⑨
昼食後、すぐにフェリクスに手を取られ、部屋を出た。また手を繋ぎながら歩く。
身長差があるので、フェリクスはエマの歩幅に合わせる。
「エマ殿はどのような本を読むのだ?」
「…何でも読みます。」
「…師匠が遺してくれた本は様々な種類で、他国の本、古代の本などございます。」
「…出来れば隣国の小説の続きを読みたいのです。」
「他国の言葉も古代文字もわかるのか!?」
「…はい。発音はわかりませんが、文字はわかります。」
「すごい事だ!特に古代文字を読める者はこの王国は数少ない!エマ殿は何でも出来るのだな。」
「…ありがとうございます。しかし何でもは出来ません。特に道を覚えられないのは致命的です。」
「そうだな。」フェリクスは笑う。
「ふと思ったのだが、森から薬屋まではどの様に行っているのだ?」「薬屋のおかみに迎えに来てもらっているのか?」
「…」
(…何て言えばいいかな。嘘はつきたくないし…)
(…移転魔法の事は…)
(…どうしよう…)
エマは立ち止まり、俯いたまま答えに困っていた。
「エマ殿。いかがした?体調でも悪くなったのか?」
フェリクスは心配そうにエマを見た。
そして急に屈み、エマの背中と膝裏を取るとお姫様抱っこをした。
「…!」
「…あの…」
「体調が優れないなら図書室まで運ぼう。」
(なんて軽いんだ。軽すぎる。本当に体調は大丈夫なのだろうか。)
「…体調は万全です。」
「…美味しい食事もいただきましたし、少々考え事をしておりました。」
(…何だかすごく近くて緊張する…)
(…とても綺麗なブルーの瞳…)
(…さらさらの金髪…)
(…物語に出てくる王子様みたい…って本物か)
(…筋骨隆々だけど…)
エマは緊張しながらも、頭の中はぐるぐるし、フード越しにフェリクスをまじまじと見ていた。
「それなら良かった。ついでだからこのまま図書室まで行こう。」フェリクスは安心して微笑み、図書室まで歩き出した。
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図書室の扉の前には、左右に分かれて門番が立っている。門番たちはフェリクスに気付くと礼をする。
真っ黒いマントにフードを目深に被った者をお姫様抱っこをしているフェリクスを見ても動揺を表に出さない。さすが王家に使える者たちである。
「こちらの方は王家の客人のエマ殿である。」
「数日滞在されるので、その間、空き時間に私とエマ殿は通う事になる。よろしく頼む。」
エマは慌てて頭を下げる。
「…よろしくお願いします。」
「はっ。かしこまりました。」
門番たちは礼をして返事をした。
そしてフェリクスは鍵を胸ポケットから取り出し、開錠する。
門番たちが扉を開けると、とても広く、長方形の全ての面の壁に沢山の本がびっしりと揃えられており、真ん中に重厚なテーブルと数脚の椅子と三人掛けの立派なソファがあった。
「…すごい!」
エマはキョロキョロ見回している。
「さあ、好きなだけ読むといい。」
「…ありがとうございます。あの…下ろしていただけますか?」
「あぁ。忘れていた。」そっとエマを下ろす。
エマは早速一冊の本を取り、フェリクスに促されソファに座った。なぜか隣にフェリクスが腰掛ける。エマにぴったりとくっついて。