②
城に向かう馬車にて。
エマの向かいに座る第一騎士団団長のアレクセイより、その隣に座るまだ一言も発しない、騎士服の凶悪な雰囲気の男性は、この国の第三王子であり、第一騎士団の副団長でもあるフェリクスと紹介された。
「…東の森に住むエマと申します。」
「急で申し訳ありません。詳しい内容は城にてお話し致します。」
「…承知いたしました。」
「ちなみにエマ殿は成人されていますか?」
「…はい。」
3ヶ月前に成人したばかりだ。
この国の成人は18歳からである。
黒いマントのフードを目深に被り顔が見えなく、小柄なので念の為に確認されたのであろう。
「東の森の魔女はベアトリス殿と聞いた事がある。エマ殿は東の魔女のお子ですか?」
「…いいえ。」
「…あの…先程から気になる事が。」
「どうされましたか?」
「…第三王子様ですが、とても体調が悪いようにお見受けられます。」
「!」フェリクスの表情がほんの少し動いた。
そして一言。
「なぜそのように思う。」
「…第三王子様の魔力の回路に不具合が見えます。それにより魔力の流れが滞っております。」
「魔力の流れが見えるのか?!」
「…はい。」
この王国ではほとんどの人が少しの魔力しか持たない。多い魔力を持つのはほんの一部の者か、王家の者である。
「何か手立てはあるのか?」
「…はい。」
「出来るならば、頼みたい。」
「…失礼します。」
エマはフェリクスの鳩尾あたりに騎士服の上から手をかざし、魔法を唱える。
暖かな真っ白い光に包まれ、光が消える。
「!」
「長年の不調が嘘のようだ!」
一瞬にして、フェリクスの凶悪な雰囲気が無くなった。
フェリクスはエマの手を取った。
「エマ殿!感謝申し上げる!」