第58話 ザ・ドゥ―ムズデイ③アトランティス大陸浮上
その日異世界にあるエリクシリオの治める町レフテリアはいつもと変わらない日常を送っていた。
昼時に突如地響きが発生するまでは。
「まさか、地震?皆建物から離れて。中にいる人達も外に出るか、身を守れる場所に隠れて」
丘の上にある城塞の執務室にいたエリクシリオは人々に避難するよう呼びかける指示を出した。同時に違和感を感じ窓から見上げた異世界の赤黒い太陽が大きくなったと感じる。
「俺達、空を飛んでないか?」
中庭にいる誰かの言葉を裏付けるような浮遊感を全員が覚える。
「太陽に激突しちまう」
また別の言葉に人々はパニックに陥る。
「落ち着いて。人々を城塞の方へ誘導させなさい。まだ太陽との距離はあります。落ち着いてゆっくり進むのです」
混乱を鎮める為エリクシリオは自身言葉をゆっくりと話す。
それでも言葉の端々に震えを隠せなかったが、それに気づく者はいなかった。
彼女の言葉に従い続々と丘の上の城塞に人々が集まって来た。
やがて空が割れて奥から黒々とした虚無ともいえる空間が現れ、彼らは急速に割れ目へと『引っ張り』上げられる。
「障壁を張って」
エリクシリオはそう言うと住民を守る為に周りの他の集落も青白いエレメンタル・バリアーを張り始めているのを見た。
「うわーっ」
「怖いよー」
バリア―越しにも次元移動の振動は凄まじく城塞の一部が崩落するのではないかと思われた。
「爺、ここをお願いします。私は障壁の調整を」
「お気をつけて」
イオアンネスにそう言うと衛兵の1人と共にエリクシリオは制御室へ入る。
「首長、このままでは魔力が持ちません」
「パリノス技師長、私の魔力を使います」
「しかしそんなことをしたら・・・・」
「障壁が破れたら皆助かりません。あのように」
パリノスらは彼らの頭上をバリアーが切れ、街ごと虚空へ消えていく人々を見て
「この先が人間の住める世界だと良いですがね」
「信じましょう」
そう言うとエリクシリオは制御版に魔力を流し始める。
(タツト、力を貸して)
そうしてどの位時が経っただろうか。
激震が収まり周りの景色が黒から青に変わった。
その色の中に帯状に群れる魚群が見える。
「海だ、海だ」
「全員衝撃に備えてください。もう障壁が保てません」
言い終わる前に町は、いやアトランティス大陸の一部が大西洋上へ浮上する。
だが土地のいくつかはエナジーの力に引き裂かれ、全く別の場所へ現れた。
エリクシリオらのいる町はK県f市付近の海岸に出現した
それはアトランティス人の1万2千年ぶりの現世への帰還だった。
「あの光が原因か?」
科学者であるからか立ち直りの早かったパリノスはタワーの役目を分析する。
タワー周辺には時折爆光が咲くが遠目には塔には何の影響も無い様子だった。
「もしやタツト達がそこで戦っているのかも知れません。障壁の復旧にはどの位かかりますか?」
「単に魔力の使い過ぎというだけですからすぐ元通りになりますよ」
「ありがとう。ここをお願い致します。あれはとても不吉なものです」
そう言うとアイディオンの鎧を纏い、エリクシリオはタワーへと向かった。
アトランティス大陸浮上によって高潮や津波が発生した。
それは地球全土に壊滅的な海面上昇を齎し、既に壊滅的な被害を出していたいくつかの島や低地が完全に海の底に沈み、船やボート等で避難をしていた海上の人々も波にさらわれ波間に消えていった。またそれらの被害を幸運にも受けなかった国にも国土の浸食という被害をもたらした。加えてアポロはそのコンピュータウイルスを世界全土にばら撒きシステムを乗っ取られたハスカール達は世界の陸地のあらゆるところで人間狩りを始めていた。
これらの一連の事件の元凶ともいえる『タワー』のある国・日本も例外でなくこの時東京湾は従来の1.5倍ほどに広がった。
「馬鹿な!あの塔に核攻撃を掛けるですって!!大統領考えなおしてください!」
「あれが元凶なのは言うまでもないだろう、首相。もはや人類滅亡の時だ。それに比べれば被爆地が2か所から3か所へ増える位どうって事あるまい。それとも貴国はこの責任をどう取るというのかね?」
「大統領、それは今我が国の自衛隊が・・」
「一向に成果を上げていないと聞いているが?それに世界各地で暴れまわるハスカールだったか?そいつらも元をただせば貴国の所の物だと聞く。混乱が終わった後どれほどの賠償をしてくれるか見ものだな。いいか、決定は覆らん。今から6時間後国連軍の核ミサイルをあの忌々しいタワーへ向ける。以上だ」
そう言うとホットラインは切れる。
「首相、会見を」
秘書の言葉に
「どうしろというんだ。どこへ逃げろというんだ!?我が国は見捨てられたんだぞ!?」
首相は半狂乱になって官邸の部屋を歩き回るだけだった。
これら破滅の映像と各国のやり取り、そして世界各地のハスカール隊の通信機から聞こえる人々の悲鳴がアポロのウイルスに操られたコンピュータシステムを通して文明存続委員会の指揮所に木霊する。
古川技術主任も笠井恵美も放心したようにそれらを眺めているだけだ。彼らの耳に黒川博士を絶息させる音と続けてドサリと床に崩れ落ちる音が届いたが振り向く事は無かった。
ケイもマルスのヘルメットのモニターに映る、世界の破滅の映像を見せつけられ歯噛みする。UMAの首魁を葬った事の喜びは無く、むしろ操られるままの自分と誇りを持って散っていったフライング・ヒューマノイドへの畏れと敬意に押しつぶされそうになっていた。
「人類の滅亡を見ていろというのか。敵にあやつられたまま何もできず」
だがモニターの一角に父親の姿が映る。
『この映像が流れているという事は組織内の抗争で私が死に、かつマルスが敵の手に渡った事を意味する。私は他人を信用していない。だが人類は愛している。私はこの矛盾を解決するために文明存続委員会を作り、私の独断でマルスへ新たな機能を追加した。このアルトシステムは考え得る全ての敵のマルス奪取手段を跳ねのける、最強の力をマルスに与える。ケイよ、この力を使い人類の文化文明を、人類の明日を守ってほしい。これが私がお前に出来る唯一の事だ。頼んだぞ、ケイ』
その映像が終わると同時にマルスの各部装甲がはじけ飛ぶ。
ヘルメットのバイザーが外れ下の双眼が露出、身体各部に血流の様に青白い光が循環している。
最終形態アルトマルス
「こんな物が用意されていたとは。だがその出力では残念ながら塔を破壊できん」
「だが、お前達に一矢報いることは出来る」
アルトマルスは全エネルギーを放出、全身から炎の様に青白い光が吹きあがり、パワースマッシャーに集約、中央部から白色の光が輝きを増していく。
「馬鹿な、反物質砲だと!しかもこの出力は一体どこから?」
「そうだ。一時的だが20倍の出力がある、こいつならタワーを消せる!ギガカラミティ・イレイザーファイナルシュート!!」
アルトマルスは白色光を放つ。その直前次元の穴が広がった。アポロがタワーを守る為に作り出したのだ。
「しまった!ビームはどこへ?」
「良いねぇ。達人、お前を葬る地獄の使者にピッタリだ」
ジャージーデビルは哄笑しながら空を飛び、頭の角から電撃を乱射する。
「くッ、紗良・・・!」
レジリエンスは電撃を躱すが、その先に待ち構えていた類人猿型UMAマピングアリの死神の鎌を受ける。
「ウッ、何ッ!」
戦いの素人である紗良の能力を反映してか威力そのものは殆ど無い。だが受けた右肩の装甲が黒い霧となって跡形も無く消滅する。右肩に装備されていたエレメンタル・アンプリファイアを喪失したレジリエンスの戦闘力と魔力は低下、単純なスペック差でマピングアリと逆転してしまった。
「どうやら異世界と同じ大気成分の為か消えないで済むらしい。ジャージーデビルは我に任せろ」
力を回復したサンダーバードが飛び立つ。
「頼む、サンダーバード。何とか紗良を助けなければ」
レジリエンスは探知魔法プサクフで悲鳴のような鳴き声を発するマピングアリ内部をスキャンする。
(まだジャージーデビルの細胞と完全に融合しきっていない。ならば)
ガッシングラムとレジリエンスは合身してグランドウォリアーとなり、空ではジャージーデビルとサンダーバードが激突する。
「そらそら、守るべき人間達が死んじまうぞ」
ジャージーデビルは目前のサンダーバードを無視し、地上のマピングアリ目掛けて尻尾先端と両腰のビーム、そして角からの電撃を放つ。
「おのれ、貴様本当に人の親か」
それをサンダーバードは自身の身を挺して彼らを攻撃から守る。
「そんなつもりは無いな。あいつが勝手に生んだだけよ。ま、都合の良い奴隷が手に入ったと思えば悪くなかったが、それをあのガキは裏切りやがった。だがそれも今日までだ」
ジャージーデビルはせせら笑う。
地上では類人猿型上級UMAマピングアリがグランドウォリア―へ鎌を振るう。
女性の悲鳴のような鳴き声を上げて襲いかかる怪物に、融合されている紗良の痛みを感じ取り、達人は意を決してグランドウォリア―の戦斧を怪物の肩口に振り下ろす。
その直前ジャージーデビルが
「いいのかァ?そいつの細胞は攻撃を受けた箇所の細胞融合速度を飛躍的に高めるぜ。つまり、攻撃すればするほどその娘は助からない確率が高まるわけだ」
「何ッ?」
寸止めで斧を止めたグランドウォリア―はマピングアリの剛腕が残薙ぎに払われ吹き飛ばされた。
地面を転がるグランドウォリア―の懐から白井良子から渡された創世の宝珠の片割れが転がり出た。
「そうか。これを使えば、融合速度を超えて細胞と紗良の体を分離させられるかもしれない」
半球の宝珠に斧を近づけるが、強烈な光が間に奔り同じ極で反発しあう磁石の様に両腕が弾かれる。
『魔力が足りないんだ。宝珠の力にこっちが負けているんだよ』
ガッシングラムが悔しそうに言う。
「しかし・・・・」
上空ではジャージーデビルとの熱線の応酬を繰り広げているサンダーバードはそれどころではない。
「スィスモスの装甲と魔力ならばどうだ?少なくともジャージーデビルの攻撃は無視できるはずだ。」
「それに賭けるしかねえか・・・」
ガッシングラムはレジリエンスと分離すると大きく跳躍、サンダーバードと融合すると鳥顔のグリフォンとなる。
「マピングアリ、あの合体を阻止しろ。死にたくなかったらな!」
合体中に発生するエナジー・フィールドを破れずに苛立つジャージーデビルはマピングアリの鎌の力を使わせるべく、指示を飛ばす。マピングアリは一瞬だけ躊躇するように硬直したが、唸り声をあげて鎌を振り上げる。だがその一瞬で合身の完了したスィスモスはジャージーデビルの熱線を受けながら鎌を躱すと巨大戦斧を振り上げる。
(紗良、少し痛いだろうが我慢しろよ・・・)
マピングアリの体中央の人間状の瘤と本体を繋ぐケーブルの様な器官目掛けて撃ちおろす。
本体から切り離された瘤が紗良の姿に戻りマピングアリの姿は黒い霧となって消えた。解放された紗良にスィスモスが駆け寄る。
「よかった、よかった。間に合ってよかった・・・・」
「達人、私、私・・・・え?いやあああ!」
安堵と喜びの涙は再び絶望と悲鳴の涙に変わる。紗良の肩と腕からマピングアリのケーブルが生えてきてスィスモスを吹き飛ばすと再びケーブル先端に黒い霧が集まるとマピングアリの姿に変わる。
「そんな・・・駄目なのか!?」
「ハハハハハッ、マピングアリの魔力を断ち切れなかったようだな。その姿は魔法音痴の脳筋ってわけだな」
空中で笑い転げるジャージーデビルの言葉にスィスモスは再び懐から創世の宝珠を取り出す。
『そうか。スィスモスとケイモーン・ノテロスの2つの力を合わせればあるいは』
サンダーバードは達人の意図に気が付く。
「そうだ。行くぞ!」
達人、サンダーバードそしてガッシングラムが念じると宝珠が輝き赤いエナジーに包まれたエネルギー体のケイモーン・ノテロスが姿を現した。だがその姿は一瞬にして煙の様に消えてしまった。
「消えた?」
『増幅器が一個ないからな。実体がない物を維持し続けるだけの魔力がこちらにないんだよ。何か依代の様なものがあれば話は別だが、そんなモンがおいそれと転がってやしねえしな』
「ざんねんだったなああああ!?」
息子達の失態になおも笑い転げていたジャージーデビルを突如としてしかし相応の裁きの光が襲う。アポロが作った次元の穴から出現した反物質砲がジャージーデビルの下半身を吹き飛ばし彼方へと運び去る。
「一体何が?」
目も眩むような光の消え去った空を見つめていたスィスモスの目に真っ赤な鎧が映る。異変を察知したアイディオンがこちらに向かって降りてきた。
今反撃の風が吹き始めていた。




