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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第52話 蘇った狂獣(中)魔獣の来歴




読者諸兄にはここで少し話の時間を巻き戻す事をお許し願いたい。


レジリエンスと件の殺人狂UMAの戦闘に加勢すべくマルスは最後のトーテム・ビハイクルATL-SP3パワードペッカーを呼び出す。

「ジェットモードチェンジ」


ブレスレットからの指令でパワードペッカーは基本となる鳥型形態から頭と首を180度折りたたみ、(くちばし)がスタビライザーへ、左右の翼が展開する。


「フルフレジット!」(英語で一人前という意)


マルスのコールと共に背部のバーニアを噴射し、ガイドレーザーに従ってパワードペッカーが背部へとドッキングする。そのコールが示す通りこれがマルスの戦力が全て揃った事になり、その新たな力でマルスは飛行能力を獲得したストームチェイサーーモードとなる。


「ドッキングに異常なし。各部正常に作動しています」


笠井恵美の報告に満足そうに頷く黒川博士と古川技術主任。


「ケイ君、パワードペッカーの真価はそんなものじゃない。敵の許へ急ぐんだ」


「了解」


マルスは応答と同時に加速を掛けて戦地へと急行する。だがそこで見たのは件のUMAと思しき怪物が突如現れたと思えばすぐさま消えるという行動を繰り返しているのみでそれも5回ほどで遂に姿を見せなくなってしまった。そして少しの時間をおいてレジリエンスが地面の下から現れた。


八重島家の庭に戻って来た彼は空から翼を生やしたマルスが降りてくるのを見た。


「とんでもない奴が現れましたね。どう対処した物か」


「何を見た?」


レジリエンスの鎧を脱ぎながら芹沢達人は黒川ケイに尋ねる。ケイは達人の顔が蒼白なのを見て相手がかなりの難敵であると悟る。


「こちらに現れたと思ったら一瞬で消えてそれを何度か繰り返していたんですよ。そしてその早い事。照準を合わせる暇もない」


「そうか。瞬間移動ではなく次元移動をノーモーションで行えるという事か」


そこでマルスのヘルメットに通信が入る。


『対象が20㎞先のy市に出現。付近の市民数名を襲ってき、消えた?対象を完全にロストしました』


本部の新人オペレーターの上ずった声を聞き


「了解。こっちも戻ります」


「気を付けろ。奴は第一撃は必ず頭を狙う。攻撃を掠っただけでこれだ」


達人はレジリエンスの右腕の篭手を見せる。ノコギリに切られたような切断面から流れた青い血液状の水のエレメンタル・エナジーが硬化しかかっていた。


「情報ありがとうございます。こっちも奴の動きを予測してみます。何か分かったら連絡します」


「頼む」


マルスは背中のサポートメカ『パワードペッカー』のエンジンを入れ飛翔する。


(マルスは飛行能力を得たのか)


達人はマルスの着実な強化に文明存続委員会というより黒川博士の並々ならぬ力の入れようを感じた。


単純な戦闘力ではハスカールとマルスにそれほどの違いはない。


それでも試作機に当たるマルスを強化し続けるというのはそれが例え当初からの規定路線であったとしても周囲の状況から考えれば容易にできる事ではない。


(博士なりの愛情表現、か)


微かな嫉妬を感じながらも今や自分にもそれに等しい存在が幾人もいる事に気づき苦笑する。自分の場合は血の繋がりに恵まれなかったのだ。そう結論付けて彼もまた『家族』の許へ戻っていった。



「達人、大丈夫?」


「ああ。平気だ。子供達は?」


八重島紗良が心配そうに尋ねる。


「お母さんと一緒に2階に避難したわ。怖がっていたけどあの魔法を見てちょっと元気になったみたい」


「梓さんはあの魔法について何か言っていたか?」


「子供達には『魔法使いだから』って言って納得させていたけど本人は信じてないみたい」


達人は自分が装着前に放った火球で自分の体の異変を明確に自覚するようになった。


「そうだろうな。体に特に何か変わった所はない。今の所は、だが」


そして危険が去ったと感じた子供の1人が階段の上からこちらを見ているのに気づく。


「まだ怪物は死んでいない。危ないからみんな一緒に帰るんだ。俺と一緒に」


「私も」


「駄目だ」


達人は強い口調で紗良の言葉を遮った。


「さっきは運よく助かったが敵の特性上狙われたらまず助からない。俺は君を危険に曝したくない。奴はそれほどの難敵なんだ」


「でもまた戻ってくるかも」


八重島梓の指摘に


「確かにそうですね。よし皆先生やお姉さんとも一緒に帰ろう」



幸いにして子供達をそれぞれの家に帰す道中敵は襲ってくることはなかった。


「よかった~無事に帰ってこれたァ」


道中気を張っていた八重島母娘は家に帰り着くなりへなへなとリビングのソファ―に座り込む。


それは達人も同じだったが彼はスマホを取り出すとケイへ電話を掛けた。


「ケイか。鈴宮玲の連絡先を知らないか」


『彼女なら今本部にいますよ。古川技術主任とプロトマルスの改良中です』


「なら話は早い。明日3人で集まれないか」


『何か作戦があるんですか?』


「作戦と呼べる物ではないが情報を共有しておきたい。あの怪物に俺達が個々で掛かったらまず間違いなく返り討ちに逢う。絶対にあいつを1人で行かせるな。俺達3人で迎え撃つ。それだけの敵だという事をよく言って聞かせてくれ」


「それは厳命しますよ。それでは明日詳しい話を」


「ああ」


スマホを切った達人はネットのニュース記事を見る。


速報で怪物がK県y市、東京そして東北地方のA県へ1時間のうちに移動し15名の死者を既に出しているのを知った。その10分後にはなんと遥か南の台風吹き荒れるO県に出現し、瞬く間に7名を各々の自宅内で殺害後煙の様に消え去った。


そして早くもこの怪物に襲われない方法という怪文書が出回りだしていた。曰く祈っているポーズをしていると襲われないとか特定の香水を振りかける、偶々牛の世話をしていたら唸るだけで襲ってこなかっただのいずれも信憑性皆無の物ばかりだった。


(何か手掛かりは無いのか?このままでは日本中が大パニックだ)


達人はスマホを握りしめ、出現位置の予測を立てる為に2階へと上がった。だがその襲撃地点は完全にランダムで怪物の凶行は正に無差別の殺戮であることが分かっただけだった。



同時刻・文明存続委員会本部


「対象が京都市B地区に出現。対応可能なハスカール隊は至急向かって下さい」


「全ての部隊に小物に構うなと伝えろ。今はあのジェヴォ―ダンの獣を倒す事に全力を注ぐのだ」


指令室にて怪物の出現情報を伝えるオペレーターに黒川博士は指示を飛ばす。


「ジェヴォ―ダン?」


聞き慣れない言葉に笠井が黒川博士を振り返る。


「フランスの伝説的な怪物さ。奴は生きていたのだ。最も当時からその死は疑われていたがね」


「そのジェヴォ―ダン、ですか?UMAを襲っているみたいですが」


笠井の報告に腑に落ちない物を黒川は感じる。


「そうなのか?」


「はい。今観測されている反応はUMAの物です。最近この反応が急激に増えていますよね」


「観測されたUMA共の大半はホラディラが倒された影響だろう。奴の高濃度エナジーのドームに暮らしていた人間達が『社会復帰』した影響で連中が野に放たれたのだ。気づかぬ内に変身能力を宿してな。それはそうと人間だけでなくUMAを襲うとは奴の殺戮本能は見境なしか?それとも何かの符号か?」


まるでホラディラの残した呪いだ。


モニターを見ながら黒川は呟いた。




「やめろ。俺もお前も同じ怪物同士、仲良くしようじゃないか」


京都駅前の広場で類人猿型UMA XYZ1へと変身した男が怪物ジェヴォ―ダンの獣へ懇願する。


「知るか。お前が俺の目の前にいるのが悪い」


そう言うと怪物はあっという間に距離を詰め右手のクローでXYZ1の頭部を粉砕する。


腕と胸の皮鎧を血に染めながら


「まだだ。まだ足りない。俺のこの衝動を、血や肉が弾け飛ぶ音を聞きたいという衝動

を抑えるには足りなすぎる」


この怪物ハイエナ型上級UMAジェヴォ―ダンの獣は元々ジャン・シャストルなる猟師が捕獲し、自らの売名目的で『調教』されたハイエナだった。


時代は魔女狩りの全盛期である。このシャストルという男、実はアトランティス人の血を、すなわち魔法を使う技術を持っていた。だが大々的にその力を使えば、いかに数千年の寿命を持つ体でも火刑には敵わない事を同族が処刑されるの見て知っていた。そこで自分の魔法で絶対悪たる獣を種族配合にて作りだし、それを操りながらそれを討つヒーローたる自分を演じるという形でその承認欲求を満たそうとした。その邪悪な計画(マッチポンプ)の為の殺戮ショーは実際に途中まではうまく行っていた。だがある時この獣はシャストルの魔法の内にあるエレメンタル・エナジーからUMAへと変貌し、元々の狂暴性も相まって自身を縛る魔法を破り、遂に彼の元を逃げ出した。


そして自由の身となった獣はその闘争本能を満たすべく、幾度もの襲撃の過程で徐々にUMAとしての特殊能力を身に着けていき、最期は『元』飼い主たるシャストルの魔法の銀の弾丸で仮死状態になった所を現在の姿となって復活したのだった。


その後も不定期的に湧き上がる殺人衝動から目につく人間を片っ端から襲ってはそれが収まると休眠状態へと移行するというサイクルを繰り返していた。


だが怪物は人間の死に慣れ始めており、より別の生物の死に様を求めるようになっていた。


彼はその標的をUMA化した人間へと無意識の内に変えていた。


その恐るべき嗅覚が人間とそうではない物の区別を彼に教えるのだった。


そしてもう一つ


「見つけたぞ。散開して当たれ」


今自身を囲む鎧の戦士達。


彼らも殺人衝動を満たす獲物として認識し始めていた。


(だが、『奴』程の興奮を感じない)


目の前の連中は明らかに数を(たの)んでおり、1人1人は自分に対して明らかに怯えている。


ハスカール隊は怪物に対して極めて不味い陣形を取っていた。


瞬間移動する怪物を円状に包囲して追い詰めた気になり、その隊形で熱線銃を照射するとどんな事になるのかという考えがまるでなかった。


結果怪物が目の前から消えた事で自分達の攻撃で互いが負傷した挙句確固撃破され、いたずらに被害を増やすだけとなった。


「よう、殺人狂。耳寄りな情報いらないか?」


怪物の背後から合成UMAジャージーデビルが気安く声を掛ける。


その言葉に無言で腕を振るって答える怪物をジャージーデビルは粒子化していなす。


「見境なしだなァ、オイ」


「何の用だ」


一筋縄ではいかぬと悟って怪物は一旦この悪魔の言う事を聞いてみる気になった。


「そんなに殺してえなら今から言う連中を始末してくれないか」


「それは我々の事でしょうか?ジャージーデビル」


ジャージーデビルが振り返った先にはフライング・ヒューマノイド・ナウエリト・イエティがいた。


「手間が省けて助かるぜ。お前らにはいい加減うんざりしていた所なんだ」


「ハイエナの威を借るウマというのもみっともない」


「違うぞ。コウモリ野郎にはお似合いの立ち回りだ」


ナウエリトの言い回しを気に入ったのかフライング・ヒューマノイドとイエティは爆笑する。


「あえて人間の言う呼び名を使いますがねジェヴォ―ダン、UMAにも手をかけ始めたのはいただけない。この警告を無視するのであればあなたの殺人衝動を我々としても看過できない」


「そうか。俺を黙らせるには殺すしかない」


怪物はフライング・ヒューマノイドへ襲い掛かる。


ジャージーデビルは既に消えていた。


「残念です」


ジェヴォ―ダンのクロ―を原形質流動で無力化しながらフライング・ヒューマノイドは怪物に憐みの声を掛ける。


「!」


怪物は攻撃を防がれた事と自らの脚が凍結している事に驚愕の唸り声を上げる。


目の前からフライング・ヒューマノイドの腕からの電撃、後方からナウエリトの単眼からの熱線が放たれる。


「だがな、俺には効かん」


怪物は全ての攻撃を受け切り、強引に足を動かして氷の戒めを破る。


フライング・ヒューマノイドは爪を振るい、その隣からイエティが大剣を振り下ろす。


怪物が両腕でそれらを受け止めると同時にナウエリトが高周波ランサーをその胸目がけて伸ばす。


怪物の脚はイエティ冷気で再び凍り付き右腕はフライング・ヒューマノイドに拘束されている。


この状況を脱する為に怪物の取った方法はイエティの大剣を噛みちぎり、その左腕で防御する事だった。


左腕が切り飛ばされた隙に再び足の拘束を解いた怪物は姿を消す。


「イエティ、左腕を渡してはいけませんよ」


「分かっている」


イエティの動きを援護すべくナウエリトとフライング・ヒューマノイドは怪物の出現位置を予測し移動する。


「グワッ」


しかし出現した怪物はナウエリトの左腕を『噛み千切り』再び姿を消す。


「ナウエリト!」


動揺するイエティの目の前で彼女の拾い上げた左腕に急激に力が入り、横薙ぎに彼女を吹き飛ばす。


怪物は瞬時に彼女の真横に移動し、切断された腕を瞬時に繋げたのだ。


感触を確かめるように左腕のクローをガチャガチャさせると怪物は次元の穴へと消えていった。


「大丈夫ですか、ナウエリト」


「なんてことはねえ。俺も奴並みにタフだからよ」


ちぎれた左腕のランサーを繋ぎ合わせてナウエリトが言う


「もはや手段を選んでいられませんね」


フライング・ヒューマノイドは2体に自分の計画を話す。




翌日


夕方になって八重島家に黒川ケイと鈴宮玲がやって来た。


芹沢達人は早々に2人を2階の自室に招くとそこには先客がいた。銀髪のパリッとした三つ揃いの紳士がそこに居た。


「この方は誰です?」


「いや知らないな」


「まあこの姿では判る訳がないですよね」


そう言うと眼鏡をかけた男はフライング・ヒューマノイドの姿に変わる。


「お前は・・・」


「ご無沙汰ですね、レジリエンス、プロトマルス。そちらの方は初めましてですね」


人間の姿に戻りながらフライング・ヒューマノイドは慇懃に返す。


「あのジェヴォ―ダンを退治するまでの間一時的にあなた方と休戦協定を結びたいと思いましてね」

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