第65話 アトランティスへ
多大な損害を出しながら超魔甲闘士アポロを破った芹沢達人達は今後の方針を決めるべく城塞の一室に集まっていた。
「アトランティスの軍事や科学分野を担っていた父、いえアゲシラオスを失った以上こちらに攻勢をかけてくると思います。もはや一刻の猶予も無いでしょう」
「迎え撃つか、敵地へ乗り込むかのどちらかを決める必要があるな」
「そうです。恐らくアトランティス大陸は不完全な状態で出てきたと思います。この土地もそうですがタツトにあの塔の光を阻止された以上はまだ取り残されている土地があると思うのです」
「あの光は創世の宝珠の片割れを使った物だった。そしてもう半分はここにある。俺達を狙うとなればいっそ突入するか?」
達人は宝珠を取り出しながら呟く。
「あの光でここを大陸へくっつけることができるんですか?」
「可能だと思います。最もその際にどんな影響があるか・・それこそ普通の人間の住めない星に地球が変貌するかも」
黒川ケイの疑問にエリクシリオが答える。
「でもどうやって乗り込むの?次元移動はサンダーバードやガッシングラムも含めてブロックされているみたいだし、船や飛行機は調達できないわ」
笠井恵美の指摘はもっともだった。
これより少し前、ガッシングラムが敵情視察を兼ねてアトランティスへ次元移動しようとした所何かの壁に阻まれて移動することができなかった。
この事からアトランティス側で特定の人物やUMAの転移を阻止する結界が張られていると判断されたのだった。
更にドゥ―ムズデイの災厄以降技術者や機械そのものが大量に失われた為、鉄や燃料の精製技術を持つ者は大幅に減った結果希少品となり車や船、飛行機といった物の生産はもちろんそれらを動かす事も難しくなっていた。
そんな中,新クリーンエネルギーであるエレメンタル・エナジーを動力源とするアトランティスは各地で無人の荒野を往くがごとく世界各地で進撃を続けていたのだった。
「その原因の一つはこいつか」
巨大UMAコンリットの脅威を伝える新聞の一面を見ながら八重島修一郎が唸る。
その記事はアフリカの金鉱山をコンリットが消滅させたことを伝えていた。
「ニュースを見る限り、世界各地の政治経済はマヒ状態だ。どこも暴動かアトランティスの襲撃を受けている。こんな状況だから戦争を仕掛ける一方でそれぞれの人間は自分を有用な人間と信じて疑わないからアトランティスに移民を考える人が後を絶たないし、それに応じてアトランティスは各地に移民船を出している」
「外見からは区別がつかない、というのもあると思います。実際に調べてみなければその人がアトランティス人か現生人類かは分かりませんから」
「そう言えばアゲシラオス博士は魔法の使えない赤い血の人だったんだな」
達人の指摘に
「そうです。ですから何とか移民船に紛れてアトランティスへ向かう事自体はそれほど難しいわけではないと思います」
「問題はその後どうするかだな。タワー近くの港に停まってくれればいいがそうでないなら探すことになるだろうし、何よりあのメサイヤがいる」
「あのコンリットを防衛に呼び戻す事も考えられますね」
「そうですね。でも向こうもハスカール部隊やUMA軍団の管理や維持に重要な役割を果たしていた父がいない以上は長期の戦闘は耐えられないと思います。つまり今を置いて好機は無いと考えられます」
「それに関しては助けてくれそうな奴がいるぞ」
その言葉に一同が振り向くと、1人の怪我人を連れたパリノスが立っていた。
「その方は?」
「先程交戦したハスカールⅡの1人、グリュロスです。偶然思考低減装置を破壊されて正気に返りました。お願いです、北部連合同盟の皆を救ってください」
「その北部連合とは?」
達人の問いに聞いたことが無い、と首を振るエリクシリオ
「それに関してはまずアトランティス大陸の特性を知っていただく必要があります。アトランティス大陸は首都のポセイドニアの南北に広大な運河があったのですがこれが異世界転移の影響で水の無い唯の巨大な裂け目となって南北を分断する原因となりました。その為北部と南部は互いの状況を全く知らずに今日まで来たのです。北部はクレアルコスという男が都市同士で物流網を組み時には戦争でそれを奪うなどして一大勢力としてまとめ上げています。それを今度のメサイヤが攻撃し仲間達を攫ってそれで・・・・・・帰還用の艦船が出ます。それに紛れ込めば潜入は容易だと思います」
「つまり今世界を攻撃しているメサイヤ達はアトランティス人全員の意思の代弁者ではない、という事ですね。それを示す事が出来れば戦いは終わる。グリュロス殿、どうか案内をよろしくお願いします」
エリクシリオの意見に皆賛同し、決戦の為に出来る事を各自取り掛かる事になった。
アトランティス大陸某所
「アゲシラオスが死んだか」
その地で起きた反乱軍の真っただ中に1人立っていた魔甲闘神メサイヤのフルフェイスマスクの下でティブロンは自分の中で何かの糸が切れて全く別の色の糸がつながるのを感じた。
その事に焦りや怒りや恐怖も感じない。というよりも感じなくなってきていた。
今目の前にいる、北部連合同盟を名乗るアトランティス人の反乱者達を見ても微かな侮蔑と憐みしか感じないのだった。
彼は最初その事に違和感を覚えていたが今では感情を動かす事その物に違和感を覚えるようになっていた。
「では私の統治をあくまで認めないというのだな」
(さすがにクレアルコスを逃がしたか。涙ぐましい抵抗だな)
ティブロンの中の新しい『モノ』の言い方は反乱者には傲慢ととれる言い様だった。
「当たり前だ。我らの守護神はポセイドンただ御一人。そしてその血を受け継ぐ王家のみがアトランティスの支配者だ。こんな訳の分からん神を奉る、それも自分が神だとか称する愚か者を認める訳にはいかん」
「そうか。同胞がこれ程頑迷なのを見るのは耐え難い。といって改心も期待できない以上は仕方あるまい。お前達の指導者クレアルコスの居場所も吐こうとはしまいからな。ではさらばだ」
そして
「光あれ」
その言葉と共にメサイヤから放たれた光が反乱軍を照らす。
「うわああああ!!なんだこれは!?」
「体が岩、いや塩に変わって・・い・・・く」
光に包まれたあらゆる物体が塩の塊となり、反乱軍は人間大の塩の柱となった。
反乱軍はこうして一瞬の内に鎮圧されたがこれが最後の反乱ではなかった。
アトランティス大陸の生き残った諸都市は大半がメサイヤの力に服したものの、彼を異端として認めない者達もいた。
その理由が先ほどの反乱者達も言った『正統性』の問題だった。
これを理由とした反乱は意外にも多く、一つを潰してもまた新しい物が出てくるといった有様だった。
(しかし、先ほどの映像は世界中に流した。これで抵抗する無意味さを知る者もいよう)
そのメサイヤの思惑通り、以降の国内の反乱は激減し世界各国で降伏が相次ぐのだった。
そのタイミングでメサイヤは世界に向けて声明を発した。
「私メサイヤはアトランティスの神として大陸を元の通りにする義務がある。よって現在異世界になお留まる一部と現世の別の場所に出現した土地を元の場所に戻す魔法を行使する。これによって先の審判の日と同様の事が起こるだろう。私としても『無辜の』民の命が失われることは避けたい。よって3日の猶予期間の後つまり3日後の正午にこの計画を発動する事を宣言する」
「何とか修復と出力向上にはこぎつけたがね、本当にあれと対峙するつもりか?」
レジリエンスとアイディオンの鎧を見ながら技師長のパリノスが達人とエリクシリオへ疑問を呈する。
先日公開されたメサイヤの『塩化』の力は世界中に衝撃を与え、アトランティスを中心とした世界国家樹立の提言をする学者や政治家さえ現れ始めた。
「もちろん。きっとこれが最後の戦いになると思いますよ。どちらが勝つにせよ、ね」
「正直言ってあれがどういう原理で発動しているのか分からんのだが・・・ただ分析上はお前さんのハイパーノテロスとメサイヤの出力はほぼ同じだ。ただ言っておくが分析上だからな。実際にどうなるかは正直保証できかねる」
達人らの決意が変わらない事を知るとパリノスは改良点の説明を始める。
「海上で戦う事を考慮して向こうの技術者から提供された海面を歩ける装置を足裏に付けてある。それと溶解液対策用の塗料を全身に塗っておいた。あのクジラの化け物とも恐らく戦うだろうからな。この世界の魔甲闘士のマルスだったか?あれにも同様の物を提供した」
「ありがとうございます、パリノス技師長」
「礼には及ばんよ。技術畑の人間として神を名乗る連中を打ち倒せるかという目標は生涯でこの時しかないだろうからな。必ず生きて帰ってこい。そうでないと経過が分からんからな」
なまじ技術面で劣っている事を痛感しているだけに気休めは言わないが、それがパリノスなりの激励だった。
「マルス本体には対溶解液対策の特殊塗料とアルトマルス時の出力調整機能をベルト部分に追加してある。これで長時間とはいかないまでもある程度はアルトマルスの形態を保っていられる。それとガンウルフとカノンボアにホバー機能を付けたからな。さらにボアの方には急造だが補助シートを付けてある。3人乗り込めるようにね。これで水上での戦いにも対応できる」
「ありがとう、古川さん」
「正直言ってハスカールⅡのパーツを代用してやっと修復したという所が実情なんだ。あのバンに詰める量は限られているからね。だから頼んだよ。これでだめなら本当に後が無いんだ」
「他に言う事があるでしょう。ケイ君、必ず生きて帰ってくるのよ。マルスは壊れても修理できるけどあなたはそうではないんだから」
「僕一人で乗り込むわけじゃないですからね、笠井さん。必ず帰ってきますよ。死ねない理由も生きる理由も全部ありますから」
古川と笠井に笑顔でケイは答える。
その夜
達人は城塞の中庭でレジリエンスの駆動チェックをしていた。
そこへ八重島紗良がやって来た。
「もう休んだら?明日も早いんでしょ。それにエリイさんとは話したの?」
「いや。だが言いたいことは全て終わってから話す。生きる理由が1つでも欲しいからな。向こうもそれを知ってくれている。で、そっちこそどうしたんだ?外は寒いだろ」
兜を脱いだ達人は汗だくの頭を振って腰を下ろす。
「何だろう?言いたいことは一杯あるつもりだったんだけど。ただ、どんなことがあってもちゃんと帰ってきてね。
皆待っているから。その為に送り出すんだからね」
「以前も言ったが俺は確実にできる約束しかしない。戦いの勝敗は時の運もあるからな。だが・・帰ってきたいと思う。俺を家族だと呼んでくれる人達の為にも」
それが達人の本心だった。
「うん。待っているからね」
その言葉に達人は決意を新たにするのだった。




