第63話 父と娘
アトランティス帝国の最高技術顧問たるアゲシラオス博士=超魔甲闘士アポロは部下のハスカール隊を率いて娘の治めるレフテリアの町へ特使として赴いていた。
エリクシリオとしては外交上の問題としてこれを受け入れるしかなかったが、ハスカール隊を町へ入れる事は断固として断った。
娘からの出迎えと案内を受けたアポロは町の大通り抜けた先の広場で突然立ち止まると空中にいくつもの次元の穴を開けると両肩の攻撃端末6つを体から切り離し、それぞれの穴にビームを撃ち込んだ。穴の先に何があるかは見えないのだがエリクシリオは父がその結果に満足していると感じていた。
そして今、城塞を構成する塔の一室で親子はテーブルを挟んで向かい合っていた。
「エリイ、顔は分からんだろうが彼らハスカールⅡの中身は我らと同じ同胞だよ。ハスカール隊の構成員は大陸の帰還と共に全て現生人類共から入れ替えた」
「それで亡命してきた彼らはどうなったのです?」
「我々の指定する特殊な才能の持ち主はいなかったのでね。全員UMA化してもらった」
「彼らと共存する気はないのですか?」
「ありえん。必要のない存在は徹底的に排除するのが我々のやり方だ。それは分かっているだろう?彼らが地球をどれだけ汚染し、他の動植物はおろか同胞たる人類も滅亡に追いやるのをティブロンは幾度も目にしているからな。その歴史的事実に基づいた結論なのだよ」
「アトランティスがなぜ異世界へ追放されたか、その反省が無ければまた同じ事の繰り返しです。戦争の為にあらゆる力を極限にまで振り絞った結果が国を現世から追放させる大災害をもたらしたのではないのですか。今の状況はあの時と全く同じだと思います」
「確かにな。当時は魔法の鎧の力を完全に制御できているとは言い難かった。だが今は違う。完全なる力による世界を我々は作るのだ。私は死という命の限界を超える為の器としてソーサリィメイルを作ったのだ。そしてこれがその成果だ」
アゲシラオス博士は自らの頭部を外して見せる。外れた頭が先ほどと全く変わらない父の声を紡ぎ出すのをエリクシリオは生理的嫌悪感を隠せなかった
「私の考えはティブロンとは少し違う。私の考える強者とは何物にも害されない存在だ。時間にも、空間にもな。それが証拠にドゥ―ムズデイの災厄でさえその姿を変えずに乗り切った人間達がいる。そしてこれから起こる最後の試練を乗り越えた者達を私は全てを今の私と同じ存在へと変える。エリイ、お前もだ。この姿こそ死という災厄を超えた究極の生命の姿だ。それによって人間は苦痛や悩み、争いから解放される。何故ならこの姿ならば食事を取る事も無ければ全く同じ能力である為に他人と比べる必要性も無い、生まれた時と同じ状態が永遠に続く。素晴らしい世界だとは思わないかね。お前の考えている悩みも解決だ。あの青年との寿命の差も当然無くなり、この世界で永遠に暮らす事が出来る」
「それが・・・お父様の言う理想世界とは全ての人間に魂の死を与えるのが望みですか?私は、いえ私達はその申し出を受け入れる訳にはいきません。私は生と死があって命が完全なものだと思います。何も変わらなければ人は何も感じず、考える事もしなくなるでしょう。そのような世界に私は生きたくはありません。それでもあなたはそんな世界に君臨することが重要だと思うのですか?多くの人を破滅させ、支配してまでも!?」
「他者を支配したがる事こそ人間の本質だよ。それを全ての人間が、そもそもその価値も資格も無い者達がやろうとするから下らぬ争いと苦悩が生まれるのだ。我々のモルモットとして死んだジャージーデビルがいい例だ。あれも人の親だったが外ではネズミ1匹支配できぬくせに内ではつまり家族に対しては比類無き暴君として振る舞っていたようだからな。その思考を奪ってやる事が連中にとって無上の幸福となるのだよ」
「そこまで分かっているのならその努力をするべきではありませんか!そうしないのはただの怠慢です。私は別の道を往きます。ですからお父様も」
「死が・・・レムリアの死とその霊が私をそうさせたのだ」
消えるような声。それが父の心の奥底から彼を突き動かしていた物だと知った彼女は微かな安心を覚える。父もまだ人間なのだと。
「お母様の死は覚えています。その悲しみも。ですが私はお母様から悲しみと絶望を超える物を受け継いだつもりです。私は人として変えてはならぬ物、変わってはならないものの為に戦います」
「そうか。それでは仕方ないな」
「ッ!?何の反応も無かった?」
城塞の内外に突然ハスカールⅡの部隊が現れる。
ハスカールⅡはハスカールの頭部にリング状の思考低減装置を増設し装着者は戦闘以外の思考を考えられなくするようになっていた。更に盗用したマルスのデータを応用し、左側に大型エナジー・キャノンを備えた飛行用背部バックパックを備えている。更にはこのアゲシラオス=アポロは自身の率いる部隊に使い捨ての次元移動装置を渡していた。
「ハスカール隊、彼女を殺せ。私はレジリエンスとマルスの相手をせねばならん」
その言葉が終わると同時に、エリクシリオ目掛けてハスカールⅡが手持ちのグレイブラスターを放つ。
アゲシラオスはその光景を振り返らずに部屋を出ようとするがそこへイオアンネスが飛び込んできた。
彼は悪いとは思っていたがずっと父娘の会話を聞いていたのだった。
「正気ですか、旦那様!?今ご自身の娘を殺すようにと?」
「そうだ。君はついてくるよな、イオアンネス?生粋のアトランティス人にはここは息苦しい事この上ないからな」
「質問に答えて下さい!こんな事はあってはならない。こんな事が許される世界を作るというなら儂もこの場に留まりますぞ」
「そうか。ならば仕方あるまい。お前は老齢の身だ。もうそこまで生きられまいから手を下すまでもなかろう」
そう言うと彼は城塞の中庭へ飛び下りた。
レフテリアの町の門を守っていたハスカールⅡ2名は町に近づく正体不明のバンを見るや警告なしに発砲した。
「このエナジー反応はアポロの物だわ。2人とも気を付けて』
「町は既に占拠されていると見ていいな」
「でしょうね」
「ところでマルスは大丈夫なのか?」
「対アポロ用にウイルス対策はしているけど、もし新型だった場合外部からワクチンプログラムを使うから」
芹沢達人の心配に横から笠井恵美が対策を伝える。
「なら行くぞ」
左右に揺れるバンの両扉からレジリエンスと全ての武器を装備したマルスが飛び出す。
レジリエンスが左腕の壁で熱線を防ぎつつ右腕から火球で1体をマルスがマルスブラスターの早撃ちでもう1体が射撃前にそれぞれ倒す。
城門を飛び越えた2人は町中にひと気が無い事に気づく。
「どういう事でしょうね?ここは守るに値しないとでも?」
「この町は上に行くほど重要な設備がある。それに至る所にに路地があるからそこに待ち伏せているかもしれん。少し待て」
レジリエンスはそう言うと探知魔法プサクフで辺りを探る。
彼の血液の変化の影響か、以前よりも広範囲を探知できるようになっていた。
「妙だな。上の地区に行く坂の上下にしか連中は配置されていない?」
「人手不足なのでは?」
「もしくはアポロの力に絶対的な信頼を寄せているか」
「いるんですか、やはり」
「丘の上の城塞内だ。まずいな」
「次元移動は出来ないんですか?」
「非常時だからか町全体に特殊な結界が張られていて、使えない」
強行突破あるのみ
そう結論すると2人は大通りを駆け抜け件の坂に差し掛かる。
この坂は攻められた時を考え、急勾配かつ曲がりくねっていて、下からでは坂の頂上の様子が判らない構造になっていた。逆に上からは下の様子は筒抜けだった。
レジリエンスは杖先から水の銛を発生させ坂の曲がり角の石畳に投げつけると、銛と杖を結ぶ光る水の糸を巻き取り空中へ舞い上がる。その動きにつられて崖の上と下の計4名のハスカール達がレジリエンスに狙いを付ける。
その隙にマルスが坂の下のハスカールの1人をブラスターで撃ち抜き、もう1人を無線で呼んだパワードペッカーの
不意打ちで倒し、残る2人をパワードスマッシャーで吹き飛ばすと自分達へ向けて放たれる熱線を躱し、警戒しつつ坂を上がっていく。
空中へ上昇したレジリエンスの体にも熱線が掠める。
銛を巻き取ると下降しながら再度銛を熱線が来たポイントへ投げる。
銛はハスカールのすぐ傍に刺さり巻き取る勢いでその1体を体当たりで吹き飛ばす。
騒ぎを聞きつけた2人のハスカールが侵入者を挟んで同時に現れ、熱線銃の引き金を引く。
レジリエンスは『カスレフティス』(ギリシア語で鏡の意)の魔法を左腕に縦の様に出現させ熱線を反射、1体へ直撃させるともう1人を坂下へ蹴り飛ばす。後れてやってきた3人目が自分を狙って照準を付けているのを見た彼は火球を放つ。
ハスカールは炎を上げて倒れる。
「問題はこの中だ」
「超魔甲闘士アポロ・・・父さんのいや人類の敵」
「やはり手慣れているな。その戦闘力はやはり危険だな」
城塞からその主のような悠然たる足取りで超魔甲闘士アポロが現れた。
そして城塞内で一瞬赤い光と青い光が灯ると
「まだ思考制御に問題があるか」
彼は振り返りながら嘆息する。
「赤いのはともかく青いのは何の光だ?」
「フ・・・ハスカールⅡのエナジー・キャノンだよ。尤も外れたようだがな」
エリクシリオを狙うハスカールⅡの部隊は彼女を確実に殺す方法を選択した。結果チャージの遅いエナジー・キャノンとグレイブラスターを同時に撃つという選択をした。
だが熱線の束は彼女の目の前で火の四元将アイディオンの姿となり、主を守るようにひとりでに装着されていく。
装着完了と同時に赤い光が室内を照らし、ハスカールⅡ達は再び引き金引くより早くアイディオンの放った青白い炎を受けて消滅した。
アイディオンはアポロを追って中庭に出た。
城塞の入り口にはレジリエンスとマルスが、そしてアポロを挟み込むようにしてその背後にアイディオンが立つ。
「さあ、来たまえ。君達3人に勝ち、このアポロが唯一無二の魔甲闘士となる。その為に改良を重ねたのだからな」
「お父様。あなたを倒すしかないというのなら、ここで決着をつけましょう」




