第57話 ザ・ドゥ―ムズデイ②審判の時来たれり
この世の地獄
一日で地球はその形容が相応しい惑星と化した。
タワーから降り注ぐ空から降り注ぐ大量の高濃度エレメンタル・エナジーによって環境バランスは崩れさった地球全土は竜巻、台風、山火事、熱波、津波といったあらゆる自然災害を各地にもたらした。
「極地で超高温発生!南極と北極の氷が急速に溶けていきます!」
「メキシコ湾流の流れがストップしています!このままではヨーロッパ全土が人の住めない土地に・・・」
「エレメンタル・エナジーの影響はどうなっている?」
絶望的な報告が次々と入ってくる文明存続委員会本部の指揮所で黒川博士は唇を嚙みしめながらも指示を飛ばす。
モニターの1つがどこかの都市の監視カメラの映像に切り替わり、類人猿型UMA XYZ1へと姿を変えていく『選ばれた人間』と怪物から逃げ惑いながら黒い霧となって消滅する『裁かれた人々』の様子を映し出した。
その場の全員が絶望と悲嘆に静まりかえる。
「一体、いったいどうなっているんだ!?黒川!!」
八重島修一郎は項垂れた黒川博士に掴みかからんとするが、妻の梓に止められる。
「それは我々からお話しよう」
ドアを開けて入って来たティブロンが勝ち誇った笑みで傲然と言い放つ。
「タワーに細工をしたな?」
「いいえ。元々こうする予定でした。尤もまだ目的は達成されていませんがね」
「目的?」
「そう。全てを消滅させるあの光は調整次第で我らが故郷アトランティス大陸を引き寄せるトラクタービームの役割を果たす。1万2千年の時を超えて異世界からアトランティス大陸が浮上し、現生人類の暮らす全ての大陸が異世界へと飛ばされる。これが我々の計画だ。最もそうなる前に現生人類は絶滅しかねないがな」
「そんな事をしたらどんなことになるか分かっているのか?津波や海面上昇でどれだけの島や人が犠牲になるか・・・!」
ティブロンは笑みを浮かべながら修一郎に返す。その視線の先にはUMAに引き裂かれ絶叫しながら霧となって消えていく人々の地獄絵図があった。
「そんな事より今回の計画の立役者を紹介しよう。アトランティスの、いや世界最高の科学者アゲシラオス博士だ」
途端に全てのモニターがぷつりと切れると指揮所全てのモニターに超魔甲闘士アポロが映る。
「・・・まさか・・・」
「時間もないので堅苦しい挨拶は抜きにしよう、現生人類の諸君。君がこのアポロの基礎設計をした黒川博士か。君のおかげで素晴らしい鎧を作ることが出来た。この発想は私には無かった。素直に称賛しよう」
「アゲシラオス博士、例の機能はどうなのです?」
「今動かしている。君のいる場所は流石に対抗策がとられているがじきに掌握できるだろう」
その時ティブロンが入って来たドアが再び開き、予備の装甲服を装着したマルスがブラスターを構えて飛び込んで来た。
「これ以上の勝手はさせない!」
「フ・・・無駄だよ」
マルスは構わず引き金を引く。だが光弾が出る直前ケイの意思とは無関係に突如マルスの腕がグニャリと曲がり自分の左脇腹を撃っていた。
「フフフフフフハハハハハッ!黒川博士、貴方の悲観主義に今日は感謝しますよ!何と言ってもそれは貴方がアポロに仕込んだものですからな」
「・・・そうだ。私は文明存続委員会が日本政府の賛同を得られず、警察や自衛隊と交戦する場合を考慮し、アポロに一定範囲内のあらゆる電子機器を掌握し、意のままに操る事の出来るコンピューターウイルスを仕込んだのだ」
「そしてその敵をマルスが排除する。だが私の手によりアポロは更なる改良を加えられより完璧となった。今やこの国の私の作ったソーサリィメイルを除く全ての機械は我が下僕だ。さあ、行くがいい。我らの敵を抹殺するのだ」
アゲシラオス博士の号令に従い2名を残してマルスとハスカール達は一列に並んで部屋を出て行く。各人のヘルメットからは自分の意思通りに動かない事への困惑と指定された対象すなわち現生人類と彼らの変化したUMAの抹殺への拒否の叫びが木霊していた。
「彼らに何をさせるつもりなの?」
「勿論人間狩りですよ、マダム。世界をこうなるまで放っておいた彼らに下るべき判決の結果が、審判の日が今日だった。その時が来ただけですよ。貴女とご主人は貴重なサンプルとして我々が保護します。これ程までにエレメンタル・エナジーに曝されながら人の姿を保っている娘さん共々その秘密を解明したいのでね。・・・・連れていけ」
ティブロンは梓に冷酷に言い放つと今や彼の手先となったハスカールに命令し、八重島夫妻を連行させる。
「さて、降伏宣言をしてもらえますかな?黒川博士。もはやあなたの理想は成し得ないものとなった。ここから先は貴方が予想した通りの地獄、人間がかつて築いた文明を再建できず滅びていくだけの緩慢な死の世界だ」
「そのようだな。そして私はそのような世界は見たくはない」
そう言って黒川博士はグッと力を込める。ティブロンは黒川が自殺を試みると勘づいて念動力でそれを阻止した。
「だがもう少し現世での生に付き合ってもらいましょう。私の夢の実現する瞬間をぜひ人生最後の光景として見て頂きたいですな。その先はお望みどおりに殺してあげましょう」
そう言うとティブロンはアトランティス大陸浮上の10秒後に黒川博士を絞め殺すように空中に固定したまま勝ち誇った笑みを浮かべて、最後の仕上げの為に指揮所を出て行った。
アポロは自身の目の前に突如パワードスマッシャーを出現させるとそれを両手で抱え込み青い光を流す。見る間に修復されるパワードスマッシャー。そこにベルトからパワーユニットを引き抜くとスマッシャーの台尻に挿入する。このユニット自体はマルスの物と外見は同じだが、アゲシラオスの手によりアポロの性能の向上によりこれ1つで現代先進国の大都市1つ分の1日の必要電力と同等のエネルギーを賄う事が可能な代物と化していた。
「さて、残るは君達怪物共の始末だが・・・やはり専門家に頼むとしよう」
「何?」
フライング・ヒューマノイドの振り返った先には俯き加減歩いてくるマルスの姿があった。アポロが無造作に投げ渡したスマッシャーを受け取るとそれを3体のUMAへと向ける。
「1発分だがレジリエンスだけでなく君達もあの反物質砲の味を味わって欲しいのでね。それに流石に1対3というのは不公平だな。数の上でも公平にしなければ面白くない」
そう言うとアポロは両肩の大型端末をナウエリトへ向けて飛ばす。端末はビームを発することなくそのまま超高速で向かっていく。
「危ない!」
フライング・ヒューマノイドはその動きに不吉な物を覚えナウエリトを突き飛ばす。端末が針の様にフライング・ヒューマノイドに突き刺さる。
「ぐうッ・・・・くっ」
黒い電流がフライング・ヒューマノイドの全身に走り、彼は糸の切れた人形の様にくずおれた。
「どうしたんだフライング・ヒューマノイド!?」
駆け寄るイエティに突然ガバッと立ち上がったフライング・ヒューマノイドは全身から電撃を発して彼女に応えた。
「グっ・・・何をするのだ?」
「単純な話だ。本来無機物にしか適用されない病原菌を生物にも有効なように私が改良したのだ」
アポロのせせら笑いにナウエリトの怒りが爆発する。
「ふざけたマネしやがって!・・・貴様は、貴様だけは許さねえ!」
アポロにナウエリトとイエティがビームと冷気の渦を放つがそれらは全てタワーに備えられたバリアーに阻まれる。
「そんな事をしている暇があるのかね?もう反物質砲のチャージも終わる」
「避けろ!」
「フフフ、傑作だな。UMA抹殺が使命のマルスがそれを言うとは」
「俺の使命はこの世界の人間を守る事だ。今その最大の障害はお前達アトランティス人!こいつらは二の次だ」
「なるほど。だが口では何と言おうがだが我らの支配から逃れられぬ。このようにな」
アポロの意思に操られマルスの指はケイの意思とは無関係にパワードスマッシャーの引き金を引く。
白色光の渦がナウエリトとイエティを飲み込む寸前、フライング・ヒューマノイドが彼らを突き飛ばし、光の渦に呑みこまれる。
「フライング・ヒューマノイド!」
「お前、なぜ?」
「年長者が先に逝く。世の理というだけです。お二人には私の・・・・」
そう言うとフライング・ヒューマノイドは光に分解され、空へと昇っていく。イエティとナウエリトには彼が何を言おうとしたのか判っていた。
「フム、生体ではすぐに抗体ができてしまうのか?それとも奴だからできた事か?」
予想外の事態にもアポロは動揺することなく、冷徹に分析する。
その時凄まじい地震が起こった。
「何だ!急に地震が?しかも大きいぞ!?」
「諸君、静かにしてくれたまえ。今我が故郷が現世へと帰還するのだ」
歓喜に満ちた声でアポロは空に映像を映し出す。
映し出されたのは大西洋で海が泡立ちながら海中から一つの巨大な影が姿を現す。
凄まじい高波と雷鳴を巻き起こしながらアトランティス大陸が浮上したのだった。




