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エマは王子の距離が近いのを気にしつつも、本を読み始めると夢中になりどんどん読み進めた。
分厚い本をものすごいスピードで読んでいるので、フェリクスは驚き、隣でずっとエマの様子を見ていた。
おおよそ30分後、一冊読み終わったところで
「読むのがものすごく早いな。」とフェリクスが言った。
「…沢山の本を読みたくて、段々と読むのが早くなりました。」
「エマ殿は規格外だな。」フェリクスはつぶやいた。
「…?」
「さ、他の本はどれが良い?届かないのは私が取ろう。」
「…ありがとうございます。…沢山読みたいところではありますが…実は今読んだ本にヒントがございまして、王妃様の回路の修復時間が短縮出来そうなんです。」
「それはありがたい。では読書はまたにしよう。」
フェリクスはまたエマの手を取った。
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何とエマはその日のうちに王妃の回路を全て作成し終えた。すると、たちまち王妃は穏やかな寝息を立て始めた。
「…私の見立てですと、二〜三日で王妃様の意識が戻るかと思います。」
国王はうっすら目に涙を浮かべて
「おお!エマ殿!ありがとう!」
「是非褒美を与えよう。」
「エマ殿は何か欲しいものはないか?」
「金銀、宝石でもドレスでも出来る限り取り揃えよう。」
矢継ぎ早に話し始めた。
エマは
「…ご無用でございます。」
「…立派な図書室で本を読めるだけで充分でございます。」エマはもともと物欲は無く、読書欲か研究欲ぐらいしかない。
(何て無欲なのだ。)
国王以下、三人の王子は思った。
「うーむ。それでは私の気が済まない。金銀であれば生活の役に立つであろう。」
「それで良いかな。」
国王はなかなか押しが強く、断りにくい雰囲気だった。
「…承知しました。ありがとうございます。」
エマは礼をした。
そこでフェリクスは
「エマ殿、母上の意識が戻るまで時間があるので、私の魔力を使いこなす指導をして欲しい。もちろん図書室にも行こう。」嬉々としている。
「…承知しました。」
「…おそらくですが、第三王子様と王妃様は魔力が多いので、時折使用し、発散した方がよろしいかと思います。」
「ありがとう。では早速明日から頼む。」
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夕食も終わり、ばあやと呼ばれる年を召した女性に部屋に案内される。
なお、エマはフェリクスに手を繋がれている。
「エマ様。こちらでございます。」
その女性はエマに向き、
「私は王妃様が王家に入る前から侍女をしております、マリーと申します。皆様には、ばあやと呼ばれておりますので、是非エマ様もばあやとお呼びくださいませ。」
「エマ様には王妃様並びにフェリクス様を治していただき、心から感謝申し上げます。」
マリーは目に涙を溜めて頭を下げた。
「…どうぞ頭を上げてください…出来ることをしたまでですから…」
「エマ様は本当に素晴らしいお嬢様ですね。このばあやにお世話をさせていただけませんか。」
マリーは感動し言った。
「…ばあやさん。私は生活全般一人で出来ますので大丈夫です。それに一人でないとフードが外れませんので…是非王妃様のおそばにいて下さい。」
マリーは少し残念そうにしていると、フェリクスが
「私が隣の部屋にいるから、何かあったらそこにあるベルを大きく鳴らすように。」
「あと、勝手に部屋を出ないで欲しい。迷子にならないか心配で仕方ない。」
(…何だかちょっと心配性な所は師匠みたい…)
クスリとエマは笑った。
「…承知しました。」
「あと、私の事は第三王子ではなくフェリクスと呼んで欲しい。」
「…恐れ多いです…」
「ばあやは良くて私はダメなのか?不公平ではないか?」
押しが強い。
「…かしこまりました…フェリクスさま…」
(可愛い!)フェリクスは心の中で喜び悶絶した。