第56話 ザ・ドゥ―ムズデイ①空の無くなる日
八重島紗良は文明存続委員会の自分達家族の扱いに困惑していた。
てっきり、囚人か捕虜の様な独房にでも入れられると思っていたのだ。だが実際はホテルのスイートルームの様な快適な部屋に護衛兼監視付きとはいえ案内されたのだった。この護衛である白い装甲服に緑のラインの入ったハスカール達は黒川ケイによれば芹沢達人と同じ施設で育った年の近い同志達だからと説明した。
人質といった方法を取らなかったのはひとえに代表である黒川博士の性格にある。彼としては自身の開発したマルスが人類の脅威になりえる物全てを排除する様を世界に見せつけたかったのである。
「これからよろしくね」
紗良は護衛2名にそう挨拶すると表情は武骨なヘルメットで分からないが明らかに困惑した態度でその2名はくぐもった声で「よろしく」と答えた。その態度や声は明らかに自分達の前に最初に現れた達人と同じものだった。
そして今。
レジリエンスとUMA3体が遂にタワーに襲撃をかけてきたという警報が入り八重島家はその戦いを見届ける事にした。どちらを応援してもいい、と出撃前のケイは紗良に言ったが、その殺気と覚悟に紗良は何も言えなかった。
タワーの制御室も兼ねる本部指揮所で黒川博士は苦い顔をしていた。既に組織の急進派は八重島一家を奪還し、レジリエンスに対する人質にしようという動きを見せておりその襲撃を八重島家に悟らせず、秘密裡に撃退していた。
「襲撃の指示を出したのはティブロン氏でしょうか?」
「そうかもしれんし、違うかもしれん。いずれにせよ警戒は怠るな」
笠井恵美に黒川はそう短く指示するとコンソールを操作しタワーの設計図を呼び出す。
これに世界の全てが掛かっている。気がかりなのは当初の予定と違う動力が用いられておりその為直前で設計の変更を行った事だ。
(ティブロンが何か仕掛けるならこのタイミングだが、これを見る限り異常は見当たらない)
戦いの方はレジリエンスとマルスの一騎打ちとなり、紗良の様な素人が見ても徐々にお互いにエスカレートしついには紗良がマルスを初めて見た時のあの白色光を銃から撃とうとし、レジリエンスもまた最強形態の1つケイモーン・ノテロスとなり、嵐の魔法を放ったのだった。
それを見た時紗良はいてもたってもいられず指揮所を飛び出した。護衛のハスカールが彼女を止めに入るが直後にモニター一面を凄まじい閃光が覆った為に目が眩み、動きを止めてしまった。
その隙にモニターに背を向けていた紗良は指揮所を飛び出し、戦場へと向かって走っていった。
2人の戦いを止めなくてはならない
自分でも馬鹿な事をしているとは思っているがこれが紗良の本心だった。
「俺の勝ちだ、達人さん。鎧を脱いで降伏してください。そうすれば命だけは助かります」
周囲を立ち込める白煙の中
マルスは背部のひしゃげたキャノン砲をパージ、火花を発する四肢をギシギシ言わせながら煙を上げるパワードスマッシャーを地面に置くと傍にやってきた専用バイク・ガンウルフからマルスブラスターとガトリングランスの予備を取りはずすとレジリエンスへ向けた。
「・・・・逆の立場ならお前、そんな事をするか?」
同じ満身創痍でもレジリエンスへはもはや立っているだけで精一杯の状態だった。全身から発する損傷を示す火花はマルスとそう変わりない。太陽光によって鎧内部の火のエナジーは回復しつつあるものの、フロギストン(火球)を1発放つにはまだ2分はかかる。加えて背後で倒れているサンダーバードとガッシングラムの状態から再合身もすぐには望めそうも無かった。
(あの2つの武器は直線にしか飛ばない。だが回避運動をしつつ接近するだけで現状では機能停止してしまう。ここは被弾覚悟で突っ込むしかないか)
達人が足に、ケイが両手の人差し指にそれぞれ力を込めた瞬間2人の耳は聞き慣れた叫び声を拾った。
「あいつ、何で!?来るな、危険だぞ!」
「紗良さん!?護衛は何をやっていたんだ?」
「もうやめて!!これ以上2人が戦って何になるのよ!!」
達人の静止を振り切って煙の中から紗良が飛び出して2人の間に割って入った。
「退いてくれ、紗良さん。これは人類の運命を賭けた戦いなんだ」
「それでも私は2人に死んでほしくない。2人共それでいいの?また一緒に仲良く出来ないの?一緒に戦うことは出来ないの?」
その言葉を無視して戦いを続行する事は出来ただろう。だが2人はその場に縫い付けられたように動かず、どちらともなく構えていた武器を下ろす。
煙が晴れていく。それと同時にレジリエンスはマルスの背後にある先程には無かった巨大な鉄塔を見上げる。
「お披露目は明日じゃなかったのか?そうか、俺達の襲撃で繰り上げたのか」
「馬鹿な?こんな事は予定にはなかったはずだ?」
「あれがタワー・・・」
マルスと紗良も振り返り、紗良は威容に息を飲む。
「ケイ、一つ確認する。タワーの中間部に立っている、あの魔甲闘士はお前達が開発したものなのか?」
「あれはアポロだ!?開発中止になったと聞いていましたが・・・・でもあの装甲はレジリエンスのそれに近い気がしますが・・・それに隣にいるのはティブロンさんか?」
悪い予感に突き動かされ、マルスは背中のカノンボアを完全にパージするとガンウルフに跨り本部ビルへと戻っていく。万が一に備えて装甲服と装備を予備の物と交換し、修理する為だ。
タワーは全長15m程で台形を積み重ねた形状で先端が針の様に尖り、その針の周りを円形のパーツが覆ってまるでパラボラアンテナの様だった。その中間部分人間の肉眼では米粒の様にしか見えないような位置にいる超魔甲闘士アポロとその隣にいるティブロンはタワーの根元にいる3体のUMAと話している様に見える。それはおおよそ次のような内容だった。
「まだ生きていたかフライング・ヒューマノイド」
「貴方もね、アゲシラオス博士。そしてティブロン君、お互いに小僧だった時の決着をつけにきましたか」
「フ、まさか。私は崇高な使命の為にここにいる。下らん世界は今日終わるのだ」
「おい、さっさとあれを破壊しようぜ。その為に来たんだろ」
ナウエリトが左腕の高周波ランサーをタワーへ伸ばす。
だがタワーの周囲には強力なバリアーがあり、弾かれる。
「ティブロン、先に行け。私は改良したこの力を試してみたい」
「良いだろう」
ティブロンが次元移動するのと同時にアポロの全身の突起が体から離れる。
「あれはグローツラング同様の攻撃端末ですね」
「しかし人間の力であんな速度が出せるのか?」
イエティの指摘通りアポロの体から離れた細長い二等辺三角形状の端末はUMAの強化された動体視力をもってしても捉えきれないほどのスピードで動き、先端からビームを発する。その動きにUMA3体はバリアーを張って対応策を練る。
「チッ、人間ってのは面倒なモンばかり作りやがって!だがな、本体がガラ空きだぜ!」
ナウエリトが単眼からビームを発射。それは容易くアポロの首を吹き飛ばした。だが端末の動きは止まる事無く、いやその内の1つが攻撃の輪を外れて飛ばされたアポロの首を空中でキャッチしてアポロの許に届ける。
「なっ、バカな?首を落とされて人間である
「私は人間を捨てた。今はこの鎧が私の新しい体だ。老衰という限界のある肉の塊から永遠を約束してくれる機械の器へと私の魂を移植したのだよ」
アゲシラオス博士はまるでテーブルから落ちたリンゴを元に戻すような気軽さで落された首を胴体へと繋げる。同時に2重線の入った単眼の色が赤から青へと灯り、攻撃端末の速度が更に上がる。
「いかん!」
「グ・・オッ・・・バリアーを貫通し俺達の体まで溶かすだと!?」
端末から発射されたのは熱線ではなく水属性を持つ溶解光線だった。
その破壊力はバリアーを溶かし、UMA3体の体を焼く。その様子を満足げに眺めたアポロは端末を全て体へと戻す。
「フ・・・最後にフライング・ヒューマノイド、君の望みを叶えてやろう。尤も現生人類もUMAも我々アトランティス人に従わぬ者は全て排除する事になるがね。そして私のもう一つの力を見せてやろう。疫病神アポロの名に相応しい力をな」
その言葉が言い終わると端末の先端が緑色に輝く。同時にタワーのパラボラアンテナの中央にある創世の宝玉の模造品が輝き、巨大な光線を針の様な先端から発射する。光線は空を割り、はげ落ちた青空の下から赤紫色の異世界の空が光線の照射時間に比例して徐々に広がっていった。その地獄を連想させる空から高濃度のエレメンタル・エナジーが地表に降り注いだ。エナジーを浴びた人間は適応すればUMAへ、そうでない者は黒い霧となって霧散していく。その狂乱の渦を嘲笑うかのように合成UMAジャージーデビルが姿を現した。
「ハハハハハッ、遂に最後の審判の日、ドゥ―ムズデイの始まりだ!達人貴様にも相応しい罰を与えてやる!」
ジャージーデビルは全身のトゲから稲妻状のビームを発してレジリエンスの周囲を炎に包むと同時にその尻尾で紗良の体を貫く。
「あ、あああアア」
血は一滴も出ない。その代わり彼女の体に直接エレメンタル・エナジーが注入される。そのエナジーは黒い靄となって彼女の体を覆い、徐々に死神の様な姿を形作っていく。同時にお守りとして渡した、エナジーを吸収する宝石が砕け、紗良の体は石のオブジェの様に類人猿型上級UMAマピングアリの胴体の一部となってしまった。
「さあ、どうする?サッサとしないとこのUMAが人類の残りカスを殺しつくすぞ?それとも愛しの娘として愛し続けるか、え?」
無慈悲な哄笑が地獄の空に響く。




