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結局、そのまま一時間ほど四人でお茶をし、お開きとなった。王子妃二人に怒涛の質問攻めをされたエマはくたびれていた。フェリクスも同じくくたびれていた。
「エマ殿、申し訳ない疲れただろう。」
「…少しだけ。」エマは素直に答えた。
「こうなると思って断っていたのだ。貴重なエマ殿との時間が減ってしまったな。」と呟いた。
「さて、こんな時間だ。エマ殿の好きなチョコレートの店に行こう!疲れた時は甘い物が良いぞ。」
レストランからチョコレートの店まではそう遠くないので散歩がてら向かった。
チョコレートの店はカフェも併設している。ショーケースには様々な種類のチョコレートがあり、チョコレートを使ったスイーツもある。エマは初めて見るチョコレート菓子に釘付けになっていた。砂糖漬けのフルーツが乗った丸いトリュフである。
「…美味しそう…」
「…もしかしてこちらのお店もイザベラ様に?」
「ああ。私は詳しくないのでな。先程散々話したから流石にここに来ることはないだろう。」
「さ、こちらで食べていこう。エマ殿が食べたい物を好きなだけ選ぶといい。」
エマは数種類選び、シェアする事にした。
「…美味しいです。」エマが食べているのをフェリクスは微笑みながら見ている。
「…第三…じゃなくて…フェリクス様。フェリクス様はお召し上がりにならないのですか?」
「ああ、いただこう。そのエマ殿が食べているチョコレートが美味しそうだな。」
「…すみません。一人で食べてしまっていて。同じ物を注文しますか?」
「いや、そんなに甘いものは食べられないから少しでいい。そのエマ殿が食べているのを一口もらえないか?」
「…えっと。食べかけですし。」
「構わん。」
エマはチョコレートの乗ったお皿をそっと渡そうとすると、おもむろにフェリクスが口を開けた。
「…えっと…」
「食べさせてくれ。」
「…せめてフォークを新しいものに交換いたします…」
「そのままでよい。」
「…」
「…失礼します。」
おずおずとエマはフェリクスに食べさせる。
「これは美味いな!」
「そちらのチョコレートも食べさせてくれ。」
エマはフォークでトリュフを半分に切って、フェリクスに食べさせた。
「美味い!」満面の笑みで喜んだ。
(…こんなに筋骨隆々なのに口を開けて待っているなんて雛鳥みたい。)
(…王子様を雛鳥に例えるなんて失敬かな…)
(…でも何だかかわいい…)
考え事をしていると、いつのまにかフェリクスがフォークに刺したトリュフの半分をエマの口元に向けていた。
「とても美味しいぞ。さぁ、エマ殿も食べなさい。」
「…失礼します。」パクリとエマが食べた。
(可愛い!)フェリクスは心の中で悶絶した。
(イチャイチャしてるな…)
隣の席ではお茶をしながら、護衛のアレクセイが目を閉じ、心の中でまたツッコミを入れた。