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昼食は、こじんまりとしているが、全室個室で落ち着きのある雰囲気のレストランだった。
『ランチは気軽に食べられるレストラン』で有名であるらしいが、調度品など一流なものが揃えられ、貴族御用達であることがうかがえた。
護衛のアレクセイは扉の外で待機している。
「この店のランチはメニューが無く、シェフのおすすめが用意されるらしい。何が出てくるか楽しみだな!」と、マントを外しながらフェリクスが言い、席についた。
エマはほとんど外食をした事が無い。
一度だけ師匠のベアトリスと薬屋のサラに連れられて街の食堂に行った事があるだけだ。とても活気があり、大人しいエマは落ち着いて食事ができなかった。それからは誘われても行かず自炊で過ごした。
美味しそうな食事が運ばれてくる。ビーフシチューに野菜がたっぷり入った焼きサーモンのマリネ、ふわふわの白いパン、その他諸々。
「さあ、いただこう。」
「…いただきます。」
「…美味しいです。」
「ああ!とても美味いな!フードがあると食べにくそうだがやっぱり外れないのか?」
エマは頭に手を掛けフードを外してみようとするものの、びくともしない。
「…外れません。」
「不思議なものだな。」
「ところで国立図書館はいかがであったか?」
「…とても楽しかったです。読みきれない程沢山本があって、他国の本の最新刊まで揃えられていて…」
「…連れてきていただき、感謝いたします。」
「喜んでくれたようで良かった。毎日でも連れてこよう。」
「…そういうわけには参りません。第三王子様は休暇中ですし、もう少しゆっくり休まれた方が…」
「フェリクスと。」すかさず訂正が入る。
「…フェリクス様…それに王妃様がお目覚めになられましたので、そろそろお暇しようかと…」
「!」
「まだ帰るには早いではないか。ずっと城にいても良いのだぞ。」
「帰ってしまったら、エマ殿と連絡が取れなくなるのではないか。」
「薬屋のおかみに聞いたぞ、エマ殿とは連絡手段が無く、ふらりと訪れ、帰って行くと。」
フェリクスは必死である。
「…」
「何かしら連絡手段は無いのか?」
「まだエマ殿と話がしたいし、王家の古代の蔵書を読み解いて欲しい。」
「そうだ!エマ殿は聡明であるし、私付きの文官になるのはいかがか?」
さらにフェリクスは必死になった。
「…森ではやらねばならない事がありますので。」
「…お城でお勤めする事は出来ません。」
「森では何をしているのだ?聞いても?」
「…何故かはわかりませんが、闇の深い所から魔獣は現れます。師匠がその場所を東の森で発見し、封印しました。」
「…今はそれを引き継いで封印しています。」
「…私は師匠よりも魔力が少ないので封印が長く持ちません。ですので、定期的に封印をしなければならないのです。」
「何と!エマ殿と師匠殿はこの国を守ってくれていたのだな。」
「…そんなに大層な事ではごさいません。」
「…現に今でも、どこからか魔獣は発生しておりますので…」
「しかし、魔獣の数は減っている。この事を国王に報告しても良いだろうか?」
「…出来ましたら大事にはしたくありません。」
「そうか。」
「では、質問なのだが。その封印場所まではどのように移動しているのだ?森の中で迷子にならないのか?薬屋のへの移動手段は?」
「…」
「国王に言わない代わりに、教えてはくれないか?」
「…」
「…移転魔法でございます。」エマは言った。