第59話 ザ・ドゥ―ムズデイ④現れた救世主
空を裂く光を放つタワーを見上げながらアポロ=アゲシラオス博士はティブロンへ通信を入れる。
「手間取っている様だな?」
「この魔甲闘神とやらはどんな人間を選ぶようにしたのだ?全く反応が無い」
「実質9割方、いや事実上完成しているというべきか。神の如き力を再現する為の超高出力を実現した結果、四元将のような意思といった曖昧な物ではなく明確な人格がその鎧に宿っている。それと対話するのだな」
「また意図的な不具合があるのか。他人が使うと思って余計な物を付けてくれる」
「それを人間は受け入れるしかない」
「普通はな、そういう考えを怠慢というのだ」
「違う。神が人間に理解できる存在ではないという事を我々は忘れがちだという事さ」
「ソーサリィメイルはあくまで物質だ。人間に使われる為の兵器に過ぎん」
「謙虚さがあれば良いだけだよ」
そう言うとアポロは眼下のポツポツとようやく現れた自衛隊の戦力に憐みの目を向ける。
「現生人類もアトランティス人もな」
「これだけ攻撃しても傷一つ付けられんとは」
タワー攻撃の指揮を執る自衛官に緊急の連絡が入る。
「はい、いえ全く。…なんですって!?正気なんですか、しかし、しかしっ、分かりました」
「どうしたんです」
「全員退避だ。この一帯を核攻撃するそうだ。それも後2時間後だ」
「そんな馬鹿な!よく政治家はそんな事を了承しましたね?」
「自分達は生き残れると信じ切っているのさ。だが命には代えられんのも事実。マルスにも連絡を入れろ」
その様子を見ていたアポロは
「連中の動きが慌ただしいな。何かあったか?」
「どうやら連中は核攻撃を決めたようだ」
「ティブロン、なんだねそれは?強力な兵器だというのは察せるが」
「あれは使用後に強力な毒素をばらまくのですよ」
「素晴らしい。それを浄化できればこの破壊劇の最高の終幕となるだろう。どうだね、魔甲闘神の調子は?」
「ようやくコツを掴んで来た。だが気を抜くとバラバラになりそうだ」
装着者たる自分の意思とは無関係にいきなり起動したとはティブロンのプライドからはなさなかった。
「急ぎたまえ。これ以上の遅延は君のお株を奪われかねんぞ?」
(そうか。やはりこのメサイヤの装甲材の片割れを持つレジリエンスが何か始めたな。メサイヤはそれに反応しているのか)
スィスモスとマピングアリの攻防を目にしたアイディオンは降下しながらフロギストンをマピングアリ目掛けて放つ。
その火球を見たスィスモスは怪物の盾となりその攻撃を受ける。
火球を撃ったアイディオン=エリクシリオが降りてきた。
「ここにいたのですね、タツト。でもなぜ?」
彼の不可解な行動を問い質す。アイディオンは恐るべき光を放つ塔へ向かう途中、別の光が見えたのでそこにスィスモスがおり、彼と戦っているUMAへ攻撃を掛けたのだった。
「あいつは紗良が変化した物なんだ」
「何ですって?それでこの宝珠の力を使って分離を?」
スィスモスは頷く。
そこに2人に割って入るようにマピングアリが襲いかかる。
2人はそれを躱し、距離を取る。
「そんな事をしたら貴方の体がどうなるか分かっているのですか?今貴方の体は変化しかかっている。急激な魔力をそれも高濃度の魔力を浴びる事になったら、今度こそ貴方は怪物と化してしまうかもしれないのですよ?」
「それでも俺は彼女を救いたい。紗良とその家族を。戦士ではなく、人間の生き方を教えてくれた彼らを。それにずっと考えていたんだ。何故俺とレジリエンスが今まで存在してきたのか。今日のこの災厄を止める為だと」
「タツト、その考え方はいけません」
「そうかもしれない。だがあの塔の光が人の世を終わらせる力ならば俺は、俺達はそれに抗う力の極限を体現しなければならない。そうは思いませんか?」
その言葉にエリクシリオは目を閉じて
「そうですね。私もサラを救いたいと願うのは同じです。タツトこちらに」
そう言うとスィスモスの手を取り半球へと乗せる。
「何を?」
「救うのでしょう、彼女と世界を。その為の作業工程をお互いに知っておく必要があると思うのですが」
「協力してくれるんですか?」
「『俺達が』といったでしょう?宝珠の制御は私がします。そしてアイディオンを宝珠の魔力の媒介にします。これでも膨大な魔力量にあなたの体が耐えきれるかどうか」
「いえ、それでいきましょう」
エリクシリオはアイディオンの鎧を脱ぐと宝珠を手に持ち目を閉じて意識を集中する。
「原初の光よ。今一度獅子と鷲を束ね、もう一つの躯を与え給え。世界に新たな光を灯し給え」
宝珠から光が放たれ、アイディオンの鎧は頭部がライオンである炎のグリフォンへと変化する。
「この世界に光を!超融合合身!!」
エリクシリオと達人の声が重なると同時にスィスモスの体におぶさるようにグリフォンが前足をその肩にかける。
グリフォンはケイモーン・ノテロスの姿へと変化すると各パーツがスィスモスの鎧の上に被さっていく。
ノテロスの兜の両側面にスィスモスの角が生えた頭部
肩のパーツが重なるように配置される。
両腕の爪が外れて左肩の戦鎚に合体して両刃斧となる。その腕の空いた部分にノテロスの
腕パーツがまるで手袋をはめるように合体する。その後斧は左腕に接続される。右手には両刃のトライデントを持つ。
両脚も下駄かブーツを履くようにそのままノテロスの脚パーツが合体
背部にノテロスの翼が装備される。この左の翼の可動域がスィスモスの左肩の斧の部分と干渉する為に斧の位置が変わったのである。
最後にスィスモスのライオンの頭をかたどった胸パーツの上にノテロスの鳥の胸甲が重なり光と共に変化、胸部に金色のグリフォンの姿が浮かび上がる。
『これが、俺達の究極の力、ハイパー・ノテロス・・・凄いパワーだ』
「やった、成功したわ。ハイパー・ノテロスへの合身に」
上空のハイパー・ノテロスを見上げて、エリクシリオは額の汗を拭う。
新たな敵の出現に動じることなく向かってくるマピングアリ。それに対して、ハイパー・ノテロスは左腕の斧をクローに変化させると怪物の胸に突き刺す。怪物の悲鳴と同時にその体に光の亀裂が走り、その中へハイパー・ノテロスが腕を突き入れ、八重島紗良の体を引っ張り出した。核となる肉体を取り除かれたマピングアリはそれを取り戻そうと腕を伸ばすがハイパー・ノテロスのトライデントが怪物に突き刺す。マピングアリは断末魔の叫びを短く上げて光の粒子となって消えていった。
(後はあれだ)
気絶した紗良を建物内の床に横たえるとハイパー・ノテロスは翼を広げタワーへ向かった。
「こちらは間に合わなかったか?・・しかしこれを破壊するつもりか?」
アポロの疑問に答えるかの様にハイパー・ノテロスは両腕を突き出す。右手のトライデント・左腕の大斧・そして胸のグリフォンの頭から赤い光がそれぞれ伸びて彼の目の前で巨大な光球を形作る。そしてその赤い光球を塔目掛けて撃ち出した。
「いかん!」
その想定外の熱量にアポロは光球の射線上に次元の穴を開けて待ち構えるが光球はその穴を何事も無かったかのように通過し、そのまま塔のバリアーを容易く破るとそのまま塔を真っ二つにへし折り爆散させた。
「何という力!!我らが魔甲闘神メサイヤに匹敵する!!」
寸前で離脱したアポロはその爆発に吹き飛ばされながらもその力を開発者として称賛せずにはいられなかった。
その昔彼がレジリエンスに望んでいた力を今発揮したからである。
「あの野郎、やりやがった」
「帰るか、ナウエリト」
「そうだな。目的は達成されたからな。あいつの弔いもしないといけないからな」
2体のUMAは敵に称賛を送りながら消えていった。
「やった?やったのか!?これで日本は、世界は救われる」
自衛官は副官と共に安堵の表情を見せる。
その言葉通り、この情報は直ちに首相官邸と国連軍に通達され核攻撃は中断された。
「良かった良かった。これで我が国は危機を脱した訳だ。この空も直に元の青空になるだろう」
笑顔を見せる首相は秘書が軽蔑の目で自分を見ている事に気が付かなかった。
「後はこの空を戻せば」
だが達人はこれ以上ハイパー・ノテロスを浮遊させることができなかった。
達人は4m近い巨体を何とか着地させた後ハイパー・ノテロスは最後の力を振り絞り背中の翼を広げ全身に大気中の大量のエレメンタル・エナジーを吸収し始める。
「駄目です、タツト、これ以上は、こちらが持たない」
エリクシリオは創生の宝珠からあふれ出る魔力を制御しきれず、撥ね飛ばされる。
ハイパー・ノテロスの巨体が2つの甲冑と2体のUMAへ分離したその時
空に眩い光が出現した。
「あれは・・天使か?だが蜘蛛に見えて不気味だ」
文明存続委員会本部から八重島夫妻や委員会の生き残りを救出したアルトマルスは空に突如現れた光に不吉な物を感じた。彼はタワーの破壊が出来ないと悟ると関係者の救出の為に本部へ戻っていたのだ。
光を放つその鎧は明らかに未知の魔法の鎧だった。
U字に湾曲した角を持つ四つ目状のバイザーを持った兜
背中の4枚の翼
右腕が剣、左腕に丸盾を模した装甲をした腕甲
両脚のパーツは猛禽類の脚の様だった。
その全体の姿は確かに見た目には図鑑に載っている蜘蛛を彷彿させる。
その魔甲闘士は右手を掲げ、人差し指を天に向ける
たちまちに空の割れ目は塞がり元の青空が戻り、荒れていた海は穏やかになった。
それが魔甲闘神メサイヤの力だった。その姿と力は世界中の空に映し出され、光と共に何処へと消えていったこの救世主を早速信仰する者達が現れた。
この天使がこれから何をするのかも知らずに。
後に審判の日と呼ばれる出来事は終わった。
世界各地を襲った災害によって僅か1日で世界人口は半分となり、各地の水没によって世界地図もまた変わった。
大西洋上に浮かぶアトランティス大陸から驚くべき声明がメサイヤから発されるのはその次の日の事だった。
それは新たな世界をめぐる最大最後の戦いの始まりであった。




