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The courageous Tin-Can ~小さな勇将~

作者: 石田零

 青い世界が、広がっている。

 下も、上も、すべてが青に包まれた世界。空と海の青の、微妙な色彩の違いだけが、天地の区別を可能にさせている。

 遠く霞む水平線まで、見渡す限りの青。そこに、別の色を加える一団があった。一団は、青い海に幾筋もの白線を刻んでいく。船の航跡だ。

 アメリカ海軍第七七任務部隊第四群第三集団――通称「タフィ3」――は、進軍の途上にある。その中の一隻、護衛駆逐艦『サミュエル・B・ロバーツ』は、西を指した艦首に白波を砕きながら太平洋を航進していた。

 『サミュエル・B・ロバーツ』は、ジョン・C・バトラー級護衛駆逐艦の一隻で、全長は三〇六フィート。全幅三六フィート、最高速力二四ノット。乗員数二百名、主砲は三八口径の五インチ単装両用砲が二門という小さな軍艦だ。

 今年になって竣工したばかりの『サミュエル・B・ロバーツ』は、随所に真新しさを残している。まだペンキのにおいが感じられそうな艦上で、前部砲塔要員のリチャード・カッター二等水兵は、シガレットの煙と共に溜息をついた。

「ったく、何でオレがこんなブリキ缶(Tin-Can)に乗らなきゃならないんだよ」

 心底不服そうな口調で、リチャードが言う。竣工したての新鋭艦に乗艦しているにも関わらず、彼の表情には不満の色が濃い。彼はシガレットを口に運び、再び悪態を吐こうとするが、その頭に猛烈な痛みが襲いかかった。

「誰がボロ船(Tin-Can)ですって!」

 大リーグのホームランバッターに思い切り打たれたかのような激痛にうずくまるリチャードの頭上から、怒気を孕んだ声が降る。鈍痛に顔をしかめながら、リチャードは肩越しに声の主を振り返った。

 そこにいたのは、一人の少女だった。年は十代中頃。小柄だが、決してか弱い印象は受けない。金髪の間から覗く碧眼には勝ち気な光が宿り、彼女の性格を物語っている。

「いってぇな、サミュエル! 何すんだよ!」

 抗議の声を上げ、リチャードは少女を睨む。リチャードと少女の身長差は頭二つ分ほどあるため、体格差は歴然としている。だが、勝ち気な少女は自身より遥かに背の高い男性を前にしても、たじろぐ事なく言い返す。

「あんたがあたしのこと、ボロ船(Tin-Can)なんて言うからよ! それと、その呼び方もやめて! サミュエルなんて男の名前じゃない! あたしの名前はエリィ!」

 少女――エリィは、手にした拳銃を振りかざして怒鳴る。十二インチ近い銃身を持つ特異な形のリヴォルバーは、先程リチャードの後頭部を殴打するのに使用したものだ。

「ハン! お前みたいな暴力女にゃ、男の名前で十分だ!」

 並の大人も怯む剣幕を前に、リチャードも一歩も引かない。逆に、鼻を鳴らしてせせら笑ってみせる。

「……言ったわねぇっ!!」

 リチャードの挑発に、エリィは怒りを爆発させる。エリィは、手にした拳銃で再びリチャードに殴りかかる。今度はリチャードの眉間に命中した。

「ぐっ……。てめぇ、リヴォルバーのバレル使って人殴るヤツがあるか!」

 血が薄っすらと滲む額を押さえ、リチャードが抗議するが、エリィはそっぽを向いてこれを黙殺する。リチャードは諦めたように溜息をつくとその場に座り込んだ。

「……ったく、どうしてオレがこんな艦に乗る羽目に……」

「それはあたしの台詞よ」

 リチャードの愚痴に、エリィがすかさず言い返す。

「オレが海軍に入ったのは、戦艦に乗りたかったからだってのによ……。巨大な主砲を発射して、敵の船を一発で沈める……そんな活躍がしたかったのに、よりにもよって、こんなチビ船かよ。ノース・カロライナ級とか、サウス・ダコタ級が良かったぜ」

「ふんっ。あんたみたいなバカが、戦艦の主砲なんて任せてもらえるワケないでしょ。あたしに乗れただけでも幸運だと思いなさい」

「ったく、チビのクセに偉そうに」

「うっさい!」

「あだっ!!」

 エリィのリヴォルバーが、リチャードの脳天に再び炸裂する。

 頭を抱えて悶絶するリチャードを尻目に、エリィは涼しい顔で歩き去った。


 古来より、船乗りたちの間には、洋の東西を問わずに語り継がれている一つの伝説がある。船には一隻ずつに魂が宿っている、という伝説だ。

 船の魂、すなわち船魂(ふなだま)。軍艦では艦魂(かんこん)と呼ばれるその存在は、航海の安全を司る守り神であるとされている。縁起を担ぐことの多い船乗りたちの間では、この伝説はそれなりに広く知られている。

 だが、面白いのはここからだ。伝説によると、ごく稀に艦魂の姿を見ることができる者がいる。そして、彼らの言葉によれば、艦魂は皆、若い女性の姿をしているというのだ。

 限られた者しか触れることができない、船の守り神。それだけでも話のタネになるところを、その守り神は女神であるという。女気が皆無の職場環境において、船乗りたちが艦魂の伝説に惹かれるのは当然のことといえた。

 リチャードも、初めはその一人だった。海軍入隊直後の基礎訓練中に艦魂の噂を聞いた時は、大いに胸を躍らせたものだ。自分が配属される艦の艦魂は、どのような姿をしているだろうか。自分は果たして、艦魂を見ることができるだろうか。そんなことを、夜な夜な同期の連中と熱く語り合っていたものだ。

 ……しかし。そうした思いは、教育隊を卒業した直後に雲散霧消した。人生初の乗艦となる『サミュエル・B・ロバーツ』に配属され、「彼女」に出会ったことによって。

「総員戦闘配置!」

 けたたましいブザーの音と共に、艦内スピーカーから鋭い声が流れる。たちまち、艦内は配置へ急ぐ乗組員の足音で溢れ、物々しい雰囲気となる。この時間帯に非番だったリチャードも、自らの持ち場である艦首の一番主砲塔の中に飛び込んだ。

 だが、配置に就いたは良いもののリチャードにやる事は無い。砲塔内にいる他の乗組員も、どこか手持ち無沙汰な様子で待機している。

 それもその筈である。今のところ、彼らの乗艦は直ちに砲撃する事の無い状況にあったからだ。

 『サミュエル・B・ロバーツ』の現在位置は、フィリピン中部のサマール島の沖合。同艦を含む「タフィ3」の一団は、洋上の飛行場としてフィリピン上陸作戦の航空支援に当たっていた。

 航空支援であるため、主役は空母の艦載機である。この間、護衛の艦艇にやる事は無い。実際には敵襲の警戒という役目があるが、それはレーダー室やソナー室の仕事だ。敵が接近して来ない限り、砲術科の乗員に出番は無かった。

 緊張感はあるが、どこか手持ち無沙汰な感は否めない。恐らくそれは、外にいる「彼女」も同じことだろう。

 砲塔前面の覗き窓に顔を寄せ、リチャードは外を見る。彼は数秒、視線を左右に走らせると、ある一点に目をとめて苦笑いを浮かべた。

「……やっぱりな」

 彼の視界の中央には、一人の少女の姿があった。少女はこちらに背を向け、艦の舳先に仁王立ちしている。煌らかな金髪が風で暴れていても微塵も気にかける様子はない。そこらの水兵よりも、よほど堂々とした立ち姿だった。

「それにしても……何であんなヤツが艦魂なんだか」

「何をぶつぶつ言って……ああ、そういやお前は艦魂が見えるんだったな」

 リチャードの独り言を耳にし、主砲塔を治める分隊長が声をかける。

「今も見えてるのか?」

「ええ。腰のホルスターに手を掛けながら、錨甲板に仁王立ちしてますよ。あの様子だと、ジャップの飛行機がレーダーに映ったら視界に入る前から発砲しますね」

「ハハッ、そいつは頼もしいな。俺も一度、お顔を拝んでみたいものだ」

「やめといた方が良いですよ」と、リチャードは上官に進言する。

「あいつときたら、ちんちくりんで色気の欠片もありませんから。おまけに性格も乱暴で……この間も、リヴォルバーのバレルで頭をブン殴られました」

「仲が良いんだな、お前達」

「ご冗談を。あんな子供を通り越して動物みたいなヤツ、誰が……おお、怖っ」

「どうした?」

「サミュエルがこっちを睨んできました。あの地獄耳め」

 小さな覗き窓の先では、肩越しに振り返ったエリィが鋭い眼光を主砲塔に向けてきていた。恐らく、砲塔の中の会話が彼女に直接聞こえていたわけではないだろうが、背後から不快な気配を感じ取ったに違いない。

「おいおい、あんまり彼女を怒らせるなよ? 艦の守り神に機嫌を損ねられちゃ、たまったもんじゃないからな」

「はぁ……。気をつけます」

 冗談混じりの口調で、分隊長が言う。リチャードは、溜息混じりで頷くしかなかった。


 アメリカ軍のフィリピン攻略作戦は、今のところ順調に進行していた。

 十月十七日に上陸部隊がレイテ湾入口の小島に進出したのを皮切りとし、二十日には本命であるレイテ島への上陸を果たした。海からの航空・砲撃支援を受ける陸軍は装備の性能差もあって敵を圧倒し、次々と拠点を制圧していった。

 もちろん、敵である日本軍も指をくわえてこれを眺めているわけではない。上陸直後こそまともな反撃が無かったが、二四日に入ってから多数の敵機が空襲を仕掛けてくるようになった。また、偵察機からは日本艦隊の接近も報じられてきており、いよいよ本格的な戦闘が始まると予想された。

 しかし、サマール島沖に展開するタフィ3にとって、敵艦隊はあくまで情報の上での存在に過ぎなかった。アメリカ艦隊にはタフィ3の他に大型の空母や戦艦を多数擁する主力が存在しており、敵艦隊の迎撃は彼らの仕事と目されていた。現に二四日には、西方と南方から来寇する敵艦隊を味方艦隊が撃退しており、タフィ3が敵艦隊と直接戦うことは無いと思われた。

 そのような状況で、タフィ3の面々は十月二五日の朝を迎えた。

 洋上の天気は曇りで、所々にスコールを降らす雲が見える。天候はあまり良くないものの、作戦中とは思えぬ長閑な朝だった。

 午前六時半。前日に敵艦隊発見の報告を受けてから続いていた警戒配置が解除され、タフィ3各艦の乗員は通常配置に戻った。夜の間ずっと緊張の糸を張り詰めさせていた乗組員たちはようやく肩の力を抜く事ができ、非番になった者から順に思い思いの休息をとることにした。

「くぅーっ! ようやく解放されたぜ!」

 『サミュエル・B・ロバーツ』でも、狭苦しい主砲塔から抜け出したリチャードが大きく体を伸ばす。彼の顔は、外気に触れた爽快感に満ちている。

「あんな窮屈な空間に何時間もいたら、気が滅入るっつーの。ああ、外の空気が美味い」

「……あんた、仮にも今は戦闘中よ? 自覚あるの?」

 リチャードの横で、エリィが呆れた声を出す。

「どうせ、正面から敵艦隊と戦うのは正規空母と戦艦だろ? 低速の護衛空母がメインの俺達の部隊は、引き続き上陸作戦の支援に徹するだけさ。敵と撃ち合うことにはならねぇよ」

「あたしが言ってるのは、気を抜くなってこと。戦場では、何が起こるか分からないのよ?」

「口うるさいヤツだな……」

 説教をするような口調のエリィを、リチャードは疎ましげに眺める。

「上が警戒する必要は無いって配置を解いたんだ。少しは何も考えずに休んでもいいだろ」

「それが気を抜いてるっていうのよ。そんな調子でいると――」

「分かった、分かった」

 リチャードは鬱陶しげに手を振ってエリィの言葉を遮ると、彼女に背を向けて歩き出した。

「とりあえず今は寝させてくれ。夜の間ずっと配置に就いてて眠いんだよ。起きたら、気が済むまでお説教を聞いてやる」

 そう言って、リチャードは下層へと通じる甲板上のハッチに手をかける。が、彼がそれを開く事は無かった。

 リチャードがハッチを開ける寸前、艦全体にけたたましい警報が鳴った。反射的にハッチから手を離した彼の耳に、二度目の警報が聞こえた。

 警報を鳴らしているのは、彼の乗艦だけではなかった。タフィ3を構成する艦艇――六隻の護衛空母、三隻の駆逐艦、四隻の護衛駆逐艦――この全てが一様に警報音を響かせていた。

 異変が起きたことは明らかだった。それも、艦隊全部に破滅をもたらしかねない、尋常ならざる異変が――

「サミュエル、何が起きてるんだ!?」

 彼女に背を向けていた身を翻し、リチャードはエリィに尋ねる。

 艦と一心同体である艦魂の心身には、艦の状態が反映される。艦が何らかの情報に基づいて警報を発したのなら、彼女はその情報について知っているに違いなかった。

 しかし、エリィはすぐに答えなかった。いや、答えられなかった。彼女の口は開いているものの、その唇は小刻みに震えるだけで、言葉を発することはない。その様子から、届いた情報によって彼女が受けた衝撃の度合いを推し量ることができたが、彼にもそれを考慮してやれるだけの余裕は無かった。

「おいサミュエル! 一体何があったんだ!」

「それ、は――」

 彼の剣幕に押され、ようやくエリィが口を開く。そして、彼女が答えを明かす瞬間、彼女の声に重ねて艦内放送が事態の全容を伝えた。

「北西より敵艦隊接近! 敵戦力は戦艦四、重巡四、以下多数!」

「なっ……」

 放送を聞き、リチャードは絶句した。

 文字通りの絶句。驚きのあまり言葉が失われ、周囲の音さえも遠のいていく。それが数秒の間続き――引いた波が寄せ返すように、今度は無数の疑問が彼の胸中に押し寄せた。

「どういう事だよ! 敵は撃退したんじゃなかったのか!? 機動部隊は何やってんだ!?」

 エリィの両肩を掴みかからん勢いで、リチャードは彼女に詰問する。だが、彼女とて、たった今知らされたばかりの情報の詳細を知り得るはずもなかった。

「分からないわよ、あたしだって今知ったばかりなんだから! こっちが聞きたいくらいよ!」

 感情的なリチャードに釣られて、エリィも語気強く言い返す。

 この時タフィ3の前に現れたのは、日本海軍の栗田健男中将が率いる、戦艦『大和』を旗艦とする第一遊撃部隊の主力であった。同部隊は西方からレイテ湾を目指して進攻していたが、前日にウィリアム・ハルゼー中将の空母機動部隊から苛烈な空襲を受けて一時的に撤退していた。ハルゼー中将はこれを見て敵を撃退したと判断し、北方に発見された空母『瑞鶴』以下の機動部隊を撃滅しに北へ向かったのだが、その間に栗田艦隊は再反転して進撃を再開していたのである。

 栗田艦隊の戦力は、戦艦四隻、重巡洋艦六隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦十一隻。対するタフィ3は、護衛空母六隻、駆逐艦三隻、護衛駆逐艦四隻。戦力差は歴然としていた。

 しかし、このような事情は現場にいるリチャードたちには知る由も無かった。彼らはただ、突如として現れた敵の大艦隊に驚愕するだけだった。

「俺たちの艦隊は、護衛空母と駆逐艦ばかり……戦艦が相手じゃ、勝ち目が無い。早く逃げねぇと全滅するぞ!」

「逃げるって言っても、護衛空母は十九ノットしか出ないのよ? 敵の戦艦が何だか知らないけれど、ジャップの戦艦は一番遅いフソウ・クラスでも二三ノット。逃げ切れないわ!」

「じゃあ俺たちだけでも離脱して……」

「バカ言わないで! 私たちの任務は空母の護衛よ!? 護衛対象を見捨てて逃げ出せるわけないでしょ!」

 それに、とエリィは続ける。

「私たちが逃げたら、敵はこのままレイテに向かう。湾内の輸送船を沈められたら、レイテに上陸した何万もの陸軍兵が飢えることになるわ。……タフィ3(わたしたち)の任務は、陸軍の上陸支援。ここで彼らを見捨てることは許されない!」

「っ……、確かにそうだけどよ……」

 陸軍の名を持ち出され、リチャードは言葉を詰まらす。

 エリィの言っていることは正論である。上陸の初期段階を終えたとはいえ、レイテ湾にはまだ多数の輸送船や上陸用舟艇が在泊している。敵がそこに到達すれば、まともな装備を持たない上陸船団が嬲り殺しにされるのは火を見るよりも明らかだった。

 だが一方で、正面から戦ったところでタフィ3に勝算が無いのも事実であった。

 タフィ3の主戦力は六隻の護衛空母である。空母の最大の強みは、艦砲の射程外から行う航空攻撃。逆に、懐に潜り込まれると非常に脆い。それを補うための護衛艦艇も、駆逐艦七隻では非力に過ぎる。勝つことはおろか、負けないようにすることさえも至難の業といえた。

「総員戦闘配置!!」

 と、彼の葛藤を吹き飛ばすようにスピーカーから声が響いた。艦長の声だ。

「本艦は、これより敵艦隊に対し突撃を行う! 総員配置に急げ!」

「そうきたか……!」

 リチャードとしては、あまり望ましくない命令である。しかし、艦長がそのように決断した以上、水兵はそれに従うしかない。まだ兵員室に下りていなかったのを幸いに、彼は主砲塔に向かって駆け出そうとする、が……

「……サミュエル?」

 彼の前にいるエリィが、動かない。常の勝ち気な性格や先程の言動を見れば、真っ先に敵に飛び込んでいきそうな彼女が。

「どうしたんだ?」

 問いかけるも、答えは無い。リチャードは彼女の肩を軽く揺すり、再び尋ねた。

「おい、何かあった――」

 しかし、彼の言葉は途中で途切れた。彼女の肩に触れた瞬間、ある事に気づいたからだ。

 エリィの肩は、震えていた。傍目からは分からぬ小ささで、しかし確かに、震えていた。それを感じ取ったリチャードは、苦笑と共に一つの思いを抱いた。

 ――ああ、こいつも、やっぱり女の子なんだな

 どんなに気が強くとも、男勝りな性格であっても、彼女は一人の少女なのだ。それが、艦魂という人ならざる身の持ち主であったとしても。

 だとしたら、怖くないわけがない。自らの命を懸けた、それも、勝ち目は皆無の戦い。このような状況で、恐怖を感じない方が少数だろう。

 けれど、彼女の性格はそれを表に出すことを許さない。例え胸の内でどれだけ恐怖に震えていようとも、それを見せることは決してしないだろう。

 そう考えれば、先程の言動と今の様子の矛盾も説明がつく。さっきの会話で発した強い言葉は、全て自分を奮い立たせるためのもの。本当の彼女の姿は、ここで震えている方だ。実際は怖くて仕方がないのに、気丈に振る舞っていたのだ。

 そのことに気づいた瞬間、リチャードの胸中に彼女に対する愛しさが広がった。

「……怖いか?」

 リチャードの問いに、エリィは、はっと気づいた様子で顔を上げる。

「そんなわけないじゃない! 私は――」

 彼女の言葉を遮るように、リチャードは彼女の両手を握る。

「無理すんな。手、震えてるぞ」

「これは」

 武者震いよ、と言おうとしたエリィを、リチャードは胸元に抱き寄せる。

「心配しなくていい。お前に手を出そうとするヤツは、俺が片っ端から沈めてやるよ。だから安心しろ、エリィ」

「……っ!」

 囁くような声を聞き、エリィは驚いた様子で顔を上げる。白昼夢でも見たかのような表情で、彼女はリチャードに尋ねる。

「リチャード……今、私のこと……」

「お前がそう呼べって言ったんだろ。嫌だったか?」

「そんなこと!」

 首を左右に振り、エリィは強く否定する。

「……嬉しかったのよ。今まで呼んでくれなかった名前を、やっと呼んでくれたから……ようやく、あたしのことをちゃんと見てもらえたみたいで」

 朱を注いだ顔を隠すように、エリィはリチャードの胸板に顔を押しつける。彼女の声は小さく、表情も窺えないが、耳の頭まで真っ赤に染まっている様は彼からも見ることができた。

「エリィ……」

 これまで目にしたことのない仕草から、リチャードは彼女の本性と、自分の言葉が今まで彼女を傷つけてきたことを知る。彼は暫し少女を見つめた後、乱暴に彼女の頭を撫でた。

「きゃっ!?」

「ったく、ガラにもなく塩らしくなるな。薄気味悪い」

「……あんた、せっかく見直したと思ったのに……」

 寸刻前とは一転、常の調子でエリィが睨む。しかし、リチャードはその視線を意にも介さず、自らが乱した彼女の髪を手櫛で整えてやる。

「別に、女の子らしくないからって、もう男の名前で呼んだりしねぇよ。例え、そいつがリヴォルバーを振り回すような凶暴なヤツだったとしてもな。だから、お前が楽でいられる姿でいろ」

「……それ、元気づけてるの? バカにしてるの?」

「さあ、どっちだろうな。どうせなら、キスでもして思い切り女の子らしく扱ってやる方が良かったか?」

「なっ……、バッカじゃないの!?」

 リチャードの手を振り払い、エリィは彼に背を向ける。

「あんたなんかとキスだなんて、死んでもお断りよ!」

「大丈夫。子供とのキスは、キスの内に含まれない」

「それはあんたの都合でしょ! ていうか今の台詞、絶対ケンカ売ってるでしょ!?」

 エリィは再度振り返り、リチャードを睨みつける。肩で息をするほど声を張り上げた彼女は、数秒の間彼を睨んだ後、「……まあ、でも」と溜息をついた。

「あんたのおかげで、肩の力が抜けたわ。……ありがと」

 苦笑混じりに言うエリィの表情に、恐怖の色は無い。だからといって、彼女が恐怖を完全に打ち消したわけではない事も、リチャードは分かっている。彼とて、本音を言えば今すぐ遁走したい気分である。それを、半ば捨て鉢のような「やってやる」という気合いで抑え込んでいる。

 エリィも恐らく同じだろう。彼女がどのように自分の恐怖心と折り合いをつけているかは分からない。だが、少なくともさっきのような、恐怖で体が硬直してしまう状態ではない。今はそれだけで十分だった。

「さて、いくか。ブリキ船(Tin-Can)の底力、見せてやろうぜ」

「言われなくても」

 不敵な笑みを作るリチャードに、エリィも口角を吊り上げて応じる。拳を突き合わせて別れた二人は、それぞれの場所へと走っていった。


 『サミュエル・B・ロバーツ』は初め、他の駆逐艦と共に空母を守りつつ敵艦隊から避退する行動を取った。しかし、じきにタフィ3旗艦『ファンショー・ベイ』に座乗するクリフトン・スプレイグ少将から、敵艦隊への突撃が正式に命じられ、『ロバーツ』は僚艦と並んで反転して突撃を開始した。

「両舷全速! 砲雷撃戦用意!」

 艦長の命令が、スピーカーを通じて艦内全域に通達される。かねてより機関兵が全速発揮が可能なように待機していたため、『ロバーツ』はすぐに最大船速に達する。

「『ホエール』、『ヒアマン』、本艦を左右から追い抜きます!」

「やはり、駆逐艦は速いな……」

 全速航行する『ロバーツ』の左右を、二隻の駆逐艦がさらに高速で追い越す。見張員からその様子を報告された艦長は、感心と悔しさの混ざった表情で呟いた。

 『ホエール』と『ヒアマン』は、「護衛駆逐艦」の『サミュエル・B・ロバーツ』と異なり、(れっき)とした「駆逐艦」である。

 「駆逐艦」と「護衛駆逐艦」は似ているように見えるが、その性質は大きく異なる。

 駆逐艦は敵艦隊との決戦から船団護衛に至るまで、あらゆる任務に投入され「艦隊の使役馬」と呼ばれる存在である。軽快な機動性と一定の戦闘力を持ち、様々な戦況に対応できる。

 それに対し、護衛駆逐艦は低速の輸送船団や護衛空母の護衛に従事することを想定された、量産性に優れた艦種である。駆逐艦も量産は可能だが、護衛駆逐艦はそれをさらに高めている。しかしその分、性能面はある程度の妥協を余儀なくされていた。

 『ロバーツ』と『ホエール』らを例に挙げると、前者の最高速度が二四ノットに対して後者は三七ノット、主砲が五インチ単装砲二門に対して五門を有する。このように、駆逐艦と護衛駆逐艦では、駆逐艦の方がワンランク上の性能を持っていた。

 無論、このことは『ロバーツ』の艦長も承知している。それは、この艦そのものである彼女も同様であった。

「分かってはいたけど、駆逐艦には追いつけないわね。……だけど、戦果まで譲るつもりは無いんだから。護衛駆逐艦だからって舐めるんじゃないわよ!」

 艦の最前部に屹立するエリィが、闘志を滲ませた声を発する。まだ抜いてはいないものの、彼女の右手は腰のホルスターに吊ったリヴォルバーのグリップに掛かっており、射程に入れば瞬時に発砲できるようにされている。しかし、今はまだ、敵は彼女の愛銃――それは、『ロバーツ』の主砲である五インチ砲に対応している――の射程外にある。エリィは、突撃中の時間を利用して敵艦隊の観察を試みた。

「手前の艦の、やたら大きな艦橋。あれはタカオ・クラスね。あっちはトネ・クラスに、モガミ・クラス。その後ろにいるのが戦艦ね」

 彼我の距離は二十キロを割っている。既に『ロバーツ』の周囲には、敵の砲撃による水柱が林立していた。

 砲弾の飛翔音には、独特な響きがある。例えていうならば、高架橋の下で聞く列車の通過音のようなものだろうか。それが聞こえるたびに、艦の近くにけばけばしい着色を施された水柱が立ち上がる。水柱に色がついているのは、敵が艦ごとに違う着色料を砲弾に詰めているからだろう。エリィは、自艦の周囲に複数色の水柱が立つのを確認している。それだけの敵を引きつけていることの証だが、それは同時に自分が多数の敵から狙われていることも示していた。

 しかし、エリィに怖じ気づく気配は無い。彼女は水柱を潜り抜けながら、敵勢の観察を続けた。

「前方に突出した戦艦……二本煙突ということは、コンゴウ・クラスかしら。一本煙突に砲塔四基の艦は、ナガト・クラス。それから……なに、あの艦は!!」

 敵艦隊を観察していたエリィは、その中にある一つの艦影を見て声を上げた。

 それは、三基の三連装主砲塔を持つ戦艦だった。

 全体的なシルエットは、アメリカ海軍の新鋭戦艦であるサウスダコタ級に似ている。三基の主砲塔を艦の前部に二基、後部に一基の割合で配置し、中央部に艦橋と煙突を置いている。艦橋、煙突、主砲塔の間隔は極限まで短縮され、装甲部分を重要区画に極限すると共に、装甲厚を増そうとする意図が窺える。サウスダコタ級でも採用されている、集中防御方式と呼ばれる装甲の配置法だ。艦の中央部に対空火器を密集させているところもそっくりである。

 だが……、その艦は大きかった。「巨大」という言葉では足りないほどの巨体を、その艦は持っていた。

 通常の倍はあるのではないかと思えるほど幅広の艦体。その上に載る主砲塔も、従来の砲より一回りは大きく見える。何もかもが規格外。言うなれば、戦艦という存在を超えた戦艦だった。

「なによ、あれ……一緒にいるナガト・クラスが、巡洋艦みたいに見える……。ナガト・クラスといえば、世界七大戦艦、ビッグ・セブンの一角……それがあんなに小さく映るなんて。あの艦は、どれだけ大きいの……?」

 サウスダコタ級に似ている――数秒前に敵艦に対して抱いた感想を、エリィは訂正した。似ているのはシルエットだけだ。敵は、サウスダコタ級の倍はある。それは、戦闘力に関しても同じだろう。

「もしかして……あれが、噂に聞くジャップの新型戦艦……ヤマト・クラスなの?」

 少女の小さな体を、絶望が襲った。最新鋭戦艦でも太刀打ちできない敵を相手に、どう戦えというのか。初めから無謀な戦いであると分かってはいたが、これでは本当に自殺しに行くようなものだ。

「でも……」

 エリィはきっと顔を上げ、彼方の敵を睨む。崩れかけていた膝を踏ん張り、両の手で頬を打つ。

「ここで食い止めなきゃ、もっと多くの船があいつに狙われる。やるしかない……ここで戦えるのは、私たちだけなんだから!」

 瞳に闘志を取り戻したエリィは、再びリヴォルバーを構える。狙うは、敵の巨大戦艦。しかしそこへ辿り着くには、超えなければならない障壁がある。

「まずは手前にいる取り巻きを片づける! そこのタカオ・クラス、あんたが最初の相手よ!」

 言うが否や、エリィは標的と定めた相手に向けて発砲する。彼女の右手のリヴォルバーが火を噴いた瞬間、艦首の五インチ単装砲も砲哮し、音を超える速度で砲弾を撃ち出した。

 一発目は、目標を飛び越えてその後方に水柱を立てるだけに終わった。『ロバーツ』からの砲撃を受けて、敵艦――その艦は、高雄型重巡洋艦『鳥海』だった――も反撃を放った。

「くっ……!」

 『鳥海』が発射した複数の砲弾は、『ロバーツ』を取り囲むように着弾した。先程からも艦の周囲に敵弾が着弾することはあったが、今の弾着は特に距離が近く、落下した砲弾が艦を前後に挟んで完全に捉えている。高雄型が装備する十門の八インチ砲は、『ロバーツ』の五インチ砲とは段違いの破壊力を有する。直撃していなくても、敵の砲弾が近くに落ちただけで『ロバーツ』の艦体は大きく揺れた。

「まずい、夾叉された……。あのタカオ・クラス、さっきからずっと私を狙ってきてる。きっと、私の動きも読まれてるわ」

 軍艦の砲撃戦は、種々の情報から互いの未来位置を予測して行う。いわば、先読みによる撃ち合いである。夾叉とは、そうして放たれた複数の砲弾が敵艦を包囲するように着弾する状態を指す。この状態を維持すれば、一定の確率で砲弾が敵艦に命中するというのが砲撃戦の基本的な考え方だ。

 つまり、夾叉を受けた側は速やかにこれを脱しなければならない。自艦も敵に対して夾叉を達成していれば砲撃を続行して命中を期する手もあるが、そうでない場合は急激な変針を行うなどして直ちに敵弾から逃れる必要がある。『ロバーツ』の立場は、後者であった。

「……けど、そう簡単に当たってたまるもんですか!」

 エリィの意気に応えるように、『ロバーツ』は大きく取舵をとる。急角度の転舵によって艦は右に傾き、装甲の施されていない艦体が悲鳴のような軋みを上げる。

 転舵の直前に砲弾を放った『鳥海』は、この動きを予測できなかった。彼女の砲弾は従前の針路に基づく計算に従って飛翔し、明後日の方向に着弾した。

「ふんっ、ざまあみなさい!」

 敵の砲弾が見当違いの場所に落ちたのを見て、エリィは愉快げに鼻を鳴らす。しかし、再び艦の周りに立った水柱が彼女の喜びに文字通り水を差した。

「嘘、もう修正を終わらせたの……!?」

 海水を頭から浴びたエリィが、驚きに目を見張る。彼女は『鳥海』が射撃諸元を修正して再び夾叉を果たすまで数射はかかると考えており、これほど早く補足されるとは夢にも思っていなかった。

「これじゃ、また転舵しても意味は無い……。ならっ!」

 ダンッ、とエリィは右足を勢い良く前に出す。それに倣うかのように、『ロバーツ』の艦体もまた、僅かに右へ針路を変える。

「遠距離で槍と剣が戦えば、槍が有利……でも、接近戦に持ち込めば、槍の長さが仇になる。……この砲撃戦も同じ。相手の懐に――私の間合いに飛び込んで撃つ!」

 蛇行して攻撃を避けつつ敵に向かっていた『ロバーツ』は、一切の回避行動をやめて一直線に『鳥海』へと突撃する。『鳥海』からも攻撃は行われるが、あまりに急に距離が詰まっていくため、砲弾はことごとく『ロバーツ』の頭上を飛び越えて彼女の後方に落下した。

 初め五千メートル弱あった『鳥海』との距離は、四千メートルを切ろうとしていた。これで充分と判断したエリィは、今が好機とリヴォルバーのトリガーを引いた。

「食らいなさいっ!!」

 轟音と共に、長銃身のリヴォルバーが火を噴く。それと同時に、エリィの背後に鎮座する五インチ砲が砲哮し、音を超える速度で砲弾を撃ち出した。

 軍艦同士の戦闘において、一万メートル以下は至近距離。五千メートル以下など、目と鼻の先と言っていい。そのような距離から撃ち込まれた『ロバーツ』の砲弾が、的を外す道理は無かった。

 初弾命中。しかし、駆逐艦と違って装甲に鎧われた重巡洋艦の艦体は一発の砲弾が当たった程度ではびくともしなかった。

「このっ、まだまだ……!」

 右手でハンマーを起こし、エリィは次弾を発射する。人差し指はトリガーを引きっ放しにしたまま、左手の親指と薬指で連続してハンマーを叩き、続けざまに発砲する。彼女の早撃ちに呼応するように、『ロバーツ』の主砲も小口径砲ゆえの発射速度の高さを活かして砲弾を釣瓶撃ちした。

 さらに二発を撃って装填されていた六発の銃弾が尽きると、エリィはすぐに銃弾を再装填する。シリンダーに一発ずる給弾する煩わしい方法による再装填を、彼女は目にもとまらぬ速さで終わらせる。銃弾の再装填が済むと、彼女は再び敵艦に早撃ちを浴びせかけた。

「A cornered rat will fight like a demon(窮鼠猫を噛む)!! 簡単に狩れると思ったら、大間違いよ!」

 艦魂の精神状態は、乗組員にも少なからず影響する。エリィの気迫はそのまま艦の士気となり、小さな護衛駆逐艦に予想外の敢闘を演じさせた。

 『ロバーツ』の気迫に圧されたか、敵艦が僅かに舵を切る。その転舵によって敵艦が真横を向いたのを、エリィは見逃さなかった。

「失策ね! 駆逐艦に横腹を見せるのは自殺行為。舷側に魚雷をお見舞いしてあげるわっ!」

 艦長も同じことを考えたのだろう、直後、艦が敵と併走するように針路を変える。艦が魚雷発射体勢に入るや否や、エリィは右手を横に薙ぎながらリヴォルバーを三連射した。

 扇状に散開した弾丸の軌跡を追うように、三本の雷跡が海を走る。一本でも命中すれば、敵を戦列から落伍させられる。全てが命中すれば撃沈も夢ではなかった。

 だが、敵は世界三大海軍の一角を占める日本海軍。その中でも、戦艦に次ぐ有力兵器に位置付けられる重巡洋艦である。生意気な鼠の跳梁をいつまでも許しておくはずが無かった。

 魚雷の命中を確かめるよりも早く、爆音と共に『ロバーツ』の艦体が大きく震える。敵弾が直撃し、彼女の艦体に破孔を開いたのだった。

「きゃあっ!?」

 砲弾が命中した瞬間、エリィは悲鳴を上げてその場に倒れた。すぐさま立ち上がろうとする彼女だったが、その背中に鋭い痛みが走った。

「うっ! これ、は……?」

 痛みを感じた部分に、エリィは手を伸ばす。ぬめりとした感覚に触れた彼女は、自らの身に何が起こったのかを悟った。

「そっか。被弾、したのね……」

 艦魂の心身は、依代である艦と密接不可分のものである。艦魂の心境は艦の意志に反映され、健康状態は艦の性能に影響する。同様に、艦本体に異常が発生した場合はそれも艦魂の体に反映される。

 『ロバーツ』は、敵艦の砲撃を受けて損傷を受けた。それは艦魂であるエリィの体にも適用され、被弾箇所の甲板に相当する部位――背中に、刀傷に似た傷を刻んだ。

 間髪入れずに、二発目の敵弾が命中する。炸裂音が再び響く中、エリィは一度目以上の悲鳴を上げた。

「ぐっ……あああぁっ!!」

 甲板に伏した状態のまま、少女は苦悶にのたうつ。リヴォルバーを放り出し、彼女は右手で左腕を庇うように押さえた。

「う……く……、ぁ……」

 荒い息を吐きながら、エリィは言葉にならない声をこぼす。金髪から覗く碧眼には涙が浮かび、彼女の苦痛の程度を窺わせた。

 エリィの傷は、一見しただけではその重さが分からなかった。彼女の左腕に目立った出血は無く、ともすれば傷は小さいのではないかとさえ思えた。

 しかし、よく見ればそれが重傷であることは一目瞭然だった。二発目の被弾以降、エリィの左腕は微塵も動く気配を見せなかった。それどころか、艦の僅かな揺れに対しても彼女は槍で突かれたように顔を歪め、呻き声を漏らした。

 そこから導き出される結論は、彼女の傷は外傷ではなく骨折のような内傷――それも、腕を動かすことさえできぬような、酷いものだということである。その証拠に、先程の命中弾は彼女の腕に当たる『ロバーツ』の後部主砲塔を文字通り粉砕していた。

 被弾の衝撃により『ロバーツ』の砲撃は一旦停止するが、損傷の無い前部主砲塔はすぐに射撃を再開する。それと同じく、痛みに呻きながらもエリィの闘志は失われていなかった。

「まだ……やれる……私は、戦える……!」

 甲板を這い、エリィは落としたリヴォルバーを取り戻す。彼女は激痛をおして立ち上がると、片手でリヴォルバーを構え直して発砲した。

「くぅっ!」

 発砲の反動が左腕に響き、エリィは顔をしかめる。しかし、彼女は膝をつくのをどうにか堪え、二発目を撃った。

 『ロバーツ』の相手は、いつの間にか『鳥海』ではなくなっていた。敵味方入り乱れての乱戦のため、最も近い位置にいる敵は刻々と変わり、今はトネ・クラスと思われる重巡洋艦が標的だった。砲撃は敵艦に命中したが、敵も直ちに撃ち返してきたため、『ロバーツ』の周囲は再び水柱に囲まれた。

「……これ以上の被弾は、流石にキツいかも……。ここは一回、隠れないと」

 エリィの言葉に従うように、『ロバーツ』の煙突から黒煙が噴き出す。艦長が機関室に煙幕の展開を命じたのだ。

 通常、重油を燃料として動く艦の排煙は、無色に近い色をしている。しかし、機関室で敢えて重油を不完全燃焼させることで黒い排煙を出し、身を隠す煙幕を作ることができるのである。

 自らが作った煙幕の中へと『ロバーツ』は飛び込む。煙幕は襲撃時に自分の姿を覆うためにも使えるが、このように劣勢時に敵の攻撃から身を守るためにも用いられる。厚い煙幕に遮られて目標を目視できなくなったからだろう、敵の砲撃は精度を落とし、着弾がばらけるようになった。

「敵は性能の良いレーダーを持ってないって聞いてたけど……確かに本当みたね。アメリカ海軍(わたしたち)たちだったら、レーダー射撃で煙幕の向こうにいても捉えられるもの」

 自ら位置を暴露することを避けるため、煙幕の中の『ロバーツ』は射撃を停止している。エリィも銃を下ろして呼吸を整えると共に、弾丸を再装填して再度の突撃に備える。

「このくらいの傷で、引き下がるわけないでしょ。ジョン・ポール・ジョーンズから続くアメリカ海軍の敢闘精神、見せてあげるわ!」

 艦が煙幕から抜け出すと同時に、エリィはレーダーで存在を確認していた敵重巡を狙って発砲する。主砲はもちろん、本来は対空用の機関銃までもが射撃に参加し、オレンジ色の火線を敵艦に突き刺した。

 通常、魚雷を発射した駆逐艦は速やかに避退する。駆逐艦の火力では、敵の大型艦には太刀打ちできないからだ。しかし、この戦いは普通の戦いではない。後方の輸送船団を守るため、全滅してでも敵を食い止める決死の戦い。魚雷、主砲、機銃……これらの全てを最後の一発まで撃ち尽くし、敵の進軍を阻止するのがエリィの任務であった。

 今や、少女の表情は鬼気迫っていた。背中と左腕の傷に加え、至近弾による無数の細かな傷に体を切られる中、彼女は甲板に立ち続けた。傷口から絶え間無く伝わる痛みに顔を歪めながらも、彼女の双眸に宿る闘志が失われることはない。強大な敵を相手に一歩も引かずに戦う彼女の姿は、北欧神話のワルキューレを彷彿とさせた。

 だが、彼女がいかに奮戦しようと彼我の圧倒的な戦力差は覆しようのない事実だった。個の質は確かに量を補うこともあるが、それも一定の限度までである。小さな戦乙女の奮闘も、遂に数の力の前に膝を屈する時がきた。

 格上の重巡洋艦を相手取り、対等の戦いを繰り広げるエリィ。しかし、目前の敵との戦闘に集中するあまり、彼女はその後ろに控える艦がいることに気づかなかった。

 視界の端にその艦の発砲炎を捉えた時には遅かった。回避行動も間に合わず、艦は数十メートルを超える水柱に囲まれ――その中に、一本の火柱が立った。

「がっ……」

 悲鳴を上げる暇も無かった。被弾の瞬間、息を詰まらすほどの衝撃が胴を襲い、エリィは目を剥いた。

 膝を折り、少女は甲板に倒れ伏す。そこから、見る間に赤い液体が広がっていった。

「か……はっ……は、ぁ……」

 さながら、重装騎兵の突撃を受けたようだった。全身を襲う強い衝撃、そしてそれ以上に重い傷。彼女の腹部には深い槍傷が刻まれ、ネイビーブルーの水兵服を血に染めていった。

「あれ、は……コンゴ……ウ……クラ、ス……」

 敵重巡の奥から悠然と姿を現した敵艦を見て、エリィが言う。戦艦の一撃となれば、重いのは当然だった。非装甲の駆逐艦にとっては致命傷となるほどに……。

 「甲板に直撃弾、第二機関室に損害」と叫ぶ伝令の声がエリィの耳に入る。それを聞いたエリィは、乾いた笑いを漏らした。

「私も、ここまで……ね」

 『ロバーツ』を動かすスクリューは二本。そのうちの一本が繋がる第二機関室が被害を受けたということは、艦の速力発揮に支障が出ることを意味する。そして、戦場で速力を失った艦が辿る運命は、これまでの戦訓が示していた。

 案の定、足の鈍った『ロバーツ』は格好の的となり、複数の敵艦から狙われることとなった。元から二四ノットしか発揮できない速力を被弾によってさらに落とし、その他の被害も蓄積している彼女に、この集中攻撃を逃れる術は無かった。

 たった一隻の小さな艦を目がけて、無数の砲弾が降り注ぐ。多くは艦の周囲に水柱を立てるだけに終わったが、一部の弾は命中し、そのたびに艦の命を削っていく。その中には、彼女の機関室を傷つけた戦艦の砲弾もあった。

 新たな損傷が発生するたび、艦魂であるエリィの体も傷つけられていく。しかし、彼女が苦痛に声を上げることは無い。正確には、できなかった。

 彼女には、もはや悲鳴を発するだけの力も残っていなかった。満身創痍の少女は、糸の切れた人形のように甲板に転がり、新たな傷を刻まれるごとに小さく呻くだけだった。それでも彼女の右手はリヴォルバーをしっかりと握って離さなかったが、か細い人差し指は既に引き金を引く力を失っていた。

 艦は既に行き足をなくし、主砲塔以下の火器類も動作を止めている。エリィは、総員退艦が命じられるのも近いと感じた。

 果たして、程なくして彼女の予想通り艦長が総員退艦を発令し、生き残った乗組員は救命ボートへの移乗を開始した。

 戦闘中は存在しなかったざわめき声が艦上に生まれる。ボートの降下を指揮する声、自らの運命を案ずる声、仲間を励ます声……様々な声が混ざる喧噪を、エリィはどこか遠いものとして聞いた。

 艦の周囲では、相変わらず戦闘が続いている。退艦が始まったのを見て目標を無力化したと判断したのか、敵からの攻撃はやんでいる。まだそこかしこで砲撃音が轟いているが、今の彼女にはそれさえも現実味の無い音として聞こえる。

 ――もしかしたら、既に片足は彼岸に突っ込んでいるのかもしれない。そんなことを考えるエリィの耳に、突如として声が届いた。

「エリィっ!!」

 全ての音が遠く聞こえる中で、その声だけは不思議とよく聞こえた。声の源を探る前に、エリィは乱暴に抱き起こされるのを感じた。

「俺の声が聞こえるか!? おい、エリィ!!」

「リ、チャー……ド?」

 蚊の鳴くような声で、エリィは相手の名を呟く。リチャードは「ああ」と頷いた。

「お前……ボロボロじゃないか。大丈夫か?」

 訊きながら、リチャードは分かりきったことを、と自分を罵る。それを知ってか知らずか、エリィはクスリと笑って首を振る。

「ううん、駄目……。正直……もう、あまり保たないわ……」

 こうして喋るだけでも、全身の傷口が痛む。普段なら何気ない量の会話をするだけでも、エリィは息を上がらせた。

「ほら……なに、やってるの。はや……く、退艦……しなさい」

 荒い呼吸をしながら、エリィは退艦の催促をする。正直なところ、これ以上は痛みで一言も話していられない。けれど、彼がこの場を離れるのを見届けるまではそうも言ってられなかった。

 しかし、リチャードは一向に動く気配を見せない。彼はエリィを抱えた姿勢で沈黙したままだった。

「どう、したの……。さっさと、艦をはなれ――」

「……るかよ」

 ぼそり、とリチャードが呟くような声を漏らす。エリィが聞き返すより早く、彼は繰り返した。

「……できるかよ。お前を置いて退艦するなんて」

 絞るような声で言ったリチャードは、一拍置いて言葉を続けた。

「確かに、今の俺がすべき事は、退艦して自分の命を守る事だ。それは分かってる。この艦に乗ったばかりの頃の俺なら、今も間違いなくそうしてるさ」

 けど、とリチャードはエリィの碧眼を見つめる。

「お前に出会って、艦魂が実在すると知って、今日まで一緒に過ごしてきた。エリィ、正直言って、お前は生意気で可愛くない。お前と過ごした時間も長くないし、顔を見れば口喧嘩ばかりしてた。……けど、お前みたいなヤツでも艦魂として前線に立ち、血まみれになるまで戦う姿を俺は見た。その後に、艦が沈むからって『はい、そうですか』と見捨てる事なんてできねぇだろがっ……!」

「リチャード……」

 彼の言葉は、エリィにとって予想外のものだった。

 エリィは、リチャードは自分の事を何とも思っていないと考えていた。会えば憎まれ口を叩き合い、喧嘩する関係。二人を繋ぐものは何も無く、あるとすれば互いへの敵意だけ。そう思っていたし、それで当然だと感じていた。自分は、彼に酷いことばかりしてきたから。

 けれど、真実は違った。

 リチャードは彼女に対して強い感情を抱いていた。それも、危機的状況の下においてさえ、退艦を躊躇するほどのものを。それを知った彼女は驚くと同時に嬉しさを覚え……その一部は雫となって頬を伝った。

「あたし……ずっと、あんたに嫌われてると思ってた。たくさん酷いことを言ってきたから……。さっきだって、あんたは躊躇いなく退艦すると思ってた」

「おいおい。人をどんな冷酷漢に見てんだよ」

 苦笑を浮かべるリチャードは、エリィの耳元に口を近づけるように彼女を抱き寄せた。

「そんな事するわけないだろ。さっきも言ったが、お前があれだけ必死に戦う姿を見て、何も感じないほど俺は非情じゃないつもりだぞ? 普段は本当に可愛げないヤツだけどな」

「あんた……。本当に一言多いわね」

 声を低くするエリィに、リチャードは「事実だからな」と返す。

「そう言うお前はどうなんだよ?」

「えっ?」

「お前は俺のこと、どう見てたんだよ。俺こそ、お前は俺を毛嫌いしてると思ってたぜ」

「それは……」

 リチャードの問いに、エリィは戸惑った様子で言葉を詰まらせる。しかし、リチャードが答えを促すと、もごもごと先を続けた。

「大嫌いだったわよ……最初はね。あんたはあたしのことをブリキ缶(Tin-Can)って呼んで、いつもバカにしてたから。初めは、あんたの顔を見るたびに(はらわた)が煮えくり返ったわ。でも……そのうち、それもいいって思うようになってきたの。バカにされても腹が立たなくなったわけじゃないけれど、あんたがあたしをバカにして、あたしが言い返す……そんな関係が、少しだけ楽しいって感じるようになってきた」

 さっきは一言話すだけでも全身が痛んだというのに、どういうわけか、今はこれだけ喋っても痛みを感じない。これは、胸に満ちる温かな気持ちの影響か、あるいは痛覚が失われつつあるためか。後者であれば、いよいよ自分の死期も近いだろうと、エリィは他人事のように考えた。

「でも、あんたはあたしのことを思ってないと考えてたから、少し寂しかった……。あたしの名前もちゃんと呼んでくれないし、あたしのことは全然見てないんだろうって。だから、名前を呼んでくれた時は本当に嬉しかったのよ……あんたは、気づいてないかもしれないけど」

「……悪い、エリィ」

 悔恨を滲ませた声で、リチャードが言う。

「別にいいわ。あたしの態度も相当酷かったし。お互い様よ」

 優しく首を横に振ったエリィは、「さて」とリチャードから体を離す。痛みを感じなくなってきたおかげで、少しであれば体も動かせる。

「そろそろ、本当に保たないわ。リチャード……早く退艦して」

「さっきも言ったろ。できねぇって」

「あんたね……。子供じゃないのよ?」

 二人の間に、再び押し問答となりそうな雰囲気が漂う。しかし、エリィはふと思いついた様子でリヴォルバーに目を落とすと、手こずりつつも右手でシリンダーから弾丸を一発取り出した。

「はい、これ」

 それを、リチャードの右手に握らせる。

「あんたに貸すわ。お守り代わりに持ってなさい」

 リチャードが何かを言う前に、エリィは畳みかけるように続ける。

「あくまで貸すだけよ。後でちゃんと返しに来なさい。でも、できるだけ遅く返しに来ること。遅ければ遅いほどいいわ。もし、すぐに来たら、その弾であんたの額を撃ち抜くから覚悟しなさい!」

「エリィ……」

 正面から自分を見据える少女の瞳を見て、リチャードは彼女の覚悟のほどを知る。それを受け止めたリチャードは、意を決した表情で頷いた。

「……分かった、エリィ」

 少女の碧眼を見つめ、リチャードは力強く宣言する。

「お前のお守り、借りていく。いつになるか分からないが、きっと返しに行く」

「ええ。気長に待ってるわ」

 リチャードの言葉を聞いたエリィは、穏やかに答える。もう思い残すことは何もない。そう言いたげな顔だった。

「なら、俺からもお前に一つ、贈り物をしよう」

「贈り物……?」

 リチャードの言葉に、エリィは首を傾げる。微笑を浮かべ、リチャードは頷く。

「これさ」

 言うが否や、リチャードはエリィを抱き寄せる。ほんの一瞬、彼女の頬に口づけをし、すぐに体を離した。

「…………!!」

「せめて、一度くらいは女の子らしく扱ってやろうと思ってな。あ、お返しのキスは次に会った時でいいぜ」

「なっ……まだ誰もキスし返すなんて言ってないわよ!」

「それなら、次に会う時までに考えといてくれ。時間はたっぷりあるだろ?」

 頬を紅潮させて怒るエリィに、リチャードはウインクして返す。エリィはむすっとした表情で黙っていたが、少しの間を置いて「……考えとく」と答えた。

「ああ。いい返事を期待してるぜ」

 そう言って、リチャードは立ち上がる。今のやり取りで、彼の中でも何かの踏ん切りがついたのだろう。彼の表情は、少し前まで頑なに退艦を拒んでいたとは思えぬほど晴れやかだった。

「……さよならは言わないわ」

 背を向けたリチャードに、エリィが声をかける。

「分かってる」

 頷いたリチャードは、顔だけを後ろに向けて答える。

「またな。エリィ」

「ええ。リチャード」

 エリィの返事を聞き終えると、リチャードは再び歩き出す。もう後ろは振り返らない。リチャードは真っ直ぐ救命ボートに乗り込み、半年を過ごした乗艦に別れを告げた。


 リチャードたちの退艦後、依然として洋上に姿を留めていた『ロバーツ』は、日本艦隊からとどめの砲撃を受けて遂に浮力を喪失し、沈没した。時に、一九四四年十月二十五日、午前十時五分。日本艦隊との遭遇から、三時間が経過した後であった。

 この戦闘で、タフィ3は『サミュエル・B・ロバーツ』を含む護衛駆逐艦一隻と二隻の駆逐艦、一隻の護衛空母を失う被害を受けた。だが、彼らの犠牲は無駄にはならなかった。彼らの奮戦はタフィ3の護衛空母に艦載機を発艦させる時間を与え、反撃のチャンスを作った。間もなくして付近に展開する別の護衛空母部隊の航空隊も到着してタフィ3を援護した結果、敵艦隊はレイテ湾へと向かう針路を反転して北上。戦場を離脱していった。

 かくして最大の危機を乗り越えたアメリカ海軍は、陸軍と協力してフィリピン攻略作戦を続行。同地を完全に奪還し、その後の対日戦勝利へと突き進んだ。

 護衛駆逐艦『サミュエル・B・ロバーツ』はこの海戦で沈没したが、アメリカ軍全体の窮地を救ったその奮闘は、全軍に知れ渡った。彼女には「戦艦のように戦った護衛駆逐艦」という愛称が与えられ、小さな勇将の名は永久に記憶されることとなったのである。

 こんにちは皆さん。初めまして、或いはお久し振りです。石田零です。


 前作である『ビスマルク』から約十か月ぶりの投稿です。お待たせしました。

 今回も短編形式の作品で、海外の艦艇が主役です。ただし、前作と異なり本作の主役はアメリカ海軍の艦。今まで日本とドイツの軍艦のみを描いてきた私にとっては、初の連合国側艦艇を扱った作品です(商船の『タイタニック』は除く)。

 ご覧のように、本作の主役である護衛駆逐艦『サミュエル・B・ロバーツ』は、サマール島沖海戦で栗田中将の率いる日本艦隊と会敵し、これに戦いを挑んだ艦です。戦艦『大和』以下の強力な艦隊を相手に『ロバーツ』は一歩も引かぬ戦いを繰り広げ、栗田艦隊のレイテ突入を断念させる一因を作りました。

 『ロバーツ』の他にも駆逐艦『ジョンストン』など奮戦した艦はいるのですが、ここでは詳細は省きます。


 初の米海軍サイド……という理由だけではないでしょうが、戦況の描写が予想外に苦労しました。作中で描くサマール島沖海戦の前後をどう説明するか、米海軍視点から日本艦隊の構成などをどう描くか……なるべく簡潔になるよう努めましたが、力が及ばなかったかもしれません。

 分かりにくい部分があったら、すみません。


 あまり長く語っても冗長となるので、この辺りで。

 本作を読んで下さった読者の皆さんに、心から感謝申し上げます。ご意見・ご感想があれば、どうぞお寄せ下さい。

 それでは、次回作でまたお会いしましょう。


P.S.(補足)

1.「Tin-Can」というのは、「ブリキ缶」という意味の英語で、転じてアメリカでは旧式駆逐艦を指す俗語です。『サミュエル・B・ロバーツ』は旧式どころか新造艦なので、実際は当てはまらないかも知れません……。


2.エリィが持っている長銃身のリヴォルバーは、「バントライン・スペシャル」と呼ばれる拳銃がモデルです。単なる伝説という説もありますが、アメリカの小説家バンラインが西部開拓に貢献した人物に贈るため特注した銃といわれています。

 なお、エリィの武器にこの銃を採用したのは単なる趣味です。エリィや艦名の由来となった人物とは関係ありません。


3.劇中でエリィが扶桑型戦艦の速力を「二三ノット(実際は二四.七ノット)」と言っていますが、これは敢えて実際の数値とは異なる速力を言わせています。

 というのも、『丸』の2014年4月号で1942年版の米海軍のマニュアルに扶桑・伊勢型の速力が二三ノットとされているとする記事があったからです。同記事にはその後訂正されたという記述は無かったため、レイテ沖海戦時もそのままだったのではないかと推測し、このようにしました。

 細かい点ですが、疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれないので、一応解説しておきます。

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