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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第48話 幸福に潜む牙(上)幸福特区の出現




  異世界(アトランティス大陸)のアゲシラオス博士の秘密研究室


火の四元将アイディオンに見限られたティブロンはここに逃げ帰って来た。


ここでかねてよりアゲシラオス博士が新兵器の開発をしている事は知っていたし文句の一つも言ってやりたい気分でもあった。アゲシラオス博士なら自分が設計図を持ち込んだ新兵器を完成させているだろうとの目算もある。


(場合によってはその兵器を使う事も考えねばな)


それはティブロンが手土産に持ってきたとある理由で開発中止となったマルスの兄弟機というべき物だった


個人的には最も頼りたくない相手だが彼の計画にはどうしてもあのマッドサイエンティストの力は必要だった。


「不在か?あの健康状態で遠出できるとはとても思えんが」


研究室中央にはオレンジと紺色の新型の魔法の鎧(ソーサリィメイル)が円柱状のカプセル内に屹立(きつりつ)しているだけだった。


酷い有様だな。


声がした。


しかし声の主が現れる気配はない。


「アゲシラオス、どこにいる?」


「目の前だよ」


「その鎧を着ているのか。やはり完成していたのか。性能はどうなのだ?」


「まだまだ調整が必要だ。しかしこれはあくまでたたき台にすぎん。これを超える文字通り神の如き力を持った『魔甲闘神』とも言うべき傑作のな。もう頭の中に設計図は出来ている」


「ならばこれの調整は私がやろう。戦闘経験は私が上だ」


耄碌(もうろく)したな。生命維持装置代わりの宝玉を鎧にするとは)


ティブロンは内心の侮蔑を表情に出さない様にかなりの努力が必要だった。


そうしないと口元がついつい皮肉な笑みを浮かべそうになるのだ。


「それには及ばん。それよりも早く現世に帰還した方が良いぞ?君の計画にとっては最大の難敵が出てくるだろうからな」


「どういうことだ?」


「つまり、このアポロの装甲材の素である双子の宝玉が封印していた怪物だよ」


「ならば尚更その鎧は必要だ」


「無駄だよ。今回の相手は力より知力と意思の強さが無ければ太刀打ちできんよ。奴は人間とその社会を人間自身の手で崩壊させる術を持っている。さしずめ誘蛾灯に誘われる蛾を食いちぎる地獄の牙という所だな」


「地獄の牙だと?それを知っていて宝玉をジャージーデビルに盗ませたのか?」


「勿論。実際の所これがこちらに最も被害の出ないやり方だと考えたのでな。君のやり方はこちら側の人的損失があまりにも多い」


ティブロンはその言葉を聞いていなかった。彼はアゲシラオス博士のその言葉を発した時既に研究所の扉を潜り抜けて、外に出ていた。彼は言い知れぬ危機感を覚え、現世へと帰還する。





同時刻


八重島家


「戸籍取得おめでとう、達人君」


八重島梓がお祝いの言葉を述べる。


続いて八重島紗良が群青色のスマホを芹沢達人に渡す。


「はいこれ。色々悩んだんだけどやっぱり現代の必需品だから持っておいた方が良いかなって。色はこれが一番合ってるかなって。ホラ、外にあるレジリエンスの鎧と同じになっちゃけど」


色に関してはかなり悩んだのだ。紗良にしろ相談したかおりやさゆみらも芹沢達人のイメージ―カラーと言えばこの色だった。だがそれは私達が必要としているのは達人ではなくレジリエンスだ、いうメッセージにもとられかねないか不安だったのだ。


『彼はそういう人ではないでしょう?大丈夫よ。真心っていうのはきっと伝わるわ」


「ありがとう、皆。生まれて初めてもらってうれしい物を贈られたな」


「そう?なら良かった」


「嬉しそうに見えないならすまない。こういう好意に慣れていないんだ」



「きっとすぐに慣れるさ。芹沢達人、君の新しい門出を祝してささやかながらお祝いの席を用意させてもらった。ここは君の家だ。居場所だ。私達にとって君はもう家族なんだよ」


「お父さん、そういう堅苦しいのは良いからお祝いのケーキ、早く用意しようよ」


その時だった。


外で突風が数秒吹いた。止まったと思うと又数秒吹き続けた。


「変な風が吹いているな。なんかこう心を不安にさせるというか。折角のお祝い事に水を差すなあ」


八重島修一郎が窓を開けて呟く。


「いえ、俺には十分すぎますよ」


達人はそれに感謝の意を述べる。全員が外の様子を気にせずイベントは和やかに過ぎていった。


(人の温もり。人の幸せ。それを教えてくれたのはこの人達だ。何があってもこの人達は守らなければいけない)

達人は


この奇妙な風の現象はf市はおろか日本中、いや世界中で起きており、その後1時間も続いたが各国で特に話題にもならず1日が過ぎていった。



だが翌日流石に無視できない現象が起こった。


夜明け共に世界中の空で雲が動きだし、一つのメッセージを空に紡ぎ出したのである。


アメリカの空では英語で、サウジアラビアではアラビア語で日本では当然日本語でそのメッセージは書かれていた。


それにはこう書かれていた


『昨日風の音によるメッセージを送ったが反応が芳しくない為、より直接的なコミュニケーションを取らせてもらった。人類の現在の状況を観察した結果、私は人類が最も求めているのは幸福だと結論した。よって世界各国にあらゆる幸福が実現する『幸福特区』なるものをそれぞれの国のあまり邪魔にならぬ場所に設置したい。建設費用等はこちらが全て持つ。移住希望者は誰でも歓迎する。各国政府はこれを邪魔しないで貰いたい。人類の賢明な判断を期待する』




この一方的な通達の翌日突如世界各地に白く輝くドームが出現した。


日本では新宿の一角にそれは突然現れた。その場所は以前地の四元将パノプリアによる大破壊から復興の進まない地区だった。


驚くべきことにドーム内では破壊前の街が1夜で甦った。


更にはあの日この地区で死亡したはずの人々までもが生き返り生き残った家族や知人との再会を喜んだ。


ドームと外界は通信の阻害も無かった為その様子はネット等で大々的に報じられた。


『1夜にして起こった奇跡!ドームを作ったモノは神か宇宙人か?』


ニュアンスはマスコミや媒体で微妙に違うものの概ねそのような内容のニュースが連日報じられていた。


半信半疑だった人々も今では移住者希望者は後を絶たず、日ごとに特区の住民は増え続けそれに合わせてドームの大きさも日増しに大きくなっていった。もちろんそれは人の手によらず、何者かの意思でいつの間にか『増築』されているのだった。


海外でも同様の事態が起きており、ドームの規模そして数は世界中で次第に増えていった。


特区出現から10日後。


熱狂は相変わらず続いていたが一つの疑惑を口にする者達が現れた。


ドームに入って行った住民は入ったが最後ドームから出て来ないのはなぜか


例えば新宿に現れた第1号ドームはどんどん拡大を続けて既に新宿区の大半を覆っていたがその中の全ての住民がその地区内で生活を完結させている訳ではない。


つまり通勤通学その他の理由から別の区や近隣の県に行く者が全くいなくなるのはおかしいというのだ。


事実、新宿区の外にある企業や学校で働いていたり学んでいた人々が特区への移住を境に姿を見せなくなっていた。




「最も恐れていた事態が遂に起こったというべきか」


幸福特区への疑問の旗振り役を影から支えてきたのは文明存続委員会だった。


会議室の正面には世界の幸福特区の数と規模が表示されている。


それらは刻々と数字を増やしていた。


黒川博士深いため息をつくと


「幸運というか取り越し苦労というか今まではUMA共はその知恵が無いのか、それとも別の思惑か人類社会へ途方もないダメージを与えられる力を持つ者もいたのにそれをしてこなかった。だが今回は違う。彼らは人間以上に人間を知り尽くしている。この事態が続けば人類は緩やかな自滅を辿る事になるだろう」


「彼ら?」


ティブロンが尋ねる。彼はアトランティス人という立場からこの事態を静観する事に決めていた。尤も今回の『仕掛け人』の排除が難しいとならない限りではあったが。


「確かに集団で無いとこの規模の行動は無理だと思いますが、しかし統率が取れすぎているようにも思えませんか、黒川博士」


「しかしそれだと単体でという事になる。それは(かえ)って敵の強大な事の証明という事になる」


「ドームの数は日増しに増え続けています。人員が減りすぎて既に経済活動の成り立たなくなっている企業や休校せざるを得ない学校もあるようです」


笠井恵美の報告に黒川は正面のモニターを睨みながら


「算出した予測データでは3か月後には世界の人間の活動地域全てをドームが飲み込む形となる。どんな手を使って幸福感を与えているかは知らないがそうなれば人間は幸福の奴隷として永久的に敵の支配に置かれるだろう。それは人間のこれまでの進歩と発展の歴史を否定する事だ」


「それでは我々のXデーの意味も無くなる。やっとハスカールの先行量産機が完成し『タワー』の問題が解決されたというのに」


技術主任の古川努が語気を荒げて入ってくる。


「『タワー』が完成するのかね?」


黒川にはそれは寝耳に水だっ技術者でもある彼には理論上UMA関連の問題を一挙に解決できる力を持つ『タワー』の完成は夢物語だと思っていたし、それについての情報も今知ったのである。


「ええ、ティブロンさんが持ってきて来てくれたエネルギー球のおかげで」


ティブロンと黒川の微妙な関係を気にしていない古川は無邪気に問題点の解決を簡単に報告する。


「明日ドームの作り主はそのドーム内を公開するようですが、一体中で何が行われているのでしょうか?」


笠井が話を本題に戻すように黒川に言う。


「分からん。ただ向こうの申し出でドーム内外では全て自由らしい。つまりデモや抗議活動を警察や軍隊は止めるな、と言ってきている。大した自信だよ」


「仕掛けてきますかね?」


「古川君、それこそ我々の願ったりだ。明日はマルスチームを新宿区の第一号ドーム付近に待機させ、いつでも突入できるようにしておいてくれ」




『という訳なんです。達人さんも気になりませんか?』


その夜早速達人のスマホに黒川ケイから連絡が入った。


「…これを電話で言うべきではないが八重島さん達の知り合いはドームへの移住で揉めて家族間で冷戦状態というのが何人かいてな。そういう点からこの件を見逃せない」


「それで済んでいるのはこっちとしては安心ですけどね。紗良さんから聞いているかもしれませんが学生の中には家族で移住してそれきり音沙汰無しというのが何人もいます。僕らのクラスにも既に移住したのが3名いて、明日の中継次第で移住を決めるという所は多いみたいですよ」


「幸福か。ケイ、お前今幸せか?」


「急にどうしたんです?不満はありますよ。でもそれを他人にどうにかしてもらおうとは思わないですね。その程度の不幸ですよ、僕のは」

「すまん。ヘンな事を聞いた。明日は連れて行ってくれるとありがたい」


『そう来なくっちゃ。では明日』


「ああ。お休み」




翌日


新宿のドーム前は朝から大変な人だかりができていた。


TV各局や動画配信者らしき人々がカメラやマイクを片手に中継を始めていた。


その一方でこういった『幸福の押し付け』に反対する人々やこれは新手のの詐欺だと断定する否定論者の抗議活動がその横で行われていた。


「今の所問題はないようだな」


これらの喧騒から少し離れた所で停まったトレーラーの傍で達人はこの騒ぎを見守りながら言った。


「これを作ったのはどんな奴でしょうね?」


「ここまで全く声も姿も見せないというのが否定論者の根拠の1つになっているからな。恥ずべき所があるから顔を見せらないと」


「僕らにも耳の痛い話ですね」


ケイが苦笑しながら買ってきた麦茶を達人に渡す。


「全くだな」


公式には自分達も謎の甲冑ヒーローという事になっているのを今更達人も思い出す。


「時間だ」


その時カメラやスマホが一斉に空に向けられる。やにわに空の雲が意思を持った様に動きだし、文章を形作る。ドームを作った者とのコミュニケーションは常にこれだった。


『最初の報道者、中へ』


空に書かれる文章は尊大その物だったが今ではその事について大部分の人間は気にしなくなっていた。


それを気にする人間、つまり特区反対者がドーム内に入ろうとする一団の横を自動車に乗って猛スピードで駆け抜ける。


「危ない!」


「なんて奴らだ」


蛮行への非難の意を含めてTVカメラがその車を捉える。


その時恐るべき異変が起こった。


ドームの壁に激突しながらも壁をすり抜けるようにドーム内に入った車は内部を走る事は無かった。車が完全にドーム内に入ると同時にバラバラに分解してしまったのだ。


車はそれを構成する鉄やゴム、ガラスといった組み立て前の素材の段階に『退化』していた。それは有機体である人間にも及び中に乗っていた人間は全員赤ん坊に戻りただ泣きじゃくるだけ。


その光景は中継され全国に、そして世界に向けて発信された。


唖然とする人々に再び雲が動き空に文章が浮かび上がった。


『幸福の最大の敵である争いを招く者、その恐れのあるものは全てこうなる』


それを見て場が騒然となる中、ケイはトレーラー内でマルスの鎧を装着し専用バイク・ガンウルフを発進させる。


『ケイ君駄目よ!まだ何の作用でああなったのか分からないのよ!?」


笠井恵美の静止に被せる様に黒川博士の通信が入る。


『ディバイン・ジャッジメントを使え。あの壁に通用するかは確かめる必要がある。ただし、内部で何があるかは未知数だ。1分で戻ってこい。記録を忘れずにな』


「あの壁に触れなければいいんでしょう?」


マルスはガンウルフの口からディバイン・ジャッジメントを発射しドームの壁を消滅させ、その中に突入する。


「止せ、マルス!」


達人もトレーラー内でレジリエンスの鎧を装着するとその後を追う。


「何ッ、これは!?」


だが破れたドームの壁から強引に中に入ったマルスは突入した瞬間にガンウルフの前半分とマルスの装甲服が急速に錆びていくのを見て驚愕した。この作用は同様にドーム内に両腕を突き入れてガンウルフの後部を掴んで外に引き戻したレジリエンスにも起こり、瞬時に超合金性の両腕は赤銅色となりボロボロになった。


「マルス、一度引くぞ」


少なくとも壁に激突した作用による異変で無い事だけは確かだった。それだけにこのドームを作ったのは恐るべき力を持っている事を証明していた。


人々の罵声を浴びながら2人はトレーラーへと戻りその場を後にする。


TVカメラはその光景を収めた後改めてスタッフと共にドーム内へと入って行った。



トレーラー内部は驚愕と無力感に押し包まれていた。


その中で笠井だけがサルベージしたマルスの記録データからドーム内部の分析を行っていた。


「この辺で良いだろう。降ろしてくれ」


目を閉じて考え事をしていた達人は運転手に声を掛ける。


それを訝しんだ笠井が


「どうしたの達人君」


「もしかするとあのドームに無傷で入れるかも知れない人物が異世界にいるんです。快諾してくれるかは分からないが」


「今はそれに賭けましょう。よろしくね」


笠井の言葉を背に達人は再びレジリエンの鎧を身に着け異世界へと向かうのだった。

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