常人革命
ノンフィクション
ちょっとした自伝です。
小雨が降る帰り道を、僕は駆けていた。
濡れたアスファルトが滑るのも構わず、ただ無心で足を動かした。目的なんてなかった。ただ、全力で走りたかった。走って、走って、何かを振り払いたかった。
肩で息をしながら、ようやく足を止める。心臓が早鐘を打ち、肺が焼けるように痛い。立ち止まった瞬間、身体の奥底から笑いがこみ上げてきた。
「あはは……!」
通学路に響く笑い声。誰もいない。誰もいないから、笑ってもいいだろう。
僕は、ずっと何かに縛られていた。プライドだ。自尊心だ。ずっと、ずっと、僕は"特別"でなければならなかった。
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小学生のころ、僕は塾の最高クラスにいた。学校では僕に敵う者などおらず、みんな口を揃えて、僕を「天才だ」と言った。先生さえも。そう言われるのが気持ちよかった。だから、僕はそのまま"特別"であり続けるものだと信じて疑わなかった。
でも、僕は努力しなかった。いや、努力できなかった。
小学校高学年になって、授業を抜け出したことがあった。今考えるとぞっとする。どうしてあんなことをしたのかと振り返ると、結局は反発心だったのだと思う。先生の言うことに素直に頷くのがどうしても嫌だった。自分は他の生徒とは違う、そう信じていたからこそ、与えられたことをそのまま受け入れるのが無性に癪だったのだ。
そうして、僕は中学受験に失敗した。
そのときもまだ、どこかで「たまたまだ」と思っていた。本気を出せばどうにかなる、と信じていた。でも、その「本気」を出すことはなかった。高校受験でも同じだった。気づけば、すべての高校に落ちていた。
それでも僕のプライドは死ななかった。どこかで「こんなはずじゃない」と思い続けた。でも、結局のところ"こんなはず"の自分が"本当の僕"だった。
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そして、今日。
通学路を本気で走ってみて、やっとわかった。僕は"常人"だ。凡人だ。特別でもなんでもない。
その瞬間、身体が軽くなった。
まるで、今まで背負っていたものが霧散するようだった。
プライド、自尊心、それ自体は悪いものじゃない。だけど、それに縛られて、自分を見失うのは違う。僕は今まで"特別"であるために、本当の自分を誤魔化していた。だから、努力を怠り、失敗し、それでもまだ「自分は特別なはずだ」と現実から目を背けていた。
でももう違う。
僕は"常人"だ。何の才能もない、ただの普通の人間だ。でも、それでいいじゃないか。
だって、"常人"は走れる。"常人"は努力できる。特別じゃないからこそ、もがいて、掴み取ることができる。
僕は再び走り出した。
今度は逃げるためじゃない。
今度は"前に進む"ために。
常人、走り出す