャプテンシートがあった。白を基調に整えられたそのブリッジは、無骨なそればかり見ていた彼らには、とても洗練されたものに思えた。

 ちょうど真正面に宇宙を見据える形な彼らは、キャプテンシートにいる金髪の男に目を奪われる。彼らの気配に振り返った男の顔には、その表情を隠すミラーグラスがあった。

 「エーレンベルク少将……」

 呆然として言うシェスティンに、軽く笑った彼は落ち着いた声で返事をする。

 「五年半前までだがね。ともかく、カラドボルグへようこそ。さあ、こちらへ来たまえ」

 その言葉とともに、彼もまたキャプテンシートから降りると、床へと足を降ろす。

 彼に連れられ一旦そこを出た三人は、ブリッジと繋がっているすぐ側にある部屋へと入った。

 小さな部屋で、リフレッシュルームと言うほど大きくはないが、軍のそれよりは可成り居心地の良い部屋に仕上がっている。ヴァレンティーンは奥まで進むと、彼らの方へと向き直り、ゆったりとしたソファーへと身を沈めた。ヴェンツェルがその一方後ろに下がった位置に着く。

 ライヒアルトとシェスティンの二人は、その彼の側近くに横に並ぶ形で整列し、そのまま敬礼を捧げる。

 ヴァレンティーンは僅かに苦笑した様で、手でその敬礼を止めさせた。

 「ヴェンツェル。彼らには何処まで?」

 顔を向けてそう問う。

 「私があの事故の生き残りであること、そして私が情報部所属であったと言うことまでです。……ですが、彼らはそれ以上のことを知っているそうですよ」

 面白いと言った風に、唇に笑みを浮かべたヴァレンティーンは、次いで二人を見つめた。

 「……君たちは承知の様だが、改めて名乗っておこう。私はヴァレンティーン・エーレンベルク。銀河連邦軍、前情報部部長。そして現在は、この戦艦カラドボルグのキャプテンだ」

 最上の敬礼を返し名乗ろうとする彼らを笑って受け流し、ヴァレンティーンは続ける。

 「知っているよ。君が、シェスティン・リクセト・オズボーン。そして隣の君がライヒアルト・フィッシャー・ディースカウ。ヴェンツェルから報告を受けている。そして同時に、君たちは銀河連邦軍第九艦隊が情報部と技術部の応援を受け、極秘に開発していた新型戦闘機、Xシリーズのパイロットでもある」

 「──え……?」

 何を言っているのか、二人には解らなかった。

 「それはどう言うことでしょうか?」

 困惑を隠せないライヒアルトが、そう問いかける。

 「今回君たちが召集を受けたのは、この新型戦闘機の開発内容に理由がある」

 「新型戦闘機とは、一体何のことでしょう?」

 ライヒアルト曰く、自分達を拾うと同時に囮とした理由は、どうやらそれにあるらしいと察することは出来る。

 特務が関わっているから、情報が漏れてこないのは当たり前の話だが、シェスティンは敢えてそう聞いた。

 「先にも言った様に、Xシリーズと呼ばれる新型戦闘機だ。特務部隊専用に開発され、そのコンセプトは『進化する戦闘機』」

 『進化する戦闘機』、この言葉が彼の口以外から出たのなら、二人とも一笑に付するだろう。けれどこのヴァレンティーンと言う男の背景を鑑みると、含みのあることは言っても、意味のないことは言わないと言うのが解る。二人は互いに横目で見つつ、同じ事を考えているのを確認した。

 「特務が中心となり、内々に開発していた戦闘機のことだ。……五年半前からね」

 「なっ――?!」

 それが何を指すのかを知るシェスティンが短くそう叫ぶと、ヴァレンティーンは微かに微笑み頷いた。

 「そう、五年半前だ。……もっとも、当時とは、使用しているシステムが異なっているがね。Xシリーズと呼ばれるそれは、呼称はあの時のままだが、コアシステムが少々特殊になっている。機体自体が人を選ぶと言う気難しいものでね」

 「機体が人を選ぶ? それはただ単に、セキュリティの問題ではないんですか?」

 バイオメトリクス認証を使用してのことなら、人を選ぶと言うことも解らないではないが、これは通常のロックシステムとは違う為に、それを戦闘機に使用するのはかなり常識外れだ。何故なら、緊急事態が発生し、その認証がかけられている機体に搭乗する当人が解除出来ない場合──一番可能性のあるシチュエーションとしては、パイロット自身が機体内部で意識不明となり、機体自体を操作出来なくなったと言うものがある──に、外側からは破壊するしか手の打ちようがなくなるからだ。

 「違うな。リヴァーシアンが持つ特性の一つに、マシン内部に意識を展開させると言うものがある」

 次から次へと関連性がないと思える話題へと転換され、二人はかすかに戸惑いを見せた。

 リヴァーシアンはノーマルと違い、自身が呼吸するかのごとくマシンシステムと連動することができると言う特性を持っている。そしてそれは、そのままマシンとの連結を行うことで、または応用として銀河系の全てに張り巡らされているギャラクシー・コム・ネットに意識を展開すると言うことでもある。

 所謂、ヴァーチャル・コム・ダイブと呼称されるものだ。

 数世紀前よりネットワーク内に、擬似人格を投影し、リアリティーを楽しむシステムが確立している。だが、ノーマルとリヴァーシアンでは、その内容が全く違った。

 ノーマルがVRヴァーチャルリアリティを楽しむと言うのは、簡単に言ってしまうと、ニューロシステムとリンクして、自分の周囲にその擬似空間を発生させ、あたかもその内部の一部として知覚させていると言うことだ。それに対しリヴァーシアンは、ニューロシステムとリンクした際、己の意識体を逆流させてその内部へと侵入し、本当の意味でシステムと一体化することを指す。そんなことが出来るのは、テラノーツではリヴァーシアンだけで、後は身体の半分ほどを機械化している者達と一部の特殊能力をもった種族だけだ。

 「今回、Xシリーズに使用すべきコアは、本来そこから数段飛躍したものでなければならなかった」

 さらりと流して言うが、それが簡単でないことくらい誰だって解る。

 そして言葉通り、現段階で使用されているそれは、遙かに劣ると言うことだろう。

 「我々の特性は、確かにシステムと一体化すると言うことも含みます。だからこそ特に、……そう、機体などを扱うにおいて、リヴァーシアンの反応速度を初めとする能力が、ノーマルのそれを上回る訳ですが、それとこれとは話が違いすぎませんか? 更に、それが『人を選ぶ』と言うこと、そして『進化する戦闘機』と言う話に、どうやって繋がるのかが、理解出来かねますが?」

 ライヒアルトがそう疑問をぶつけると、ヴァレンティーンは頷いて続きを述べた。

 「Xシリーズは、リヴァーシアンがリヴァーシアンである所以の『T Not's』を識別することで初めてシステムが起動する。更に今までの機体と比べ、ニューロリンクシステムが遥かに強化されている為、現在の機体で感じていたロスタイムがほぼない。

 ほぼ……と言うのは、初期値においてのことだ。搭乗することによってリンクしたニューロシステムは、パイロットの反応速度をメモリし、リアルタイムで戦闘に反映する」

 現時点の技術では、流石にリヴァーシアンの反応速度に完全に着いていける動きをする機体はない。だが、ただ単にそれだけが特化しているだけでは、わざわざ特務部隊専用と銘打つことも、そしてその存在を隠すこともない。しかも『T Not's』を識別するとなれば、リヴァーシアンにしか搭乗出来ないと言うことになり、そんな機体を開発するなど、あまりに無駄が多すぎる。やるとすれば、ノーマルであってもリヴァーシアンやその他戦闘種族と呼ばれる者達と、互角に張り合える様な機体を開発するべきであろう。

 「疑問は解るよ。ちなみにノーマルならノーマルで識別方法が変わるのだが、あれに認められるノーマルは、ほぼいないだろうね」

 ほぼと言うことは、いない訳ではないのだろう。

 だがしかし。

 「それはフィードフォワード機能やハイセレクト機能と、どの様な違いがあるのでしょう」

 フィードフォワード機能、及びハイセレクト機能は、当然の様にして搭載されている。ヴァレンティーンが今言ったことは、全て現在の機体には反映されていた。特務が開発したと言うXシリーズに、目新しいものは存在しないのだ。

 「……記憶と言うより、それは一度リンクすることで、機体がパイロット自身と一体化すると言った方が適切だな。外部から取得したデータを元に、作戦の立案や機体の制御などまで提案すると言った、所謂ソフトが変化するタイプは、既に運用済みだ。しかしながら、所詮完全なるリアルタイムでの運用にはまだ遠い。だがこのXシリーズは違う。リアルタイムで運用出来るのは勿論、従来のタイプとは違い、ハードが成長を遂げ、またXシリーズのそれぞれが独自の成長を遂げる。……まるで彼らに個性が生まれる様にな」

 「……え?」

 その口振りは、パイロットを親とし、まるで子供が大人へと成長する様に機体もまた成長すると言っている様に聞こえる。だがそんなことは、あり得ない。ご都合主義のホロムービーではあるまいに……。それは現在の科学レベルでは、『公的に存在してはならない』ものなのだ。

 そう、あり得るとするならば、その機体には有機体が使用されていると言うことだ。

 無機体では限界が存在する。

 ただの有機体ではあり得ない。そんなことが出来るのは…。

 シェスティンとライヒアルトは、その有機体が何であるのかを考えて慄然となる。

 それが当たっていれば、第一級の連邦違反だ。

 だがヴァレンティーンの口から出たのは、意外な一言だった。

 「科学の、もしくは物理法則のパラダイムフュージョンだよ」


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