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妖精の森に、僕はいなかった  作者: 江藤ぴりか


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第五話:記憶を食むもの(二)

 白く佇む王宮の近辺には妖精と、額に緑色の宝石を埋められたエルフ――ハイエルフが行き交っていた。

 フェイは懐かしくて嬉しいのか、尻尾を大きく振っている。

「フェイ、嬉しいのかい?」

(ああ、ここは女王の寵愛を受けた者しか入れないからな)

 メムナは黒犬の頭に留まり、あぐらをかいている。

「王宮の付近でもティターニア様の存在を感じられるから、ここは人が多いんだ」

 門の前に立つと、衛兵のようななりをしたハイエルフがセルゲイたちを睨みつけた。

「……名前は?」

「セルゲイです。黒い犬はフェイガード。記憶妖精のメムナです」

「通れ」

 木と鉱石で出来た槍を退けると、大きな門が開く。

 鎧や槍が鉄でなく革や鉱石を使っている装備を見て、セルゲイは違和感を覚えた。妖精が金属が苦手とはいえ、なぜ人間の真似事をするだろう。


 ティターニアの居城もそうだ。エルフの村のように、樹で出来たって良いのに、わざわざ王宮として石で城を作ったのだろう。

 中の調度品もユルゲンで見た男爵の城のようだった。紺の絨毯に、大きな壺は月桂樹の意匠が凝っている。花瓶には黄色いバラが飾られており、通りすがるメイド衣装のハイエルフの女性。優雅に微笑むメイドに会釈をし、メムナの案内のもと廊下を進んでいく。


「あ、セリオル! 元気にしてたかい? きみの身体を連れてきたよ!」

 廊下の突き当りに扉があり、そばに直立不動の自分とそっくりの顔がいた。耳はエルフらしく長く、額には緑の宝石が埋め込まれていたが。

「ようこそ、お客人。ティターニア様はもうすぐ戻られます。この部屋でお待ちください」

 無機質な声だった。セルゲイは金髪緑眼のセリオルに向かって話しかけた。

「セリオル、さん。あなたの話が聞きたいのです。ぜひ、部屋で聞かせてくれませんか?」

「ようこそ、お客人。ティターニア様はもうすぐ戻られます。この部屋でお待ちください」

 反応があるので、聞こえてはいるのだろう。瞳に光が入ってないが、まるでエヌピーシーのように同じ言葉を繰り返した。所作こそ優雅で美しいものの、無機質で機械のようだ。

(とりあえず、部屋で待たせてもらおう)

「……そう、だね」

 セリオルを見つつ、部屋に入るとセルゲイは部屋にあったソファーに倒れるように座った。



 扉からノックの音がする。

「セルゲイ様。ティターニア様の謁見の準備が整いました」

 自分と同じ声なのに、こうも違うのかとげんなりした。セリオルの案内で謁見の間に通される。

 セリオルは妖精女王の隣で片膝をつき、傅く。少し後でセルゲイとフェイ、メムナも片膝をついた。

「来たのね。わたくしの愛しい子」

 頭を上げると、白金の長い髪の美しい女性が微笑んでいる。

「今日はあなたに聞きたいことがあって来ました。そこにいる『セリオル』という青年は僕の身体の持ち主ですよね」

「あら? 今はそなたのものよ」

「……彼の魂はどこに?」

「それを知る必要はないわ」

 ティターニアはなおも微笑む。まるで返答を許さないと言っているように。

「セリオルさん! あなたは魂を隣人の国に閉じ込められている!」

「……妖精女王の御心のままにあるだけです。わたしの忠誠はティターニア様にあります」


 女王はセリオルの顎を指で撫で、妖しく目を細めた。

「それに女王、この城はなんです? まるで人間の棲まう現世の真似事のようです」

「これはこの世界の〝遊び〟よ。ここに来る人間のため……ではなく、面白いと思ったものを取り入れているだけよ。セリオルもそう。いいえ、他のハイエルフ化した者たちを、近衛兵や侍従のように仕えるよう、動かしているの」

 信じられない。ここは女王の〝ごっこ遊び〟の場所なのか。

「セリオルさん、あなたは現世で、エルフの村で過ごしていたはずだ! その記憶はないのですか?」

「……妖精女王の御心のままにあるだけです。わたしの忠誠はティターニア様にあります」

 セリオルは優雅で、でも単なる人形のように無機質な声でセルゲイの言葉に答える。

「僕は必ず〝セルゲイ〟の魂を探します。全てがあなたの思い通りになるとは思わないでください」

「ふふ、そうでなくては。本当に美しい子ね」



 王宮を後にした三人は、喧騒のない人混みを行く。

「まったく、常人では理解しがたい存在だ……」

「なぁ、悠真くん。御前で喋るのは憚られたけど、セルゲイの魂の隠し場所、知りたくないかい?」

 メムナの言葉に目を見開く。

「それは知りたいですけど、女王に背くことになるのではないですか?」

 妖精はニカッと笑ってみせ、セルゲイの頬にキスをした。

「そうだけど、ぼくはきみが気に入ったからなぁ。妖精が気ままなのは知っているだろう? それは女王も同じさ!」

 セルゲイは人差し指をメムナの頭に乗せ、撫でてみた。妖精は「ペットじゃないんだからやめろ」とじゃれつき、ひしっと掴む。

「『月の双子が重なる夜を待て』あらゆる言語と記憶を操るメムナが悠真くんに手を貸してあげよう」


 妖精界で頼りになる妖精と出会えたことにセルゲイは喜んだ。それを横目にフェイは考え込んでいたが、彼は知る由もなかった。

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