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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第49話 幸福に潜む牙(中)幸福特区の真実




 突如に現世各地に出現した『幸福特区』に何者かの陰謀を感じたレジリエンスと文明存続委員会所属のマルスチームは特区侵入に失敗した。


(火の四元将アイディオンならあの力に対抗できるかもしれない)


芹沢達人はそう思い異世界のエリクシリオを訪ねた。


久しぶりのアトランティス大陸は以前見た光景と変わらず、下草が僅かばかりの荒涼たる大地と赤紫の太陽が照り付ける生きる物を拒む世界だった。その世界の南端の小高い丘に築かれた町レフテリアへとレジリエンスは向かう。そのレフテリアの町の門前で彼は偶然火の四元将アイディオン=エリクシリオに出会った。


「両腕が!?一体そちらで何があったのです?」


エリクシリオは突然やって来た達人に驚きながらボロボロになった両腕を見て修理も兼ねて町の中に案内する。


町の丘の上の城塞内で2つの鎧の整備を待つ間2人はエリクシリオの執務室へ行く。


「こっちも事件ですか」


「ええ。今ちょうど帰って来たところです。全く手掛かり無しで」


「どんな事件なんです?」


「川へ水を汲みに行った人々が全員行方不明なのです。老若男女問わず」


「そういえば町を流れる小川が枯れていたな」


「10日ほど前から突然水が止まってしまったのです。それでここから10スタディオン(スタディオンは古代の距離単位。おおよそ1スタディオン=180m)離れた川まで水を汲みに行かなければならなくなってしまって・・・」


「実は俺が頼みたい事も10日前から始まったある事件に関わりがあるんです」


達人は現世で起きている『幸福特区』の事件を話す。


「奇怪な事件が時同じくして2つの世界で起きるのは偶然とは言い難いですね」


「でも両者に繋がりは無いかもしれません。レジリエンスもケイモーン・ノテロスに合身すれば恐らくあの力に対抗可能でしょうが2分弱で真相を掴む事は出来ないと思います。ですがアイディオンの力ならばと思って協力を仰ぎに来たんです」


「確かに不変の力をもつ鎧ならその町を覆う魔力に対抗可能だとは思いますが真相が判明するとは断言はできませんよ?」

その言葉には若干の希望が込められていると達人は感じた。


「では力を貸してくれるんですか?」


「ええ。もしかしたらそこに行方不明の町の人々が囚われているかもしれませんからね」


「ありがとうございます」


「鎧の修理が終わり次第向かいましょう」




現世


文明存続委員会本部でマルスの修復作業が急ピッチで進められる中黒川ケイは本部の一室で幸福特区内の様子を伝える中継を見ていた。


特区内の街並みは中央部に巨大で奇妙に傾斜したビルが出来ている以外はドーム形成前と何らの変わりはない。特区に入って最初の頃は皆TVカメラに向かっておどけたり、ここに来たことの感謝や特区での生活の素晴らしさを笑顔で語る人々の様子が映し出されていた。


だが街をどんどん進むにつれて、言い換えれば傾斜した奇怪なビルに近づくにつれて住人の様子が徐々におかしくなっていった。


『あの、ずっとそうされていますが、み、皆さん幸せなんですか?』


レポーターは住民それぞれにマイクを向ける。プロとして笑顔は忘れてはいなかったがその表情と態度は明らかにドン引きしている事を隠しきれていなかった。


その先には異様な光景が広がっていた。


ある男は外観と全ての調度品が金ピカの悪趣味な豪邸で優雅に暮らしていたがその家は特区成立前には存在していなかったものだった。


又ある男は真昼間から両側に道幅一杯の女性を侍らせて悦に浸っていた。


またあるカフェでは女性がいわゆる『映える』スイーツの山をSNSに挙げていたがそのスイーツの中には本来なら別の店それもライバル店の物があった。


やっている事は皆違うが一様にインタビューには答えずただ自分の事に熱中している。というよりはそれしか目に入っていない。周りの様子など目もくれず、ある者は夢見る目つきで、ある者は若干血走った目でそれら幸せをもたらす行動を半ば機械的にやり続けているという印象を視聴者に与えた。


『皆さん思いおもいの幸せを満喫されているようですが・・・おや?あの一角は何でしょうか』


カメラがレポーターの視線の先を映す。


そこには『特別区域』と書かれた標識があった。


「『特区』内での特別な場所という事でしょうか。一体そこに何があるのでしょうか?」


彼らが標識の先へ1歩足を踏み入れた瞬間その鼻先を自動車が猛スピードで駆け抜けていった。


その車はTV局一行が道を渡り終える間に二度も彼らの目の前を駆け抜けていった。


この特別区は8の字を描くように大きな道路が構成されていて車はそこを延々走り続けているのだった。


「ハアハア、ちょ、ちょっと変わった場所のようですがあそこに沢山の人が集まっているようです。彼らは何をしているのでしょうか?」


冷や汗をかきながらレポーター達はこの区域の中心地と言える広場へと向かう。


そこでカメラが映し出した物はこの世の背徳というものの全てが詰まっていた。


ありとあらゆるギャンブルに興じている者


他人を延々と殴りつけて笑っている者


その他どう考えても昼間どころか深夜帯ですら放送できないほどのいかがわしいか、又は残酷な行為がこの区画の大通りで大手を振って行われていた。


その映像はわずかに10秒だけ映され各家庭のTVの画面には『暫くお待ちください』の文字が映し出されていた。


それは文明存続委員会本部のTVも同様だった。


「父さん、あれは一体なんです?」


「見た通りだよ。走り屋、ギャンブル狂等世間一般では理解し難い物に幸福を見出す連中もいる。あの地区はそういう連中のいわば隔離地区と言っていい。そこにTV局の連中は足を踏み入れてしまったのだ」


「これを見た人々の反応が気になりますね」


笠井恵美がケイの隣に座りながら言った。


「これを俗悪とみなしてくれればいい。問題はあらゆる幸福が約束されていると知って移住が増えるのが問題だ。人は元来怠け者だからな。楽して自分のしたい事がやり放題と知ったらそちらに流れる生き物だ」


黒川博士は嘆息する。



特区の実態が公開された翌日


果たして黒川の危惧通り移住希望者は劇的に増え、その希望は即日叶えられた。


最初新宿の一角に過ぎなかった1号ドームは今や東京都の半分に拡大し、都道府県の数の10倍の数のドームが日本に出現した。挙句の果てには村や町の住民全てがドームに移住するケースさえ出てくることになった。更に特に都市部のドームに特に顕著だったのが、移住希望者の質も変化していた事である。以前は幸せになりたい人々が殺到していたが今では一般的に社会不適合者と呼ばれるような人達を周りの人間が隔離目的でドーム内に『移住させる』というケースが増え始めていた。つまる所ドームの内と外で『幸福』の定義に変化が起き始めていたのだ。


芹沢達人がエリクシリオを連れて現世に戻って来たのはそんな時だった。


「たった2日でこんなに増えるとは」


達人はマルスチームとエリクシリオの顔合わせもそこそこに事態の深刻さに顔をしかめる。


再び新宿の1号ドーム付近へ向かうトレーラー内のモニターに表示されたドームが刻々と拡大していくのを横目で見ながら


「では私が侵入し、街を覆う魔力の壁を作る施設なり怪物なりを突き止めます。それから」


「行方不明の住人の捜索。そちらを優先してください」


「お気遣いありがとうございます」


笠井にそう言うとエリクシリオはアイディオンの鎧の入った箱へと入り、装着する。


「あれはアイディオンの鎧!?何故ここに?しかも修復されている?」


「笠井さん知っているんですか?」


「前に1度だけ見たことがあってね。その時は大破と言っていい位にボロボロだったけど」


ケイに説明する笠井に


「これを修復し、己の野望の為に使おうとした者がいます。恐らく私と同じアトランティス人が・・・」


エリクシリオの声は沈んでいた。


「まさかティブロンさんが裏切ったなんて。この間も一緒に会議に出ていたのよ」


「今の所マルスに不具合はないけど」


「アイディオンを取られて計画の変更の最中といった所だろうが、彼を拘束できないんですか?」


「駄目よ。彼は組織のアドバイザーという立場だけど普段どこにいるか分からないのよ。黒川博士も彼の知識や技術以外には興味がなさそうだし」


達人の疑問に笠井は唇を噛んだ。


「ですが今は時間がありません。この事件を彼もきっと望んでいないでしょう。ですから今はこの事件の解決に力を

合わせるべきだと考えます。彼の対処はその後に」


エリクシリオの言葉に全員が頷く。


「では」


そう言ってアイディオンは日本最大の幸福特区である新宿ドームへと入っていく。


バチバチと音を立てながらアイディオン(不滅)の名を持つ鎧は敵の魔力を跳ねのける。


(さすがは四元将アイディオン。これなら敵の干渉を受け付けずに動けますね)


エリクシリオは兜の下で感嘆する。


やはりあれか


アイディオンは特区中央に位置する一際高く、傾斜したビルに目を向ける。


トレーラー内で見た映像でこの建物は特区の行政管理ビルとして紹介されていた。


(アトランティス人をさらったとしても彼らは目立つ。それなら厳重に管理下に置いているだろう。その場所はあの建物なのではないか)


しかし改めて周りを見てその考えは揺らぐ。


この街の住民は一様に自分の事にしか興味を持っておらず、ひたすら自分達の快楽に熱中していた。


(これでは数人浮いた格好の者がいても気が付かないのでは?とはいえ闇雲に探しても埒が明かないし、予定通りに行動しましょう)


そう思いながら彼女が歩き始めて1時間程経った時


「珍しい格好だね」


まさか声を掛けてくる相手がいるとは思わなかったエリクシリオが振り向く。


そこにはランニング姿でジョギング中の中年男性がいた。


「よく言われます。でも」


「分かっているよ、人それぞれだものな。俺も不治の病で歩くことも出来なかった。それを医者や家族に頼み込んでここに入れてもらったのさ。おかげで今じゃ健康そのもの、特区様様ってね」


「あの、奇妙な服装をした外国人を見ませんでしたか」


「いや見たことがないな。しかし人間てのは欲深いよな。1つ願いが叶ったら今度は別の事を考えちまう。今度は良い職に就きたいねえ」


「その願い叶えよう」


そう呟いた男性の隣にいきなり怪物が現れた。


「こいつは!?」


昨日の放送には全く出て来なかった存在


警戒するアイディオンに男性は


「凄い格好だけど街の職員だよ」


「職員ってそれは・・・」


魔物だと言っても男性が聞く耳を持ってくれるかは怪しかった。


トランプで見られるスペード型の真っ赤な頭部


両肩にマントの様に配された翼を背中に流し体を緑色の毛織物のローブで包んでいる。


袖や裾からは鋭い爪の生えた手足が覗いている。


フクロウ型上級UMAフラットウッズ・モンスター


アイディオンの鎧に記された記憶データがエリクシリオに目の前の怪物の情報を伝える。


「ついてきたまえ」


そう言ってフラットウッズ・モンスターは目の前の人間など意に介さず先へ行ってしまう。男性とアイディオンはその後ろを歩く。


「どんな仕事をくれるのか楽しみだ」


「あれは恐るべき魔物ですよ。悪魔の囁きに耳を貸してはいけません。あなたは、ここの住民は彼らのエサなのですよ」


「悪魔が何だ。人間には俺の病気は治せなかったんだ。だが彼らはそれができた。人間と悪魔どちらを今信じるかと言われたら俺は悪魔を選ぶね」


その言葉にアイディオンは何も言い返せず行政ビルへと入っていく。


「正木昭こちらへ」


名前を呼ばれた男性はビル内の窓口の1つへ案内される。


途端正木昭の周りを9体のフラットウッズ・モンスターが囲むと同時にアイディオンの周りに魔法の赤いバリアーが展開した。


「しまった!くっ、情報より展開の速さも障壁の硬さも段違いとは」


壁を破るべく壁を殴りつけるが少しでもヒビが入ると壁は瞬時に再生されてしまう。


「これは一体?」


困惑する正木へ無情な宣告が下される。


「正木昭。君に新しい職を与える。それは死だ」


「何を馬鹿な!?」


「たまに君の様な欲望の度合いを健全に昇華させる輩がいてね。正常に考える余裕を持ってもらうとこちらとしては困るんだよ。一度物事に疑問を持ち始めた人間は味が不味くなるのでね」


そう言うとフラットウッズ・モンスター達は翼を翻し翼の内側から黄色のガスを放つ。


正木の体は悲鳴と共に黒い霧に分解され9体の怪物がそれを吸収する。


「やはり幸福の絶頂から絶望に落とされる人間の味は格別だな」


アイディオンがフロギストン(火球)でバリアーを破ったのはまさにその瞬間だった。


「攫ったアトランティス人を、私の町の住民をどこに連れて行ったのです!?」


「知らんな。人間の顔など一々覚えていられん。だが先祖よりお前に関する話は聞いている。貴様は然るべき場所で処刑せよとの命令だ」


怪物の1体がそういうと部屋一面に次元移動の穴が開き、アイディオンと9体の怪物が転移する。




「ここはアパトゥリア平原か?あれは!?」


アイディオンは転移先の平原を流れる川が自分の町の近くを流れる川である事に気付く。


同時に川の傍に現世同様のドームが建っているのを見て愕然とする。


その一つへ向かおうとするアイディオンへ9体の怪物が立ちはだかった。


「見よ。ここにも我らの巣が出来たのだ。現世と異世界2つの世界の人間共は我々のエサとしてのみ生きるのだ」


「その瞬間まで何も不安も感じない、甘い幻を見ながら死の絶望に突き落とされる夢見る家畜となるのだ」


「お前の力は聞いている。お前の力は我らの脅威となる」


怪物達は口々にそう言うと3体毎に合体、全長3~4メートル程の杖を持った3体の巨人となる。


「よって排除する!!」


3体の巨人は唸るように唱和すると三方向からそれぞれ翼を展開しその内側から人間の悲鳴に似た耳障(みみざわ)りな超音波を発する。


「くっ」


音波の衝撃によって平原に群生する下生えが抉れて地肌がむき出しになる。衝撃はアイディオンをのけ反らせるがそれ以上の効果は無かった。


「ならばこれはどうだ?」


今度は各々の手に持った杖から黄色の光球を放つ。


2発を跳んで躱し最後の1発はアイディオンが着地した傍の丈の高い草木を一瞬で枯らしてしまった。


3体はジグザグに動きながらアイディオンへ迫る。


(負けられない。絶対に!)


意識を集中させスピーサ(ギリシア語で電気の意)を念じ迫りくる中央の怪物を電光と高熱で焼き尽くす。


陣形を崩し、動きを止めた残り2体を異空間から取り出した杖から発した青白い炎の剣で纏めて両断する。


「これで行けますね」


息をついたアイディオンの周りにドームの中から黒雲の様なフラットウッズ・モンスターの大群が押し寄せる。


その数はざっと数百という数だ。


「まだこんな数が・・・・」


相手をするにはアイディオンの能力ならば余裕だろう。だが装着者であるエリクシリオには体力や精神力の限界がある。限界を超えて鎧を使う事の危険は十分に承知していた。だが今はそうせざるを得ない時でもある。エリクシリオはフルフェイスの兜の下で荒い息を吐きながらそう判断する。その時


フロギストン


その怪物の群れに火球が炸裂する。黒い塊はパッと四散して新たな敵の襲撃に備える。


「タツト!」


火球が来た方向へアイディオンが振り向いた先にレジリエンスの姿があった。

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