⑮
翌朝。エマは眠い目をこすりながら、ベッドから出る。身支度をしマントを羽織り、ソファに座ってまた目を閉じる。
昨晩は寝るのが遅くなったので、朝食は辞退した。
「…眠い…」
王妃の意識が戻ったので、本日の予定が若干変更になり、朝一で国立図書館に行くことになったのである。
その後近隣のレストランで昼食を取ってからチョコレートの店に行く事になった。
コンコン。扉をノックし、フェリクスが訪れた。
「エマ殿。そろそろ準備はいいかな?」
フェリクスは黒いマントを羽織り、フードを目深に被っていた。マントを羽織っていても筋骨隆々なのを隠せないのでエマは可笑しくなった。
「…お似合いです。」エマはクスリと笑った。
「しかし、こんなに目深に被ると何も見えないな。あちこちぶつかってしまう。」
「…では、透過の魔法をかけましょう。」
「おお!ぜひ頼む!」と言ってフェリクスは屈んだ。
エマは近付き、小さな声で呪文を唱えると、途端に視界が良くなった。
「凄いな!外側からは見えないか?」
「…はい。外からの見た目は変わりありません。」
「これでエマ殿とお揃いだ!」とフェリクスは嬉しそうに言った。
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この王国は扇形のようになっており、城は国土の中心より小高い北側に位置する。
東にはエマの住む深い森がある。
南には商業施設や人々が住む街があり、その先には広大な農地が続いている。
西には農地があり、森を挟んで隣国がある。
国立図書館は城の北側にありその先は険しい山々が連なる。
城から国立図書館までは馬車で20分ほど。国立図書館周辺はわりと栄えていていくつか店がある。
護衛は前回と同じく、第一騎士団団長のアレクセイであった。
国立図書館へは馬車移動で、今回エマの向かいにはアレクセイのみだ、フェリクスはエマの隣にピッタリとくっついている。
(…近すぎるだろう。)
アレクセイは目を閉じ、心の中でツッコミを入れた。
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(…凄い!)
国立図書館は王家の図書室と比べ物にならない程の本があった。
四方の壁一面に本がジャンル、年代、国、作者と配架されており、螺旋階段を登りながら本を手に取ることができるようになっている。そして部屋の中心には沢山の机と椅子が並べられている。
黒いフードの二人が図書館に入った途端、図書館にいた者達は一斉にギョッとして見たが、後ろにアレクセイが控え、王家より賜った身分証を身につけていたので、何事もなかったように皆、本に目を落とした。
フェリクスは小声で「さぁ、エマ殿が読みたい本を取りに行こう。」と言って手を繋いで階段を登ろうとした。
エマは小声で「…階段は一つしかありませんので、迷子にはなりません。一人で大丈夫です。」
「そうか。」フェリクスは肩を落とした。