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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第47話  創世の宝玉(下)愛と憎しみの果てに



「柏木君の容体はどうなんだ」


異世界から現世に戻ってきた芹沢達人は柏木英輔が運ばれた病院で目を潤ませている八重島紗良に尋ねる。


「原因不明だって。仮死状態って先生が」


「そうか」


達人は病室の中に入り、柏木英輔が寝ているベッドの傍らにいる白井良子=グローツラングに話しかける。


「すまない。取り戻せなかった。ただ・・あれは模造品なのか?」


「そうじゃな。本物ならお主はここにいないかもしれぬ。そう、あれは妾が作った模造品よ。ある一点つまり意思を持つという点を除いて再現した、な」


眼とUMAとしての力の大半を奪われた良子は声から達人の位置を察して彼にガラス玉の様な眼を向けた。


「意思だと?」


「そう。自らにそぐわぬ物を全て排除する意思じゃ」



「他に方法はないのか?彼を助ける方法は」


「一縷の望みに賭けるならばある。ただそこに存在するかは分からん。本物の創世の宝珠がな」


「天然物という事か。どこにあると言われているんだ?」


「聞いた話では異世界のつまりアトランティス大陸中央のエウエノル山山頂にあるらしい」


「伝聞か」


「そうだ。それもその山がどんな時も不思議な光を発している事とその山の霧と影を操る魔獣に冒険者共が皆殺された為真相は誰も分からないという訳じゃ。いやそもそもそれ自体がただの噂に過ぎんと大抵の者達は一笑に付すじゃろうな」


良子は溜息をついて


「しかし、瀕死の者をよみがえらせる事を宝珠は了承するかどうか?生きているという事はいずれは死ぬという事。ならばいっそ、いや仮に蘇ったとしてそれをエイスケがどう思うか」


「その事は確かに気にかかるが、全て終わってから決めればいい。お前達3人でな」


「そうだな。タキの事も考えねばのう」


「私はお嬢様に従います」


ずっと良子の傍に影の様に付き従っていたタキが言った。



英輔の病室を出た達人は


「紗良、ケイに連絡して病院を守るよう伝えてくれ。必ずフル装備で来るように念を推しておいてくれ」


「次はここが襲われるっていうの?達人はどうするのよ」


「彼を救う手立てがある。それを異世界で取ってくる」


「そうなんだ。良かった。気を付けて」


「そっちもな。適当な所で帰るんだぞ」





アトランティス大陸中央にあるエウエノル山は標高1200m程の岩山だった。


植物はまばらで全て人間の膝丈を超える物は無く、山の中腹より上には霧がかかっていたがそれでも太陽の光とは違う何かが放つ光が朧げに光っていた。


「確かに山頂付近で何かあるな。山道らしきものがあるのは昔は霊山だったとエリクシリオから聞いていたが。それとも今でも『盗掘者』が後を絶たないからか?」


今エウエノル山の(ふもと)に来ている自分もその1人だと気が付いてレジリエンスのフルフェイスの兜の中で達人は苦笑した。


「時間が無いんでな。三段抜かしで行かせてもらう」


レジリエンスは山頂目掛けて飛び上がり、岸壁を一直線に上っていった。


10回目のジャンプの後彼は霧が出てきた事で丁度山の中腹辺りにいると知った。


(ここからが本番だ)


「プサクフ」


探知魔法を唱え周囲の状況を探る。


(探知不能か。この霧は魔法を阻害するみたいだな。そして霧と影を操る魔物か。そいつがここの番人か?)


魔法でなく目視で山頂付近の光を確認した後再び頂上目指してジャンプしたレジリエンスの前方に虹と自身の影が映る。


(ブロッケン現象という奴か?太陽光が霧に拡散されて影の周りに虹が出るとかだったか?魔物の正体はこれか?)


達人は昔施設の座学で聞いた大気光学現象を思い出す。そしてそれが科学現象だとは思われていなかった時代、『ブロッケンの怪物』と呼ばれていた事も・・・


だが次の瞬間影が揺らめくと同時にレジリエンスの体に衝撃と火花が上がりドウと背中から落下、坂を転げ落ちる。


「何だ?」


立ち上がったレジリエンスにまたも火花と衝撃が走る。今度は危うく踏みとどまるが衝撃は足腰に集中し、背中から見えない手で突き落とされるように崖下へ転落する。レジリエンスは杖先からの水の銛(タイダル・キャリバー)を形成し岩壁に突き刺す。だが霧の影響か銛はいつもより透明でいつ消えてもおかしくない。レジリエンスは周りを見渡すと奇妙な事に気が付く。太陽や山頂の光とは違う、何かの光が自分の真上にあるのだ。


「あの光は!?」


その光がレジリエンスを照らして真下に影を作る。問題は影が自分を追い越してせり上がってきた事だ。それもいつの間にか複数の同様の影が出来ている事に気が付く。


その影が揺らめくと同時に自分にダメージが入るのである。


(影を操るとはそういう事か。なら来てくれ、ガッシングラム)


レジリエンスは落下しながらもガッシングラムを呼びグランドウォリア―へと合身、爪で岩壁を削りながらも落下を止めると謎の光源に向けて岩肌を駆け登った。




同時刻f市某病院


達人から連絡を受けた黒川ケイは病室で眠る柏木英輔とその傍らにいる原因となった白井良子と向き合っていた。


「来たか。妾を討つか?」


「全てが終わったらそうさせてもらう。場所を変えてね」


怒りの表情で前に出ようとするタキを制して良子は病室を出る。


その後に続くケイは


「だが今はやるべきことがある。友人を守るという使命が」


「そうだな」


突如どこかから悲鳴が上がる。


ケイが病室を飛び出すと焦げ臭い匂いと病院の壁に数個の穴が空いていた。


「来たか」


マネギシが呼び出した土塊兵士アダマンの群れが病院の階段を上って来ていた。


「これは長期戦を覚悟した方がいいかもね。笠井さん今から言うポイントにトレーラーを」


ケイは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した病院の廊下を駆ける。


途中自分の前後を細い熱線が走る。


「奴は体の一部を分離できるんだったな」


だがどういう訳かブレスレットからの敵の反応はアダマンしかいない。それだけ危険な敵なのだ。


攻撃でガラスの割れた窓からケイは飛び降りると下で待っていたトレーラーの屋根に着地し、その中に入る。


マルスの装甲服を着用するとガンウルフの左側にカノンボアが接続されているのを確認するとトレーラーから発進する。


病院へ殺到するアダマンの群れを跳ね飛ばして元のアスファルトの破片へと還すと、病院入り口でターンするとカノンボアを切り離すとそのままガンウルフで屋内に突入、待合室の一角に患者や医療従事者を追い詰めていたアダマンの前に立ち塞がった。そしてガンウルフのコンソールを操作する。


後部に搭載されたガトリングランス・ガトリングモードと入り口に陣取ったカノンボアの主砲、メタルランチャーが

火を噴きそれぞれのアダマン共を全滅させる。


「早く外のトレーラーへ」


ロビーの人々にそう言ってマルスは2階へとバイクを向ける。


その後も重傷で動けない患者等を移動させる医療従事者を狙うアダマンをブラスターで撃破しながらマルスは事件の首謀者を探す。


「笠井さん、熱線の撃ち主の場所は判りませんか」


「ダメ。こっちの各種センサーにも引っかからない」


「外にいることは確実なんです。でなきゃこんなに闇雲に仕掛けてくるはずがない。中の掃除が終わり次第僕も外に出ます」


そう言って曲がり角から出てきたアダマンをマルスブラスターで撃ち抜く。


「まずいな。見つかった!?」


窓の外に急上昇していく扁平な腕を認めるとマルスは英輔の病室へと向かった。




ヒキガエル型上級UMAマネギシの左腕が英輔の病室の窓の外に浮かぶ。


それを感じ取った良子はバリアーを張って敵の指から照射される熱線を防ぐ。


力の大半を失ってしまった良子のバリアーは徐々にひびが入り砕け散る。


「くっこれまでか」


「一族の魂よ、照覧あれ!我らを辱めた毒婦とその郎党の地獄の口に叩き込む瞬間を。我が今悲願成就せり!!


穴の外にマネギシの首が浮かび上がり続いて上がってきた右手指と口から熱線を放つ。


その前にタキが立ちはだかり熱線から良子と英輔を守った。


「タキ、お主」


「貴方ほど広くバリアーは張れませんがその分頑丈ですから」


体から煙を上げながらタキは笑う。


「フン、苦しみ抜いて冥府へ行け!」


ビームを撃つため口を開けたマネギシの顔面に光弾が迫った。


それを躱したマネギシは地上に残してきた自分の体がカノンボアの砲撃を受けているのを見た。


「しまった!何故?」


「反応は無くとも存在はしている。なら機械でなく肉眼で普通に探せば見つかるのは当然だろ」


呆れた声でマルスが病室に入ってくる。


「おのれ」


マネギシの首と右手が体へと向かう。


それを追ってマルスも背中のブースターを吹かして飛び出すと


「フルハッチオープン」


カノンボアへと音声入力する。


車体後部の6連ミサイル、前面の猪の牙を模したメタルランチャー鼻先のバルカン砲が展開する。


マルスもブラスターとガトリングを両手に構え


「人間の、いや友に仇す者を排除する。フルファイア!」


地上と空からの一斉射撃の爆炎の中からマネギシの首だけが飛び出しマルスへビームを放つ。


マルスも首へブラスターを撃つ。


光弾がマネギシの首を撃ち抜く。


その最後の表情は信じられない物を見たという驚愕に彩られていた。


彼の放った熱線は直前で曲がり病院の駐車場のアスファルトを焼いた。


「フーッ、ヒヤヒヤものだね。大丈夫だとは分かっていても」


『どうだい、新開発のエレメントアーチシステムは』


マルスのヘルメットから技術主任古川努の声が聞こえてきた。


「上々ですよ。1分しか使えない事を除けば」


「そこが課題なんだ。エレメンタル・エナジーの攻撃を受けるのではなく反らす。技術的にずっと使えればこれ程頼もしい物もないんだが」


「それはおいおい完成させれば良いと思いますよ」


「そうだな。報告書楽しみにしているよ」


通信が切れマルスは着地すると装甲服を脱ぐ。


(後は達人さんを待つばかりか)


ケイは友人の病室を見上げる。




魔法を阻害する霧の影響でグランドウォリア―への合身時間は3分と無い。駆け登った岩棚に作られた穴に逃げようとする何かの尾を力任せに引き摺り天井に叩きつける。間髪入れず落ちてきたそいつの背中に斧を叩き込んだがゴムの様な感触と共に弾き返された。


「チッ、また厄介な皮膚をしていやがる」


そう毒づくとグランドウォリア―は初めてその怪物の全体像を見る。


猫が大きく開けた口の中にある巨大な赤い単眼という奇怪な頭部


胸部は鱗状の鎧で覆っているがそれ以外の全身は猫の毛皮をなめしたようなテカテカ光っている。


更に胸部には黒いネコの毛が周りに着いた円形の盾を首から下げているように見える。


体毛から霧を吹きだし、口の中の単眼による光源で影を作り、その影を手に持った棍棒で攻撃する事で実体にもダメージを与える、恐るべきこの怪物。元は盗掘者でこの山の魔力によって変えられた猫とサンショウウオの合成UMAタッツェルブルムだった。


タッツェルブルムの目が光るがそれに惑わされずグランドウォリア―は斧を投げつける。斧が単眼に食い込んだ痛みに悲鳴を上げるタッツェルブルムは滅茶苦茶に棍棒を振り回すがグランドウォリア―の装甲には傷一つ付ける事は出来ない。


「許せよ」


斧を強引に押し込み頭部を両断する。


怪物は断末魔の叫びを上げながら黄色い光と爆発を上げて散る。


「これ以上おかしな事になる前に宝玉を回収しなければ」


制限時間を超えガッシングラムと分離したレジリエンスは魔の霧の晴れた山を再びジャンプで登り始めた。



山頂の花崗岩(かこうがん)のくぼみに光る珠があった。


「これか」


恐る恐る近づくレジリエンス。


だが宝珠は凄まじい閃光を放ち、レジリエンスを吹き飛ばす。

レジリエンスは荒れ狂う光の中で宝玉へ問いかける。

「駄目なのか。ここまで来て?俺は死ななくても良い命を理不尽に死んでいく命を救いたいだけなんだ。その力は確かに強大で人間にもUMAにも余る力かもしれない。だが珠よ、この鎧と同じ意思がある。意志は命の現れだ。その命は、意思はただそこでジッとしている事が望む事なのか!?」


達人の言葉に創世の宝玉は困惑するように明滅する。まるで目の前の男が本当に言った事を実行に移すのか、いぶかしんでいる様だった。


その間にもレジリエンスはゆっくりとくぼみからへ近づいていく。手を伸ばせば触れるほどまで近づいた時、レジリエンスの鎧と宝珠が明滅を始め、やがて宝玉が独りでにレジリエンスの手元へと収まった。


「俺を、レジリエンスを信じてくれるのか」


レジリエンスが下山の為振り向いた途端宝珠がいきなり上下に切断された。


同時に強大なエナジー反応が現れる


「誰だ!?」


振り返るとそこにはオレンジと紺色のツートンカラーの魔甲闘士が立っていた。


頭部形状はアイディオンとほぼ同じだが双眼(ツインアイ)ではなく顔の中央には楕円形の単眼がついている。


それよりもまず目に入るのは全身にある突起だった。


両肩に各3基、両腕と腰の前面と側面に各2基配置されたそれらが何の働きをするか達人には分からなかった。


爪先にも反り返った刀の様な突起がある。


「フム、レジリエンスの鎧は予定通りの性能を発揮している様だな」


「それをどうするつもりだ?」


「あまりカッカするとせっかく手に入れたもう半分も失いかねんぞ。それは敵意を感知し排除する機能があるからな。平静を保っていればまずやられん」


「忠告どうも。しかし質問には答えてもらいたい」


「最強最大の鎧を作るためだ。世界の為にな。そして君に忠告したのはこの超魔甲闘士アポロの性能を試したいからだ」


そう言うと各突起が鎧から離れレジリエンスへ向かって先端からビームを放つ。


「グローツラングの物と同じか。だが狙いが甘い」


事実ビームはレジリエンスが目視してから躱せるほど遅く各端末の連携も取れていない。


「まあ試運転はこんなものか。おかげで問題点も見えた。現生人類とアトランティス人の技術の完全な融合はまだ先だな」


「何、まさかそれは」


「また近いうちに会おう。今度は神と共に。なにせ半分だけでも十分要求性能を満たす魔力だからな」


そう言うとアポロは何処へと消えていく。


(超魔甲闘士だと!?しかも声は俺の知らない男の声だった。一体何者なんだ)


だがそれを考えるよりも先にすべきことがある。レジリエンスも英輔のいる病院へと急ぐのだった。





病室へと戻った達人は良子に半分になった光輝の宝珠を渡す。


「これで本当に生き返るのか」


「分からん。済まんが儀式をするゆえ一人にしてくれ。タキ、お主もな」


そうして病室には良子だけになった。


「達人さんはどうするんです」


ケイの質問に


「何が?」


「彼が、英輔君が人でなくなるかもしれないと。そうなったら僕は」


「俺の意見は変わらない。当事者が納得していればそれでいいんじゃないか」


「今回の件は全て仕組まれていたんじゃないかと思うんです。つまり種族が違うならそれに近い存在にしてしまえばいいという」


「自分の力を失ってもか」


「それは・・・」


2人が話している内に病室が眩い光で一杯になった。


やがて光が消える。


暫くしても物音一つ聞こえない。


ケイは我慢できず病室に踏み入る。


タキと達人も続く。


そこにはベッドに座っている英輔と良子がいた。


「良かった。元に戻ったんだね」


「ありがとうみんな」


「その、何か変わった事はないか」


「別に倒れる前と変わらないけど」


「変わったのは妾じゃ」


「お前が?」


ケイの疑問に良子は宝珠を見せる。


「ここにな、妾の残る魔力を全て注ぎこんだ。今の妾は正真正銘人間よ」


「何でそんな事を?」


驚く英輔とケイに


「これが一番角が立たん。妙な奴らに監視されない為と何千年も生きるより太く短く濃密に数十年生きる方が良いと思ってな。ただ人間の力加減とやらが分からぬゆえエイスケよ色々教えてくれ」


そしてタキに向かって


「お主にも世話を掛けた。これは退職金代わりじゃ。好きなように生きよ」


「では今まで通りという事になりますが」


「・・・正気か」


「もちろんです」


「ではタツト、この珠はお主が持っていけ。我らにはもう必要ない代物じゃ。まだ力は残っておる。というより強大過ぎて使い切れぬ」


「いいのか?」


「鎧の強化に使うもよし、家宝にするもよし、好きに使え。ただ奪われるなよ」


「分かっている」


「・・・今回は僕の負けだ、グローツラングいや白井良子。人間を殺すことは僕にはできない」


達人とケイは病院を出る。


ハッピーエンドを迎えた事を喜びながら




数日後


「だーッもうイライラする」


「どうしたの急に」


八重島家梓はプンプンしながら八重島家のリビングに入って来た紗良を見咎める。


「転校生がっ転校生が」


「嫌な奴なのか?」


図書館で借りてきた本から達人が目を上げる。


「信じられる?うちのクラスメイトの婚約者だって!そのクラスメイトとベタベタベタベタ!!このやり場のないイライラをどうしろと!」


「放っておけよ。馬に蹴られるだけだ」


「にぎやかなのは良い事じゃないの」


「限度ってもんがあるでしょうが」


クラスメイトの爛れた関係を愚痴りだす娘に梓は全く意に介さず私塾の準備を始める。


達人もそれを手伝いながらそれは白井良子だろうと当たりを付ける。


(幸せか。俺もそんな事を望んでもいいんだろうか?戦う事しか能の無い俺が?彼らが出来た種族を超えた愛を望んでもいいのか?)


その思いを振り切るように子供達がやって来た。


(いいじゃないか。今はこれで。何も不満も不安も無い訳じゃない。でもだからこそこの日常を楽しもう)


そう思う達人だった。

 

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